35 / 53
35.備えあれば憂いなし
しおりを挟む二日目の今日は歓迎パーティが開かれる。
リースハルトとリンネも正装で、ガルディアン公爵夫妻として参加する。
夫婦となって初めての公の場で、リンネは全身リースハルトの色を身に纏う。
というのは建前で、陛下や殿下達の傍は離れないつもりだ。
そして、リンネはこっそり調合していた媚薬の解毒剤をリースハルトと殿下達に渡した。
「媚薬の体内への吸収を抑制する成分を調合しました。口から胃まで保護するようなイメージです。丸一日は効果があると思いますので、皆様お飲みいただけましたら。」
薬瓶の無色透明な液体をシルヴェスタ殿下とジルフリード殿下が光に翳して繁々と見ていると、リースハルトは迷いなく飲み干した。
「リースハルトは…躊躇わないのだな。」
「もちろん!リンネの調合した物ですから。薬は効かないと思っていましたが、未知の物を使用されてもそう言えるのかと考えたら疑問ですし、俺はリンネを信じます。」
「なるほど。では、飲むとするか。」
シルヴェスタ殿下はリースハルトの言葉に同調し、一気に飲み干した。
しかし、ジルフリード殿下はまだ迷っていた。
「リンネ夫人、君はどうやってこういう薬を調合しているんだ?飲んでみなければ効き目も分からないだろう?」
ジルフリード殿下の疑問は尤もだ。
「自分で試しています。少量を口に含んだり、飲んでみたり。幼い頃から薬草が友達のような環境でしたので、試すことに抵抗がないと言いますか…そんなことをしている内に耐性が付いたのか、私も毒薬などは効かないと思います。
そして、皇室の文献もとても参考になりました。勘を頼りにしていたら、四ヶ月では完成しなかったと思います。」
リースハルトは言葉にはしないが、リンネが自分で試していたことを快く思っていないようで、眉間に皺を寄せたが口出しはしない。
「そうか…ならばリンネ夫人を私も信じよう。皇帝陛下や皇后陛下の分もあるのか?」
「はい、準備してあります。ただ陛下や皇后様にこのような薬をお渡しして大丈夫でしょうか?」
「これは、後から飲んでも解毒作用はあるのか?」
「僻地の村で採取してきた万能な花を調合しましたので、後からでも効果はありますが、毒薬の成分で胃や食道が荒れて吐血するかもしれません。保護して防ぐ為に、事前にお飲みいただいた方がよろしいかと思います。」
「分かった。陛下達の判断に委ねよう。」
リンネは薬瓶を二つジルフリード殿下に手渡した。
「リンネ夫人、ジルフリードが疑うようなことを言ってすまない。私が毒に倒れてから、心配性になってな。私もジルフリードは幼い頃から、出逢ってからはリースハルトも、それなりに耐性を付けてきた筈だが、一度だけ私が危なかったことがあって…あの時もフェルディナンド公爵夫人が出席していたパーティだったな。」
「あの時はリースハルトに止められなければ、私は一気に飲み干していたかもしれないな。」
「舌に違和感を感じたんだ。ジルフリード殿下は飲む前だったが、シルヴェスタ殿下はひと口飲んでしまって…俺が毒味してから飲んでくださいよ。」
「たまたま喉が渇いていてなぁ…すまない。」
「全く…命が幾つあっても足りませんよ?」
苦笑いするシルヴェスタ殿下をちらりと見て、リースハルトは呆れて笑った。
「リースハルト様は、毒味役もされていたんですね…」
リンネは、立場上仕方ないことだと思いながらも、胸が痛くなった。
(これからは、私がリースハルト様も護る!)
「大丈夫だ、リンネが居るから。」
リースハルトに想いが伝わっているようで、リンネは満面の笑みを返した。
147
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
2月15日付で、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。
ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【完】皇太子殿下の夜の指南役になったら、見初められました。
112
恋愛
皇太子に閨房術を授けよとの陛下の依頼により、マリア・ライトは王宮入りした。
齢18になるという皇太子。将来、妃を迎えるにあたって、床での作法を学びたいと、わざわざマリアを召し上げた。
マリアは30歳。関係の冷え切った旦那もいる。なぜ呼ばれたのか。それは自分が子を孕めない石女だからだと思っていたのだが───
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる