契約が終わったら静かにお引き取りくださいと言ったのはあなたなのに執着しないでください

紬あおい

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12.ボタンの掛け違い

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ファニアは、試作品の為にちょくちょく厨房を訪れていた。
あれから山羊のチーズのレシピを増やし、既に公爵邸内の使用人達も熱烈なファンと呼べる程に人気となっていた。

「マーラー、ターニャ、これなら売り物になるかしら?」

「なると思います。ターニャの親戚に手広く飲食店を営む者が居ますので、そちらでメニューに加えてもらいますか?」

「うーん…最初は貴族を対象として、様子を見ようかしら?最終的には平民も手を出せる価格にしたいわ。」

「私の親戚はレストランと食堂を経営していますので、一店舗ずつ出してみますか?今はたくさんの量を作れないでしょうから。」

「そうね!時間もあまりないと思うから、そうしましょう!!」

マーラーとターニャは、ファニアに時間がないと思わせているクライスに不甲斐なさを感じていた。
だからと言って、使用人の自分達がこの結婚は継続される予定などと、クライスや公爵夫妻を差し置いて言える訳もない。

そこへクライスが丁度帰宅して、ファニアを探して厨房に顔を出した。

「ファニア、ここに居たのか。山羊のチーズはどうだ?」

「はい、皆さん美味しいと喜んでくださっています。ターニャの親戚の方の飲食店でメニューに加えてくださる相談をしていました。」

にこにこ語るファニアが可愛くて、クライスも自然と笑みが溢れる。

「そうか。好評ならば量産しなければ商売にならないな。一層の事、牧場に小さな生産所でも建てるか?」

「いいんですか!?私、そこでチーズを作りたいです!」

(ここを出たら、チーズ職人にしていただけるかもしれないわ!)

ファニアは手に職を得たかもしれないと上機嫌だ。

(ファニアが喜ぶなら生産所を一緒にやろうかな。それならば、いつも一緒に居られるし、力仕事は俺がやればいい。数年は父上や母上に頑張ってもらって、ファニアと牧場暮らしも楽しいだろうな。)

クライスも勘違い方向で上機嫌である。

そんな笑顔の二人のボタンの掛け違いに気付いていたのは、マーラーとターニャだけだった。

(まずい…これは、まずい…これでは、ファニア奥様は完全に自立してしまう…早急に手を打たねば、とんでもないことになる…)

(お坊ちゃま…何故あなたは、手放す手助けをしているのでしょうか…言葉足らずなところ…どなたに似たのかしら…?ジュリエット様が次期公爵夫人など、このイグネシアス公爵家が滅茶苦茶になってしまうわ!)

「取り敢えず!事業になりそうなことは、公爵様や夫人に相談しましょう。」

「生産所を建てるとなると、公爵様や夫人のご意見も伺わなくてはなりませんよね。」

「ああ、父上と母上は反対はしないだろうが、相談しなければな。ファニアも同席して、山羊のチーズについて説明してくれ。」

「はい、承知しました。」

マーラーは本腰を入れて、公爵夫妻を巻き込み、ファニア引き留め作戦を開始することにした。
もちろんターニャも無言で頷き、マーラーと力を合わせていこうと心に誓ったのだった。


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