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9.取り戻す Side セナ
しおりを挟む記憶を失くすということは、とても不思議なことだ。
全てではなく、誰か一人の記憶だけがない。
だから私の中で、その誰か一人は新しく出会った人と同じなのだ。
その誰かはテオベルトだった。
テオベルトとの関係は不思議だ。
私の知らないことを知っている人。
無理に思い出さなくていい。
新しい友人だと思えばいい。
テオはそうやって、ゆっくりゆっくり距離を縮めてきた。
がっしりした体躯、しなやかな振る舞い、スマートで愉快な会話。
たまに自分で言ったのに赤面する可愛らしいところ。
普通の女性なら、絶対好きになるだろう、こんな美しい顔の男性なら。
私とテオは、普通に出会えなかったのだろうか。
それでも、またこうして新たに関係が築けるのは、運命なんだろうか。
もしも運命なら、過去に出来なかったこと、したかったことを全てしてみたい。
人はいつ、何が起こるか分からないなら、瞬間瞬間を自由に生きるのもいい。
吹っ切れた私は、きっと過去より積極的になれるだろう。
苦労して我慢して、結局何も手に入らなかった過去ならば、今度はそれを手にしたい。
同じ人生の中で、もう一度出会えた人と、今度こそ幸せになる。
結婚して、子どもを産み育て、年を取っても手を繋いで、在り来りな人生でいいから、テオと暮らしたい。
そんな人生を送れますようにと切に祈る。
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