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1.助けてくれたのは騎士様でした
しおりを挟むある雨の日の午後、お父様と領地から馬車で帰る途中、落石で驚いた馬が暴走した。
幸い崖からの転落は免れたが、馬の暴走が止まらない。
悲鳴と共に死を覚悟した時、二人の騎士が馬を並走させ、馬を剣で突き刺し馬車を止めてくれた。
残念ながら、御者は振り落とされて亡くなったようだった。
一人は腰が抜けたお父様を支え、もう一人は私の手を取り、馬車から降ろしてくれた。
「馬の手配をし馬車でお待ちいただくか、雨で濡れてしまいますが、馬でお送りするか、どちらに致しましょうか?」
騎士の一人が気遣うように、お父様に伺いを立てる。
「馬の手配は時間が掛かるので、申し訳ないが、私と娘をカリオン公爵邸まで連れて行ってもらえるだろうか?」
「承知しました。私はキリアン・ロレーヌ、隣におりますのがゼファー・ウィンストンでございます。帝国騎士団に所属しており、たまたま見回り中でした。カリオン公爵様は私と、ご令嬢はゼファーにお任せください。よろしければ雨避けにこちらのローブをお使いください。」
「助けていただいて、ありがとうございます。娘のサラでございます。ローブ、使わせていただきます。」
こうして、騎士達に送られて、無事に帰宅出来た。
途中、何度もゼファー卿に「大丈夫ですか?」と気遣っていただけたので、早馬も怖くなかった。
お礼に食事でもと騎士達に申し出たが、公務中なのでと断られてしまった。
お父様は帰宅後すぐに、御者の遺体を弔う手配をしたり遺族に追悼金の手配したり、助けてくれた騎士達の身元確認を行っていた。
騎士達には、後日お礼をするつもりだ。
お父様はひと息つきながら、ぽつりと言った。
「サラ、本当に無事で良かったな。」
「そうですね。それに騎士様達に助けられて良かったです。お二人共、お優しい方々でしたね。」
少しお世辞も入っていたかもしれないが、嘘ではない。
公務中とはいえ、ずぶ濡れになって送り届けるのは大変だっただろう。
風邪をひいていないといいなと思った。
「明日にでも、手土産を持ってお礼に行こうか。一緒に行くか?」
「はい。参ります。」
夜のうちに騎士達の所属確認が出来ていたので、翌日、早速お父様と帝国騎士団に足を運んだ。
ロレーヌ卿とウィンストン卿に助けられてお礼に伺ったことを騎士に伝えると、ロレーヌ卿を呼んできてくれた。
「わざわざご足労いただき、申し訳ありません。ゼファーは非番でして…昨日も申し上げましたが、公務の一環ですのでお気になさらぬよう。」
ロレーヌ卿は恐縮して、お父様に挨拶をした。
「そう言わずに受け取ってくれ。本当に助かったのだ。」
お父様も譲らない。
騎士二人に剣帯、騎士団に食料を用意してきた手前、持ち帰るという発想は無い。
お父様は、公爵という身分のわりに律儀なのだ。
「騎士団の皆様への差し入れとしてなら、受け取っていただけますか?」
「そういうことなら…」
「では、こちらは騎士団の皆様への差し入れ、こちらはお二人へのプレゼントとしてお受け取りください。」
「いやいや、プレゼントは…」
「女性からのプレゼントを断るのですか?お二人のお役に立てると思って選んだのですが…」
あの雨の中、話している時に一瞬だけロレーヌ卿の剣帯が見えたのだ。
使い古しているようで、レザーがだいぶ傷んでいるようだった。
それに気付いたのか、私が笑顔で押し付けると、ロレーヌ卿はやっと受け取ってくれた。
帰り道、お父様に興味深げに問われた。
「お前、ロレーヌ卿を見て真っ赤な顔になってたけど、気になるのか?」
元々男性慣れしていないので、真っ赤な顔になるのはロレーヌ卿限定ではないのだが。
「やっぱりお優しくて、でも謙虚な騎士様でしたね。」
「ふむ…」
お父様は、公爵邸に着くまで考え事をしていた。
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