山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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266.【理不尽な言葉】




雅臣「これ以上前に出ないでください!!!」
 

……キツイ。

本当にキツイ。

バイト最終日の今日が間違いなく1番キツくて俺は心が折れそうになる。

今朝三木先輩に任された仕事は栄で行われるカラフルジュエリストのミニライブに雑用スタッフとして同行することだった。


三木『俺は別の仕事で行けないがカラフルジュエリストのマネージャーにやることを教えて貰え』


先輩から渡されたスタッフTシャツに着替えさせられて俺は直ぐに他のスタッフと一緒に事務所の駐車場で待機するバンの中へ放り込まれた。

そこまでは良かったんだ……。

バンが発車すると同時にマネージャーとカラフルジュエリストのメンバーで入念な打ち合わせが始まり、フォーメーションの最終確認からタイミングの微調整と大忙し。

声をかけられる雰囲気は微塵もなく俺が何をするのかは後から詳しく聞けばいいかと隅で縮こまっていた。


___これが、最大の間違いだった。


カラフルジュエリストのライブ会場は名古屋の賑やかな栄エリアに佇む〝オアシス21〟という場所だった。

周囲の美術館やバスターミナルに囲まれながらも緑もあり都市の息抜き所のような場所で、夕暮れ時には幻想的なライトアップが反射して綺麗だとスタッフの1人が教えてくれた。

初めて行く場所にほんの少しだけワクワクしていたのだが……


「ちょっと!!邪魔!!どけよ!!」
 
雅臣「よ、横入りはダメで、順番に___」

「ここ私の固定位置なんだけどどうなってんの!?」

雅臣「だから___」


どうしてどの子も言うことを聞いてくれないんだ!!

会場に着いてマネージャーからファンを整理番号順に並ばせるのを手伝えと言われて楽勝だと思っていたが現実は地獄に等しい。

俺はファンの子が1番から順に並んでステージの前へ列を作ってくれると思っていたのに、実際はマネージャーに整理番号を渡した瞬間、どの子も最前列を狙って走り出すのだ。


「おい!抜けてったぞ!!しっかり止めろ!!」

雅臣「は、はい!」


マネージャーに怒鳴られながらも必死に横入りするファンの子に声をかけるが何も効果がない。

しかも最前の指定の線よりも前に当たり前のように乗り出していて、いくら注意しても誰1人として聞く耳を持たず酷い言葉で罵られる。

しまいには退けとヒールで足を踏みつけられてしまいあまりの痛みに涙が滲んだ。


「おい!!もっとデカい声出してちゃんと注意しろよ!!」

雅臣「へ?」

「早くしろ!!」

雅臣「……は、はい」


しかし、俺が何より怖いのはこの男性マネージャーだ。

40代半ばくらいの髪をオールバックにしたマネージャーは威圧的なヤクザの幹部のようで、さっきから理不尽に怒鳴られ何度も思考が停止してしまう。

会場に着いた途端この迫力で天晴さんを怒鳴りつけていたので、俺はつい自分が何をしたらいいのかを聞き損ねてしまったのだ。


雅臣「き、きちんと並んで___」

「はぁ!?整番なんだからどけよブス!」


ぶ、ブス……? 


「たかがスタッフが偉そうにしてんなよ!!こっちがいくら払ってると思ってんだよカス!!」


か、カス……?


雅臣「い、いやでも、せ、線の内側に……」

「おい!!お前もやる気ないなら帰れ!!この線からはみ出した人は強制的に最後列に回します!!さぁ下がって下がって!!」


女の子たちの狂気の沙汰を1つも止めることの出来ない俺を見かねたマネージャーが咆哮した。

するとそれまで前列で騒いでいた女の子たちは舌打ちしながら渋々ライン内へ戻る……が、ほっとした俺を見てワザと分かるように舌打ちする。


「チッ……アレ使えなさそうだから押せばいけたのに」

「スタッフ最近マジで調子乗ってるよな。誰の金で飯食ってんだか」

「これでレスこなかったらハイタで絶対本人に言うわ」


………。

こ、怖い。

怖すぎる。

レスもハイタも意味がよく分からないが、明らかに悪意の目を向けられて恐怖のあまり目を逸らすことしかできなかった。

俺は中学時代ボッチだったけどクラスメイトの女の子たちはこんなに怖くなかったぞ?

ここでは女の子たちに心底舐められている気がするし、あの蓮池よりもキツイなんて……。

何でこんなに怖いんだとチラと見れば、今度はヒソヒソ話をしながら俺を見て爆笑している。


「あれと繋がればいけね?」

「誰が行く?チョロそうじゃん、あれこそウチら女目当てだろ」

「キモ!あーでも無銭を体現してんのか」


……。

……………。

俺を指さして爆笑する女の子たちの内容が全く理解出来ないがものすごく嫌な気持ちになる。

ただ確実に俺を悪く言ってることだけは分かった。

蓮池よりも数倍悪意あるその目線にため息を着いた瞬間、マネージャーに話しかけられる。


「あのさぁ、君ってどこの誰?」

雅臣「え?」


眉間に皺を寄せ早く応えろと言わんばかりだが三木先輩から聞いてないのだろうか?


雅臣「三木…は、春樹先輩から紹介されて、バイトしてて、藤城です」


その顔は明らかに怒っていてしどろもどろになりながらも俺は精一杯説明をするが、


「あっそう。ならもっと大声出してくれる?それから君は何でやることを自ら聞きに来ないわけ?」


突然公衆の面前で叱られて、その内容に苛立ちが胸に湧く。

いや、マネージャーのあなたがここの責任者なんだからそっちから指示するべきじゃ……。

もちろん怖くてそのまま口にすることなんて出来ず俺は三木先輩から言われた通りのことを素直に伝えることにした。


雅臣「その、春樹先輩が、現場でマネージャーが教えてくれるって……」

「それを君から聞きに来なよ」

雅臣「え………」


あまりにも理不尽な言葉に頭がフリーズしかけるがその隙をついて横入りをしようとする女の子をマネージャーが直ぐに身体を張って制した。


「そっち!抜けたぞ!!」


マネージャーの怒鳴り声にそれどころじゃないと慌てて押して入ってくる女の子を手を広げて止めるが、その子は向こうから突進してきて俺にぶつかった。


「触られた!!キモ!!何こいつ!!」

雅臣「え!?」

「セクハラセクハラ!!訴えまーす」


お、俺はどこも触ってないぞ!!?

いきなりセクハラ扱いされて慌てふためくが目の前の女の子は上に言うと大騒ぎし周囲の突き刺すような目が痛い。


雅臣「そ、そんな!!俺は___」

「はいはい見てたよ触ってない!!あんた前もそれやってたね!?常習犯でしょ!!あー、広野くんこの子連れてって。君もね、体デカイから手も足も出さずに体だけで止めて」


よ、良かった………!!

マネージャーはしっかりしろと思い切り俺の背中を叩き、痛かったけどそのお陰で身体の震えが止まった。

冤罪扱いを受け更には怒鳴られるなんて、ストレスすぎてまだ今日の仕事は始まったばかりだもいうのにもう帰りたい。

しかし、ふと昨日の梓蘭世の姿が頭をよぎった。

あの人だって商品のように品定めされるストレスフルな中、きちんと頑張っていたじゃないか……。

それに三木先輩はバンに乗る直前お前ならちゃんとこなせるとまで言って送り出してくれたんだ。

その期待に応えたい思いと俺の雇い主である先輩の名誉のために、今俺ができることは目の前のことを一生懸命やるだけだ。



雅臣「走らないでください!!」



俺は拳を握りしめ精一杯の声を張り上げた。






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