山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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340.【一条先輩は……】

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食パンの生地をオーブンに入れてタイマーをセットすると庫内がじんわり温まって甘い小麦の香りが部屋全体に広がり始めた。


雅臣「……よし」


パンが焼けるまでにサンドイッチの具材を作ってしまおう。

柊はBLTにフルーツサンド、蓮池はタンドリーチキンとハムエッグがいいって言ってたよな……。

カウンターに並べた材料に目をやりながら2人の好み以外のものも作りながら頭の中を整理することにした。

ボウルにツナ缶を開け有機マヨネーズを加えてフォークで混ぜ始めると簡単にツナペーストができあがる。


雅臣「そもそもだな……」


……大前提、梓蘭世はいちいち思わせぶりなんだよな。

たった1回とはいえ俺はこの前2人きりで出かけた時にそれを嫌という程痛感した。

あの日を思い返しながら俺はツナに入れるチーズを冷蔵庫から取り出し鍋に火をかける。

ぐるぐるとかき混ぜるとクリーミーな香りがふんわり立ち上がってもう美味しそうだ。


雅臣「リップ塗ってやろうか、とか。普通言うか?」


それだけならまだしもカッコイイと言ったらサラッとリングまで嵌めてくれたんだぞ?

更には俺の母さんを気遣って胡蝶蘭まで選んでくれて支払いまで実にスマートに全て梓蘭世が払ってくれたのだ。

本人はそんなつもりがないとはいえ、あんな特別扱いされたら誰だって少しはおかしな気持ちが芽生えてももしょうがないと火を止めた。


……加えてあの見た目。


男に美人と使うのはどうかと思うが、あの人は本当に美人なのだ。

華があるとしか言いようがない存在感はそこにいるだけで人目を引く。

そして何より、1番の問題は距離が近いってことだ。

子役上がりのせいかはさておき三木先輩が言っていたように梓蘭世は自分が認めた人には本当に有り得ないほど距離が近かい。

物理的距離もそうだが心的距離がぐっと縮まる瞬間があって、多分一条先輩はそれを1番実感していると思う。

しかもあの2人は中学から一緒なんだよな?

梓蘭世はきっと一緒にいる年数分あの調子で構ったり色々プレゼントを渡したりしてきたわけで、まるで一条先輩だけをスペシャルで特別で宝物のような扱いをしていたのが容易に想像がつく。

………。

…………。

これ梓蘭世が悪くないか?

俺は一条先輩が思い違いをするような人じゃないと信じているが、もしあの特別感を隣で味わい続けていたのならちょっとくらい勘違いしても責められないぞ。

大体、梓蘭世のことだ。

絶対に一条先輩本人にも『梅ちゃんが1番』と再三しつこく言っているはず。


雅臣「梓蘭世の馬鹿野郎……」


ツナにチーズを混ぜながら思わず小言が出てしまった。

何でそんなことを言ったんだと想像しただけで腹が立つ。

自分にだけ優しくて、あの綺麗な顔で1番と何度も隣で言われたら……。

そうしたら、その、こう……。

……。

……いいか、今から言うことは別に他意はない。

絶対他意はない意味で言うからなと長い前置きを心の中でしてから呟いた。


雅臣「……好きになってしまわないか?」


俺はこれ以上ないくらい長いため息をついた。

ツナメルトは直ぐに出来てしまい気を取り直して柊の好物でも作ろうかと冷凍庫から海老を取り出す。

柊がフライ部門で1番好きと豪語していた海老フライは蓮池もきっと好きだろうしな……。

ノンフライヤーをセットしながら下ごしらえの準備を始めるが、柊というやつは本当に都合がいい男であいつの口に合うものを俺が作る度に、


夕太『雅臣マジで大好き!!』


と満面の笑みを浮かべて猿みたいにヒシと抱きついてくるのだ。


雅臣「ハハ、」


たまに本気で殴りたいくらいに憎たらしくなるが可愛らしいところもあると俺はいつも絆されてしまって……。


……。

………………。


じゃあ柊が、俺を1番だと言ったら?

俺だけがわかりやすく特別扱いを受けたら?

俺は……柊のことを、好きになるだろうか。

いや、好きだぞ。

もちろん柊のことは好きなのだが……。


…………。


柊、お前が本当に良い奴だとは分かってはいるが敢えて言わせてくれ。


雅臣「お前みたいに本当に本当に本当に本当にに手が掛かるカナリアをどうこう思うなんて絶対にない!!」


言い切ると同時にノンフライヤーのスイッチをキツめに押し、今度は卵ペーストを作るために卵を茹でる鍋に水を入れようとするがまた深いため息がでた。


……馬鹿は俺だ。


キッチンスツールに腰をかけて肩を落として深く項垂れる。

帰ってきてからもずっと言い訳じみたことばかり並べて誤魔化していただけでとうにキーワードは出続けているじゃないか。


雅臣「一条先輩は___」


 

梓蘭世のことが好きなんだ。




俺はそれを認めるのが怖かっただけだ。

あれは友達を想う表情なんかじゃなく完全に恋する顔だった。

だから俺は驚いてしまったんだ。

梓蘭世は一条先輩のことを〝1番の友達〟と言っていたのに、一条先輩は違っていただなんて。

別に誰かを特別に思うのは悪いことじゃない。

俺が梓蘭世のファンのように、柊と蓮池が互いに大切な幼馴染と思うように。

でも、一条先輩は違う。

俺と目が合った瞬間、明らかに青ざめ見られたという顔で逃げるように出て行ってしまった。
 

雅臣「……俺が、」


一条先輩の秘密を暴いてしまった。

先輩は梓蘭世にそういう思いを抱いていることを誰にも言うつもりなんてなかっただろうに、俺が見たことでバレてしまって傷つけしまった。

俺は好きとかそういう感情なんかよりも、大好きな先輩を傷つけたことが1番ショックだった。



『芸能人だからとか、そういうのじゃないんだよ。
でも……俺には眩しすぎる』



合宿で眠れなかったあの夜、一条先輩は梓蘭世の存在の全てが眩しいと言っていた。

俺は先輩がそんな思いを抱いていたなんて露知らず、梓蘭世がキラキラして見えるくらいの意味だと思っていたんだ。

母さんの写真立ての横に置かれた胡蝶蘭がとても綺麗で美しいように、一条先輩にとっての梓蘭世も鮮やかで目が離せなくなる存在くらいかと……。

でも、違うんだよな。

いつだってふんわりと優しい一条先輩を思い出して泣きそうになった。


雅臣「……」


自分の本当の想いを口にしたら梓蘭世は離れていってしまうかもしれない。

だから、本当のことを言うのが難しかったんだ。

嫌うのはむしろ蘭世の方ってそういうことだったのかと全てが腑に落ち、自分がしてしまった事が許せなくなる。


雅臣「模型なんかは……すぐ直せるのにな」


人間関係はそう簡単には直せないと項垂れると同時にパンの焼き上がる音に俺はノロノロとオーブンの蓋を開けた。


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