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4.【歌声】
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踏んだり蹴ったりとはまさにこのことだろう。
馬鹿にされ、足を引っ掛けられ、突き飛ばされと、厄日なのか。
朝から何だってこんな目に…。
突き飛ばした当の本人は少しも悪びれることはなく、体育館上部のギャラリーに並び出した生徒達を熱心に見ている。
全員が蝶ネクタイを締め黒のタキシードに身を包んだその姿は、とても洗練されていて壮観だ。
一体何が始まるんだ?
『校歌斉唱。2年生起立』
その疑問に答えるかのよう、タイミング良く司会のアナウンスが響いた。
『指揮、合唱部3年、三木春樹。伴奏、同じく合唱部3年桂樹リオン』
夕太「ねぇ!上見て合唱部!合唱部出てきたよ!」
「はいはい、落ち着いて」
夕太「でんちゃんもよく見て探してよ!黒髪ショートの人!」
「男なんて大体皆黒髪ショートだよ」
夕太は背伸びをしながら、きょろきょろと忙しなく頭を動かしている。
どうやら、合唱部には知り合いがいるらしい。
そういえば、こいつらも俺と同じ新入生だというのに迷わず体育館へと真っ直ぐ向かって行ったが、この学校に馴染みがあるのか?
俺はというと、急遽必要に迫られ決めただけの学校だった。
オープンキャンパスなど無論来ることも無く、試験だけ受けてそのまま真っ直ぐ東京へ帰ったのを思い出した。
颯爽と登壇した指揮者の合図で、一斉に校歌斉唱が始まる。
……凄いな。
中学までずっと共学だった俺は男ばかりの力強い歌声に純粋に、シンプルに驚いた。
迷いのない堂々とした指揮者の合図で、校歌斉唱は終わりを迎える。
『2年生着席。続きまして合唱部演奏、「祝福の歌」』
指揮者の隣にマイクが設置され、左袖から1人の生徒が登壇し、そこだけにスポットライトが当たった。
ピアノの音を合図にすっと息を吸い、澄んだ声が、体育館に響き渡る。
『この祝福を花束にして君に贈ろう___』
俺は合唱には詳しくないが、ソロはこの人ですぐに決まったのではないかと思う。
緊張感がありながら、繊細な歌声が心地よかった。
舞台上のソロから始まった歌は、次第にギャラリーから別のパートが加わって、体育館全体に美しいハーモニーが広がっていく。
そこまで人数がいる訳でもないのに一人一人の技術力が高いのか、先程の校歌とはまるで違う。
合唱部員だけの歌声は、歌い手と作品、音楽が一体となった、とても綺麗なものだった。
夕太「…」
「どうしたの?夕太くん」
夕太「いや…別に…ってあ!!!あの人!あの人かも!!」
合唱部の1人を指さしぴょんぴょんと飛び跳ねる夕太に、どれ?とおかっぱ男は眉間に皺を寄せ身を乗り出す。
「もうちょい詳しく言ってよ」
夕太 「雛人形みたいな美人顔で、」
「雛人形は一重のブスだよ矛盾してない?」
夕太「違うって!こう眉目秀麗っていうか、」
「何それことわざ?聞いた事ないんだけど」
夕太「…でんちゃんってほんとバカ、バカすぎて話したくない」
埒が明かない2人のやり取りに、思わず助け舟を出してしまった。
雅臣「なあ、アレじゃないのか?端から3番目の…」
真っ直ぐ硬質な黒髪で、瓜実顔の──。
目当てを指差した俺の目の前に、
「お前らさっきから何なん!?ずっとうるさいよ!?歌くらい静かに聞けないの!?」
突然、苦虫を噛み潰したような顔の男性が現れた。
━━━━━━━━━━━━━━━
【後書き】
読んでいただきありがとうございます。
お気に入り登録や感想が励みとなりますため、この作品が面白いと思った方はぜひ!よろしくお願いいたします。
馬鹿にされ、足を引っ掛けられ、突き飛ばされと、厄日なのか。
朝から何だってこんな目に…。
突き飛ばした当の本人は少しも悪びれることはなく、体育館上部のギャラリーに並び出した生徒達を熱心に見ている。
全員が蝶ネクタイを締め黒のタキシードに身を包んだその姿は、とても洗練されていて壮観だ。
一体何が始まるんだ?
『校歌斉唱。2年生起立』
その疑問に答えるかのよう、タイミング良く司会のアナウンスが響いた。
『指揮、合唱部3年、三木春樹。伴奏、同じく合唱部3年桂樹リオン』
夕太「ねぇ!上見て合唱部!合唱部出てきたよ!」
「はいはい、落ち着いて」
夕太「でんちゃんもよく見て探してよ!黒髪ショートの人!」
「男なんて大体皆黒髪ショートだよ」
夕太は背伸びをしながら、きょろきょろと忙しなく頭を動かしている。
どうやら、合唱部には知り合いがいるらしい。
そういえば、こいつらも俺と同じ新入生だというのに迷わず体育館へと真っ直ぐ向かって行ったが、この学校に馴染みがあるのか?
俺はというと、急遽必要に迫られ決めただけの学校だった。
オープンキャンパスなど無論来ることも無く、試験だけ受けてそのまま真っ直ぐ東京へ帰ったのを思い出した。
颯爽と登壇した指揮者の合図で、一斉に校歌斉唱が始まる。
……凄いな。
中学までずっと共学だった俺は男ばかりの力強い歌声に純粋に、シンプルに驚いた。
迷いのない堂々とした指揮者の合図で、校歌斉唱は終わりを迎える。
『2年生着席。続きまして合唱部演奏、「祝福の歌」』
指揮者の隣にマイクが設置され、左袖から1人の生徒が登壇し、そこだけにスポットライトが当たった。
ピアノの音を合図にすっと息を吸い、澄んだ声が、体育館に響き渡る。
『この祝福を花束にして君に贈ろう___』
俺は合唱には詳しくないが、ソロはこの人ですぐに決まったのではないかと思う。
緊張感がありながら、繊細な歌声が心地よかった。
舞台上のソロから始まった歌は、次第にギャラリーから別のパートが加わって、体育館全体に美しいハーモニーが広がっていく。
そこまで人数がいる訳でもないのに一人一人の技術力が高いのか、先程の校歌とはまるで違う。
合唱部員だけの歌声は、歌い手と作品、音楽が一体となった、とても綺麗なものだった。
夕太「…」
「どうしたの?夕太くん」
夕太「いや…別に…ってあ!!!あの人!あの人かも!!」
合唱部の1人を指さしぴょんぴょんと飛び跳ねる夕太に、どれ?とおかっぱ男は眉間に皺を寄せ身を乗り出す。
「もうちょい詳しく言ってよ」
夕太 「雛人形みたいな美人顔で、」
「雛人形は一重のブスだよ矛盾してない?」
夕太「違うって!こう眉目秀麗っていうか、」
「何それことわざ?聞いた事ないんだけど」
夕太「…でんちゃんってほんとバカ、バカすぎて話したくない」
埒が明かない2人のやり取りに、思わず助け舟を出してしまった。
雅臣「なあ、アレじゃないのか?端から3番目の…」
真っ直ぐ硬質な黒髪で、瓜実顔の──。
目当てを指差した俺の目の前に、
「お前らさっきから何なん!?ずっとうるさいよ!?歌くらい静かに聞けないの!?」
突然、苦虫を噛み潰したような顔の男性が現れた。
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【後書き】
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