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9.【廊下へ】
しおりを挟む小夜「君達はなんで数十分で揉めれるの?若さ?ねえ若さゆえなの?」
1組の教室を出て小言を言う担任の後を俺、柊、蓮池の順でついて行くものの、後ろの2人はやはりうるさかった。
楓「あのジジイ耄碌こいてやがる」
夕太「でんちゃんのじいちゃんはピンシャンしてるよ」
楓 「俺が食べたうどんは、6玉だってのに人をブタみたいに言いやがって…」
夕太「5玉以上からはもう何玉でも同じだよ」
本当に何も気にせずベラベラと話し続ける2人を無視し、少し離れた階段を下りると、踊り場で担任は立ち止まった。
今度こそ怒鳴られるか、職員室まで連行されるかと思った。
教師は呆れてるというよりかは、壁に手を付き半笑いで俺たちに背を向け独り言を言っている。
小夜「いや~…せんせーって大変なのね、今日1日どころかまだ半日も経ってねーのに痛感したわ」
新任なんだろうか?
若くて新任だと、あまり頼りにならないのが相場だろう。
その頼りなさついでにあまり叱らないでくれたらいいな、と思った矢先に、振り向いた担任は急に薄い唇を少し歪めて冷淡に笑った。
小夜「で、柊。鋏出せよ」
夕太「な、なんのこと?」
鋏、見られていたのか。
嘘を言わせる隙のない気配と、先程までのフランクさはどこにもない。
近寄りがたい張りつめた空気を一瞬で身に纏う担任に、後ろの蓮池も流石に息を潜めている。
言葉にならない緊張が走る中で、式典から退場させられた時に感じた直感が当たっていたのだと嫌でも分かった。
小夜「んー、」
担任は未だすっとぼける柊に痺れを切らしたのか、柊の上着のポケットへと手を突っ込み、あったと鋏を取り出した。
小夜「この花鋏、蓮池のだろ」
そう言って後ろの蓮池にハサミを手渡す。
蓮池「…俺のじゃないですよ」
あれ花鋏、っていうのか。
鉄製でやけに重たいし、というか何でこんな鋏を蓮池が持ってるんだ?
それに何故、担任は一目でそのハサミの持ち主が分かったのだろうか。
にっこりと微笑む蓮池に、担任は喉の奥で笑った。
小夜「蓮池流のお坊ちゃんにはわからないかも知れないが、刃物を見ただけでパニック起こして死のうとする奴とかいるんだよ。お前ら物騒なもんは絶対に出すな」
花鋏を受け取ろうとしない蓮池の胸ポケットに無理やり押し込め、語る担任の威圧感に息が詰まる。
俺は口の乾きを感じながらも、己の正当性を伝えようとした。
雅臣「先生、でも俺はむしろ被害者って言うか…」
小夜「藤城、そういや短時間で随分さっぱりしたな。ところで蓮池がお前の髪を切り落としたのか?それとも鋏持って脅されたのか?」
雅臣「いや…それは…」
蓮池「やだなぁ、そんなことしてませんよ。こいつが自分で短気起こして切ったんです」
俺の代わりに答える蓮池に、辛抱ならなくなる。
雅臣「鋏を前に置いてきたのはお前だろ!」
小夜「藤城、お前が自分で髪を切ったのか、それとも蓮池に無理やり切らされたのかどっちなんだよ」
雅臣「…...それは」
確かにどちらなのかと言われれば、無理矢理脅されてとかではない。
雅臣 「.........自分で切りました」
小夜「そ、ならいいな」
は?
全然、良くねぇだろうが。
もっと蓮池に怒ってくれよと思うも、よく考えれば蓮池の挑発に乗り、勝手に短気を起こしたのは紛れもない自分だった。
それを言えば、酷く自分がかっこ悪い気がした。
結局冷静でいられなかった自分が悪かったのだ。
俯く3人を前に、担任は努めて明るく声を出す。
小夜「高校は退学あるからなー」
夕太「…はーい。皆もう二度としません」
舌打ちする蓮池と何も言えない俺に代わるかのように、柊が返事をした。
小夜「じゃ、ここ立ってろよ。次うるさくしたら本当に退学にするからね。30分位したら戻ってこい」
楓「いい迷惑だよほんと」
雅臣「ふざけるな、大体お前が...」
独りごちる蓮池と怒りが勝り言い返そうとする俺の間に担任が入り、2人の肩を抱いて告げた。
小夜「退学、なりたくないよな?」
にっこりと笑う教師に、もう言葉は出なかった。
巻き込まれただけなのに。
どうしても愚痴のような思いが渦巻く中、
小夜「いやほんとに初担任なんだから勘弁しろってー。頼むわ、ほんと。次呼びに来たらしこたま怒られたみたいな感じで教室に戻れよ?いいか、わかったな」
ひらひらと手を振り、歩き出す教師の後ろ姿を見ることしかできなかった。
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