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20.【それぞれの事情】
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食事を終わらせて早々に食堂を退場した俺は1人教室へと向かう。
上り階段の脇に設置された自販機の陰でようやく静寂を取り戻すことができた。
ため息を吐き、反りの合わない柊や蓮池、ノリの合わない先輩達のせいでどっと疲れが押し寄せる。
4月に入学してからたった1ヶ月しか経っていないというのに、何故こんなにも毎週おかしなことばかり俺の周りで起こるのか。
絶対に柊のサークルなんて入らないからなと改めて胸に誓うも、
「…なあ、まじで辞めんの?」
階段の上から硬く尖った声が聞こえてくる。
顔を上げると苦々しい顔をした桂樹先輩が未だ下着姿のまま、学ランのジャケットを着直す三木先輩と話していた。
どうにもシュールなその光景だが、場所が場所だけに俺が盗み聞きしていると思われかねない。
2人が去るまでは一旦静かにしていよう。
俺の存在に気づいていない2人はそのまま会話をし始めた。
三木「本当も何も…もう退部届けは出したぞ」
桂樹「…いや、そうなんだけど。こう、三木の気持ちって言うか…」
言いたい事があるのかそれとも考えがまとまらないのか。煮え切らない態度の桂樹先輩に対して三木先輩の声は実に淡々としている。
俺はこんな所で他人の深刻な話なんて聞きたくないんだが、どうにも動けず桂樹先輩の思い詰めた渋い声に次第に居心地の悪さが募ってきた時だった。
桂樹「お前俺のこと__」
「おい桂樹!!何で服脱いでんだ!!」
意を決したような桂樹先輩を遮るように教師の声が辺りに響いた。
やべ!と言う桂樹先輩の声と共に、バタバタと2人の足音が上へと遠のいていく。
食堂での2人は変わらず仲が良さそうに見えたのに、本当はそうじゃないんだろうか。
どれだけ仲が良くても、揉めて悲しい思いをするくらいなら最初から関わらない方が絶対いい。
部活なんか真剣にやるもんじゃないんだよ。
自販機の陰からゆっくり体を引くと、
「週刊誌の記者かよ」
その声に心臓が跳ね上がった。
楓「いつだって盗み聞き盗み見でタチ悪いよな。スクープは取れたのかよ」
驚き勢いよく振り返ると、相変わらず人を上から下まで値踏みする様な嫌らしい目つきの蓮池がいた。
雅臣「どういう意味だよ」
楓「そのまんまの意味だけど?」
頭に血が上り始め拳を握りしめた瞬間、あ!と大きな声が廊下に響き渡った。
夕太「でんちゃん雅臣見つけてくれたんだ!良かったーはぐれちゃったから探してたんだよ!今日SSCのオリエンテーションやるから雅臣も来てね!」
走ってきた柊が蓮池を通り越して俺の手首を掴み、矢継ぎ早にそう話す。
参加を全く疑わない柊の顔が余計に癇に障った。
俺はただ名前を貸してサークル設立に貢献しただけで、参加するとは一言も言っていない。
大体蓮池と同じサークルだなんて、俺らの相性が悪いことくらい察しろよ。
もういい加減理解しろよ。そしてついでに注意してくれよお前の後ろで俺を睨みつけるそのバカを。
雅臣「行かねぇよ」
内心の苛立ちを押し隠し、出来るだけ平静を装いながらその手に抗った。
夕太「でも三木先輩が1番最初だけ全員来いって。人数が揃ってなくても体裁整えておかないと即廃止の可能性があるからって」
柊が自分のスマホを俺に開いてグループ画面を見せる。
三木先輩からのメッセージに梓蘭世がOKと揺れるスタンプを送っているのを見たら行かざるを得ないと観念した。
1番サボりそうな芸能人が1番に既読してOKしてんじゃねーよ。
人から注目を浴びる事とは無縁で生きてきた俺にとって、食堂での先輩達みたいに笑われたり合唱なんかやって人の視線の的になるだなんて恥ずかしくて我慢ならない。
ましてや気難しい芸能人に騒がしいこいつらまで一緒だなんて、もっと耐えられない。
初回の参加さえもやはり断ろうと口を開きかけるも、
夕太「サークルで使う場所今から申請しに行かなきゃいけないから、またグループチャットで連絡するね!」
雅臣「あ、待てよおい!」
俺の返事を聞かずに柊はサッと身を翻し、階段を足早に駆け上がる。それに続くよう蓮池も顔を背けて行ってしまった。
少し逡巡するが、ここで追いかけて話の通じない柊を説得する労力を考えると初回だけ我慢して参加する方がマシかもしれないと思った。
自分のスマホを開いてグループチャットに『了解しました』と素早く打ち込み、足取り重く今度こそ教室に向かって階段を上がり始めた。
上り階段の脇に設置された自販機の陰でようやく静寂を取り戻すことができた。
ため息を吐き、反りの合わない柊や蓮池、ノリの合わない先輩達のせいでどっと疲れが押し寄せる。
4月に入学してからたった1ヶ月しか経っていないというのに、何故こんなにも毎週おかしなことばかり俺の周りで起こるのか。
絶対に柊のサークルなんて入らないからなと改めて胸に誓うも、
「…なあ、まじで辞めんの?」
階段の上から硬く尖った声が聞こえてくる。
顔を上げると苦々しい顔をした桂樹先輩が未だ下着姿のまま、学ランのジャケットを着直す三木先輩と話していた。
どうにもシュールなその光景だが、場所が場所だけに俺が盗み聞きしていると思われかねない。
2人が去るまでは一旦静かにしていよう。
俺の存在に気づいていない2人はそのまま会話をし始めた。
三木「本当も何も…もう退部届けは出したぞ」
桂樹「…いや、そうなんだけど。こう、三木の気持ちって言うか…」
言いたい事があるのかそれとも考えがまとまらないのか。煮え切らない態度の桂樹先輩に対して三木先輩の声は実に淡々としている。
俺はこんな所で他人の深刻な話なんて聞きたくないんだが、どうにも動けず桂樹先輩の思い詰めた渋い声に次第に居心地の悪さが募ってきた時だった。
桂樹「お前俺のこと__」
「おい桂樹!!何で服脱いでんだ!!」
意を決したような桂樹先輩を遮るように教師の声が辺りに響いた。
やべ!と言う桂樹先輩の声と共に、バタバタと2人の足音が上へと遠のいていく。
食堂での2人は変わらず仲が良さそうに見えたのに、本当はそうじゃないんだろうか。
どれだけ仲が良くても、揉めて悲しい思いをするくらいなら最初から関わらない方が絶対いい。
部活なんか真剣にやるもんじゃないんだよ。
自販機の陰からゆっくり体を引くと、
「週刊誌の記者かよ」
その声に心臓が跳ね上がった。
楓「いつだって盗み聞き盗み見でタチ悪いよな。スクープは取れたのかよ」
驚き勢いよく振り返ると、相変わらず人を上から下まで値踏みする様な嫌らしい目つきの蓮池がいた。
雅臣「どういう意味だよ」
楓「そのまんまの意味だけど?」
頭に血が上り始め拳を握りしめた瞬間、あ!と大きな声が廊下に響き渡った。
夕太「でんちゃん雅臣見つけてくれたんだ!良かったーはぐれちゃったから探してたんだよ!今日SSCのオリエンテーションやるから雅臣も来てね!」
走ってきた柊が蓮池を通り越して俺の手首を掴み、矢継ぎ早にそう話す。
参加を全く疑わない柊の顔が余計に癇に障った。
俺はただ名前を貸してサークル設立に貢献しただけで、参加するとは一言も言っていない。
大体蓮池と同じサークルだなんて、俺らの相性が悪いことくらい察しろよ。
もういい加減理解しろよ。そしてついでに注意してくれよお前の後ろで俺を睨みつけるそのバカを。
雅臣「行かねぇよ」
内心の苛立ちを押し隠し、出来るだけ平静を装いながらその手に抗った。
夕太「でも三木先輩が1番最初だけ全員来いって。人数が揃ってなくても体裁整えておかないと即廃止の可能性があるからって」
柊が自分のスマホを俺に開いてグループ画面を見せる。
三木先輩からのメッセージに梓蘭世がOKと揺れるスタンプを送っているのを見たら行かざるを得ないと観念した。
1番サボりそうな芸能人が1番に既読してOKしてんじゃねーよ。
人から注目を浴びる事とは無縁で生きてきた俺にとって、食堂での先輩達みたいに笑われたり合唱なんかやって人の視線の的になるだなんて恥ずかしくて我慢ならない。
ましてや気難しい芸能人に騒がしいこいつらまで一緒だなんて、もっと耐えられない。
初回の参加さえもやはり断ろうと口を開きかけるも、
夕太「サークルで使う場所今から申請しに行かなきゃいけないから、またグループチャットで連絡するね!」
雅臣「あ、待てよおい!」
俺の返事を聞かずに柊はサッと身を翻し、階段を足早に駆け上がる。それに続くよう蓮池も顔を背けて行ってしまった。
少し逡巡するが、ここで追いかけて話の通じない柊を説得する労力を考えると初回だけ我慢して参加する方がマシかもしれないと思った。
自分のスマホを開いてグループチャットに『了解しました』と素早く打ち込み、足取り重く今度こそ教室に向かって階段を上がり始めた。
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