山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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21.【オリエンテーション】

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現在俺は6限の英語を受けながら、改めてオリエンテーションの参加について考え直しているところだ。

全く合わない蓮池に気難しい芸能人の梓蘭世に加え、押しの強い三木先輩の顔が浮かび上がってどうしても眉根が寄ってしまう。

唯一マシと思えるのが静かな印象の一条さんなんだが…あの人も何か変なんだよな。

俺を含めて6人しかいないサークルメンバーで半数と性格が合わないなんて十分断る理由だろ。

これをそのまま素直に伝えたら柊は納得してくれるだろうか。

ノートから顔を上げれば、1番前の席で蓮池が眠たくなったのか完全に船を漕いでいるのが見える。

これはチャンスだと目の前に座る柊の背中を叩いて小声で話しかけようとするも、柊は熱心にノートを取っていた。

そういえば普段は騒がしい柊だが小テストや授業中の受け答えが悪くなくて意外と成績がいいんだよな。それにそもそも、授業中に小声で話しかけるのはどうなんだとやったことが無いので躊躇してしまう。

退屈な授業も残すところ後5分。

あーでもないこーでもないとブツブツ呟いている柊を後ろから見ていると、もしかして真剣にノートを取っているのとは違うんじゃないかと気づいた。

出来た!の声と柊が満足気に首を下ろすのを見て後ろの隙間から見える文字を覗く。そこには『SSCの活動について』とデカデカと書かれた文字が見え、俺の優しい心遣いは何だったんだと顔が引き攣るのがわかる。

鐘が鳴ると同時にとっ捕まえて担任が帰りの挨拶をする前に伝えるしかもう手はない。

柊の傍に居る蓮池が嫌味を言おうか構わない。シンプルに嫌なものは嫌だと伝えることにした。

ところが、いつもは鬱陶しいくらい俺の近くにいる柊が今日に限って終業の鐘が鳴り終わる直前に教室を飛び出したきり戻ってこない。

終礼も始まりさすがに不審に思った担任が蓮池に尋ねる。


小夜「蓮池ー、柊あいつどこ消えたんだよ?」

楓「さぁ?トイレじゃないですか?」

小夜「そんなら別にいいわ。大きいの位ゆっくりさせてやろう」


男子校特有の品のない回答にクラスが沸いて、終礼は終わる。

埒が明かないので直接グループチャットへ適当に断りを入れようとポケットに手を突っ込むと、


小夜 「藤城、柊いねぇからこれ。生徒会から預かってるもんのコピー三木に渡しといてくれ」


三木わかるよな?と投げて渡された封筒を蓮池に渡してくれと言いたくても、奴はもう教室にいなかった。

……もうここまでくると全てが馬鹿らしく、俺は諦めた方が早いとようやく悟った。




___________________



使用教室を確認するためグループチャットを開けば、柊から『3年1組の教室集合で!』という文と共にGOODと鳥のスタンプが送られてきている。

俺を合わせて既読が5になっているという事は全員来るのだろう。

仕方なく3階にある3年のフロアに赴くと、1年がいるのが珍しいのかすれ違う人達が皆見ているような気がしてくる。

何となく姿勢を正して、足早に指定された教室へ向かい、扉を開くと既に教室内に2・3年の先輩が揃っていた。


三木 「おぉ、藤城来たか。空いてるとこ座れ」


担任から受け取った封筒を教卓の前の席に座る三木先輩に渡し、その後ろで当たり前のように隣同士で座る2年生の後ろに着席した。


蘭世「梅ちゃんこの後暇?どっか遊び行かね?」

梅生「え、えぇと…予定あって…」

蘭世「…ほんとかよ。梅ちゃん最近俺の誘い全部断るじゃん」


しどろもどろ曖昧に返事をする一条さんに梓蘭世の声が低くなり明らかに機嫌が悪くなった。

周りの温度が3度くらい下がったような気がする。


梅生「べ、勉強してるんだよ。俺は蘭世と違ってあんまり勉強出来ないから…」


慌てて一条さんが至ってまともな理由を伝えるが、褒められたのかと勘違いした梓蘭世は、


蘭世「梅ちゃんは俺を買い被りすぎなとこあっからなー。じゃあさ、教えるからビデオ通話してきてよ」


照れながら斜め上の返答をした。


梅生「……お、落ち着かないよそんなの」

蘭世 「一緒の大学行くんだろ?約束したじゃん」


…………不毛すぎる。

相変わらず何だこの女子の様な会話は。

一条さんの落ち着かない気持ちもよくわかるが現在俺も非常に落ち着かないんですが、と言えるはずもなく2人からもっと離れた位置に座れば良かったと後悔する。

家庭教師でもあるまいし、何しにビデオ通話なんかして勉強しないといけないんだよ。

俺は友人に勉強を教えたことはないから分からないがそこはせめて、一条さんが分からないところだけチャットで教えてやるのが相場だろ。

すぐにいじける梓蘭世の機嫌を毎回必死に直そうとする一条さんが気の毒になってきた。

この間から思っていたが、芸能人だからなのか梓蘭世ってどこかズレてるよな。

これ以上馬鹿げた会話を聞きたくなくて全員が集まるまで音楽でも聴いてやり過ごそうかと考えた瞬間、教室の扉が大きく開いた。


夕太「お待たせしましたー!皆さんお集まりですね!」


柊は入ってきて早々に教壇の上に立ち、黒板にチョークで『オリエンテーション』と大きく書く。

一緒に来た蓮池は後ろに行こうとするところを三木先輩に俺の横に座るよう促されて舌打ちする。

相変わらず態度の悪い蓮池が器用に足で椅子を引っかけ着席すると、よし、と柊が手についたチョークの粉を払って、


夕太「第1回!SSCのオリエンテーションを始めます!」


大きな声でそう宣言した。


蘭世「SSC?何の略だよ」


梓蘭世の質問に柊が笑顔で堂々と答える。


夕太「作詞・作曲・歌っちゃおうサークル!略してSSCです」

蘭世「だっせ!!」


こればっかりは梓蘭世の言い分に激しく同意だ。

よくある英会話部のEnglish Speaking Society、略してESSとはまるで違う非常にセンスのないサークル名だと思うが、俺には関係ない事なので一応黙っておく。


夕太「うーんと、じゃあまず自己紹介しましょう!俺は柊夕太です!1年1組!楽しいサークルにしたいと思ってます!よろしくお願いします!」


じゃあ次はでんちゃんねと指を差した。


楓「…蓮池楓」


名前だけの愛想のない蓮池の自己紹介に、柊が代わりに補足する。


夕太「でんちゃんです!でんちゃんと俺は同じクラスで幼馴染なんだよ」


……順番的に次は1年の俺だよな。

名前だけ貸している身だというのに自己紹介なんて必要あるかと思うもとりあえず倣うことにした。


雅臣「1年1組、藤城雅臣です」

三木 「3人とも同じクラスなのか。仲もいいはずだな」


何も知らないから先輩の目には俺達が仲良く映るのか、それとも見る目がないのか。いやもうこの際どっちでもいい。ここに正式に入部する訳では無いんだからと精一杯自分に言い聞かせスルーする。


夕太 「じゃあ次は2年生!よろしくお願いします!」


元気な柊の声を聞いて、早く帰りてぇなと肘をついた。
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