41 / 360
藤城雅臣の放課後2
しおりを挟む____ば、ばばばば、
ババアって言ったか!?!?
その年配のご婦人が蓮池のお祖母さんか何なのか分からないが、知り合いなのは確実で…
そんな酷い口を聞いていいのかと呆気に取られていたのは俺だけではなかった。
蓮池の暴言を聞いた周りの買い物客も、信じられないと目を見開いていたりヒソヒソと話していたりするが、変な輩に巻き込まれたくない気持ちが勝つのかそっと目を逸らして蜘蛛の子を散らすようにその場から去っていく。
「楓さん気が付かなくてごめんなさいねぇ」
楓「今日ステーキにしようって言ったのはてめぇだろうが。ボケてんのかよこんな湿気た薄い肉じゃなくて__」
おっとりと〝楓さん〟と呼ぶ上品なご婦人に対して、蓮池はまたもや暴言を吐いたかと思うと素早く肉のコーナーへカートを移動する。
ご婦人が心配で俺もその後ろをそっと着いて行くが、蓮池は肉さえも値段やグラムを一切見ずに恐ろしい量を次から次へととカゴの中へ積み上げていく。
遠目にシャトーブリアンと書かれた値札シールが見えて、気が遠くなりそうだ。
「あらあら楓さんったらそんなにたくさん…」
ちょっと待ってくださいご婦人。
一旦量は置いといて蓮池に値段を見ろとアドバイスしてやってください、と思わず口にしそうになるが何とか耐えるも、
楓「俺は成長期だぞ、飢え死にさせる気か?お前は太るから食うなよ」
___なっ……!
何て事言うんだ本当に!!
ご婦人に対する態度に比べたら俺への態度なんてよっぽどマシに思えるが、さすがに良くないだろと口を挟もうと1歩踏み出すと、背中軽く叩かれた。
「あれ?雅臣?」
聞き覚えのある声に振り向くと、
夕太「さっきぶり!雅臣も買い物?」
ひ、柊…!!!
見慣れたヘーゼルのくるくる頭が、こんなにも救世主のように見えた日はないぞ!!
雅臣「あ、あぁ…いやそれより柊、蓮池を___」
お前の友達をどうにか止めてくれと言おうとした矢先、
楓「ババア先にあるもんで飯作っとけよ」
「あらあら…荷物が多いから私も…」
楓「うるせーなカードだけ寄越して早く帰って飯作れよ!専業主婦なんてやることねーだろ!」
少し目を離した隙に蓮池が今度はレジ前で全世界の専業主婦に向かって喧嘩を売るような暴言を吐いていた。
瞬間、そこに並んでいる奥様方の目に狂気が宿るのが分かる。
『ねえ、ちょっと言ってやろうかしら?』
『さっきから何なのあの子?』
後ろ指を刺されるのも全く気にもせず、蓮池はご婦人の鞄から勝手に財布を取り出してそこからブラックカードを抜き取った。
あの馬鹿……。
SNSで晒される日も近いぞと頭を抱える俺と蓮池を見比べた柊は力強く頷き、スタスタレジに並ぶ2人の所まで歩いて行く。
……あれを止める手立てがあるのか?
この場を任せたはいいものの毎回このパターンで柊は想像より大分ズレたことをしでかすのを思い出し、行かせない方が良かったのかと不安になる。
雅臣 「……待て柊、ここはやっぱり俺が__!」
夕太「でんちゃんは、本当はおばさんの膝が悪くて心配だから一緒に買い物についてきたんだよね」
突如大声でレジ列に割って入った柊に、買い物客全員が注目する。
「…あらあら夕太くん!やっぱり楓さんのあまのじゃくな部分を分かってくれているのね」
柊の登場に花がほころぶように笑顔で対応するご婦人の返しに、俺は首を傾げる。
あ、あまのじゃく?
「来なくて大丈夫って言ってるのに、自分も行くって聞かないの。…恥ずかしがり屋さんなだけで、楓さんは本当は優しいのよね」
更に斜め上の返しに、俺を含めそこにいた全ての人の頭の上に疑問符が浮かんだ。
先程までのアレやソレのどこをどう取ったらその解釈になるのか?
全員が同じことを思ったであろうが、畳み掛けるように柊は舌打ちする蓮池の腕を無理やり組み、
夕太 「本当はお母さんに重い荷物を持たせたくないから先に帰っていいよって言いたいんだよね。何ですぐ反抗期発動すんのかなでんちゃんは」
しょーがないなー!だとか、もー!だとか、いつもの倍腹から声を出して堂々とにこっと笑う柊を見て、周りの客達がようやく納得し出したのが感じ取れた。
『あー…お母さんと一緒に来たことが恥ずかしいのね』
『あの子結局来ちゃってるんだから可愛いもんよ!私なんて昨日息子に死ねくそババアって言われたわ』
『うちもうちも!口開いたら負けとでも思ってんのかしらね?うぜーしか言わないのよ』
主にそこにいた女性陣が蓮池の暴言を反抗期あるあるとして勝手に片付け始め、皆で微笑ましく反抗期の男の子を見守るスタンスへと変わった。
初めて心からナイスだ柊!と100点をやりたくなった。
どうも蓮池の暴言をご婦人は都合の良い解釈をしているらしいが、それで彼女が傷つかないならその方が良いだろう。
ご婦人はにこにこと嬉しそうに微笑んで、
「じゃあ楓さん、お言葉に甘えて先に帰るわね。カードは後から返してくださいな。楓さんと夕太くんの好きなお夕飯の準備しておきますからね」
夕太「おばさんまた後でね!」
と、クルッと身を翻しご婦人がその場を後にするのを見て柊はブンブンと手を振った。
そんな中、蓮池は気に入らないのかぶすくれて黙って支払いをし、袋に買ったものを雑に詰め、柊はエコバッグを取り出し手伝い始めた。
夕太「でんちゃん、お母さんには優しくしないと」
楓「いいんだよ。あのババアは俺が生き甲斐なんだから」
総白髪に近い髪を結い上げて着物を着ていたから、かなり年齢が上に見えたが柊の言葉であのご婦人は蓮池の母親だとやっと気が付いた。
蓮池がババアを連呼するあまり一瞬お祖母さんかもしれないと疑っていたが、入学式に見たような…と着物姿の何人かが頭をよぎった。
いや、それにしてもこの期に及んであいつは俺が生き甲斐だからとか抜かしやがって…
生きてるだけで有難いと思えよ。
苛立つ俺の前に再び柊が向かってきた。
夕太「雅臣、今からでんちゃんの家でご飯食べるんだけど一緒に来る?」
楓「タダ飯食えると思ったら大間違いだからな貧乏人、金払えよ卑しいなほんと」
思いもよらない誘いを受けて驚くも、俺が返事をするよりも早く蓮池が俺をカートで押し退ける。
余りの勢いに体勢を崩すと、蓮池は鼻で笑った。
雅臣「まだ何も言ってないだろ!?行かねぇよ!!俺は忙しいんだ!!じゃあな!」
苛立ちをそのままぶつけるも、この失礼な男には失礼で返していいだろう。
そもそも俺は貧乏でもないし卑しくもない!
何でこいつはいつも失礼なんだ。
早く帰ろうと出口に向かおうとすると、柊が袖を掴んだ。
夕太「……ん?いいの?」
何がいいの?だ。
いいわけないだろうが馬鹿野郎。
対して仲良くもない、それに何が楽しくて失礼な蓮池の家で飯なんか食わなければならないんだ。
気持ちが抑えきれずに柊の手を払い、今度こそ出口へ向かうと、後ろからまた明日!と柊の声が聞こえる。
チラと見れば、2人は反対の出口に足を運んでいた。
俺も帰ろうとカゴを元の場所に戻すも、
雅臣「……あ」
カゴの中に入ったトマトを見て、俺がここまで来た目的をようやく思い出した。
先程の柊の確認はもしかして、
〝雅臣は何も買っていかななくていいの?〟
という意味だったのか…?
雅臣「……くそ!!」
今更戻れるかとトマトを元の場所へと走って戻すも、学校終わりの時間を有効活用するはずだったのにとため息がでた。
今日は諦めて外食して帰ることにしたが、結局いつもの倍疲れた気がした。
8
あなたにおすすめの小説
幼馴染が「お願い」って言うから
尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。
「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」
里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。
★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2)
☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。
☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!
嘘をついたのは……
hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。
幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。
それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。
そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。
誰がどんな嘘をついているのか。
嘘の先にあるものとはーー?
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
とある冒険者達の話
灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。
ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。
ほのぼの執着な短いお話です。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
コーヒーとチョコレート
ユーリ
BL
死神のジェットはとある理由からかわいい悪魔を買った。しかし、その悪魔は仲間たちに声を奪われて自分の名前以外喋れなくて…。
「お前が好きだ。俺に愛される自信を持て」突然変異で生まれた死神×買われた悪魔「好きってなんだろう…」悪魔としての能力も低く空も飛べない自信を失った悪魔は死神に愛される??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる