山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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45.【カナリアと違和感】

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梅生「どうした?藤城?」

雅臣「えっ!?い、いや………」


つい見入ってしまった俺に気づいたお内裏様……ではなく、一条先輩が邪気のない声で尋ねるがこの穏やかな先輩が生クリームを丸呑みする甘党だという事を意識すると返事がぎこちなくなる。

梓蘭世とたこ焼き以上に顔と性格にマッチせず、何でもないですと首を振り胡乱な目を向けないようにするので精一杯だ。

1時間もかからずたこ焼きの具材が決まると、昼飯もまだなので後日、3年生もいる時に改めて買い出しや担当を決めようと今日はお開きとなった。

全員教室を出て階段を降り、革靴に履き替えてから梓蘭世を先頭に連なって歩く。

山王学園全体を囲むように植えられた桜はとうに散っていて、今は青葉の茂りが鬱陶しいくらい枝と共に空に向かって伸びている。

もうすぐ校門というところで俺の前を歩いていた柊は助走をつけ高く飛び上がり、横のレンガの塀沿いに生える桜の葉を叩いた。

普段からちょこまかとすばしっこい柊はなかなか高い位置まで手が届く。

笑顔でふんぞり返る柊を見て梓蘭世も触発されのか、そのまま助走なしで柊より遥かに高く飛んだ。


夕太「すげー!!」


……お、おお……めっちゃ飛ぶな。

さっきもクラスメイトと短距離走で賭けようと話していたが、顔もスタイルも良いこの芸能人は運動神経までいいのか。

天は何物与えれば気が済むんだ。

梓蘭世を凄いと褒め称える激甘党の一条先輩を見て、本当に人は見かけによらないなと列の最後尾で思う。


楓「俺もこのまま飛んでパリとかに行っちゃいたい」

夕太「バカだなでんちゃん…フランスなんか夏休みに行けばいいだろ。もー……往生際悪いな、早く帰んなよ。今日お稽古無くなったわけじゃないだろ?」


門を出てしゃがみ込む蓮池に呆れながら、柊が右を指さした。

前もこんな光景を見たなと思いつつ、何気なく柊が指さす方向を見ると如何にもな日本家屋があるが……


……まさかとは思うがあれ全部蓮池の家なのか!?


東南の角地から端までかなり距離があり、軽く見積もって500坪はあるぞ……!?

蓮池の家が俺と同じ覚王山という事は知っていたが、普通の一軒家だと勝手に思っていた。

華道ってそんなに儲かるものなのかと後ろから蓮池の風に揺れるおかっぱ頭を眺める。


楓「は?行かないよ」

夕太「ダメだよ、でんちゃんのじいちゃんから俺んとこメールきてる」


一向に帰ろうとしない蓮池に痺れを切らした柊がほら、と自分のスマホ画面を見せつける。

蓮池が一瞬そのスマホに手を伸ばしたが、柊の手が触れそうな距離でパッと離した。

不自然な動作に訝しく思うが、スマホを奪わなくても内容が見えたのだろう。

蓮池は死ねジジイと低い声で呟きながら立ち上がった。


夕太「…つべこべ言ってないで……、おら!!」

楓「うわ!!」


柊が蓮池の背中に周り腕を掴んでくるりと右に向けたかと思えば、そのまま思い切りケツを蹴飛ばした。


夕太「じゃあな、でんちゃん」


蹴飛ばされるも何とかバランスを保った蓮池は、舌打ちしてケツをさすりながら渋々歩き出した。

蓮池に手を振る柊はどこか曖昧な、いつもの笑顔とはまた違う物憂げな表情を浮かべている。

俺の隣でどこか大人びた顔をする柊だが、入学式の時も桜の木を蹴り飛ばし、蓮池の事も同じように蹴飛ばし俺が被害を被った事を思い出すと自然とため息が出た。

何年も一緒にいると幼馴染への扱いが雑になるのか、それともただ柊の足癖が悪いのか。


夕太「よし、ミッションコンプリート」


広大な敷地のどこが入り口の門なのか分からないが、柊には幼馴染が中に入ったのが見えるのだろう。

腕を組み満足気に頷く柊の表情には先程のアンニュイさは微塵も無くなり、唇を突き出す様がやはりあの海外アニメの黄色いカナリアそっくりのいつも通り騒がしい柊に戻っていた。


夕太「さ、梅ちゃん先輩!!クレープ食べに行きましょ!!」


一条先輩の手を取りレッツゴーと歩き出す柊を見て、この男が黙っている訳がない。


蘭世「は?てめぇ何2人で行こうとしてんだよ」

夕太「蘭世先輩もクレープ食べたいの?しょうがないなー…」

蘭世「ちげぇよ!!俺はクレープじゃなくて___」


急に口篭り一条先輩を見つめる梓蘭世に呆れる事しかできない。

……はあ、そうですか。

そんなに一条先輩と2人きりがいいですか。

場所はクレープ屋でも何でもいいのだろう。

阿呆らしい、何で毎回女子みたいなんだよ。

人は見た目によらないとは言うが、梓蘭世は見た目通り綺麗でかっこいいままいてくれよとまたため息が出る。


梅生「ど、どうしたの蘭世?」

蘭世「…何でもない」


察しの悪い一条先輩に梓蘭世が不機嫌になりそっぽを向くが、今日の一条先輩はいつもと少し違う。

この人が超甘党と判明したからこそわかった。

クレープのためなら親友に一々狼狽えていられないのだろう。


梅生「蘭世のオススメとかある?蘭世は美味しいのよく知ってるから、教えて貰おうかな」

蘭世「…べ、別にいいけど。クレープ屋着いたら一緒に選ぼ」


堂々とした話しぶりの一条先輩の笑顔に絆され満更でもない梓蘭世の姿見て、一条先輩が女じゃなくて良かったとつくづく思う。

女だったら速攻梓蘭世に手篭めにされて……いや、違う彼女にされる、か。

ん?いや、案外逆なのか?

そんなどうでもいい事を考えながら駅に向かい、ようやく歩き出した2年を見ているとげんなりするが、俺の隣りを歩く柊が小声で呟いた。


夕太「良かった、蘭世先輩の機嫌が良くて」

雅臣「……」


前方に聞こえるぞと柊に目配せするが、


夕太「だって機嫌悪い人と食べても美味しくないもんな」


そう言う柊は振り返って蓮池の家の方を見ていた。

普段不機嫌丸出しで昼飯を食う蓮池の姿が思い浮かぶと同時に、ふと頭をよぎる。


こいつらって……


______本当に仲がいいのか?


いや、割といつでもどこでも一緒にいるから仲は良いだろう。


それなのに、この違和感はなんだ?


夕太「なぁ、雅臣も大須のクレープ一緒に行く?」


突然柊に誘われ驚き顔を見るが、やはりいつものカナリア顔で笑っている。


雅臣「えっ、ま、まぁ……行こうかな」


別にクレープに興味はないが、いい加減腹も減ったし何か食べたい、それにこの状況で断るのもなとOKした。


夕太「よーし!!行こ!!蘭世先輩奢ってー!!」

蘭世「ぜってー嫌!!」


…………気にしすぎか?

というより、何で俺がこんな事考えるんだ馬鹿らしい。

ところでおおすとやらはどこだと頭に浮かんだ2人への疑問はどこかへ消え去り、俺は走り出す柊の背中を追いかけた。

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