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62.【俺とあいつと柊と】
しおりを挟む余計なお世話だったか?と少し身構えるが、
夕太「……ありがとう!頼む!」
しばらくして柊の口角がニッと上がり、任せたとばかりに俺の肩を強く叩いた。
雅臣「なんかあれば言えよ?」
……あれ?この言い方図々しいか?
まだ柊と友達……友達!?
もう友達か……?流石にまだか……いや、!?
夕太「雅臣、ありがと!」
調子に乗りすぎたかと挙動不審に慌てる俺の横で柊はとても嬉しそうな笑顔でお礼を言うから、今言い方はそんなに変ではなかったかとほっとする。
きっと来るまでに暑くて少し気分が悪くなったのかもしれない。
後で麦茶でも飲ませようと柊を見れば、事前に必要な物をリストアップしていたのか、メモを広げて俺に見せた。
数は三木先輩と話して決めたんだと柊は言ってるが、いつの間に相談していたんだろうか。
俺も誘ってくれれば良かったのに……。
…………。
______違う。
そうじゃないだろと、不満に思う気持ちを急いで否定した。
そうじゃなくて……、
俺にも、もっと出来る事があったかもしれないだろ。
これは柊が気を利かせて先回りしてやってくれた事じゃないかと、突然目が覚めるような思いがして立ち止まる。
俺は文句ばかり頭に浮かべて、言いもしなければ行動にも移さない最低の習慣を本気で直さないといけない。
誘って欲しければそう言うべきだったし、そもそも思いつきもしなかった時点で俺にそれを言う権利なんてないんだ。
買い出しに一緒に行く事だけで満足していたが、もっと先まで予想して考えるべきだった。
数の相談までしていたなんて、考え足らずで気の利かない俺とは違う柊の立ち回りの上手さに再度感心する。
……俺が柊のように先回りして行動する日なんて来るのだろうか。
そんな姿は全く想像できず、やっぱりこれじゃあ蓮池の言う通り図々しいと言われても仕方ない。
自分の事を図々しいだなんて1度も思ったことがなく、むしろ気が利く方だとさえ思っていた俺の勘違いをあいつはいつ見抜いたんだろうか?
蓮池の観察眼に改めて驚くと、
夕太「あ、でんちゃん!」
楓「何?」
蓮池は目の前で相変わらず値段も見ずにカートにトッピングしたい具材を次々放り込んでいて、その姿に先程の尊敬の念を返せとも思う。
初めて会った頃から蓮池は俺が極力関わりたくない人間だというのは変わっていない。
しかしさっきの尋常じゃない怒り方を見て、蓮池にまだ俺の知らない一面があるような気がした。
いつも蓮池が俺に嫌な言い方をするのは、ただ単に何かに怒っていて不機嫌だからだと思っていたが、先程の怒り具合を見たら少し違うと思う。
多分、俺の事は怒りとか関係なく〝ただ嫌い〟が正解な気がする。
…………ん?
でも俺、蓮池に直接嫌いだと言われたか?
言われた気もするし……言われてない気も……。
嫌なことは嫌だとハッキリ言う蓮池は、俺の事は無視はするが正面から俺を嫌だと言ったことはないよな。
楓「退けよ木偶の坊」
蓮池は俺の後ろにある鮮魚コーナーの蛸が取りたいのだろう。
考え中だったこともあり突進してきた蓮池を避けることができず、肩が当たってよろけてしまった。
夕太 「でんちゃんぶつかりおじさんかよ」
何故か柊まで笑顔で楽しそうに俺に体当たりしてきて、少し体調が復活したのか元気そうな柊の様子に、
雅臣 「あんまり無理するなよ」
と声をかけたら柊は瞠目し、へへっとはにかんだと思えばまたおりゃっと嬉しそうに体当たりしてくる。
……まあ、ぶつかるほど元気になったなら良かった。
体当たりをしつこく繰り返す柊を放置し、もう1度蓮池に直接嫌いと言われたかどうかを考えてみるが思い出せない。
でもこの態度を見れば、言われてようが言われてまいが確実に嫌われているのは分かる。
……そういえば、何で俺はこいつに嫌われているんだ?
チラ、と蓮池を見るとより美味しそうな茹でタコを真剣に選別していて、その姿はただの食い意地の張った変な奴で……。
ますます分からなくなってきた。
出会って直ぐに〝ブサイク〟って言われたよな?
あの短い時間で俺は蓮池に何かしたんだろうか?
蓮池はいつも不機嫌で怒っているというイメージしかなかったが、蓮池にだって何か理由があるのだろうか?
俺は余りにも蓮池に苦手意識を持ち過ぎていて、見落としてきたものが多かったのかもしれない。
これから積極的に関わりたいとかそんな事は断じてないし、今更蓮池の事なんてよく知る必要はないんだけれど、ここまで来ると……。
何というか腑に落ちないというか……スッキリしないというか。
………まあ、俺も蓮池が好きではない事だけは確かなのだが、と騒ぐ2人をぼんやり眺める。
夕太「でんちゃん買いすぎ!!先輩と被るかも!」
腕を引っ張って止める柊を無視して、蓮池はカットされた大量の茹でタコ以外に冷凍のエビやイカもカゴに入れていく。
楓「うるさいな…夕太くんは早くたこ焼き粉とかサークル費で買うやつ買ってきなよ」
この後まだ好きなトッピングを足すかと思うと、柊が本気で止めようとしている理由も理解でき、俺も協力しようと声を掛ける。
雅臣「…い、入れすぎじゃないか?」
楓「俺が金払うんだからいいだろ、うるせーな話しかけてくんな」
蓮池は舌打ちして退けよとカートを押して俺に突っ込んできた。
思い切り腰に当たり少し痛いが、俺に対する態度には〝嫌い〟以外の他に何か理由があるのしれないと一旦黙って見つめる。
以前の自分はその態度に何なんだと心の中で苛立ちを叫ぶだけだった。
それなのに、今はその蓮池に話しかけれるようになった自分が可笑しくて少し口元が緩む。
楓「何笑ってんだよキモイな」
しかし蓮池は俺が気に入らないのか、再びゴンとカートで追突してきた。
さ、さすがに痛いぞ……。
顔を上げるとそれを見た柊が大笑いしながらまた体当たりをしてきた。
このじゃれ合う感じがものすごく友達っぽくて、次第に喜びが込み上げてくる。
蓮池はそんな俺を一瞬冷めた目で見つめるが直ぐに目を逸らし、今度は柊の無邪気な様子に目を細める。
その様子に、俺が蓮池に何か言っても言わなくてもこの態度は変わらないんだろうなと悟った。
これからもずっと、蓮池は俺が何をしても気に入らないのだろう。
理由はちゃんと聞かないと分からないがいつか本人からハッキリ言われる日が来るかもしれない。
面と向かって嫌いだと言われるのは例え自分が好きじゃない相手でも誰だっていい気分なんてしないだろう。
でも、俺も蓮池にその時思った事をちゃんと言えるようになりたい。
頭の中で、心の内で思っているだけでなく、自分の気持ちを言葉で伝えれるようになりたい。
___蓮池だけじゃない、他の誰にだってそうだ。
俺は相手に自分の気持ちを言葉で伝える努力をもっとしないといけない。
そのためにもまずは笑い疲れて俺の腕にまとわりつく柊と友達になれたら……と意気込むが、
夕太「でんちゃん傍から見たらそれいじめだよ、はーおもしろ」
い、い、いじめ!?
仲のいい友達同士のじゃれ合いには見えないのか!?
斜め上の回答に柊との友達への道のりがまだまだ遠いと肩を落とす俺を気にすることなく、柊は蓮池に話しかけたりまた別の場所に移動したりと非常に忙しない。
夕太「あ、でんちゃん!ナマモノなしね!茹でてあるのか冷凍にしろって三木先輩が言ってた!明太子はチューブのやつね!」
楓「はいはい、ていうか俺の家のクーラーボックスにぶち込んで持っていけばいいだろ」
でも、その様子はいつもの柊と同じで元気になったようだと安心した。
夕太「よし、雅臣!俺らもあっち行こう!」
雅臣「…そうだな」
俺はもう、柊をうるさいだなんて思わなかった。
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