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藤城雅臣のゲーム日記1
しおりを挟む洗濯機を回した後、自動ロボット掃除機のスイッチを入れて動き出すのを確認してからカウンターチェアに座り一息つく。
スマホの写真フォルダをタップして指でスライドすると3日前のプールの写真が出てきて自然と口元が綻んだ。
プールの帰り道に柊がチャットでアルバムを作成して各々が撮った写真をそこに追加していったのだが、もちろん俺はそれを全部保存した。
今までの俺の写真フォルダなんてせいぜい30枚あるかないか、しかも勉強のスクリーンショットや何となく撮った風景ばかりでほとんど見返すことはなかった。
しかし俺はあのプールの日以来、毎日暇さえあれば写真を眺めている。
雅臣「楽しかったな……」
蓮池と柊のツーショットを撮ることは失敗したけれど合宿できっとまたチャンスがあるはずだ。
梓蘭世に言われたように俺が何度でもリベンジしてやろうと今後の課題になった。
雅臣「ふふ……」
一条先輩が俺と蓮池がいかにもやり合ってる感じの姿をいつのまにやら写真に収めてくれていて笑ってしまう。
ムカついた感じの俺の顔と、多分俺に嫌味を言い終えて大変満足気に笑う蓮池の様子が何とも味があって面白い。
思わずアップにしながら楽しかった余韻に浸っていたが、卓上カレンダーに自分で書いた予定を見て宿題の存在を思い出す。
夏休みは始まったばかりとはいえ、計画的にやらないと駄目だよな。
それに明日は華展前日で柊と一緒に蓮池に差し入れをしに行く約束をしているし、明後日の土曜日は合唱部の大会も見に行くんだ。
一旦コーヒーでも飲んでからサッと課題を済ませてしまおうと立ち上がると同時にインターフォンが鳴った。
………もしかして。
俺は頼んでおいた〝ある物〟を思い出し慌ててエントランスのロックを解除した。
_________
__________________
雅臣「つ、ついに来たぞ……!!」
中々なサイズのダンボールで届いた品物は心待ちにしていたゲームだった。
早速開封をするとゲーム機本体と一緒に、
『とびちれどうぶつの森』
とソフトのパッケージに書いてあって文字を見るだけでテンションが上がる。
まずゲーム機を説明書通りに接続しようと気合を入れて試みるが、思いの外簡単で最近は何でもWiFiで繋げるんだなと感心してしまった。
特に苦もなく接続が終わると次はとび森のチュートリアルへと手を伸ばす。
宿題は……自動掃除機が終了した頃にやればいいか。
とりあえずゲーム機本体にとび森のソフトを入れて30分程試しでプレイすることにした。
ソファの上で寛ぎながらまずはプレイヤー情報を入力する。
雅臣「こんなにキャラクターがいたのか」
キャラクター選択欄を見るとかなりの数の動物たちがいて驚いてしまった。
ダウンロードしたスマホ版は5種類くらいしか選べなくてこんなにいるなら新しいキャラにするかと吟味するが、やっぱり柊に似てると言われたこのクロヒョウが1番自分にしっくりくる。
更に島か村かを選べると知って、俺はプールに行ったことも相俟って島を選択しそのままチュートリアルを楽しむことにした。
スマホ版とは全然違うな……。
スマホ版はゲーム版でできることをかなり簡略化したものだと気づき、改めて真剣に導入部分に登場する案内人の説明を聞く。
〝島を開拓する〟をテーマに家や商業施設、テーマパークといった建築も出来てインテリアまで楽しめる『とびちれどうぶつの森』は自分のアイデアで自由に造り上げるクリエイティブ要素満点のゲームだ。
まだ何も始まっていないのに聞いているだけでもうワクワクしてくる。
雅臣「建物も家具も壁紙も作れて……その素材は交流?で集めるのか。レアアイテムは発掘したり交流で手に入る……なるほど?」
スマホ版には無かったありとあらゆるアイテムや豪華な家具は、自分で探したり作ったりしなくても課金すれば手に入るらしい。
課金アイテム一覧を見て直ぐにクレジットカードを登録しようか心が揺らいでしまうが、ローテーブルに置いたコーヒーに口をつけて何とか落ち着かせる。
………そもそも、交流って何だ?
?マークを押せば案内人が、
【交流:この島の住人と話そう!レアアイテムをゲットできるチャンス!島にない素材は別島、別村に行き来してゲットしてみよう!】
とび森特有の可愛らしい声とともに表示されて柊が通信できると言っていたのを思い出した。
なるほど、この島にある素材だけでは作れる建物や家具に限界があるってことか。
通信して他の人の村や島に行くことで作れる物のレパートリーが増えることを知り、右下の設定ボタンを押せばフレンドコード入力と表示された。
ここに相手のコードを入れれば相手の空間を共有できるだなんて、チェスやオセロと違って今どきのゲームって本当に凄いんだなと真剣に案内人の説明を聞く。
コツコツ作るだけではなくコミュニケーションを取る必要もあって、意外と難易度の高いゲームにようやく〝とびちれどうぶつの森〟というタイトルの意味を理解する。
元々何かを少しずつ作ったりするのは好きな方だし、何より今の俺には友達がいる。
慣れてきたら柊にフレンドコードを教えて貰おうと俄然燃えてきて、まずは簡単に1室作ってみることにした。
_________
______________
…………ど、どうしよう、楽しすぎる。
楽しくてさっきから全然手が止まらないぞ。
あれから俺は誘惑に負けてクレジットカードを登録してしまった。
それから最初に初期設定で用意されていた小さな家を課金アイテムででかくした後、その中の1部屋を練習がてら俺の部屋と全く同じに再現しようとアイテムを作りまくった。
作り方や素材の集め方はスマホ版とほとんど同じで、着々と作り上げていくのに時間がそこまで掛からなかった。
問題はもう1つの部屋だ。
雅臣「……できた」
画面にはSSCの部室を再現した部屋が広がっている。
自室の次はゲームならではの部屋を作ろうと思い浮かんだのがSSCの部室で、内装もまるきり同じにしようと必死に取り組みようやく完成したのだ。
途中建築士である親父の血を完全に引き継いでると実感しながら作り続けること3時間、何となくそれらしい形になってきて笑いが止まらない。
この島の住人のトラに話しかけてようやくゲットした素材で先程ゲーミングチェアを作り上げたのだが、再現度の高さに完璧だと惚れ惚れしてしまう。
現実世界ではできないデスクの配置など自分好みに手を加えられて、俺にはめちゃくちゃこのゲームが合っている。
……要するに、ハマってしまったのだ。
このゲームを教えてくれた柊に感謝すると同時に、初めてゲームにハマる人達の気持ちがよく分かった。
雅臣「ここにもう1つなんか置きたいな」
実際の部室には物置だった名残で地球儀が置いてある。
それをそっくりそのまま配置したのだがその横の空いたスペースが気になりアイテム欄から作れるもの一覧を眺めてみた。
雅臣「ボトルシップ?こんなのまで作れるのか」
大きな瓶が目に留まって東京のマンションにあった親父の作りかけのボトルシップを思い出した。
親父は建築士なだけあって模型とかはもちろん細かい手作業が得意だった。
親父の仕事部屋には作りかけのボトルシップが置かれていて、俺も子供の頃教えて貰って一緒に作ったこともある。
何だか少し懐かしい気持ちになり、ボトルシップを作って飾るかと選択ボタンを押すが、何故か✕印が表示されてグレーアウトしている。
え、何で……?
もしかして素材が足りないのか?
チュートリアルを開いてみると例のフレンドとの交流で手に入れた素材じゃないと作れないと表示が出る。
………となると、通信必須というわけか。
柊に連絡してみるかとチャットを開き、
〝とび森が届いたから通信してくれるか?〟
と提案を打ち込みこれで一応一区切りになるよな。
多分柊の連絡もすぐには来ないだろうし、このままだと永遠にやり続けてしまいそうでいくら何でもゲームのし過ぎだ。
そろそろ勉強するかとセーブする寸前、スマホがすごい勢いで震え出した。
画面を見れば柊からの着信で、急ぎじゃないからいつでもいいと一言入れておくべきだったと反省しつつ応答ボタンを押す。
夕太『雅臣ー?ごめん今外出ててさー、打ちながら歩くと前見えないし電話した!』
雅臣「後からで良かったのに……悪いな」
夕太『いいって!それよりとび森届いたんだろ?』
電話越しにガヤガヤと騒音が聞こえてきて、柊は外でイヤホンを接続して話しているのか服の擦れる音まで入ってくる。
少し聞き取りにくいが直ぐに電話してきてくれた事が嬉しくてとび森のフレンドになってくれないかとお願いすることにした。
雅臣「そうなんだ。今アイテム作ってたんだけど…交流でゲット出来る素材が欲しくて通信したくてさ」
夕太『そゆことね!え、てかでんちゃん誘えば?どうせ華展が嫌になってきてサボってると思うし……でんちゃんの島結構レア素材だらけなんだよね』
ついでにどこにいるか確認してよと頼まれた瞬間、電話越しに『夕太ー!!』と怒声が聞こえてくる。
夕太『みぃ姉ちゃんうるさい!!ごめん俺夕方からなら通信できるから先楽しんどいて!』
じゃあな、とブッと電話が切られてしまった。
………………。
えぇ………?
正直柊と夕方からゲームをすればいい話なのだが、2人きりでやるのはあいつも寂しい思いをするかもしれない。
柊に居場所の確認も頼まれた事だし思い切って俺から蓮池に連絡してみるか?
……いや、もう1室新たに別の部屋を作って冷静になってからにしよう。
しかし俺が新しく作ろうとする部屋にも交流しなければ得られない素材が出てくるとは知る由もなかった。
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