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11. 水着回とは言ったが、水着を着るとは言ってない
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「…へ?」
「だから、水着なんてつけないって。ほら」
彼女が指した先は、更衣室の出口。
見れば、たしかに水着をつけた女性はほとんどおらず、男性も水着をつけていない人がちらほらいた。
「…マジかよ」
「水着つけるのは競泳選手とかだけだよ。水の抵抗を減らすためなんだって」
男の場合は勃起してると普通に邪魔では…と考えたものの、そもそもこの世界の普通と俺の中の普通は完全に別物だったので、考えるだけ無駄だろう。
「行くか…」
俺はロッカーの鍵を、白宮さんは必要なものを入れたポーチを持って、更衣室をあとにした。
◆ ◆ ◆
「おぉ…」
「でっかいねー…」
眼前に広がる光景に、二人揃って感心する。
流れるプール、波のプール、ウォータースライダーに食事を楽しめる売店まで、全て見渡せた。
天井は大きなガラス張りのドームになっていて、夏の日光があらゆる場所を照らしている。
多分、更衣室を出た瞬間に全てが視界に入ってくるよう計算して作られているんだろう。
「んじゃ、まずはどうするよ。やっぱ流れるプールか?」
「その前に、カウンター行って浮き輪を借りようかなって」
「浮き輪?」
「うん。だって私、泳げないから」
「…へ?」
本日二度目の気の抜けた声を出して、俺は驚きを表した。
体育でもおよそ苦労しているところなど見たことがない白宮さんが、泳げない?
にわかには信じがたかったが…考えてみれば辻褄が合わないこともない。
まず、うちの学園にはプールがない。近くに公共のプールもないので授業自体がない。
そして、白宮さんは定期テストで二度安定して一位を獲得できる頭の持ち主だ。望むならもう少し上の学力のところも目指せただろうに…と考えたところで、わざわざうちへ来たという可能性が芽生える。
「もしかして、うちの学園に来たのってプールの授業がないから?」
「そうだよ。…だからここに来るのも、ちょっと気乗りしなかったんだけどなぁ」
そうこうしているうちにカウンターに着いた。
白宮さんが浮き輪を膨らませた状態で持ってくる。
「持ってきた。流れるプール行こう」
気乗りしないと言うわりには、ノリノリだった。
◆ ◆ ◆
人が途切れたところを見計らって、白宮さんが浮き輪を浮かべる。
そこに乗って、白宮さんは流れ始めた。
俺も水に入り、流れに身を任せて近くを泳ぐ。
「ふぃー…やっぱ流れるプールが一番だね」
「なんかいろいろと台無しじゃないか、それ…」
やっぱりプールは泳いでこそ、潜ってこそだ。
潜ってみれば水中特有の音と視界が感覚器官を通して俺の脳に情報を――
と思ったら、白宮さんの股間が眼前に来た。
「ぶふぉっ!?」
急いで水面に顔を上げるが、見事に鼻から水を吸い込んで激痛が走る。
「ぐぉぉぉ…痛えぇぇぇぇ…」
「大丈夫?どうしたの?」
「目の前に股間が現れて動揺した」
「…慣れて」
少し頬を赤らめて、白宮さんは首を振った。
「…正直、俺が慣れたのか慣れてないのかわからないんだよな。慣れた気がするときもあれば慣れてない気がするときもある」
「それは総合的に見て慣れてないってことでしょ。やっぱり最終的に慣れたいの?」
「まあな。最初は慣れなくても平均年齢高めの職場に行きゃいいだろとか考えてたけど、普通に過ごすなら慣れたほうがいいだろうし」
「うん、そうだね。…ま、約束したとおり胸でも股間でも好きに眺めていいから。早く慣れるといいね」
「そうだな…」
相槌を打って、ふと思った。
「ちなみに…触るのは、ダメなのか?」
「えっ?…それは…」
あのレイプ未遂犯から白宮さんを助けた次の日、確か言っていた。
『普通の人とは違って、触られるのは苦手』と。
「頼んどいてなんだけど、無理しなくてもいいんだぞ。俺の普通じゃ、ベタベタ触らないのが普通だ」
「…ありがと」
俺たちの間に、沈黙が落ちた。
「だから、水着なんてつけないって。ほら」
彼女が指した先は、更衣室の出口。
見れば、たしかに水着をつけた女性はほとんどおらず、男性も水着をつけていない人がちらほらいた。
「…マジかよ」
「水着つけるのは競泳選手とかだけだよ。水の抵抗を減らすためなんだって」
男の場合は勃起してると普通に邪魔では…と考えたものの、そもそもこの世界の普通と俺の中の普通は完全に別物だったので、考えるだけ無駄だろう。
「行くか…」
俺はロッカーの鍵を、白宮さんは必要なものを入れたポーチを持って、更衣室をあとにした。
◆ ◆ ◆
「おぉ…」
「でっかいねー…」
眼前に広がる光景に、二人揃って感心する。
流れるプール、波のプール、ウォータースライダーに食事を楽しめる売店まで、全て見渡せた。
天井は大きなガラス張りのドームになっていて、夏の日光があらゆる場所を照らしている。
多分、更衣室を出た瞬間に全てが視界に入ってくるよう計算して作られているんだろう。
「んじゃ、まずはどうするよ。やっぱ流れるプールか?」
「その前に、カウンター行って浮き輪を借りようかなって」
「浮き輪?」
「うん。だって私、泳げないから」
「…へ?」
本日二度目の気の抜けた声を出して、俺は驚きを表した。
体育でもおよそ苦労しているところなど見たことがない白宮さんが、泳げない?
にわかには信じがたかったが…考えてみれば辻褄が合わないこともない。
まず、うちの学園にはプールがない。近くに公共のプールもないので授業自体がない。
そして、白宮さんは定期テストで二度安定して一位を獲得できる頭の持ち主だ。望むならもう少し上の学力のところも目指せただろうに…と考えたところで、わざわざうちへ来たという可能性が芽生える。
「もしかして、うちの学園に来たのってプールの授業がないから?」
「そうだよ。…だからここに来るのも、ちょっと気乗りしなかったんだけどなぁ」
そうこうしているうちにカウンターに着いた。
白宮さんが浮き輪を膨らませた状態で持ってくる。
「持ってきた。流れるプール行こう」
気乗りしないと言うわりには、ノリノリだった。
◆ ◆ ◆
人が途切れたところを見計らって、白宮さんが浮き輪を浮かべる。
そこに乗って、白宮さんは流れ始めた。
俺も水に入り、流れに身を任せて近くを泳ぐ。
「ふぃー…やっぱ流れるプールが一番だね」
「なんかいろいろと台無しじゃないか、それ…」
やっぱりプールは泳いでこそ、潜ってこそだ。
潜ってみれば水中特有の音と視界が感覚器官を通して俺の脳に情報を――
と思ったら、白宮さんの股間が眼前に来た。
「ぶふぉっ!?」
急いで水面に顔を上げるが、見事に鼻から水を吸い込んで激痛が走る。
「ぐぉぉぉ…痛えぇぇぇぇ…」
「大丈夫?どうしたの?」
「目の前に股間が現れて動揺した」
「…慣れて」
少し頬を赤らめて、白宮さんは首を振った。
「…正直、俺が慣れたのか慣れてないのかわからないんだよな。慣れた気がするときもあれば慣れてない気がするときもある」
「それは総合的に見て慣れてないってことでしょ。やっぱり最終的に慣れたいの?」
「まあな。最初は慣れなくても平均年齢高めの職場に行きゃいいだろとか考えてたけど、普通に過ごすなら慣れたほうがいいだろうし」
「うん、そうだね。…ま、約束したとおり胸でも股間でも好きに眺めていいから。早く慣れるといいね」
「そうだな…」
相槌を打って、ふと思った。
「ちなみに…触るのは、ダメなのか?」
「えっ?…それは…」
あのレイプ未遂犯から白宮さんを助けた次の日、確か言っていた。
『普通の人とは違って、触られるのは苦手』と。
「頼んどいてなんだけど、無理しなくてもいいんだぞ。俺の普通じゃ、ベタベタ触らないのが普通だ」
「…ありがと」
俺たちの間に、沈黙が落ちた。
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