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53. キャラを指定しなくたって、コスプレは成り立つ
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仮装道具の準備に手間取っていつもより遅く到着した俺が教室に入って最初に見たものは、荷物だけが置かれて空っぽになった教室だった。
「あれ?みんないないのか」
「更衣室行ってんじゃねえの?仮装っつーか、コスプレするために」
「そういうことか。…マジで普段着の奴居ねえのかよ」
「よかったな、一応コスプレ衣装用意しといて」
下駄箱で偶然会った浜場と話をしながら、俺たちは白衣を取り出し、羽織った。
「試験管水入れてこようか?」
「頼む。オレの分は赤と黄色を2本ずつで」
「なら俺は緑と青にしよう。暖色と寒色ってことで」
「あいよ」
食用色素のボトルを白衣のポケットに入れて、試験管を8本つまんだ。
ゴム蓋のついたプラスチック製の試験管なので、多少雑に扱っても大丈夫なのがありがたい。
ガラスを仮装やらコスプレやらに組み込むのは、割れたときのリスクが高い。
代用品を探したり作ったりするコスプレイヤーの苦労の、その氷山の一角だけでも触れた気分になった。
◆ ◆ ◆
水道に辿り着いて、試験管を取り出して蓋を開ける。
水を少しだけ出して、半分ちょっと入れてから食用色素をちょっとだけ入れて、実際に理科の実験でやるかのように振ってやると、無事安全な色水ができた。
「ん?奥原じゃん、おはよ」
振り向いてみると、なんかすごい格好をした片理さんがいた。
いや、俺基準ではみんなすごい格好してるんだけど。
ほぼ全裸の格好はいつもどおりとして、暗い紫色のマントとおどろおどろしい魔女の帽子、そして乳首に繋がれ胸のあたりに懸垂線を描く銀色のニップルチェーン。
そしてそれらは首元のネックレスに繋がり、また股間までチェーンが伸びている。
もはや、ボディチェーンと言ったほうが正しいかもしれない。
「…また、すごいアクセサリだな」
「あー、これ?でしょ、そこそこ高かったんだけど欲しくて買っちゃった。ピアスと違って穴あけなくて済むから気楽にできるんだけど、これしかなかったんだよね」
「…ってことは下は…その、入ってるのか」
「下?いや、これは中じゃなくてクリで留めるタイプ。ほら」
そう言って、片理さんは割れ目の上のあたりをちょっとだけ拡げてみせた。
…確かに、勃起した状態の陰核に銀色のリングがハマっている。
「それ、生活に支障出ないのか?」
「まあ歩いてると結構ピクってなるけど、それくらいだよ」
そう言って片理さんは胸を張った。
大きな二つの球が揺れ、鎖が小さく音を立てた。
この手のやつは日常生活を営む時に与えられる刺激で勃起状態を維持することで固定を保つと聞いたが、そもそもその刺激に耐えられないような人が存在しないのだろう…俺はそう結論づけて自分を納得させた。
「ちなみに何の仮装?」
「これは魔女。なんとなく、魔女ってこんな感じかなーって」
「概念の仮装、まだ死んでなかったのか。てっきりなんかのキャラクターかと」
「みんなのコスプレはそんな感じだったね。テーマが決まってたほうがやりやすいし、今どきシーツを被って幽霊なんてあんまりウケないもんね」
全く世知辛い世の中である。
「ところで奥原は?マッドサイエンティスト?」
「正解。今は飲むと体が光る薬を作ってる。飲んでみる?」
「いやいや絵の具は飲めないでしょ」
俺は蓋を締める前だった緑色の半透明な水を思い切り呷った。
「え、えぇ!?待って嘘でしょ!?」
「嘘だよ。飲んでも体は光らないよ」
そう言いながら、俺はポケットにしまい込んでいた色の素を取り出す。
「ほら、食用色素」
「はー…びっくりしたぁ…心にマッドサイエンティストが乗り移ったのかと思った…」
「最近のマッドサイエンティストは憑依もできるのか」
的はずれな返しに、片理さんは笑った。
「じゃああたしは荷物片付けたりするから、またあとでね。その試験管飲むやつ、結構ウケると思うよ」
「じゃあそうするか。またな」
見送ってから、俺は緑色の水を再補充した。
「あれ?みんないないのか」
「更衣室行ってんじゃねえの?仮装っつーか、コスプレするために」
「そういうことか。…マジで普段着の奴居ねえのかよ」
「よかったな、一応コスプレ衣装用意しといて」
下駄箱で偶然会った浜場と話をしながら、俺たちは白衣を取り出し、羽織った。
「試験管水入れてこようか?」
「頼む。オレの分は赤と黄色を2本ずつで」
「なら俺は緑と青にしよう。暖色と寒色ってことで」
「あいよ」
食用色素のボトルを白衣のポケットに入れて、試験管を8本つまんだ。
ゴム蓋のついたプラスチック製の試験管なので、多少雑に扱っても大丈夫なのがありがたい。
ガラスを仮装やらコスプレやらに組み込むのは、割れたときのリスクが高い。
代用品を探したり作ったりするコスプレイヤーの苦労の、その氷山の一角だけでも触れた気分になった。
◆ ◆ ◆
水道に辿り着いて、試験管を取り出して蓋を開ける。
水を少しだけ出して、半分ちょっと入れてから食用色素をちょっとだけ入れて、実際に理科の実験でやるかのように振ってやると、無事安全な色水ができた。
「ん?奥原じゃん、おはよ」
振り向いてみると、なんかすごい格好をした片理さんがいた。
いや、俺基準ではみんなすごい格好してるんだけど。
ほぼ全裸の格好はいつもどおりとして、暗い紫色のマントとおどろおどろしい魔女の帽子、そして乳首に繋がれ胸のあたりに懸垂線を描く銀色のニップルチェーン。
そしてそれらは首元のネックレスに繋がり、また股間までチェーンが伸びている。
もはや、ボディチェーンと言ったほうが正しいかもしれない。
「…また、すごいアクセサリだな」
「あー、これ?でしょ、そこそこ高かったんだけど欲しくて買っちゃった。ピアスと違って穴あけなくて済むから気楽にできるんだけど、これしかなかったんだよね」
「…ってことは下は…その、入ってるのか」
「下?いや、これは中じゃなくてクリで留めるタイプ。ほら」
そう言って、片理さんは割れ目の上のあたりをちょっとだけ拡げてみせた。
…確かに、勃起した状態の陰核に銀色のリングがハマっている。
「それ、生活に支障出ないのか?」
「まあ歩いてると結構ピクってなるけど、それくらいだよ」
そう言って片理さんは胸を張った。
大きな二つの球が揺れ、鎖が小さく音を立てた。
この手のやつは日常生活を営む時に与えられる刺激で勃起状態を維持することで固定を保つと聞いたが、そもそもその刺激に耐えられないような人が存在しないのだろう…俺はそう結論づけて自分を納得させた。
「ちなみに何の仮装?」
「これは魔女。なんとなく、魔女ってこんな感じかなーって」
「概念の仮装、まだ死んでなかったのか。てっきりなんかのキャラクターかと」
「みんなのコスプレはそんな感じだったね。テーマが決まってたほうがやりやすいし、今どきシーツを被って幽霊なんてあんまりウケないもんね」
全く世知辛い世の中である。
「ところで奥原は?マッドサイエンティスト?」
「正解。今は飲むと体が光る薬を作ってる。飲んでみる?」
「いやいや絵の具は飲めないでしょ」
俺は蓋を締める前だった緑色の半透明な水を思い切り呷った。
「え、えぇ!?待って嘘でしょ!?」
「嘘だよ。飲んでも体は光らないよ」
そう言いながら、俺はポケットにしまい込んでいた色の素を取り出す。
「ほら、食用色素」
「はー…びっくりしたぁ…心にマッドサイエンティストが乗り移ったのかと思った…」
「最近のマッドサイエンティストは憑依もできるのか」
的はずれな返しに、片理さんは笑った。
「じゃああたしは荷物片付けたりするから、またあとでね。その試験管飲むやつ、結構ウケると思うよ」
「じゃあそうするか。またな」
見送ってから、俺は緑色の水を再補充した。
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