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108. 挨拶は、突然に
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「ありゃ、お母さん今日も泊まりだって…お父さんも…」
「マジか。出張大変だな…」
俺たちにとっては結果オーライではあるとはいえ、クリスマスに家族で過ごせなかったと考えるとなかなか辛いものがある。
「30日には帰る…って、4日間くらい帰ってこないんだ…どうしよう…」
「…どうしようか」
昨日の服をもう一度着ながら、思考を巡らせる。
そこで思いついた、大胆な手法。
こっそりスマホを取り出して、連絡を取る――許可が取れた。
緊張はするが、どうせ逃げるわけにもいかないことだ。
俺は提案をする。
「家に、来ないか?」
◆ ◆ ◆
期末の勉強会は結局学校で済ませてしまったので、美香が家に来るのは久々だった。
冷えた空気の中を、気持ち早足で進む。
予想していたよりも早く着いてしまった。
チャイムを押すなり、家の中からドタバタと音がする。
ドアがガチャリと音を立てて開いた。
「あらあらいらっしゃい!寒い中よく来てくれたわね」
「お、お邪魔します…!」
俺もそうだが、美香もガチガチに緊張していた。
当然だ、実質親への紹介なのだから。
多分、浜場あたりが聞いたら『学生のうちは付き合ったり別れたりで適当にやるもんなのに』とか言って呆れるだろう。
「それで…泊まりに誘うってことは、もう付き合ってるの?」
美香も俺も、揃って肩をビクッと震わせた。多分顔も真っ赤で…誤魔化せないだろう。
「…付き合ってる。クリスマスから」
「付き合ってます…」
「あらあら…!これはお父さんにも紹介しなきゃ…!」
「お父さんに!?」
「と、とりあえず家入れてくれ!寒いから…」
そんなこんなで、ドタバタしながらも俺たちは家に入った。
◇ ◇ ◇
総司くんの部屋に行こうとしたら、お母さんに呼び止められてしまった。
「馴れ初めとか聞いてもいい?あたしも普段忙しいから、なかなか総司と話できなくてね~」
「ちょ、母さん…」
「いいでしょ、たまには」
「…変な話すんなよ」
総司くんはしぶしぶといった様子で、部屋に戻っていった。
「なんだかんだ突っぱねないところが、あの子の優しさよね。…それで、美香ちゃんと総司の馴れ初め、聞いてもいいかしら?」
「な、馴れ初めっていうか…絡まれてたところを助けてもらって…二回も…」
「総司もやるわねぇ」
総司くんがどこまでお母さんに話してるかわからないから、言葉を選ばないといけない。
それでもいろいろと顔を赤くしながら話していると、ニコニコとしていたお母さんの表情が、ふと真面目になった。
「あの子ね…今年の三月の終わりに、急に変な感じになったのよ」
私は気付いた。
三月の終わり――入学一週間前くらい。
彼がこの世界に来てしまったタイミングが、ちょうどそのあたりだったはずだ。
「なんかね、やたら外に出るのを嫌がったり、結構パソコンとかスマホとかやってたはずなのにパッタリやらなくなったりとか、あと漫画も全部売ろうとしてたっけ。さすがに『後悔するよ』って言ってやめさせたけど…」
「…そんなことが、あったんですね」
話の感じからして、総司くんは世界を移ったことをお母さんに話していないみたいだ。
だから、詳しい話を私が勝手にすることはできないけど――きっと、辛かっただろう。
『思春期の妄想』なんて言ってたこともあった。
『漫画みたいなシチュエーションで、憧れとか羨ましいとか思ったこともあったが、いざ放り込まれると辛いな』と言う彼の表情は、今思い出しても本当に疲れに満ちていた。
外に出れば皆が変な格好をしている。ネットを見ても本を見ても変な格好が当たり前として目に飛び込んでくる。そんな状況では、引きこもりたくもなる。
『道を行く人が皆キスばっかしてるようなもの』という例えが本当なら、私も正気を保てるとは思えない。
「だんだん元に戻っていったから、大丈夫だろうとは思ってたけど…きっと、美香ちゃんが支えてくれてたのね」
「いえ、私はそんな…私だって、助けられてばっかりです」
「それじゃあ、お互いに助け合える関係ってことね」
謙遜を受け入れた上で、丸くまとめられてしまった。
敵わないなあ、と思う。
私は曖昧な笑みを零した。
「これからも…」
お母さんは、少し考えるような素振りを見せて、言葉を続けた。
「なにか辛いことがあったら、総司を頼っていいからね」
「支えてあげてね、ではないんですね」
「それも言おうと思ったけど…総司だって、頼りっぱなしになるのはイヤな性格のはずだから。それに、お互いに助け合える、支え合える関係のほうが素敵じゃない?」
「そうですね、そう思います」
「うんうん。本当にいい子だ」
大げさに頷きながら、お母さんはそう言った。
「ごめんね、引き留めちゃって。総司もきっと、好きな人のことを待ってると思うわ」
「…はい!」
私は静かに椅子を立ってから、少しだけ早足で彼の部屋へ向かった。
「マジか。出張大変だな…」
俺たちにとっては結果オーライではあるとはいえ、クリスマスに家族で過ごせなかったと考えるとなかなか辛いものがある。
「30日には帰る…って、4日間くらい帰ってこないんだ…どうしよう…」
「…どうしようか」
昨日の服をもう一度着ながら、思考を巡らせる。
そこで思いついた、大胆な手法。
こっそりスマホを取り出して、連絡を取る――許可が取れた。
緊張はするが、どうせ逃げるわけにもいかないことだ。
俺は提案をする。
「家に、来ないか?」
◆ ◆ ◆
期末の勉強会は結局学校で済ませてしまったので、美香が家に来るのは久々だった。
冷えた空気の中を、気持ち早足で進む。
予想していたよりも早く着いてしまった。
チャイムを押すなり、家の中からドタバタと音がする。
ドアがガチャリと音を立てて開いた。
「あらあらいらっしゃい!寒い中よく来てくれたわね」
「お、お邪魔します…!」
俺もそうだが、美香もガチガチに緊張していた。
当然だ、実質親への紹介なのだから。
多分、浜場あたりが聞いたら『学生のうちは付き合ったり別れたりで適当にやるもんなのに』とか言って呆れるだろう。
「それで…泊まりに誘うってことは、もう付き合ってるの?」
美香も俺も、揃って肩をビクッと震わせた。多分顔も真っ赤で…誤魔化せないだろう。
「…付き合ってる。クリスマスから」
「付き合ってます…」
「あらあら…!これはお父さんにも紹介しなきゃ…!」
「お父さんに!?」
「と、とりあえず家入れてくれ!寒いから…」
そんなこんなで、ドタバタしながらも俺たちは家に入った。
◇ ◇ ◇
総司くんの部屋に行こうとしたら、お母さんに呼び止められてしまった。
「馴れ初めとか聞いてもいい?あたしも普段忙しいから、なかなか総司と話できなくてね~」
「ちょ、母さん…」
「いいでしょ、たまには」
「…変な話すんなよ」
総司くんはしぶしぶといった様子で、部屋に戻っていった。
「なんだかんだ突っぱねないところが、あの子の優しさよね。…それで、美香ちゃんと総司の馴れ初め、聞いてもいいかしら?」
「な、馴れ初めっていうか…絡まれてたところを助けてもらって…二回も…」
「総司もやるわねぇ」
総司くんがどこまでお母さんに話してるかわからないから、言葉を選ばないといけない。
それでもいろいろと顔を赤くしながら話していると、ニコニコとしていたお母さんの表情が、ふと真面目になった。
「あの子ね…今年の三月の終わりに、急に変な感じになったのよ」
私は気付いた。
三月の終わり――入学一週間前くらい。
彼がこの世界に来てしまったタイミングが、ちょうどそのあたりだったはずだ。
「なんかね、やたら外に出るのを嫌がったり、結構パソコンとかスマホとかやってたはずなのにパッタリやらなくなったりとか、あと漫画も全部売ろうとしてたっけ。さすがに『後悔するよ』って言ってやめさせたけど…」
「…そんなことが、あったんですね」
話の感じからして、総司くんは世界を移ったことをお母さんに話していないみたいだ。
だから、詳しい話を私が勝手にすることはできないけど――きっと、辛かっただろう。
『思春期の妄想』なんて言ってたこともあった。
『漫画みたいなシチュエーションで、憧れとか羨ましいとか思ったこともあったが、いざ放り込まれると辛いな』と言う彼の表情は、今思い出しても本当に疲れに満ちていた。
外に出れば皆が変な格好をしている。ネットを見ても本を見ても変な格好が当たり前として目に飛び込んでくる。そんな状況では、引きこもりたくもなる。
『道を行く人が皆キスばっかしてるようなもの』という例えが本当なら、私も正気を保てるとは思えない。
「だんだん元に戻っていったから、大丈夫だろうとは思ってたけど…きっと、美香ちゃんが支えてくれてたのね」
「いえ、私はそんな…私だって、助けられてばっかりです」
「それじゃあ、お互いに助け合える関係ってことね」
謙遜を受け入れた上で、丸くまとめられてしまった。
敵わないなあ、と思う。
私は曖昧な笑みを零した。
「これからも…」
お母さんは、少し考えるような素振りを見せて、言葉を続けた。
「なにか辛いことがあったら、総司を頼っていいからね」
「支えてあげてね、ではないんですね」
「それも言おうと思ったけど…総司だって、頼りっぱなしになるのはイヤな性格のはずだから。それに、お互いに助け合える、支え合える関係のほうが素敵じゃない?」
「そうですね、そう思います」
「うんうん。本当にいい子だ」
大げさに頷きながら、お母さんはそう言った。
「ごめんね、引き留めちゃって。総司もきっと、好きな人のことを待ってると思うわ」
「…はい!」
私は静かに椅子を立ってから、少しだけ早足で彼の部屋へ向かった。
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