女の子がエロい服を着てる世界でもラブコメはできる!

キューマン・エノビクト

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119. 宗教的イベントだということを、あんまり気にしたことがない

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 テレビが、朝から「あけましておめでとうございます」を連呼している。
 俺は、友人連中にあけおめメッセージを送信しつつ、ホットプレートで焼かれる餅をつついていた。
 ちまちま焼き加減を確認してはひっくり返すと、いい感じに焼き目がついていた。
 たまに両親のリクエストを受けて醤油や海苔、チーズを合わせる。
 俺自身は砂糖を少し多めにしたきな粉をかけた。
 喉に詰まらせないよう気をつけながら噛みしめると、正月の実感が湧き上がってきた。
 父さんが適当にテレビのチャンネルを変えると、駅伝を放送していた。

「正月って感じするなあ」
「そりゃ、正月だからな」

 中身のない会話を父さんと交わす。
 食べ終わったらこのままゴロゴロして寝正月を過ごしたい気分もあるが、なにぶん初詣の約束をした身である。
 美香と付き合ってまだ一週間。これで幻滅されるようなことをしてはいけないのだ。

「じゃ、俺は初詣行ってくるよ」
「早いね、友達と約束でも…あっ」
「『あっ』てなんだよ『あっ』て」

 母さんに察されながら、俺は準備を整えて家を出た。

 ◆ ◆ ◆

 元旦の空は、すっかり晴れて雲ひとつなかった。
 冬特有の澄んだ空気が美味しい…と言いたいところだが、冷たくて深呼吸すると肺が痛くなる。
 それでも、元の世界よりは若干気温が高い。
 めちゃくちゃに着込む必要はなくて、多少身軽だった。

 近所の小さな神社からは、人が溢れて列が道路まで飛び出してきていた。
 少し電車に乗ればもうちょっと大きくて屋台もあるような場所に行けるのだが、新年早々電車に乗りたい人はこの近辺では少ないらしい。
 こんなにも小さなところだと、流石に振袖なんかを着ているような人はいない。
 まぁ、初詣をここで済ませてしまおうと思う人たちである。そこまで気合も入っていないだろう。
 そう表現すると些か神道に失礼な気もするが、クリスマスも正月も祝う宗教的雑食の性質を持った日本の宗教の運命だ。

 少し見回してみれば、透き通るような白銀の長髪がすぐに目に入った。
 近づいていくと、コートに身を包んだ彼女が姿を現した。

「おはよう、美香」
「あっ、おはよう総司くん!あけましておめでとう」
「あけましておめでとう。今年もよろしくな」

 挨拶を交わして、列へと並ぶ。

「総司くん、そのダウン一枚で寒くないの?」
「こっちは向こうよりは暖かいからな。その分夏は地獄だけど」

 周りに人がいるので言葉を選んだが、要は世界のことだ。
 こちらの世界の平均気温は、元の世界に比べて高い。
 それが裸というファッションスタイルを一般に広める契機となったわけだが、結局のところ冬は寒いので露出している人は居ないに等しかった。

「美香こそ、今日も厚着だな。中は…相変わらずか」
「まぁ、大体そんな感じだね。見る?」
「今はいい。昨日捨てた煩悩が蘇ってくるから」

 実際のところ年末だからといって煩悩を捨てたことはない。
 だが、よりによって神社で煩悩を膨らませるのは、いくら宗教に興味がない俺であっても気が引けた。

「じゃあ後で見せてあげるね」

 …彼女はだんだん、俺の精神的な弱みを握ってきているのではないだろうか。
 そう悶々とした想いを抱えていると、いつの間にか順番は巡ってきていた。
 後続の人たちを待たせないよう急いで小銭入れを取り出す。
 ご縁がありますようにと無難な意味を込めた五円玉を取り出しかけたが、自分は既に良縁を掴んだ身だ。
 お礼の意味も込めて、百円玉を賽銭箱に投げ込んだ。
 そして、いつからか根付いていた二礼二拍手一礼をして、願い事をすべく目を閉じる。

(これからも…美香といい感じであれますように)

 パッと適切な語彙が出てこないせいで、非常に曖昧でラフな感じのお願いになった。
 でも、それさえ満たされていれば、俺はきっと幸せで居られるだろう。
 目を開けてみると、美香はまだ祈るような表情で目を閉じていた。
 彼女は何をお願いしているのだろう。
 そう思っていると、すぐに美香は目を開けて、こちらに笑顔を見せた。

「じゃ、おみくじとか引きに行こっか」
「了解」

 …彼女がどんなお願いをしていたにせよ、俺が気にすることではない。
 だが――同じ想いを抱いていたらいいなと、少し思った。

 ◆ ◆ ◆

 見事二人して大吉を引き当てた俺たちは、混み合った境内から抜け出た。

「総司くん、このあと時間ある?お祭り行こうよ」
「屋台?」

 俺は境内を振り返った。
 人混みがあるばかりで特に屋台らしきものはない。

「ほら、夏祭りをやった公園が近くにあるでしょ?ここの神社は狭いから、そこに屋台とかがあるんだよ」
「マジか!知らなかった…」

 よく見たら、境内から出てきた人の流れは公園の方向へと続いている。
 この土地に引っ越してから五年くらいは経過しているが、普通に知らなかった。
 まさか世界が変わったからといってそんなことまで変わるとも思えないし。

「じゃあ、行くか」
「あ、そうだ。その前に…」

 美香はそこまで言って、俺を家と家の間の細い路地に連れ込んだ。
 一応公道だが、自転車で通るのも怖いような道だった。
 当然、人の流れもない。

「今日の格好、見せてあげる」

 美香は、コートの前を開いた。

「うぉっ」
「うぉっって、それ女の子の体を見て言う感想じゃないよ」
「わ、悪い、いきなりでびっくりしたから…」

 そう言い訳しつつ、俺は美香の体をまじまじと見る。
 コートの他には、白いニーソックスと手袋があるだけで、他に服らしい服はまったく着けていなかった。
 ほぼ全裸と言って差し支えない。寒くないのかと思ったら、コートの内側にカイロがある。抜かりない。
 そして、股間に装着されているのはローターではなく…

「…バイブ?」
「正解。たまには趣向を変えて、って感じ?」

 そう言うと、美香は、俺の手を取り、自らの股間の下に導いた。
 バイブの底面にスイッチがあることは、俺も知っている。

「ねぇ、スイッチ入れちゃって?」
「それは…いいのか」

 オナニーをするならともかく、普段のローターは純粋にファッションである。
 だから、動かしていても振動は弱く、基本的には絶頂するまでには至らない。
 対して、バイブがオナニー用アイテムであることは、こちらの世界でも変わらない。
 当然どこか一箇所に留まって人の目に触れた状態でオナニーをすることはあるが、歩きながらというのは稀である。
 加えて、今日の美香はコートを着ていて、中にバイブを着けていることまでは外からはわからない。
 それ故に、俺は確認を取った。
 美香の答えは、果たして肯定だった。

「うん。今日は、そういう気分だから」

 どういう気分かはわからない。
 こちらの世界の人が隠れて快感を得ることがどんな感情につながるのかまでは、考えたこともなかった。
 …ならば、あとで美香に聞いてみるのも良いだろう。

「わかった」

 俺は指を曲げて、底面のスイッチをカチリとスライドさせた。
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