155 / 164
155. わかっている人も、いるみたいで
しおりを挟む
「まあ、あんまり詮索してやるものでもないんじゃないか」
横から助け舟を出してくれたのは浜場だった。
「それはそうかもしれないけど…気にならないかい?」
「なんだよ、もしかして好きなのか?」
「うーん…まあ、そんなとこかな?」
その言葉に、俺は思わず反応してしまう。
付き合っていることを公表しなかったせいで、叶わない願いを抱き続けている人がいるかもしれないということは、薄々思ってはいたが…こうも隣に居られると罪悪感が凄まじい勢いで膨れ上がっていく。
「正確には、そんなとこ『だった』のほうがいいか。気になってたこともあった、くらいの話。男子ならみんな一度はそんな夢を抱くだろう?」
「まあ、否定はしないな。オレはそんなこと言ったら由紀に殺されるから言わないけど」
模範的な彼氏のセリフを言って、浜場は小さく笑った。
少しだけ俺たちの間に沈黙が訪れて、店に流れるBGMと女子たちの声だけが耳に入ってきた。
「それなりに努力はしたよ。追いつくために勉強に力を入れてみたりね。でも結局、キミのような常に彼女と競り合っている人と仲良くしてるのを見て、諦めたんだ」
「…白宮さんは、別に頭のいい人とだけつるんでるわけじゃないぞ」
坂田の言い方が少し引っかかって、軽く言い返してしまう。
「そうそう。オレなんかともそれなりに仲良くしてくれてるしね」
「へえ、そうなんだ?」
「同じ家で勉強会するくらいには」
「なるほどね。…ねえ、奥原くん」
坂田は俺に話を振ってきた。
「彼女は…白宮さんは完璧な人だと思うかい?」
「別に思わないな」
「そうか」
ため息を一つついた坂田は、どこか吹っ切れたような表情をしている。
「すっきりしたよ」
「何がだ?」
「いや、ちょっとだけ残ってた未練がね」
「…?」
「どうぞお幸せに。おーい、そろそろ時間だよ!」
「あ、ちょっ…」
呼び止める間もなく、坂田は店内へと女子を呼びに行く。
腕時計を見てみると、たしかに時間はギリギリだった。
「こっちも呼びにいくか」
浜場もまた店内に入っていったので、気になったことを一旦頭の端に追いやって、俺たちはまた移動を始めた。
◆ ◆ ◆
「ありゃ、バレてるな」
モノレールの座席で、浜場がボソッと呟く。
なんのことかはすぐに思い至った。
「だよな…そうじゃなきゃ『お幸せに』なんてセリフは出てこない」
「ま、傍から見ても特別仲良いなって感じはするし、前から予想はしててあのやり取りで確定したんだろうな」
「あのやり取り?」
「白宮さんは完璧ですかって言われて即いいえって答えられるほど、周りは白宮さんの内面を見てないってことだよ」
「そんなにか?例えば、定期試験だって別にいつも一位取るわけじゃないし…」
「誰に対しても平等に優しく接して常に試験の上位にいるって、十分完璧じゃないか?」
ハッとした。
たしかに、一位は別に完璧であることの必須条件とは見做されない。
当人や当人に近しい人がどう考えていようと、周りから見たら美香は完璧な人間なのだ。
「坂田だって別に馬鹿じゃない。白宮さんは必ずしも完璧人間じゃないだろうと踏んであの質問を投げかけているんだと思うぞ」
「つまり、俺はまんまとしてやられたと…」
「そんな頭脳系バトルみたいな意識があったかどうかは置いとけば、まあそういうことになるな」
何も言えない俺に、浜場はさらに続けて言う。
「ぶっちゃけ完全にバレるのも時間の問題だな。今回うまいこと公表するんだっけ?」
「そのつもりだが…」
「下手にバレるよりはマシか。若干遅い気もするが」
「遅い、か…」
それは面倒くさいことを先延ばしにしてきた報いでもある。
一度は鳴りを潜めたはずの不安が、心のなかで盛り返してきたのを感じた。
横から助け舟を出してくれたのは浜場だった。
「それはそうかもしれないけど…気にならないかい?」
「なんだよ、もしかして好きなのか?」
「うーん…まあ、そんなとこかな?」
その言葉に、俺は思わず反応してしまう。
付き合っていることを公表しなかったせいで、叶わない願いを抱き続けている人がいるかもしれないということは、薄々思ってはいたが…こうも隣に居られると罪悪感が凄まじい勢いで膨れ上がっていく。
「正確には、そんなとこ『だった』のほうがいいか。気になってたこともあった、くらいの話。男子ならみんな一度はそんな夢を抱くだろう?」
「まあ、否定はしないな。オレはそんなこと言ったら由紀に殺されるから言わないけど」
模範的な彼氏のセリフを言って、浜場は小さく笑った。
少しだけ俺たちの間に沈黙が訪れて、店に流れるBGMと女子たちの声だけが耳に入ってきた。
「それなりに努力はしたよ。追いつくために勉強に力を入れてみたりね。でも結局、キミのような常に彼女と競り合っている人と仲良くしてるのを見て、諦めたんだ」
「…白宮さんは、別に頭のいい人とだけつるんでるわけじゃないぞ」
坂田の言い方が少し引っかかって、軽く言い返してしまう。
「そうそう。オレなんかともそれなりに仲良くしてくれてるしね」
「へえ、そうなんだ?」
「同じ家で勉強会するくらいには」
「なるほどね。…ねえ、奥原くん」
坂田は俺に話を振ってきた。
「彼女は…白宮さんは完璧な人だと思うかい?」
「別に思わないな」
「そうか」
ため息を一つついた坂田は、どこか吹っ切れたような表情をしている。
「すっきりしたよ」
「何がだ?」
「いや、ちょっとだけ残ってた未練がね」
「…?」
「どうぞお幸せに。おーい、そろそろ時間だよ!」
「あ、ちょっ…」
呼び止める間もなく、坂田は店内へと女子を呼びに行く。
腕時計を見てみると、たしかに時間はギリギリだった。
「こっちも呼びにいくか」
浜場もまた店内に入っていったので、気になったことを一旦頭の端に追いやって、俺たちはまた移動を始めた。
◆ ◆ ◆
「ありゃ、バレてるな」
モノレールの座席で、浜場がボソッと呟く。
なんのことかはすぐに思い至った。
「だよな…そうじゃなきゃ『お幸せに』なんてセリフは出てこない」
「ま、傍から見ても特別仲良いなって感じはするし、前から予想はしててあのやり取りで確定したんだろうな」
「あのやり取り?」
「白宮さんは完璧ですかって言われて即いいえって答えられるほど、周りは白宮さんの内面を見てないってことだよ」
「そんなにか?例えば、定期試験だって別にいつも一位取るわけじゃないし…」
「誰に対しても平等に優しく接して常に試験の上位にいるって、十分完璧じゃないか?」
ハッとした。
たしかに、一位は別に完璧であることの必須条件とは見做されない。
当人や当人に近しい人がどう考えていようと、周りから見たら美香は完璧な人間なのだ。
「坂田だって別に馬鹿じゃない。白宮さんは必ずしも完璧人間じゃないだろうと踏んであの質問を投げかけているんだと思うぞ」
「つまり、俺はまんまとしてやられたと…」
「そんな頭脳系バトルみたいな意識があったかどうかは置いとけば、まあそういうことになるな」
何も言えない俺に、浜場はさらに続けて言う。
「ぶっちゃけ完全にバレるのも時間の問題だな。今回うまいこと公表するんだっけ?」
「そのつもりだが…」
「下手にバレるよりはマシか。若干遅い気もするが」
「遅い、か…」
それは面倒くさいことを先延ばしにしてきた報いでもある。
一度は鳴りを潜めたはずの不安が、心のなかで盛り返してきたのを感じた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる