甘いの辛いのどっちにするの?

ずんだもち

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本編 第一章 過去の傷跡編

如月兄弟

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アキラ視点



「みしきちゃんっているぅ?」

その男が声を発した瞬間、教室中の空気が一気に凍りついた。 僕の目の前には、見上げるような巨大な影。ピンク色の髪をした、得体の知れない禍々しさを放つ男。

(……きっ、如月兄弟!? なんでこんなとこおるんや!? しかも、みしき君の名前呼んどるし……これ、ガチでやばいやつやんか!!)

「兄さん、下です」

低い、けれど冷徹な声が響く。男の背後から現れたもう一人の男が、目線にみしきくんに向ける

「あっ、ほんとだぁ~」

ピンク色の髪の男――如月兄が、ゆっくりと視線を落とす。

 (やばい、見つかってもうた……!)

思えば、最近の僕はツイてなさすぎる。ごっつ怖いやつらが転校してきたと思ったら、そのお守り役に任命されるし、もう散々や。 でも、あいつらは不器用なだけで、ええ奴なんや。
ここは……ここは僕が体張らなあかんとこやろ!

「あ……あのっ!」 

勇気を振り絞って声を上げる。

「んー? どうしたのぉー?」 

如月兄が、首を傾げて僕を覗き込む。

「なっ……何でもないです!」 

(……やっぱり無理! 怖すぎるわ!!)

「テメェ、何の用だよ」 

僕が情けなく縮こまっていると、後ろから二織君の威勢のいい怒声が飛んだ。

(あかん、二織君! 刺激したら….)

如月兄がゆっくりと二織君を見る。教室に、心臓の音が聞こえそうなほどの静寂が訪れた。 その沈黙を破ったのは、弟の方だった。

「警戒されてますよ、兄さん」

 「あっ、そっかそっかぁ~!大丈夫、警戒しなくてもいいよぉ。だって俺らはぁ……」

如月兄はふわふわとした足取りでみしき君の方へ近づくと、その大きな体を折り曲げて、みしき君の目の前でしゃがみ込んだ。 
一織君と二織君が、瞬時に殺気立って身構える。

「みしきちゃんの護衛に来ただけだからぁ」

(……へ?)

あまりに予想外な言葉に、僕の頭が真っ白になる。

「俺たちは、如月兄弟! 『ライオン組』リーダーの命により、今日から白桃みしきの護衛を担当する」

弟――如月与一が、教室中に響き渡る凛とした声で宣言した。

「如月与一」 

弟が短く名乗り、兄の方がゆっくりと立ち上がる。

「如月太一。よろしくねぇ~」

太一はみしき君に向かって、不気味なほど優しく微笑んだ。


—————————

みしき視点




嵐のような宣言を残して、二人は去っていった

「また来るねぇ~」

太一は、あの禍々しさを漂わせたまま、ふわりと手を振り、 

「失礼します」 

と、与一は短く事務的に告げて、それぞれの教室へと戻っていった。

入り口を塞いでいた巨大な影が消え、ようやく教室に光が戻ってきたような気がしたけれど、静まり返ったクラスメイトたちの視線は、依然として僕に突き刺さったままだ。

「み、みしきくん……! いつあんな人らに護衛されるような権力持ったん!?」

「いや、権力っていうか……あの二人、誰? 結構可愛い印象に見えたけど、、、」

僕の率直な疑問に、アキラは顔を引きつらせた。

「か、可愛いなんてもんやあらへんで!みしきくん、その感覚はマズイ、マズすぎるわ!あいつらは、この学校、屈指の超危険人物や!」

そう叫ぶように言うと、アキラは周囲を警戒しながら、声を潜めて解説を始めた。

「如月兄弟……特に兄貴の太一くんは、めちゃくちゃやばいやつで有名なんや。ここに入学してきたばかりの頃、あんな見た目やし、背も高すぎるやろ? 目立ちすぎて先輩らからごっつ反感買ってたらしいねん」

アキラは、思い出すだけでも恐ろしいと言わんばかりに肩を震わせる。

「それで、ある日……30人くらいの先輩グループにな、太一くんはなぜか一斉に喧嘩を売ったらしいねん。絶対負ける思うやろ?」

「まぁそうだね」

「でもな、太一くんはそれをたった一人で全員やっつけてしもたんや……」

「でも、それならさっきの人も負けてないんじゃない? あの人も相当強そうだったけど……」

僕の言葉に、アキラは顔を青ざめさせ、激しく首を振った。

「甘い、甘いわみしきくん! 京極も確かにヤバい。でもな、如月兄弟……特に太一くんが怖いのはここからやねん。あいつに負けた奴はな、全員……」

アキラは周囲をキョロキョロと見渡すと、僕に向かって「ちょいちょい」と手招きをした。僕が耳を寄せると、彼は震える声で、囁く。

「……犯されるねん」

「は!?」

思わず大きな声が出そうになり、慌てて口を押さえた。

「なっ……何、それ。どういう意味……?」

「文字通りの意味や。肉体も、精神も、尊厳も。太一くんに目を付けられて負けたやつは、壊されるんや……。だからみんな、あいつとだけは目を合わせんようにしとる。この学校で一番関わったらあかんやつなんや」

「……じゃあ、あの弟の方の、与一っていう子は? なんか噂あるの?」

「…..与一くんに関しては…..よくわからへんなぁ….」

僕が尋ねると、アキラは誤魔化すように少し視線を泳がた。

「にしても、ライオン組…。そんなチーム聞いたことあらへんけど、あの2人束ねるリーダーが誰なんか、もはや想像もつかへん……」

アキラは青い顔をして、ぶつぶつと独り言を繰り返している。

一旦、一織兄さんと二織兄さんの様子を伺った。二人は僕の少し前で、何やら深刻な顔をして小声で相談している。

「おい……あいつら、怪しくねーか」

二織兄さんが、鋭い視線を如月兄弟が去った教室の入り口へ向けたまま、低く唸った。

「いえ、現時点では敵意はなさそうですし、警戒することはないと思います」

一織兄さんは表情一つ変えずに答える。二人が小声で何を話しているのか気になって、僕はその間に割って入った。

「……何話してるの?」

「おっと、みしきさん。先ほどは大変でしたね。あんなに注目を浴びてしまって」

一織兄さんは僕の方を向くと、いつもの調子で少し茶化すように微笑んだ。

「からかわないで! それよりも、あの二人のこと……どう思う?」

僕が真剣に問いかけると、一織兄さんは分析するように口を開いた。

「はい。現状では確かに敵意は無いですし、少なくとも、あのお二方がみしきさんの護衛してくれるなら、こちらに不利益はありません」

「敵意がねぇからって、あんな連中信用できるかよ」

二織兄さんは、納得がいかない様子で荒々しく吐き捨てた。

「まぁまぁ、そう噛みつかなくてもいいのでは?」

「てめぇは心配じゃねえのかよ! みしきにもしものことがあったりしたら、責任取れんのかよ!」

二織兄さんが詰め寄る。けれど、一織兄さんは表情一つ変えず、淡々と言う。

「それに関しては大丈夫です。まず、彼らに手出しは絶対させませんし、私が守ります。ですが、もしも何かあったりしたら……」

そこで一織兄さんの言葉が止まった。

「私が、責任を持ち、彼らを再起不能にします」

急に低くなったその声には、一切の冗談が混じっていなかった。 教室の温度が数度下がったような、気がした。
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