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気になる匂い
スクーリュドライバー
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カラン…
お気に入りのバーのドアを開く。
「いらっしゃいませ」
バーテンダーの氷室くんが俺に軽く頭を下げる。ここのバーは会社からは少し距離があり、面倒な奴らに会ってしまう心配もない。
いつものカウンター席に行こうと思い、視線をやると、髪の茶色いボブの女が一人で座っている。
(どうしてそこに座っているんだよ…)
お世辞にも繁盛しているとは言いがたいこのバーなら、わざわざそこの席でなくても空いている。
(仕方ない…)
女が座っている席の隣に腰掛けて、どうにかして帰ってもらおうと思い近づいた。
いつもならそんなことは絶対にしないのにあの時はどうかしていたのだろう。
(あっ…)
彼女からふわりといわゆる『フローラル系』の甘くて、か弱いイメージを抱かせる匂いが漂ってきた。俺が大学生の時に付き合っていた彼女はこういう匂いが大嫌いだったっけ…。
「なんていう香水?」
「え…?」
そう言って彼女は言葉ほど驚いた素振りは見せずゆっくりと俺を見上げた。
「…何それ。新しいナンパ?」
と、柔らかい笑顔を見せたが、警戒しきっているようだった。当然だろう。突然声をかけられた男に「使っている香水を教えろ」なんて。怖すぎる。
「ナンパ…なのか?」
椅子に座りながらなぜか彼女に問いかけた。
「さぁ。貴方が声をかけてきたのよ?」
細い右腕でロックグラスに入った琥珀色の酒を飲んでいる。こちらを向いた彼女は俺が思っていたよりも若そうだ。まだ、二十五、六くらいだろう。
「Astrumのドゥルキスよ。貴方なら知っていると思うけど」
馬鹿にされているのか、そう言う話し方の人なのか分からないが知っているので返事をしておく。
「へぇ…Astrumか…」
Astrumとは女性に人気のブランドで会社でも使っている人は多い。俺も今日はしていないが家にはAstrumのネクタイが何本かはある。
「Astrumってどういう意味なんだ?」
前から気になっていたことを聞いてみる。なんとなく彼女なら答えてくれそうな気がした。
「ラテン語で星。星の数ほどたくさんの人に愛されるようにっていう意味だったと思うわ。ドゥルキスもラテン語で、甘いっていう意味があるのよ」
「詳しいんだな。ところで何を飲んでるんだ?」
「知りたい?高くつくわよ」
そう言って、耳に髪の毛をかける。彼女の耳にA·T·Mのアルファベットが重なったAstrumのロゴのピアスが見える。彼女の細長い人指し指が耳たぶに触れる。
「ブルショット。氷室さんが一番上手に作ってくれるわ」
カウンターに置かれたロックグラスをさくら貝のような薄いピンク色の爪が叩き、リズムよく心地よい音を立てている。
「そうか。じゃあ俺は…スクーリュドライバーで」
氷室くんがタンブラーに入った燈黄色の酒をカウンターに置く。スクーリュドライバーはウォッカがベースで俺はいつもここに来て飲んでいる。
「面白いの頼むわね。確か、スクーリュドライバーのカクテル言葉って…」
「待って。カクテル言葉ってなに?」
知らない言葉が飛び出してきて、手のひらを彼女の方に向けて会話を止めた。
「花言葉みたいなもで、カクテルにも意味があるのよ。それくらいは知っておいた方がいいんじゃないの?」
会社の後輩に言われたなら腹が立っていたと思うが彼女なら何も思わなかった。むしろ、教師に指導してもらっているような感覚を覚えた。
「それで…スクーリュドライバーはなんていう意味なんだ?」
彼女は子供のよう広角をあげ俺に近づいてきた。ドゥルキスの甘い匂いに包まれる。思わず、手を伸ばして彼女の細い腰を抱き寄せそうになった。
「…貴女に心を奪われた」
(あぁ…俺は君に心を奪われたんだ…)
「なぁ…この後、別の場所で俺と話さない?」
女性を口説いたのは初めてではない。けれど、こんなにも緊張したのは彼女が本当に魅力的で、心を奪われたからだろう。
「ふふ。いいわよ。…優しくしてよね」
俺たちはバーを後にして、ホテルへと向かった───
お気に入りのバーのドアを開く。
「いらっしゃいませ」
バーテンダーの氷室くんが俺に軽く頭を下げる。ここのバーは会社からは少し距離があり、面倒な奴らに会ってしまう心配もない。
いつものカウンター席に行こうと思い、視線をやると、髪の茶色いボブの女が一人で座っている。
(どうしてそこに座っているんだよ…)
お世辞にも繁盛しているとは言いがたいこのバーなら、わざわざそこの席でなくても空いている。
(仕方ない…)
女が座っている席の隣に腰掛けて、どうにかして帰ってもらおうと思い近づいた。
いつもならそんなことは絶対にしないのにあの時はどうかしていたのだろう。
(あっ…)
彼女からふわりといわゆる『フローラル系』の甘くて、か弱いイメージを抱かせる匂いが漂ってきた。俺が大学生の時に付き合っていた彼女はこういう匂いが大嫌いだったっけ…。
「なんていう香水?」
「え…?」
そう言って彼女は言葉ほど驚いた素振りは見せずゆっくりと俺を見上げた。
「…何それ。新しいナンパ?」
と、柔らかい笑顔を見せたが、警戒しきっているようだった。当然だろう。突然声をかけられた男に「使っている香水を教えろ」なんて。怖すぎる。
「ナンパ…なのか?」
椅子に座りながらなぜか彼女に問いかけた。
「さぁ。貴方が声をかけてきたのよ?」
細い右腕でロックグラスに入った琥珀色の酒を飲んでいる。こちらを向いた彼女は俺が思っていたよりも若そうだ。まだ、二十五、六くらいだろう。
「Astrumのドゥルキスよ。貴方なら知っていると思うけど」
馬鹿にされているのか、そう言う話し方の人なのか分からないが知っているので返事をしておく。
「へぇ…Astrumか…」
Astrumとは女性に人気のブランドで会社でも使っている人は多い。俺も今日はしていないが家にはAstrumのネクタイが何本かはある。
「Astrumってどういう意味なんだ?」
前から気になっていたことを聞いてみる。なんとなく彼女なら答えてくれそうな気がした。
「ラテン語で星。星の数ほどたくさんの人に愛されるようにっていう意味だったと思うわ。ドゥルキスもラテン語で、甘いっていう意味があるのよ」
「詳しいんだな。ところで何を飲んでるんだ?」
「知りたい?高くつくわよ」
そう言って、耳に髪の毛をかける。彼女の耳にA·T·Mのアルファベットが重なったAstrumのロゴのピアスが見える。彼女の細長い人指し指が耳たぶに触れる。
「ブルショット。氷室さんが一番上手に作ってくれるわ」
カウンターに置かれたロックグラスをさくら貝のような薄いピンク色の爪が叩き、リズムよく心地よい音を立てている。
「そうか。じゃあ俺は…スクーリュドライバーで」
氷室くんがタンブラーに入った燈黄色の酒をカウンターに置く。スクーリュドライバーはウォッカがベースで俺はいつもここに来て飲んでいる。
「面白いの頼むわね。確か、スクーリュドライバーのカクテル言葉って…」
「待って。カクテル言葉ってなに?」
知らない言葉が飛び出してきて、手のひらを彼女の方に向けて会話を止めた。
「花言葉みたいなもで、カクテルにも意味があるのよ。それくらいは知っておいた方がいいんじゃないの?」
会社の後輩に言われたなら腹が立っていたと思うが彼女なら何も思わなかった。むしろ、教師に指導してもらっているような感覚を覚えた。
「それで…スクーリュドライバーはなんていう意味なんだ?」
彼女は子供のよう広角をあげ俺に近づいてきた。ドゥルキスの甘い匂いに包まれる。思わず、手を伸ばして彼女の細い腰を抱き寄せそうになった。
「…貴女に心を奪われた」
(あぁ…俺は君に心を奪われたんだ…)
「なぁ…この後、別の場所で俺と話さない?」
女性を口説いたのは初めてではない。けれど、こんなにも緊張したのは彼女が本当に魅力的で、心を奪われたからだろう。
「ふふ。いいわよ。…優しくしてよね」
俺たちはバーを後にして、ホテルへと向かった───
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