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進んでいく関係
あの日と同じように
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氷室くんが入ってくるなり「今日もありがとう。遅いから、帰るわね」と、告げ腰を上げる彼女。俺もつられて「遅くまでごめんな」立ち上がり頭を下げる。
「いえいえ。ありがとうございました。またのお越しを」
閉めた鍵を開けて丁寧に見送ってくれる。俺たちは傘を持っていなかったが「お客様の忘れ物でよければ…」と、傘を貸してくれた。コンビニで売っているビニール傘に彼女と肩を引っ付けながら同じホテルへ向かう。彼女が細いからか二人が同じ傘に入っても俺の肩は全く濡れない。雪菜と一緒の時はいつも俺の右肩がびしょ濡れだった。不思議と前のように緊張はしていない自分がいる。ちらりと左下に視線を落とす。無関心そうにちらほら明かりが灯っているビルを見つめながら歩いている。相変わらず何を考えているか分からない人だ。
「ここよね?」
「ああ…」
パッと見では中で何が行われているか想像もつかない普通のビルだ。覚えていないのも無理はない。屋根の下で俺が骨組みの脆い傘を閉じる。彼女は雨のせいで寒くて震えているのか、緊張して震えているのか分からないが細い手首をギュッと握りしめている。今すぐ抱き締めたくなるほどに愛おしい。
「行こうか」
なるべく優しい声でそっと腰を引き寄せ自動ドアに手をかざす。ウィーンと透明のガラスが目の前でスライドする。前に来たときはよく見ていなかったけれど指紋がついている。
(安いから仕方ないか…)
偶然にもこの前と同じ部屋が空いていたのでそこの鍵をもらいエレベーターに向かう。静かなホテルに彼女のヒールの音だけが鳴り響いている。二人とも終始無言だ。今度こそ途中で寝ないようにしなければと下唇を噛み締める。電子レンジで冷凍食品を解凍したときのような音を聞き、どちらからともなく降りた。鉄の塊を鍵穴に差し込む。ガチャリとロックが外れる。パチンと彼女が電気をつけると、前と同じ真ん中にベッドが置いてある部屋が浮かび上がる。左側にはあのシャワールームがある。
「え?シャワーを浴びるの?」
スーツを脱いでガタガタと扉を開いていると彼女が驚いたような声を出す。
「ああ。そのままは嫌だろ?」
今日はそこまで暑くはなかったけれど仕事を終えて汗はかいている。肌が触れ合うのに嫌なのではないかというのは本心に近い建前だ。本心は俺の心の準備がまだだから時間がほしいだけ。「呆れた」と大袈裟に肩を落としため息をつく彼女。
「貴方、覚えていないの?前もそう言って私がシャワーを浴びて、出てきたら寝てたじゃない。びっくりしたわよ」
「あの日は疲れていたんだ…」
モゴモゴと言い訳をしていると「これが証拠写真よ」携帯の画面をズイッと付き出してくる。そこには口を半開きにして眠っている俺が写っていた。小学生六年生の時の修学旅行で撮られた寝顔と全く変わっていない。俺が返事をできないでいると硬いスプリングのベッドに横たわる彼女。ギシッと音がなる。彼女の重みで。
「こんなに硬いベッドでよく眠れるわね」
スカートがめくれ上がってしまい、肉のない細い足が見えている。
「電気は?つけたままするの?」
「どっちでもいいけど…」
いよいよ本当にするのだと思うと店に二人の時よりも緊張感が高まる。それと同時に嬉しさもある。彼女のことをもっと知ることができるという。
「つけたままだと眩しいのよ。ベッドサイドの明かりだけでもいい?」
「…ああ」
やっぱり、初めてではないようだ。彼女ほど美人なら彼氏くらいいたことはあるだろうが。それでもショックだ。別の男も彼女のことを知っているなんて。俺は顔に出やすいといわれるので表情を隠すためにも電気を消し、ベッドに横たわる彼女に近づいた───
「いえいえ。ありがとうございました。またのお越しを」
閉めた鍵を開けて丁寧に見送ってくれる。俺たちは傘を持っていなかったが「お客様の忘れ物でよければ…」と、傘を貸してくれた。コンビニで売っているビニール傘に彼女と肩を引っ付けながら同じホテルへ向かう。彼女が細いからか二人が同じ傘に入っても俺の肩は全く濡れない。雪菜と一緒の時はいつも俺の右肩がびしょ濡れだった。不思議と前のように緊張はしていない自分がいる。ちらりと左下に視線を落とす。無関心そうにちらほら明かりが灯っているビルを見つめながら歩いている。相変わらず何を考えているか分からない人だ。
「ここよね?」
「ああ…」
パッと見では中で何が行われているか想像もつかない普通のビルだ。覚えていないのも無理はない。屋根の下で俺が骨組みの脆い傘を閉じる。彼女は雨のせいで寒くて震えているのか、緊張して震えているのか分からないが細い手首をギュッと握りしめている。今すぐ抱き締めたくなるほどに愛おしい。
「行こうか」
なるべく優しい声でそっと腰を引き寄せ自動ドアに手をかざす。ウィーンと透明のガラスが目の前でスライドする。前に来たときはよく見ていなかったけれど指紋がついている。
(安いから仕方ないか…)
偶然にもこの前と同じ部屋が空いていたのでそこの鍵をもらいエレベーターに向かう。静かなホテルに彼女のヒールの音だけが鳴り響いている。二人とも終始無言だ。今度こそ途中で寝ないようにしなければと下唇を噛み締める。電子レンジで冷凍食品を解凍したときのような音を聞き、どちらからともなく降りた。鉄の塊を鍵穴に差し込む。ガチャリとロックが外れる。パチンと彼女が電気をつけると、前と同じ真ん中にベッドが置いてある部屋が浮かび上がる。左側にはあのシャワールームがある。
「え?シャワーを浴びるの?」
スーツを脱いでガタガタと扉を開いていると彼女が驚いたような声を出す。
「ああ。そのままは嫌だろ?」
今日はそこまで暑くはなかったけれど仕事を終えて汗はかいている。肌が触れ合うのに嫌なのではないかというのは本心に近い建前だ。本心は俺の心の準備がまだだから時間がほしいだけ。「呆れた」と大袈裟に肩を落としため息をつく彼女。
「貴方、覚えていないの?前もそう言って私がシャワーを浴びて、出てきたら寝てたじゃない。びっくりしたわよ」
「あの日は疲れていたんだ…」
モゴモゴと言い訳をしていると「これが証拠写真よ」携帯の画面をズイッと付き出してくる。そこには口を半開きにして眠っている俺が写っていた。小学生六年生の時の修学旅行で撮られた寝顔と全く変わっていない。俺が返事をできないでいると硬いスプリングのベッドに横たわる彼女。ギシッと音がなる。彼女の重みで。
「こんなに硬いベッドでよく眠れるわね」
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「電気は?つけたままするの?」
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いよいよ本当にするのだと思うと店に二人の時よりも緊張感が高まる。それと同時に嬉しさもある。彼女のことをもっと知ることができるという。
「つけたままだと眩しいのよ。ベッドサイドの明かりだけでもいい?」
「…ああ」
やっぱり、初めてではないようだ。彼女ほど美人なら彼氏くらいいたことはあるだろうが。それでもショックだ。別の男も彼女のことを知っているなんて。俺は顔に出やすいといわれるので表情を隠すためにも電気を消し、ベッドに横たわる彼女に近づいた───
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