黄昏の神、再び世界を歩む

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その光、命に変えて星となる

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死することのない存在。

それが当たり前であるように、彼の背にはどんな刃も届かなかったし、世界はその光に膝を折った。
だが光は、ある日、突然に消えた。


何百、何千と訪れた愛し子の神殿を、星々を宿した漆黒の髪が舞い、光の残滓のように駆け抜けていく。
そして見つけた、中央神殿の奥。

「……レイアス」

声が震えていた。ひとたび耳にすればどんな魂も耳を傾ける神の声が、今は不安で仕方がないと言うように。

「そんな……」

無惨だった。
その身に纏っていたはずの祝福も加護も、血に染まり、砕け散っている。
世界の均衡を担っていた“光”の神レフ=レイアスは、すでに、神の器として限界を迎えていた。

天と魔の間で始まった戦の火は、人間界にまで及び、三界の均衡は崩れ去った。
そして、レイアスはその中心で、それぞれの命を尊び、最後まで人と魔と神の対話を望んだ。
だが、その姿勢こそが、他の神々の怒りを買った。

「……エリュア様、もう……」

脇にひざまずくのは、レイアスに仕えていた神獣の眷属。
半身を失おうと、なお主の側を離れない。
彼の神力を分け与えられ生きていたその身は、レイアスの死によって崩壊が始まっていた。

「これがこの子の運命だというの?認めないわ」

神として越えてはならぬ一線。だがどうしても、ただひとりの母として、姉として黎光の母神エリュアは彼をこのまま手放すことなどできなかった。

レフ=レイアスは最後まで、恨まず、怒らず、否定もしなかった。ただ、静かに目を閉じたのだ。
それがどれほど苦しい決断だったかを、誰よりも知っていた。
 だからこそ、許されぬ禁を破る。

「この命をもって、あなたの魂を繋ぎましょう」
「主、共に生きます。」

震える手で、崩れかけた子の額に触れた。
柔らかな白色の光が生まれ、それはやがて神殿全体を包みこんだ。

「来世でも、あなたがあなたでいられるように」
「どうか――もう一度、光となって」

神の法に背いたその祈りは、やがて魂の糸を紡ぎはじめた。
レフ=レイアスの胸に宿った、わずかな輝きが応えるように脈を打ち、強く光った。

血に染まった神殿の天が割れる。
空へ昇る光の柱が、星々の流れを変えていく。
その中心で、黎光の母神エリュアが愛し子の白い魂を名残惜しげに抱きしめながら、ただ静かに空へ消えていった。

ーー誰も知らない。
神界から消えたその光が、地の果てで再び命を灯すことを。

その光、命に変えて星となる。
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