2 / 6
目覚めの森で差す陽
始まりの手
しおりを挟む
夢を見ていた。
焼けつくように眩しい、それでいてどこか懐かしい光。
触れたくて手を伸ばした。
けれど、指先はそれを掴めない。
「……ぁ……」
名を呼ぼうとした瞬間、胸が痛んだ。
ーーあなたは、誰?
ゆっくりと目を開ける。
視界に映るのは、木漏れ日の差す天井と、草木の香り。
どこかの森の中。
葉のざわめきと、遠くの鳥の声が耳に届く。
体を起こそうとして、息を呑んだ。
力が入らない。胸の奥が冷たい。
まるで、心臓の代わりに何か別のものが埋め込まれているような感覚。
「……何……だ、わたしは……」
ぽつりと呟いた声に、応える者はいない。
だが次の瞬間、枝葉をかき分ける音とともに誰かが駆け寄ってきた。
「よかった……生きてたのね!」
女の声。あたたかく、どこか泣きそうな声が上から降ってきた。
見上げた先にいたのは、深い藍色の瞳を持つ女だった。
「大丈夫。もう、ひとりじゃないわ」
彼女の腕に抱かれながら、再び意識を手放した。
このとき彼はまだ知らなかった。
この出会いが、再び「光」となるための、運命の始まりであることをー
木々の隙間から差す光の中、彼女はその子を見つけた。
地面に横たわる小さな体。ぬくもりを失いかけた肌に、触れた指が微かに震える。
「……生きてる」
安堵とともに、胸が強く締めつけられた。
セレナは迷わなかった。草籠を放り出し、その体を胸に抱きしめる。
こんな小さな子が、なぜ森の奥で――?
頬を寄せると、子どもの声がかすかに震えた。
「……誰……?」
「大丈夫よ。もう怖くないわ」
自分にも言い聞かせるように言った。
「名前は、わかる?」
「…レ…イ」
「レイ、もう大丈夫、大丈夫よ」
言葉を数回交わし意識を手放した子供を抱きしめて彼女は歩き出す。
その日セレナは、村に戻るまで何度も空を見上げて祈った。
家へ連れ帰り手当てをして数日、レイは高熱で寝込んでいた。
時折、熱にうなされ名前のようなものを口にするが、それは言葉になっていなかった。
寝ついたと思えば、うなされては泣き声を漏らすため、セレナは夜通し寄り添って、そっと背を撫でた。
「……夢を見てるの?」
答えはない。けれど、その小さな指が服の裾をつかむだけで、彼女はすべてを抱きしめたくなる愛おしさと悲しみの衝動にかられた。
ある日、パンを焼いていたときのこと。
ふと振り返ると、レイが静かに立っていた。
「……おいしそう」
それは初めて、彼がまともに言葉をくれた瞬間だった。
セレナの胸に、何かが優しく満ちていった。
「食べようか、一緒に」
うなずいた瞳に、ようやく“光”が宿ったように思えた。
その夜。
眠るレイの髪を撫でながら、セレナはぽつりと呟く。
「あなたがどこから来たのか、私には分からない。けれど……」
「……もし、望んでくれるなら、家族になってくれない?」
返事はなかった。けれど、そっと重ねた指をレイが握り返す。
それだけで、十分だった。
焼けつくように眩しい、それでいてどこか懐かしい光。
触れたくて手を伸ばした。
けれど、指先はそれを掴めない。
「……ぁ……」
名を呼ぼうとした瞬間、胸が痛んだ。
ーーあなたは、誰?
ゆっくりと目を開ける。
視界に映るのは、木漏れ日の差す天井と、草木の香り。
どこかの森の中。
葉のざわめきと、遠くの鳥の声が耳に届く。
体を起こそうとして、息を呑んだ。
力が入らない。胸の奥が冷たい。
まるで、心臓の代わりに何か別のものが埋め込まれているような感覚。
「……何……だ、わたしは……」
ぽつりと呟いた声に、応える者はいない。
だが次の瞬間、枝葉をかき分ける音とともに誰かが駆け寄ってきた。
「よかった……生きてたのね!」
女の声。あたたかく、どこか泣きそうな声が上から降ってきた。
見上げた先にいたのは、深い藍色の瞳を持つ女だった。
「大丈夫。もう、ひとりじゃないわ」
彼女の腕に抱かれながら、再び意識を手放した。
このとき彼はまだ知らなかった。
この出会いが、再び「光」となるための、運命の始まりであることをー
木々の隙間から差す光の中、彼女はその子を見つけた。
地面に横たわる小さな体。ぬくもりを失いかけた肌に、触れた指が微かに震える。
「……生きてる」
安堵とともに、胸が強く締めつけられた。
セレナは迷わなかった。草籠を放り出し、その体を胸に抱きしめる。
こんな小さな子が、なぜ森の奥で――?
頬を寄せると、子どもの声がかすかに震えた。
「……誰……?」
「大丈夫よ。もう怖くないわ」
自分にも言い聞かせるように言った。
「名前は、わかる?」
「…レ…イ」
「レイ、もう大丈夫、大丈夫よ」
言葉を数回交わし意識を手放した子供を抱きしめて彼女は歩き出す。
その日セレナは、村に戻るまで何度も空を見上げて祈った。
家へ連れ帰り手当てをして数日、レイは高熱で寝込んでいた。
時折、熱にうなされ名前のようなものを口にするが、それは言葉になっていなかった。
寝ついたと思えば、うなされては泣き声を漏らすため、セレナは夜通し寄り添って、そっと背を撫でた。
「……夢を見てるの?」
答えはない。けれど、その小さな指が服の裾をつかむだけで、彼女はすべてを抱きしめたくなる愛おしさと悲しみの衝動にかられた。
ある日、パンを焼いていたときのこと。
ふと振り返ると、レイが静かに立っていた。
「……おいしそう」
それは初めて、彼がまともに言葉をくれた瞬間だった。
セレナの胸に、何かが優しく満ちていった。
「食べようか、一緒に」
うなずいた瞳に、ようやく“光”が宿ったように思えた。
その夜。
眠るレイの髪を撫でながら、セレナはぽつりと呟く。
「あなたがどこから来たのか、私には分からない。けれど……」
「……もし、望んでくれるなら、家族になってくれない?」
返事はなかった。けれど、そっと重ねた指をレイが握り返す。
それだけで、十分だった。
0
あなたにおすすめの小説
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
偽りの聖者と泥の国
篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」
自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。
しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。
壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。
二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。
裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。
これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。
-----------------------------------------
『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ
この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。
本編に救いはありません。
セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。
本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
『定時後の偶然が多すぎる』
こさ
BL
定時後に残業をするたび、
なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。
仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。
必要以上に踏み込まず、距離を保つ人――
それが、彼の上司だった。
ただの偶然。
そう思っていたはずなのに、
声をかけられる回数が増え、
視線が重なる時間が長くなっていく。
「無理はするな」
それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、
彼自身はまだ知らない。
これは、
気づかないふりをする上司と、
勘違いだと思い込もうとする部下が、
少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。
静かで、逃げ場のない溺愛が、
定時後から始まる。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる