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目覚めの森で差す陽
始まりの手
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夢を見ていた。
焼けつくように眩しい、それでいてどこか懐かしい光。
触れたくて手を伸ばした。
けれど、指先はそれを掴めない。
「……ぁ……」
名を呼ぼうとした瞬間、胸が痛んだ。
ーーあなたは、誰?
ゆっくりと目を開ける。
視界に映るのは、木漏れ日の差す天井と、草木の香り。
どこかの森の中。
葉のざわめきと、遠くの鳥の声が耳に届く。
体を起こそうとして、息を呑んだ。
力が入らない。胸の奥が冷たい。
まるで、心臓の代わりに何か別のものが埋め込まれているような感覚。
「……何……だ、わたしは……」
ぽつりと呟いた声に、応える者はいない。
だが次の瞬間、枝葉をかき分ける音とともに誰かが駆け寄ってきた。
「よかった……生きてたのね!」
女の声。あたたかく、どこか泣きそうな声が上から降ってきた。
見上げた先にいたのは、深い藍色の瞳を持つ女だった。
「大丈夫。もう、ひとりじゃないわ」
彼女の腕に抱かれながら、再び意識を手放した。
このとき彼はまだ知らなかった。
この出会いが、再び「光」となるための、運命の始まりであることをー
木々の隙間から差す光の中、彼女はその子を見つけた。
地面に横たわる小さな体。ぬくもりを失いかけた肌に、触れた指が微かに震える。
「……生きてる」
安堵とともに、胸が強く締めつけられた。
セレナは迷わなかった。草籠を放り出し、その体を胸に抱きしめる。
こんな小さな子が、なぜ森の奥で――?
頬を寄せると、子どもの声がかすかに震えた。
「……誰……?」
「大丈夫よ。もう怖くないわ」
自分にも言い聞かせるように言った。
「名前は、わかる?」
「…レ…イ」
「レイ、もう大丈夫、大丈夫よ」
言葉を数回交わし意識を手放した子供を抱きしめて彼女は歩き出す。
その日セレナは、村に戻るまで何度も空を見上げて祈った。
家へ連れ帰り手当てをして数日、レイは高熱で寝込んでいた。
時折、熱にうなされ名前のようなものを口にするが、それは言葉になっていなかった。
寝ついたと思えば、うなされては泣き声を漏らすため、セレナは夜通し寄り添って、そっと背を撫でた。
「……夢を見てるの?」
答えはない。けれど、その小さな指が服の裾をつかむだけで、彼女はすべてを抱きしめたくなる愛おしさと悲しみの衝動にかられた。
ある日、パンを焼いていたときのこと。
ふと振り返ると、レイが静かに立っていた。
「……おいしそう」
それは初めて、彼がまともに言葉をくれた瞬間だった。
セレナの胸に、何かが優しく満ちていった。
「食べようか、一緒に」
うなずいた瞳に、ようやく“光”が宿ったように思えた。
その夜。
眠るレイの髪を撫でながら、セレナはぽつりと呟く。
「あなたがどこから来たのか、私には分からない。けれど……」
「……もし、望んでくれるなら、家族になってくれない?」
返事はなかった。けれど、そっと重ねた指をレイが握り返す。
それだけで、十分だった。
焼けつくように眩しい、それでいてどこか懐かしい光。
触れたくて手を伸ばした。
けれど、指先はそれを掴めない。
「……ぁ……」
名を呼ぼうとした瞬間、胸が痛んだ。
ーーあなたは、誰?
ゆっくりと目を開ける。
視界に映るのは、木漏れ日の差す天井と、草木の香り。
どこかの森の中。
葉のざわめきと、遠くの鳥の声が耳に届く。
体を起こそうとして、息を呑んだ。
力が入らない。胸の奥が冷たい。
まるで、心臓の代わりに何か別のものが埋め込まれているような感覚。
「……何……だ、わたしは……」
ぽつりと呟いた声に、応える者はいない。
だが次の瞬間、枝葉をかき分ける音とともに誰かが駆け寄ってきた。
「よかった……生きてたのね!」
女の声。あたたかく、どこか泣きそうな声が上から降ってきた。
見上げた先にいたのは、深い藍色の瞳を持つ女だった。
「大丈夫。もう、ひとりじゃないわ」
彼女の腕に抱かれながら、再び意識を手放した。
このとき彼はまだ知らなかった。
この出会いが、再び「光」となるための、運命の始まりであることをー
木々の隙間から差す光の中、彼女はその子を見つけた。
地面に横たわる小さな体。ぬくもりを失いかけた肌に、触れた指が微かに震える。
「……生きてる」
安堵とともに、胸が強く締めつけられた。
セレナは迷わなかった。草籠を放り出し、その体を胸に抱きしめる。
こんな小さな子が、なぜ森の奥で――?
頬を寄せると、子どもの声がかすかに震えた。
「……誰……?」
「大丈夫よ。もう怖くないわ」
自分にも言い聞かせるように言った。
「名前は、わかる?」
「…レ…イ」
「レイ、もう大丈夫、大丈夫よ」
言葉を数回交わし意識を手放した子供を抱きしめて彼女は歩き出す。
その日セレナは、村に戻るまで何度も空を見上げて祈った。
家へ連れ帰り手当てをして数日、レイは高熱で寝込んでいた。
時折、熱にうなされ名前のようなものを口にするが、それは言葉になっていなかった。
寝ついたと思えば、うなされては泣き声を漏らすため、セレナは夜通し寄り添って、そっと背を撫でた。
「……夢を見てるの?」
答えはない。けれど、その小さな指が服の裾をつかむだけで、彼女はすべてを抱きしめたくなる愛おしさと悲しみの衝動にかられた。
ある日、パンを焼いていたときのこと。
ふと振り返ると、レイが静かに立っていた。
「……おいしそう」
それは初めて、彼がまともに言葉をくれた瞬間だった。
セレナの胸に、何かが優しく満ちていった。
「食べようか、一緒に」
うなずいた瞳に、ようやく“光”が宿ったように思えた。
その夜。
眠るレイの髪を撫でながら、セレナはぽつりと呟く。
「あなたがどこから来たのか、私には分からない。けれど……」
「……もし、望んでくれるなら、家族になってくれない?」
返事はなかった。けれど、そっと重ねた指をレイが握り返す。
それだけで、十分だった。
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