6 / 6
騎士と約束の始まり
濃藍の騎士の下で
しおりを挟む
翌日。
レイとカイネは、帝都の片隅にある宿屋へと馬車で向かっていた。
そこが、レイ達の借りた宿屋だったからだ。
宿の扉をノックすると、すぐに中から声が上がった。
「レイ! 昨日どこ行ってたんだよ、心配したんだからな!」
ティオの怒ったような叫びが響いた、そのすぐ後ろ。
「にぃぢゃぁぁぁあ"あ"あ"~~っ!!」
甲高い泣き声とともに、目を真っ赤にしたイリアが突進してきた。
「わ、イリア! 危ないから落ち着いて――っ」
慌てて止めようとしたティオだったが、イリアの勢いに引きずられ、バランスを崩す。
そのままふたりは、勢いよくレイに倒れかかるように突撃した。
「うわっ……! だ、大丈夫……っ?」
イリアはレイの胸にしがみつきながら、しゃくり上げて泣いていた。
「……よかったぁ……にいじゃ……ほんとに、……」
「ごめんイリア。もう、大丈夫。僕はここにいるよ」
レイはそっとイリアの背を撫でながら、ティオに目を向けた。
彼もまた、複雑な表情でこちらを見ていた。
「ティオも、ごめん。待たせて……」
「……べつに。……でも、あんまり心配させんなよな」
それだけ言って、ティオはそっぽを向く。だがその耳が赤く染まっているのを、レイは見逃さなかった。
背後で控えていたカイネは、そっと視線を逸らす。
(なるほど。背負うものが多いな…)
ただの子どもではない。
それでも、子どもであってほしかったと、カイネは思う。しばらくして、レイ達はカイネの所属する騎士団へ向かった。
帝都、騎士団の西棟。
訓練場の奥にある静かな棟の一室。
そこが、今のレイたちの仮住まいだった。
朝は、鳥のさえずりと木剣の打ち合う音で始まる。
騎士たちが掛け声を交わしながら鍛錬に励むすぐそばで、一本の短い木剣が空を切っていた。
「おいティオ、それじゃあ怪我するだけだぞ」
笑いながら声をかけたのは、若い騎士のひとり。
その声にティオは振り返り、額の汗を拭った。
「だって、こう振った方が強そうじゃん! ほら!」
彼が調子よく構え直すと、周囲の騎士たちから小さな笑いが漏れる。
「言うようになったな、ちび助」
「ちょっと前まで泣いてたのにな」
「よし、その構えは悪くねぇ。もう一回やってみろ」
気づけばティオは、騎士団員たちの中で“見習い候補”として名を覚えられはじめていた。
木剣の重さにも少しずつ慣れ、誰よりも早く訓練場に現れては、誰よりも遅くまで居残っていた。
一方で、騎士団に保護された他の子どもたち――シアとミルの二人は、騎士団の隣にある教会で過ごしている。
朝は祈りとともに始まり、昼は読書や花壇の手入れ、夜にはシスターの声で眠る日々。
ミルは最初のうち毎晩泣いていたが、シアが静かに手を握ってくれるだけで、次第に泣き声も減っていった。
シアは多くを語らない。けれど、修道院の片隅でひとり絵を描くその姿には、ほんの少しだけ柔らかな色が戻ってきていた。
静かに、確かに、少しづつ日常を取り戻している。
そんな子どもたちの姿を見て、レイの心にも、ある想いが芽生えはじめていた。
――今なら。
彼らを置いても、大丈夫かもしれない。
「……アストリア家に、行こう」
ぽつりと漏らした言葉は、まるで自分自身への確認のようだった。
孤独だったレイを受け入れ愛を与えてくれた母セレナ。彼女が残した娘イリアの為にも今後を考えると後ろ楯はあった方がいい。
薄々感じていた自分の正体も、力も、何もかもを隠してここまで来た。けれどもう、時間の問題だ。
逃げてはいられない。
そっと拳を握る。
その指先が、微かに光を帯びていた。
レイとカイネは、帝都の片隅にある宿屋へと馬車で向かっていた。
そこが、レイ達の借りた宿屋だったからだ。
宿の扉をノックすると、すぐに中から声が上がった。
「レイ! 昨日どこ行ってたんだよ、心配したんだからな!」
ティオの怒ったような叫びが響いた、そのすぐ後ろ。
「にぃぢゃぁぁぁあ"あ"あ"~~っ!!」
甲高い泣き声とともに、目を真っ赤にしたイリアが突進してきた。
「わ、イリア! 危ないから落ち着いて――っ」
慌てて止めようとしたティオだったが、イリアの勢いに引きずられ、バランスを崩す。
そのままふたりは、勢いよくレイに倒れかかるように突撃した。
「うわっ……! だ、大丈夫……っ?」
イリアはレイの胸にしがみつきながら、しゃくり上げて泣いていた。
「……よかったぁ……にいじゃ……ほんとに、……」
「ごめんイリア。もう、大丈夫。僕はここにいるよ」
レイはそっとイリアの背を撫でながら、ティオに目を向けた。
彼もまた、複雑な表情でこちらを見ていた。
「ティオも、ごめん。待たせて……」
「……べつに。……でも、あんまり心配させんなよな」
それだけ言って、ティオはそっぽを向く。だがその耳が赤く染まっているのを、レイは見逃さなかった。
背後で控えていたカイネは、そっと視線を逸らす。
(なるほど。背負うものが多いな…)
ただの子どもではない。
それでも、子どもであってほしかったと、カイネは思う。しばらくして、レイ達はカイネの所属する騎士団へ向かった。
帝都、騎士団の西棟。
訓練場の奥にある静かな棟の一室。
そこが、今のレイたちの仮住まいだった。
朝は、鳥のさえずりと木剣の打ち合う音で始まる。
騎士たちが掛け声を交わしながら鍛錬に励むすぐそばで、一本の短い木剣が空を切っていた。
「おいティオ、それじゃあ怪我するだけだぞ」
笑いながら声をかけたのは、若い騎士のひとり。
その声にティオは振り返り、額の汗を拭った。
「だって、こう振った方が強そうじゃん! ほら!」
彼が調子よく構え直すと、周囲の騎士たちから小さな笑いが漏れる。
「言うようになったな、ちび助」
「ちょっと前まで泣いてたのにな」
「よし、その構えは悪くねぇ。もう一回やってみろ」
気づけばティオは、騎士団員たちの中で“見習い候補”として名を覚えられはじめていた。
木剣の重さにも少しずつ慣れ、誰よりも早く訓練場に現れては、誰よりも遅くまで居残っていた。
一方で、騎士団に保護された他の子どもたち――シアとミルの二人は、騎士団の隣にある教会で過ごしている。
朝は祈りとともに始まり、昼は読書や花壇の手入れ、夜にはシスターの声で眠る日々。
ミルは最初のうち毎晩泣いていたが、シアが静かに手を握ってくれるだけで、次第に泣き声も減っていった。
シアは多くを語らない。けれど、修道院の片隅でひとり絵を描くその姿には、ほんの少しだけ柔らかな色が戻ってきていた。
静かに、確かに、少しづつ日常を取り戻している。
そんな子どもたちの姿を見て、レイの心にも、ある想いが芽生えはじめていた。
――今なら。
彼らを置いても、大丈夫かもしれない。
「……アストリア家に、行こう」
ぽつりと漏らした言葉は、まるで自分自身への確認のようだった。
孤独だったレイを受け入れ愛を与えてくれた母セレナ。彼女が残した娘イリアの為にも今後を考えると後ろ楯はあった方がいい。
薄々感じていた自分の正体も、力も、何もかもを隠してここまで来た。けれどもう、時間の問題だ。
逃げてはいられない。
そっと拳を握る。
その指先が、微かに光を帯びていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
『定時後の偶然が多すぎる』
こさ
BL
定時後に残業をするたび、
なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。
仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。
必要以上に踏み込まず、距離を保つ人――
それが、彼の上司だった。
ただの偶然。
そう思っていたはずなのに、
声をかけられる回数が増え、
視線が重なる時間が長くなっていく。
「無理はするな」
それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、
彼自身はまだ知らない。
これは、
気づかないふりをする上司と、
勘違いだと思い込もうとする部下が、
少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。
静かで、逃げ場のない溺愛が、
定時後から始まる。
偽りの聖者と泥の国
篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」
自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。
しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。
壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。
二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。
裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。
これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。
-----------------------------------------
『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ
この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。
本編に救いはありません。
セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。
本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる