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騎士と約束の始まり
濃藍の騎士の下で
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翌日。
レイとカイネは、帝都の片隅にある宿屋へと馬車で向かっていた。
そこが、レイ達の借りた宿屋だったからだ。
宿の扉をノックすると、すぐに中から声が上がった。
「レイ! 昨日どこ行ってたんだよ、心配したんだからな!」
ティオの怒ったような叫びが響いた、そのすぐ後ろ。
「にぃぢゃぁぁぁあ"あ"あ"~~っ!!」
甲高い泣き声とともに、目を真っ赤にしたイリアが突進してきた。
「わ、イリア! 危ないから落ち着いて――っ」
慌てて止めようとしたティオだったが、イリアの勢いに引きずられ、バランスを崩す。
そのままふたりは、勢いよくレイに倒れかかるように突撃した。
「うわっ……! だ、大丈夫……っ?」
イリアはレイの胸にしがみつきながら、しゃくり上げて泣いていた。
「……よかったぁ……にいじゃ……ほんとに、……」
「ごめんイリア。もう、大丈夫。僕はここにいるよ」
レイはそっとイリアの背を撫でながら、ティオに目を向けた。
彼もまた、複雑な表情でこちらを見ていた。
「ティオも、ごめん。待たせて……」
「……べつに。……でも、あんまり心配させんなよな」
それだけ言って、ティオはそっぽを向く。だがその耳が赤く染まっているのを、レイは見逃さなかった。
背後で控えていたカイネは、そっと視線を逸らす。
(なるほど。背負うものが多いな…)
ただの子どもではない。
それでも、子どもであってほしかったと、カイネは思う。しばらくして、レイ達はカイネの所属する騎士団へ向かった。
帝都、騎士団の西棟。
訓練場の奥にある静かな棟の一室。
そこが、今のレイたちの仮住まいだった。
朝は、鳥のさえずりと木剣の打ち合う音で始まる。
騎士たちが掛け声を交わしながら鍛錬に励むすぐそばで、一本の短い木剣が空を切っていた。
「おいティオ、それじゃあ怪我するだけだぞ」
笑いながら声をかけたのは、若い騎士のひとり。
その声にティオは振り返り、額の汗を拭った。
「だって、こう振った方が強そうじゃん! ほら!」
彼が調子よく構え直すと、周囲の騎士たちから小さな笑いが漏れる。
「言うようになったな、ちび助」
「ちょっと前まで泣いてたのにな」
「よし、その構えは悪くねぇ。もう一回やってみろ」
気づけばティオは、騎士団員たちの中で“見習い候補”として名を覚えられはじめていた。
木剣の重さにも少しずつ慣れ、誰よりも早く訓練場に現れては、誰よりも遅くまで居残っていた。
一方で、騎士団に保護された他の子どもたち――シアとミルの二人は、騎士団の隣にある教会で過ごしている。
朝は祈りとともに始まり、昼は読書や花壇の手入れ、夜にはシスターの声で眠る日々。
ミルは最初のうち毎晩泣いていたが、シアが静かに手を握ってくれるだけで、次第に泣き声も減っていった。
シアは多くを語らない。けれど、修道院の片隅でひとり絵を描くその姿には、ほんの少しだけ柔らかな色が戻ってきていた。
静かに、確かに、少しづつ日常を取り戻している。
そんな子どもたちの姿を見て、レイの心にも、ある想いが芽生えはじめていた。
――今なら。
彼らを置いても、大丈夫かもしれない。
「……アストリア家に、行こう」
ぽつりと漏らした言葉は、まるで自分自身への確認のようだった。
孤独だったレイを受け入れ愛を与えてくれた母セレナ。彼女が残した娘イリアの為にも今後を考えると後ろ楯はあった方がいい。
薄々感じていた自分の正体も、力も、何もかもを隠してここまで来た。けれどもう、時間の問題だ。
逃げてはいられない。
そっと拳を握る。
その指先が、微かに光を帯びていた。
レイとカイネは、帝都の片隅にある宿屋へと馬車で向かっていた。
そこが、レイ達の借りた宿屋だったからだ。
宿の扉をノックすると、すぐに中から声が上がった。
「レイ! 昨日どこ行ってたんだよ、心配したんだからな!」
ティオの怒ったような叫びが響いた、そのすぐ後ろ。
「にぃぢゃぁぁぁあ"あ"あ"~~っ!!」
甲高い泣き声とともに、目を真っ赤にしたイリアが突進してきた。
「わ、イリア! 危ないから落ち着いて――っ」
慌てて止めようとしたティオだったが、イリアの勢いに引きずられ、バランスを崩す。
そのままふたりは、勢いよくレイに倒れかかるように突撃した。
「うわっ……! だ、大丈夫……っ?」
イリアはレイの胸にしがみつきながら、しゃくり上げて泣いていた。
「……よかったぁ……にいじゃ……ほんとに、……」
「ごめんイリア。もう、大丈夫。僕はここにいるよ」
レイはそっとイリアの背を撫でながら、ティオに目を向けた。
彼もまた、複雑な表情でこちらを見ていた。
「ティオも、ごめん。待たせて……」
「……べつに。……でも、あんまり心配させんなよな」
それだけ言って、ティオはそっぽを向く。だがその耳が赤く染まっているのを、レイは見逃さなかった。
背後で控えていたカイネは、そっと視線を逸らす。
(なるほど。背負うものが多いな…)
ただの子どもではない。
それでも、子どもであってほしかったと、カイネは思う。しばらくして、レイ達はカイネの所属する騎士団へ向かった。
帝都、騎士団の西棟。
訓練場の奥にある静かな棟の一室。
そこが、今のレイたちの仮住まいだった。
朝は、鳥のさえずりと木剣の打ち合う音で始まる。
騎士たちが掛け声を交わしながら鍛錬に励むすぐそばで、一本の短い木剣が空を切っていた。
「おいティオ、それじゃあ怪我するだけだぞ」
笑いながら声をかけたのは、若い騎士のひとり。
その声にティオは振り返り、額の汗を拭った。
「だって、こう振った方が強そうじゃん! ほら!」
彼が調子よく構え直すと、周囲の騎士たちから小さな笑いが漏れる。
「言うようになったな、ちび助」
「ちょっと前まで泣いてたのにな」
「よし、その構えは悪くねぇ。もう一回やってみろ」
気づけばティオは、騎士団員たちの中で“見習い候補”として名を覚えられはじめていた。
木剣の重さにも少しずつ慣れ、誰よりも早く訓練場に現れては、誰よりも遅くまで居残っていた。
一方で、騎士団に保護された他の子どもたち――シアとミルの二人は、騎士団の隣にある教会で過ごしている。
朝は祈りとともに始まり、昼は読書や花壇の手入れ、夜にはシスターの声で眠る日々。
ミルは最初のうち毎晩泣いていたが、シアが静かに手を握ってくれるだけで、次第に泣き声も減っていった。
シアは多くを語らない。けれど、修道院の片隅でひとり絵を描くその姿には、ほんの少しだけ柔らかな色が戻ってきていた。
静かに、確かに、少しづつ日常を取り戻している。
そんな子どもたちの姿を見て、レイの心にも、ある想いが芽生えはじめていた。
――今なら。
彼らを置いても、大丈夫かもしれない。
「……アストリア家に、行こう」
ぽつりと漏らした言葉は、まるで自分自身への確認のようだった。
孤独だったレイを受け入れ愛を与えてくれた母セレナ。彼女が残した娘イリアの為にも今後を考えると後ろ楯はあった方がいい。
薄々感じていた自分の正体も、力も、何もかもを隠してここまで来た。けれどもう、時間の問題だ。
逃げてはいられない。
そっと拳を握る。
その指先が、微かに光を帯びていた。
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