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バレンタインバトル 10
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「俺が、いいとか、そんな問題じゃないし」
ちょうどそこへ真中が飛び込んできた。
「すみません、遅くなりました!」
「おう。じゃな、明日また連絡するわ」
小笠原はそう言うと、真中を従えて出て行った。
良太はしばしぼんやり、突っ立っていた。
「そんな簡単にいけば、俺もそんなグルグルしないって…」
夜になると一層冷え込んできた。
ネットの天気予報を見ると、北海道は吹雪くという予報である。
「工藤、明日帰れるのかな……」
未明から関東地方の平野部でも雪が降るという。
「ナータンたちも寒いかも。そうだ、早速、もらったベッド使わせよっと」
仕事に区切りをつけると、良太は小夜子からもらったペット用ベッドの入った紙袋を抱え、灯りやエアコンを消してオフィスを出た。
バレンタインデーの朝、東京は雪景色だった。
だが、ベタ雪は滑りやすく、電車は遅れ、首都高ではあちこちで通行止めが相次いだ。
空港も無論例外ではなく、さらに当然北海道東北も大荒れで何便かが欠航した。
その中に工藤の乗る予定だった便も含まれていて、札幌で足止めをくらった工藤は空港のラウンジでイラついていた。
航空会社のカウンターで再三確認しているが、次の便の予定がわからない。
「まだ、飛ばないのか!」
あいにくここも禁煙である。
煙草をくわえることもできないのが、工藤のイライラを増幅させていた。
支障をきたすようなスケジュールはなかったものの、実を言えば久しぶりに時間が空いたので、良太を誘って食事でもしようかなどと考えていたのだ。
ドイツから戻った日以来、すれ違いばかりでほとんど顔を合わせることもなく、しかも千雪に言われ、ものわかりのいい上司をきどってスキー合宿に行かせてやったりで、まともに言葉もかわしていない。
おまけにバレンタインだかなんだか知らないが、女どもが余計なものを送りつけてきやがってと、はっきり言って工藤にしてみれば、バレンタインのプレゼントなんてものは迷惑極まりないのである。
そんなもののお陰で、良太があてこすりのようにプレゼントの山をどうするかなどと聞いてきたので、また妙な邪推をされるのも冗談じゃなく、そんなものは全部開けて食い物でなくても欲しいやつにくれてやればいい! と、つい怒鳴り返してしまった。
バレンタインもクリスマスも工藤にはどうでもいいことだ。
ただ、今日は久しぶりに仕事の入っていない土曜日なのだ。
じりじりと無駄に時間を潰していた工藤の耳に、「お待たせいたしました…」という館内アナウンスが聞こえてきた。
ネットでもテレビでも、朝から航空便に遅れや欠航が出ているという情報を流していた。
良太は工藤の乗るはずだった新千歳空港からの便が欠航になったことを確認すると、ついつい、あーあ、と口にする。
「ってことは、今日も札幌泊まりってことか」
やっぱり山之辺芽久や黒川真帆じゃなくてもがっくりである。
土曜日ではあるが、何となくオフィスでパソコンの前にいた。
小笠原から、飲まないかという連絡が入ったが、急な仕事が入ったと言ってまた今度ということになった。
もちろん、急な仕事はウソだが、何となくそういう気分にはなれなかったのだ。
外を見やるとようやく雪がやみ、青空なんかもちょこっと見えたりするから、少しは気温もあがるだろう。
良太はデスクワークに一区切りつけると、休み明けに面倒な仕事に入る前に、バレンタイン用の仕分けやらをやってしまおうとテーブルに積まれたチョコや贈り物の山の前に立った。
社員宛てのものは、オフィスに立ち寄った時に持って行ってもらえるようとに分けて、工藤宛のものは言われたとおり、まず中身を確認することにした。
加絵や佳乃からのものは開けるのに少し抵抗があったが、とにかく開けて、チョコレートや菓子類、食料品や酒などの類とそうでないものに分け、リストを作ってメッセージカードと一緒に渡すことにした。
加絵からはベネチアングラスと高級そうなワイン、ルクレツィアからはアルマーニのネクタイ数本と妥当なところだが、佳乃からは平造と工藤、それに良太宛のもあってちょっと驚いた。
平造宛てには、アンティークのオルゴールつき置時計とあった。
「昔の家にあったものによく似ていて懐かしかったので、ぜひ、別荘に置いてください」
メッセージはカードでそのままつけてあるのでつい読んでしまう。
工藤にはコニャックとラム酒だ。
それに良太にはチェーンがついた銀細工のラペルピンである。
先には小さなイルカが彫られている。
「うっわ、お返しとかどうしよ」
そういう事態が待っているとは思っていなかった。
とりあえずそれは置いといて、ちょっと気が引けたが、真帆や芽久のも開けることにした。
真帆の包みを開けると、大きなチョコレートケーキに手編みのセーターである。
ケーキもどうやら手作りらしい。
芽久の袋から取り出したものは、小さな箱ではあったがブルガリのカフス。
「これって、すんげく高そう」
それにピエール何たらの高級チョコレート。
いずれにせよ、みんな思いを込めてってとこなんだよな。
ちょうどそこへ真中が飛び込んできた。
「すみません、遅くなりました!」
「おう。じゃな、明日また連絡するわ」
小笠原はそう言うと、真中を従えて出て行った。
良太はしばしぼんやり、突っ立っていた。
「そんな簡単にいけば、俺もそんなグルグルしないって…」
夜になると一層冷え込んできた。
ネットの天気予報を見ると、北海道は吹雪くという予報である。
「工藤、明日帰れるのかな……」
未明から関東地方の平野部でも雪が降るという。
「ナータンたちも寒いかも。そうだ、早速、もらったベッド使わせよっと」
仕事に区切りをつけると、良太は小夜子からもらったペット用ベッドの入った紙袋を抱え、灯りやエアコンを消してオフィスを出た。
バレンタインデーの朝、東京は雪景色だった。
だが、ベタ雪は滑りやすく、電車は遅れ、首都高ではあちこちで通行止めが相次いだ。
空港も無論例外ではなく、さらに当然北海道東北も大荒れで何便かが欠航した。
その中に工藤の乗る予定だった便も含まれていて、札幌で足止めをくらった工藤は空港のラウンジでイラついていた。
航空会社のカウンターで再三確認しているが、次の便の予定がわからない。
「まだ、飛ばないのか!」
あいにくここも禁煙である。
煙草をくわえることもできないのが、工藤のイライラを増幅させていた。
支障をきたすようなスケジュールはなかったものの、実を言えば久しぶりに時間が空いたので、良太を誘って食事でもしようかなどと考えていたのだ。
ドイツから戻った日以来、すれ違いばかりでほとんど顔を合わせることもなく、しかも千雪に言われ、ものわかりのいい上司をきどってスキー合宿に行かせてやったりで、まともに言葉もかわしていない。
おまけにバレンタインだかなんだか知らないが、女どもが余計なものを送りつけてきやがってと、はっきり言って工藤にしてみれば、バレンタインのプレゼントなんてものは迷惑極まりないのである。
そんなもののお陰で、良太があてこすりのようにプレゼントの山をどうするかなどと聞いてきたので、また妙な邪推をされるのも冗談じゃなく、そんなものは全部開けて食い物でなくても欲しいやつにくれてやればいい! と、つい怒鳴り返してしまった。
バレンタインもクリスマスも工藤にはどうでもいいことだ。
ただ、今日は久しぶりに仕事の入っていない土曜日なのだ。
じりじりと無駄に時間を潰していた工藤の耳に、「お待たせいたしました…」という館内アナウンスが聞こえてきた。
ネットでもテレビでも、朝から航空便に遅れや欠航が出ているという情報を流していた。
良太は工藤の乗るはずだった新千歳空港からの便が欠航になったことを確認すると、ついつい、あーあ、と口にする。
「ってことは、今日も札幌泊まりってことか」
やっぱり山之辺芽久や黒川真帆じゃなくてもがっくりである。
土曜日ではあるが、何となくオフィスでパソコンの前にいた。
小笠原から、飲まないかという連絡が入ったが、急な仕事が入ったと言ってまた今度ということになった。
もちろん、急な仕事はウソだが、何となくそういう気分にはなれなかったのだ。
外を見やるとようやく雪がやみ、青空なんかもちょこっと見えたりするから、少しは気温もあがるだろう。
良太はデスクワークに一区切りつけると、休み明けに面倒な仕事に入る前に、バレンタイン用の仕分けやらをやってしまおうとテーブルに積まれたチョコや贈り物の山の前に立った。
社員宛てのものは、オフィスに立ち寄った時に持って行ってもらえるようとに分けて、工藤宛のものは言われたとおり、まず中身を確認することにした。
加絵や佳乃からのものは開けるのに少し抵抗があったが、とにかく開けて、チョコレートや菓子類、食料品や酒などの類とそうでないものに分け、リストを作ってメッセージカードと一緒に渡すことにした。
加絵からはベネチアングラスと高級そうなワイン、ルクレツィアからはアルマーニのネクタイ数本と妥当なところだが、佳乃からは平造と工藤、それに良太宛のもあってちょっと驚いた。
平造宛てには、アンティークのオルゴールつき置時計とあった。
「昔の家にあったものによく似ていて懐かしかったので、ぜひ、別荘に置いてください」
メッセージはカードでそのままつけてあるのでつい読んでしまう。
工藤にはコニャックとラム酒だ。
それに良太にはチェーンがついた銀細工のラペルピンである。
先には小さなイルカが彫られている。
「うっわ、お返しとかどうしよ」
そういう事態が待っているとは思っていなかった。
とりあえずそれは置いといて、ちょっと気が引けたが、真帆や芽久のも開けることにした。
真帆の包みを開けると、大きなチョコレートケーキに手編みのセーターである。
ケーキもどうやら手作りらしい。
芽久の袋から取り出したものは、小さな箱ではあったがブルガリのカフス。
「これって、すんげく高そう」
それにピエール何たらの高級チョコレート。
いずれにせよ、みんな思いを込めてってとこなんだよな。
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