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月鏡 5
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十月末日。
いつからか日本でもハロウィンのお祭り騒ぎがあちこちで見られるようになって久しい。
ショーウインドウにはカボチャや魔女が現れ、イベントやパーティが催され、通りにはコスプレを楽しむ人々が集う。
渋谷でハロウィンコスプレ人口が膨れ上がって数年、隣国でハロウィンの夜に起きた事故のせいで、ついにハロウィンコスプレで渋谷に来るななどと警戒されるほどとなった。
ここウォーターフロントにあるこのホテルでもハロウィン仕様な飾りつけがそこここに見られ、思い思いのコスプレに身を包んだ面々が不気味さを競いつつ、ロビーを通っては奥の客室用エレベーターへと消えていく。
そこへ黒の大胆にスリットが入ったロングドレス、黒のヒール、黒のリップというコスチュームに身を包んだ美女が大柄の男と腕を絡めてエントランスから上がってきたエレベーターを降り立った。
美女が男を見上げて囁きながら笑った。
「ねえ、あれ、中川アスカじゃない?」
「うわ、何、彼氏? 誰、誰?」
ロビーラウンジでお茶を飲んでいた女性客が彼女に気づいて傍らの友人に声をかけた。
やがてラウンジの他の客も中川アスカに目をやった。
すると彼女たちの声が届いたかのように、男がサングラスを取った。
「うっそ、あれ、沢村じゃない?」
二人を注目したのはラウンジにいた客だけではなかった。
明らかにプロ仕様のカメラを構えた連中が二人をしっかり撮っていた。
しばらくしてタクシーで乗り付け、慌てたようすで入ってきたのは黒のスーツを着た良太だった。
実際のところ、良太にはこんなところでこんな格好で、パーティを楽しむ余裕などどこにもなかったのだが、昨日のアスカの「いい考え」は、良太の忙しさなど何のそので強行された。
イベンター藤堂に声をかけたのが運のつき?
あっという間に、ホテルのスイートを借りての大掛かりなハロウィンパーティ開催となったわけだ。
「えと、奥のエレベーターだっけ………」
きょろきょろと見回して、良太は客室用エレベーターの方へ向かう。
その時、ポケットの携帯が鳴った。
しかも工藤専用着メロのワルキューレだ。
「あ、お疲れ様です。え、東京駅ですか? 早かったんですね」
今日は大阪から帰るとは聞いていたが、遅くなるんじゃなかったのかよ。
「あ、えっと、実は今夜ハロウィンパーティで………」
「ハロウィンパーティ? なんだそれは」
胡乱気な声が携帯の向こうから聞こえた。
「藤堂さんとか、佐々木さんとか…いや、あの、クリスマスはクリスマスで、今は……、は?」
「そんなカボチャパーティなんぞ、とっとと切り上げろ」
「かぼちゃパーティって……あ、いや、もう、早めに切り上げるつもりで……!」
ブチッと音がするように電話は切れた。
「………何だよ、いきなり切らなくっていいだろ!」
良太は携帯に向かってブツブツ文句を言う。
ちぇ、俺だって帰りたいんだよっ!
ここんとこ、あんまし話もしてなかったしさ。
でも工藤がこんな早く帰ってくるとは思わないじゃん。
三十七階にあがると、良太は指定された部屋のチャイムを押した。
「お疲れ~、良太ちゃん、仕事の方は大丈夫?」
藤堂に迎えられて中に入ると、いきなり一面に広がる夜景が目に飛び込んできた。
「ええ、まあ。遅くなりました。何かすんごいロケーションですね」
広いスイートルームでは、あちらこちらでワインやシャンパンの入ったグラスを手にゆったりと談笑しているのはスキー合宿に来ていたメンツや知り合いがほとんどだ。
昨日招集をかけたにしては、みんなコスプレに気合が入っていて、モデルや俳優陣が多いのでまたそれがサマになっている。
「遅いじゃないの、良太ちゃん!」
「……ひとみさん、結構飲んでますね?」
いきなり大御所女優である山内ひとみに後ろから抱き着かれて、良太は怪訝な顔を向けた。
「やだ、こんなの序の口よ。良太ちゃんも飲もう!」
「すみません、ひとみさん、ちょっとあっちで休みましょう」
「なによ、須永! あんた生意気!」
ひとみがマネージャーの須永に連行されていくのを苦笑しながら見ていると、「どうぞ」と浩輔にシャンパンの入ったグラスを渡された。「どうも、すみません、準備手伝えなくて」
良太は申し訳なさげに浩輔を見た。
「全然、大丈夫です。秋山さんがいろいろ手配して下さったので、お土産運ぶくらいで」
「あれ! 良太、あたしがやった衣装、どうしたのよ!」
良太を見つけて早速文句をつけたのはアスカだ。
シャープなメイクのアスカも、念の入れようが半端ない。
「ちゃんと着てますよ、スケルトンのTシャツは。もう、忙しくておちおち着替える暇がなくて。エレベータから降りたら工藤さんが、かぼちゃパーティなんかとっとと切りあげて戻れとかって電話で怒鳴るし」
ゴスロリ風の直子はビスクドールの大人版のような雰囲気で、ミリタリー風のコスチュームを着せられた佐々木とその隣には大柄な燕尾服の沢村がいるのを良太は確認した。
いつからか日本でもハロウィンのお祭り騒ぎがあちこちで見られるようになって久しい。
ショーウインドウにはカボチャや魔女が現れ、イベントやパーティが催され、通りにはコスプレを楽しむ人々が集う。
渋谷でハロウィンコスプレ人口が膨れ上がって数年、隣国でハロウィンの夜に起きた事故のせいで、ついにハロウィンコスプレで渋谷に来るななどと警戒されるほどとなった。
ここウォーターフロントにあるこのホテルでもハロウィン仕様な飾りつけがそこここに見られ、思い思いのコスプレに身を包んだ面々が不気味さを競いつつ、ロビーを通っては奥の客室用エレベーターへと消えていく。
そこへ黒の大胆にスリットが入ったロングドレス、黒のヒール、黒のリップというコスチュームに身を包んだ美女が大柄の男と腕を絡めてエントランスから上がってきたエレベーターを降り立った。
美女が男を見上げて囁きながら笑った。
「ねえ、あれ、中川アスカじゃない?」
「うわ、何、彼氏? 誰、誰?」
ロビーラウンジでお茶を飲んでいた女性客が彼女に気づいて傍らの友人に声をかけた。
やがてラウンジの他の客も中川アスカに目をやった。
すると彼女たちの声が届いたかのように、男がサングラスを取った。
「うっそ、あれ、沢村じゃない?」
二人を注目したのはラウンジにいた客だけではなかった。
明らかにプロ仕様のカメラを構えた連中が二人をしっかり撮っていた。
しばらくしてタクシーで乗り付け、慌てたようすで入ってきたのは黒のスーツを着た良太だった。
実際のところ、良太にはこんなところでこんな格好で、パーティを楽しむ余裕などどこにもなかったのだが、昨日のアスカの「いい考え」は、良太の忙しさなど何のそので強行された。
イベンター藤堂に声をかけたのが運のつき?
あっという間に、ホテルのスイートを借りての大掛かりなハロウィンパーティ開催となったわけだ。
「えと、奥のエレベーターだっけ………」
きょろきょろと見回して、良太は客室用エレベーターの方へ向かう。
その時、ポケットの携帯が鳴った。
しかも工藤専用着メロのワルキューレだ。
「あ、お疲れ様です。え、東京駅ですか? 早かったんですね」
今日は大阪から帰るとは聞いていたが、遅くなるんじゃなかったのかよ。
「あ、えっと、実は今夜ハロウィンパーティで………」
「ハロウィンパーティ? なんだそれは」
胡乱気な声が携帯の向こうから聞こえた。
「藤堂さんとか、佐々木さんとか…いや、あの、クリスマスはクリスマスで、今は……、は?」
「そんなカボチャパーティなんぞ、とっとと切り上げろ」
「かぼちゃパーティって……あ、いや、もう、早めに切り上げるつもりで……!」
ブチッと音がするように電話は切れた。
「………何だよ、いきなり切らなくっていいだろ!」
良太は携帯に向かってブツブツ文句を言う。
ちぇ、俺だって帰りたいんだよっ!
ここんとこ、あんまし話もしてなかったしさ。
でも工藤がこんな早く帰ってくるとは思わないじゃん。
三十七階にあがると、良太は指定された部屋のチャイムを押した。
「お疲れ~、良太ちゃん、仕事の方は大丈夫?」
藤堂に迎えられて中に入ると、いきなり一面に広がる夜景が目に飛び込んできた。
「ええ、まあ。遅くなりました。何かすんごいロケーションですね」
広いスイートルームでは、あちらこちらでワインやシャンパンの入ったグラスを手にゆったりと談笑しているのはスキー合宿に来ていたメンツや知り合いがほとんどだ。
昨日招集をかけたにしては、みんなコスプレに気合が入っていて、モデルや俳優陣が多いのでまたそれがサマになっている。
「遅いじゃないの、良太ちゃん!」
「……ひとみさん、結構飲んでますね?」
いきなり大御所女優である山内ひとみに後ろから抱き着かれて、良太は怪訝な顔を向けた。
「やだ、こんなの序の口よ。良太ちゃんも飲もう!」
「すみません、ひとみさん、ちょっとあっちで休みましょう」
「なによ、須永! あんた生意気!」
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良太は申し訳なさげに浩輔を見た。
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「ちゃんと着てますよ、スケルトンのTシャツは。もう、忙しくておちおち着替える暇がなくて。エレベータから降りたら工藤さんが、かぼちゃパーティなんかとっとと切りあげて戻れとかって電話で怒鳴るし」
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