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恋ってウソだろ?! 10
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「例えばグレードは? 食器類とかの。あと、佐々木ちゃんのご要望は? 欲しいものある?」
「ナオちゃんの判断に任せるわ。俺そういうの疎いし。車使う? あ、ついでにおやつも買うてきて」
「はぁい」
佐々木から車のキーを受け取ると、直子は裏口から意気揚々と出て行った。
一人になると、来客用のソファに腰を降ろして、佐々木はまた大きなため息をつく。
「二人でこの広さて、やっぱさみしなぁ。けど他に社員入れるいうてもなぁ」
パーテーションのないひとつの空間となっているので、余計に広く感じるのだ。
「俺のオフィスね……。こうなったら、おかあちゃんに意地でも毎月家賃払ろていかななぁ」
あのIT長者なんか、それこそ六本木あたりの高層ビルに大きなオフィスを構えていたりするんだろうか。
無意識に考えてしまってから、佐々木はまた男の影を振り払うように首を振った。
「ったく、何やってんね、俺は。とっととプレゼンやりかけなあかんのに」
IT長者とは佐々木が勝手にそう思っただけだが、昨夜の男のことが何かにつけてフラッシュバックする。
行きずりの、しかも男のことなんかに気を取られている自分に呆れながら、佐々木は立ち上がった。
と、その時電話が鳴った。
「はい、佐々木です」
誰だろうと思う。
このオフィスの電話番号を知っているのは、今のところジャスト・エージェンシー社員以外は、昨夜の打ち合わせの折、名刺を渡したばかりの浩輔と青山プロの広瀬良太、それに大和屋の小夜子くらいである。
「あ、佐々木さん? 俺です」
浩輔でも良太でもない、ジャスト・エージェンシーにもその声には聞き覚えがなかった。
俺ってだれやね?
「失礼ですが、どちらさまですか?」
怪訝な面持ちで佐々木は聞き返した。
「いやだなぁ、もう忘れちゃったんですか? 俺ですよ、夕べずっと一緒にいたじゃないですか」
次の瞬間、佐々木は思わず外線ボタンを切ってしまっていた。
頭の中が真っ白になり、呆然と受話器を握り締める。
「何で…………俺、あの男に名前、名乗ったん?…………」
しかもこの番号まで教えたというのか。
まさか、名刺を渡したんだろうか。
佐々木は自分がしでかしたこととはいえ、行きずりの男に素性を明かすなど、自分が信じられなかった。
そして再び、手の中の電話が鳴った。
心臓がドキリと跳ね上がる。
あの男だろうか。
何故佐々木の電話番号を知っているのか、一応そのあたりのことは確かめなくてはならないだろう。
「…………はい」
「切らなくてもいいでしょ? 今朝だって、何も言わずに帰っちゃうし」
背筋にすっと悪寒が走る。
「すみません、あなたに名刺とか渡しました?」
「うん、まあ、そんなようなもん? シンデレラは靴を置いてっちゃったみたいで」
佐々木は再び愕然とする。
「ナオちゃんの判断に任せるわ。俺そういうの疎いし。車使う? あ、ついでにおやつも買うてきて」
「はぁい」
佐々木から車のキーを受け取ると、直子は裏口から意気揚々と出て行った。
一人になると、来客用のソファに腰を降ろして、佐々木はまた大きなため息をつく。
「二人でこの広さて、やっぱさみしなぁ。けど他に社員入れるいうてもなぁ」
パーテーションのないひとつの空間となっているので、余計に広く感じるのだ。
「俺のオフィスね……。こうなったら、おかあちゃんに意地でも毎月家賃払ろていかななぁ」
あのIT長者なんか、それこそ六本木あたりの高層ビルに大きなオフィスを構えていたりするんだろうか。
無意識に考えてしまってから、佐々木はまた男の影を振り払うように首を振った。
「ったく、何やってんね、俺は。とっととプレゼンやりかけなあかんのに」
IT長者とは佐々木が勝手にそう思っただけだが、昨夜の男のことが何かにつけてフラッシュバックする。
行きずりの、しかも男のことなんかに気を取られている自分に呆れながら、佐々木は立ち上がった。
と、その時電話が鳴った。
「はい、佐々木です」
誰だろうと思う。
このオフィスの電話番号を知っているのは、今のところジャスト・エージェンシー社員以外は、昨夜の打ち合わせの折、名刺を渡したばかりの浩輔と青山プロの広瀬良太、それに大和屋の小夜子くらいである。
「あ、佐々木さん? 俺です」
浩輔でも良太でもない、ジャスト・エージェンシーにもその声には聞き覚えがなかった。
俺ってだれやね?
「失礼ですが、どちらさまですか?」
怪訝な面持ちで佐々木は聞き返した。
「いやだなぁ、もう忘れちゃったんですか? 俺ですよ、夕べずっと一緒にいたじゃないですか」
次の瞬間、佐々木は思わず外線ボタンを切ってしまっていた。
頭の中が真っ白になり、呆然と受話器を握り締める。
「何で…………俺、あの男に名前、名乗ったん?…………」
しかもこの番号まで教えたというのか。
まさか、名刺を渡したんだろうか。
佐々木は自分がしでかしたこととはいえ、行きずりの男に素性を明かすなど、自分が信じられなかった。
そして再び、手の中の電話が鳴った。
心臓がドキリと跳ね上がる。
あの男だろうか。
何故佐々木の電話番号を知っているのか、一応そのあたりのことは確かめなくてはならないだろう。
「…………はい」
「切らなくてもいいでしょ? 今朝だって、何も言わずに帰っちゃうし」
背筋にすっと悪寒が走る。
「すみません、あなたに名刺とか渡しました?」
「うん、まあ、そんなようなもん? シンデレラは靴を置いてっちゃったみたいで」
佐々木は再び愕然とする。
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