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月で逢おうよ 9
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「そんなの俺の勝手でしょ。長谷川さんこそ、向こうでもどうせ、女の子たくさん泣かしてたんじゃないですか」
「人聞きの悪い。どんな女の子にも優しくってのが俺のポリシーなんだ」
「ポリシーなんて、よく言いますよね」
勝浩はびしっと言い放つ。
「それより、遊びといったらディズニーランドしか知らなかった勝浩だからな。女の子に襲われて、あーれーとか言ってるうちにやられちゃったりして」
「何で俺が襲われるんです? 時代劇の町娘ですか、俺は」
「おう、初いやつじゃ、くるしゅうないぞ!」
ゲラゲラ笑いながら、幸也はガシッと勝浩の首に腕を回す。
「幸也ってば、可愛い子餌付けして、くどいてるしぃ」
ドキッとする科白に、勝浩が顔を上げると、向かいからきれいな笑顔が見つめていた。
幸也と一緒に現れたモデルだという美女だ。
ひかりと言ったか。
お陰でみんなの視線が一斉に二人に集中する。
「ねえ、ねえ、君、幸也の高校の後輩なんだって?」
ひかりはわざわざ席を立って、二人の後ろまでやってくる。
「勝浩っていうの? 可愛い~い」
勝浩は幸也の彼女かもしれないひかりにそんなことを言われ、思わず目の前にあったグラスをゴクゴクと飲み干した。
「おいこら、大丈夫か、勝浩」
気づいた幸也が心配そうに勝浩の顔を覗き込む。
「うん…………」
ちょっと、かなり酔っ払ったみたいだ。
しっかりしなくちゃ、と思うのとは裏腹に、朦朧としてきた頭がぐるぐる回っている。
「眠…い…………」
そう呟いた直後にはもう、勝浩はテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
二十歳になってから、同じ科の友人に誘われたり、研究会のみんなと飲む機会は何度もあって、勝浩も少しはたしなむようになっていたものの、酒が入ると眠くなってしまうようで、部屋で高校からの友人である七海と飲んだりした時は気がつくと朝だったことがあった。
「あぶないなぁ、外ではあんまり飲まない方がいいぞ」
ユウを散歩に連れて行ってくれた七海が戻ってきて、目を覚ました勝浩にコーヒーを出しながらそう言った。
「あぶないって、別に女の子じゃあるまいし」
「いんや、勝浩なんか、女にお持ち帰りってケースも考えられるしな」
「何だよ、それ!」
その時はむかついたが、飲み会の帰り、駅を三つも電車を乗り過ごしたこともあり、外で酒を飲むときは気をつけるようにしていたのだ。
だがしかし、突然現れた幸也に思った以上に精神的にパニクっていたらしい。
検見崎に担がれて店を出た時、勝浩は全く意識がなかった。
「どんだけ飲ませたんだよ、俺の大事な勝っちゃんに」
タクシーの中で検見崎は、勝浩を間に挟んで、幸也に突っかかる。
「何が俺の大事な勝っちゃんだ。いつの間にか俺の酒、飲んじまってたんだよ、間違えて」
幸也は心外だと言わんばかりに言い返す。
「ちゃー、まったく、こいつ引っ張り出すのに苦労したんだぞ」
「るせーな、何でお前ついてくるんだよ、タケ。こいつは俺が送るって言っただろ」
「場所も知らないくせに」
「とっとと教えればいいだろうが。大体他のメンバー放り出してきていいのかよ」
「ぬかせ、お前こそ、ひかりたち放ってきて、いいのかよ。タクシー代はお前が払えよ」
「面白そうとかって、勝手にきたんだよ、あいつらは」
二人が押し問答をしているうちに、タクシーは目白台に着いた。
「へえ、ここに住んでいるのか。なかなかいいじゃん、庭も広くて」
勝浩を肩に担いだ幸也が言った。
「ばーか、こりゃ、大家の家。勝っちゃんの部屋はそっちの離れ」
検見崎は勝浩のポケットを探って、鍵を取り出してドアを開ける。
途端、待ちかねたようにユウが駆け寄ってきた。
「おう、お前が噂のユウか」
名前を呼ばれて、くーん、とユウは幸也を見上げる。
八畳ほどのワンルームにブルーのカーペットが敷かれ、ベッドに書棚、机、箪笥などが整然と並んでいる。脇には小さなキッチン、バストイレのドアがある。
「なんか、勝浩らしい、部屋だなー」
幸也はこざっぱりと片付いた部屋を見回して、感慨深げに言った。
「感心してんなよ。早くベッド連れてけ」
検見崎はリードをユウの首輪に引っ掛ける。
「よしよし、ご主人様はあの体たらくだから、俺が連れてってやるからな」
ドアの前でふと立ち止まると、検見崎は幸也を振り返った。
「お前さ、勝っちゃんにどんな悪さしたわけ? 俺に車を渡すほど何年も気にかけるような」
「……お前に語るほどのことじゃねーよ」
幸也は言葉に詰まる。
「ひょとして、勝っちゃんの女、取ったとか?」
「バーカ、ねーよ。ただ、まあ俺、多分、嫌われてっからな」
幸也はにやりと笑う。
ユウが検見崎を急かしたので、検見崎はもう何も言わず、ユウと一緒に外に飛び出した。
しんと静まり返った部屋のベッドで眠る勝浩の、すうすうという寝息が幸也の耳にも聞こえてきた。
「無防備に可愛い顔して寝てるんじゃないよ」
勝浩の頬を指でちょんとつつき、幸也はボソッと呟く。
ジーパンのベルトとボタンをはずしてやると、勝浩は、うん、と寝返りをうった。
すると勝浩を見つめていた幸也は立ち上がって窓を開ける。
煙草をくわえてみたものの、火をつけようとしてやめると、しばしライターをもてあそぶ。
空に浮かぶ月は満月だ。
「やばいねぇ、こういうのは。狼に変身しちまいそう」
背を向ける幸也の独り言も知らぬげに、月は鈍く輝いている。
夜の闇に隠れた思いまでも、明るみにさらそうとするかのように。
「人聞きの悪い。どんな女の子にも優しくってのが俺のポリシーなんだ」
「ポリシーなんて、よく言いますよね」
勝浩はびしっと言い放つ。
「それより、遊びといったらディズニーランドしか知らなかった勝浩だからな。女の子に襲われて、あーれーとか言ってるうちにやられちゃったりして」
「何で俺が襲われるんです? 時代劇の町娘ですか、俺は」
「おう、初いやつじゃ、くるしゅうないぞ!」
ゲラゲラ笑いながら、幸也はガシッと勝浩の首に腕を回す。
「幸也ってば、可愛い子餌付けして、くどいてるしぃ」
ドキッとする科白に、勝浩が顔を上げると、向かいからきれいな笑顔が見つめていた。
幸也と一緒に現れたモデルだという美女だ。
ひかりと言ったか。
お陰でみんなの視線が一斉に二人に集中する。
「ねえ、ねえ、君、幸也の高校の後輩なんだって?」
ひかりはわざわざ席を立って、二人の後ろまでやってくる。
「勝浩っていうの? 可愛い~い」
勝浩は幸也の彼女かもしれないひかりにそんなことを言われ、思わず目の前にあったグラスをゴクゴクと飲み干した。
「おいこら、大丈夫か、勝浩」
気づいた幸也が心配そうに勝浩の顔を覗き込む。
「うん…………」
ちょっと、かなり酔っ払ったみたいだ。
しっかりしなくちゃ、と思うのとは裏腹に、朦朧としてきた頭がぐるぐる回っている。
「眠…い…………」
そう呟いた直後にはもう、勝浩はテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
二十歳になってから、同じ科の友人に誘われたり、研究会のみんなと飲む機会は何度もあって、勝浩も少しはたしなむようになっていたものの、酒が入ると眠くなってしまうようで、部屋で高校からの友人である七海と飲んだりした時は気がつくと朝だったことがあった。
「あぶないなぁ、外ではあんまり飲まない方がいいぞ」
ユウを散歩に連れて行ってくれた七海が戻ってきて、目を覚ました勝浩にコーヒーを出しながらそう言った。
「あぶないって、別に女の子じゃあるまいし」
「いんや、勝浩なんか、女にお持ち帰りってケースも考えられるしな」
「何だよ、それ!」
その時はむかついたが、飲み会の帰り、駅を三つも電車を乗り過ごしたこともあり、外で酒を飲むときは気をつけるようにしていたのだ。
だがしかし、突然現れた幸也に思った以上に精神的にパニクっていたらしい。
検見崎に担がれて店を出た時、勝浩は全く意識がなかった。
「どんだけ飲ませたんだよ、俺の大事な勝っちゃんに」
タクシーの中で検見崎は、勝浩を間に挟んで、幸也に突っかかる。
「何が俺の大事な勝っちゃんだ。いつの間にか俺の酒、飲んじまってたんだよ、間違えて」
幸也は心外だと言わんばかりに言い返す。
「ちゃー、まったく、こいつ引っ張り出すのに苦労したんだぞ」
「るせーな、何でお前ついてくるんだよ、タケ。こいつは俺が送るって言っただろ」
「場所も知らないくせに」
「とっとと教えればいいだろうが。大体他のメンバー放り出してきていいのかよ」
「ぬかせ、お前こそ、ひかりたち放ってきて、いいのかよ。タクシー代はお前が払えよ」
「面白そうとかって、勝手にきたんだよ、あいつらは」
二人が押し問答をしているうちに、タクシーは目白台に着いた。
「へえ、ここに住んでいるのか。なかなかいいじゃん、庭も広くて」
勝浩を肩に担いだ幸也が言った。
「ばーか、こりゃ、大家の家。勝っちゃんの部屋はそっちの離れ」
検見崎は勝浩のポケットを探って、鍵を取り出してドアを開ける。
途端、待ちかねたようにユウが駆け寄ってきた。
「おう、お前が噂のユウか」
名前を呼ばれて、くーん、とユウは幸也を見上げる。
八畳ほどのワンルームにブルーのカーペットが敷かれ、ベッドに書棚、机、箪笥などが整然と並んでいる。脇には小さなキッチン、バストイレのドアがある。
「なんか、勝浩らしい、部屋だなー」
幸也はこざっぱりと片付いた部屋を見回して、感慨深げに言った。
「感心してんなよ。早くベッド連れてけ」
検見崎はリードをユウの首輪に引っ掛ける。
「よしよし、ご主人様はあの体たらくだから、俺が連れてってやるからな」
ドアの前でふと立ち止まると、検見崎は幸也を振り返った。
「お前さ、勝っちゃんにどんな悪さしたわけ? 俺に車を渡すほど何年も気にかけるような」
「……お前に語るほどのことじゃねーよ」
幸也は言葉に詰まる。
「ひょとして、勝っちゃんの女、取ったとか?」
「バーカ、ねーよ。ただ、まあ俺、多分、嫌われてっからな」
幸也はにやりと笑う。
ユウが検見崎を急かしたので、検見崎はもう何も言わず、ユウと一緒に外に飛び出した。
しんと静まり返った部屋のベッドで眠る勝浩の、すうすうという寝息が幸也の耳にも聞こえてきた。
「無防備に可愛い顔して寝てるんじゃないよ」
勝浩の頬を指でちょんとつつき、幸也はボソッと呟く。
ジーパンのベルトとボタンをはずしてやると、勝浩は、うん、と寝返りをうった。
すると勝浩を見つめていた幸也は立ち上がって窓を開ける。
煙草をくわえてみたものの、火をつけようとしてやめると、しばしライターをもてあそぶ。
空に浮かぶ月は満月だ。
「やばいねぇ、こういうのは。狼に変身しちまいそう」
背を向ける幸也の独り言も知らぬげに、月は鈍く輝いている。
夜の闇に隠れた思いまでも、明るみにさらそうとするかのように。
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