主人を殺された傀儡は地の女王と復讐の旅に出る

タカヒラ 桜楽

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第39話

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夕日が差し込む余地すらないほど多い茂った森の中にゼンたちは一時的に身を置いていた。

「ゼンさん具合はどうですか?」

大木に寄りかかって俯いていたゼンを心配したのは、天翼族のリーネであった。
だが、語りかけられたゼンはリーネの問いに答えず地面を見つめるばかりであった。

「ゼンさん・・。」

「リーネそっとしてあげてちょうだい。ゼンは今整理がつかずに混乱しているから」

リーネたちから少し離れた場所で嗚咽を繰り返しながらそう言ったのは竜化を解いたセンサザールであった。

センサザール曰く、竜化は精神が拒絶反応を起こし竜化を解くと激しい吐き気を催してしまうのだという。
竜化はハイエルフとして生きると誓ったセンサザールの意志に反く行為だかららしい。

リーネはどちらの心配をするべきか困っていると、センサザールが口元を拭いながら近づいてくる。

「リーネちょっと向こうで話さない?ゼンについて知らないことが多いでしょう。私が知っている範囲で貴方に教えてあげるわ」

センサザールはリーネに耳打ちをして、開けた場所を指指す。

リーネは静かに頷いてセンサザールについて行くのであった。


ーーーーー

「そういうことだったんですね・・。」

リーネはセンサザールの話を聞いて、視線を下に落としていた。
ゼンの正体と、復讐の目的を聞き自分の過去のしがらみと似ており悲観的になっていたからである。
リーネも大切な家族を失った悲しみを痛いほどわかっているので、ゼンの苦しみがどれほどものなのか理解しているからこそ、レイラの言動に苛立ちを覚える。

「それで私たちはこれからどうすればいいです?」

「正直なところ私はこれ以上あの女に執着しない方がいいと思っているわ。あの女がその気になれば精神的に弱ったゼンをどうかすることなんて容易いと思うわ」

センサザールは倒れた大木に腰掛けながら、そう推察する。
だが、魔力量やその流れを視認出来る魔眼を有するリーネにはその考えが不思議でならなかった。

「何でです?ボクは二人の全力を目の当たりにしてはないですが、魔眼で見た限り二人の魔力差は圧倒的にゼンさんが勝ってたです」

リーネの疑問にセンサザールはゆっくりと、首を振る。

「そういうことじゃないのよ。ゼンの身体は元々別の魂が入っていた器なの。つまりゼンの肉体には別の魂がまだあり、精神的に強い魂が表面的に現れているだけなの」

「・・つまり?」

「弱った精神力のゼンじゃいつ別の魂と変わってもおかしくないってことよ。あの状態じゃ一度入れ替わると二度と戻って来れないわ」

「そ、それは駄目です!?」

リーネが心許したのも恋心を抱いたのも傀儡師としてのノウトではなく、その傀儡のゼンであるからだ。

ゼンじゃなくなるのならばリーネが彼についていく理由もなくなる。

「ならしばらくは私たち二人で警戒するしかなさそうね。きっと今度はあの女から接触を図るだろうし・・。」

「わかったです・・。」

歯切れの悪い返事のリーネは足取り重くゼンのもとへと帰っていくのであった。

そんな腑に落ちない勇者との邂逅の最中ラスイーガに不穏な影が迫っていた。


ーーーーー

「部下の報告によるとこの街にセンサザールは向かっていると聞いたのですが・・。」

キョロキョロと辺りを見渡しそう言ったのは全身に灰色のローブを被せた四天王の一人、兎骸族ラビリピスのデルスターであった。
デルスターは人間の街であるラスイーガに訪れていたのである。

「まあ、来ていようがいまいが私からは逃れられないさ」

そう言った肥沃翼竜ファートル・ドラゴンのブラウフラスはデルスターと打って変わりタキシードタイプの燕尾服を着こなしていた。
ブラウフラスは擬態魔法で角と尻尾を隠し、傍目から見れば落ち着いた雰囲気の執事といったところだろう。

そう言ったブラウフラスは胸ポケットからある物を取り出してデルスターに見せる。

「これは一体なんですか・・?」

デルスターが目にしたのは腐敗し黒ずんだ肉片であった。
ブラウフラスは大事そうに握りしめると、

「我が愚娘の耳の一部さ、エルフとして生きようとした愚娘の誇りを私が食いちぎったのさ。これは、肥沃翼竜ファートル・ドラゴン独自のマーキングみたいなものでね、自分の唾液に魔力を混ぜて匂いや自身の魔力がする方角などを感知することが出来るんだよ」

「戒めのつもりで食い千切ったのが役に立ってしまったね」と、爽やかな笑みでそう言ったブラウフラスにデルスターの顔が引き攣る。

「ちょっとパパそんな気持ち悪い追跡魔法をお姉ちゃんに掛けていたの?」

デルスターが反応に困っていると、二人の前を歩く少女が振り返りながら怪訝な目をブラウフラスに向けていた。

その少女は、幼さの残る顔に硝子細工のように美しく丸い瞳に橙を基調とした華やかなドレスを纏った愛らしい人形のようであった。

彼女の名はメローテ、ブラウフラスの娘でありセンサザールの腹違いの妹である。

デルスターはそんな少女を見てブラウフラスに耳打ちをする。

「何故メローテ様をご同行なされたのですか?」

「久しぶりに会いたいと愛娘が言ったんだ。メローテの望むことは極力してやりたい、それが親の役目だからな」

見惚れた様子のブラウフラスは、そう言うと顎に手をやる。

「そ、そんな理由で・・!?」

デルスターの呆れた感情がため息となり、口から出てしまう。

「ちょっと二人とも歩くのが遅い!メローは早くお姉ちゃんに会いたいんだから急いでよね」

勝ち気な雰囲気のメローテは腰に手を当て不満を露わにする。

「はいはい、そんなに急いでも仕方ないだろ。居場所はわかっているんだから落ち着きなさい」

「落ち着けるわけないじゃない・・。」

メローテは身体を震わして俯く。

「メローテ様、だ、大丈夫ですか?」

「魔王軍を自ら辞めてくれたのよ!?やっと私のペットに出来るのよ!どれほどこの時を待ち続けていたか・・!」

恍惚とした表情で天を仰ぐメローテにデルスターは今までにない怖気を感じる。
その表情が、その思想が異常であることは言うまでもないだろう・・。

「メローテ、人前ではしたないじゃないか・・。」

ブラウフラスは辺りの通行人を見て目尻を下げて、メローテを注意する。

「この世界は魔族中心で動いているのよ?何故人の目を気にしないといけないの?」

メローテはそう言うと大きく息を吸い込む。
身体が一回りほど大きくなるほどに膨張したその身体から不穏な空気を感じ取ったデルスターは空中へと跳躍する。

瞬間、鳴り響く爆音にデルスターは耳を覆う。
咆哮にも似た魔力を凝縮した物を口から吐き出しながらメローテは自身を軸にぐるりと、一回転する。
メローテから波動のような魔力が止むと直径数百メートルが更地へと変わり果てていた。

デルスターはその所業に冷や汗をかく。
規格外の魔力攻撃と、常識のなさに開いた口が塞がらずにいた。

周りにいた住人は身体を切断され息絶えているものがほとんど、かろうじて生きていた者も虫の息であった。

「ほら、こんなにも簡単に死んじゃって羽虫となんら変わらないでしょう?ねえパパ!」

「ああ、そうだね」

メローテの言葉に笑顔で頷くブラウフラスは彼女の手を取り再び歩き出す。

「ねえパパ、もしお姉ちゃんが魔王軍を裏切っていたなら私が貰っていいんだよね?」

「ああ、好きにしなさい」

「やったー!!とっても楽しみだわ!」

「デルスターそんなところにいないで早く来い」

二人のそんなやりとりを見てデルスターはセンサザールに同情する。
デルスターは引き攣った笑顔のまま、ブラウフラスたちのもとに戻って行くのであった。
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