ダークファンタジーの魔法少女、異世界スローライフで日常を知る

タカヒラ 桜楽

文字の大きさ
19 / 37

異端審問官

しおりを挟む
 ミルナバは、嵐のように去っていた少女を思い出しながら、煙草を吹かしていた。
 左手で煙草を吸い、右手には少女がくれた小銭が入った麻袋を握っていた。

 「律儀な子だね・・。」

 ミルナバは煙草を床に捨て、靴で火を消すと、少女から貰った麻袋の中身を取り出す。
 そこには少し高価なランチを食べれる程度のお金しかなく、不意にミルナバは笑ってしまう。

 「こんな額なら別によかったのに、可愛い子だね」

 そんな独り言を呟いていると、店内に何者かが来店して来る。
 ブーツが擦れる音が聞こえ、ミルナバは眉を顰める。

 「レンダ、静かに入って来いっていつもいっているでしょ?」
 「うるせえなあ!毎度この薄汚えとこに来てやってんだ文句を言う前に感謝をしろ、感謝を!」

 ミルナバに指を差しながら巨体の男ががなり立てて、近づいて来る。
 男は、粗野な態度に似つかわしい純白の神父服を身に纏っており、首から金の十字架を下げていた。
 その十字架に負けず劣らずの短い金髪を触りながら男は店の外を笑いながら振り返る。
 男の名はレンダ=サンゼルマン。
 この街の司祭である男だ。

 「にしてもお前が子供相手に優しくするなんてどんな風の吹き回しなんだ?」

 笑い方も品のないレンダにミルナバは呆れた声を上げる。

 「私は子供には優しいわよ。・・。」

 ミルナバは強調するようにそう言い、レンダを睨みつける。
 氷のように冷たい視線を受けるレンダであったが、そんなことも笑い声で吹き飛ばす。

 「ガハハハ!冗談じゃねえか。そう怖い顔をするなよ」

 レンダがひとしきり笑い終えると、ミルナバが興味なさそうに訊ねる。

 「それで、今日は何しに来たわけ?」
 「随分な挨拶だな。まあ、俺も暇じゃないわけだがな・・。」

 レンダはそう言い神父服の内側の胸ポケットから、書状を取り出しミルナバに手渡す。

 「異端審門の依頼が来ている。今回は珍しく寂れた村の調査らしいがな・・。」
 「これは・・。」
 「魔女教徒が密かに活動しているかもしれないらしい。場合によっては、村人全員ヤラねーといけねーかもな・・。」

 レンダはそう言いながら笑顔を向ける。
 物騒な言葉とは裏腹に嬉々とした表情を向けるレンダをミルナバは一瞥する。

 「レンダ、アンタは遊びにでも行くつもりかい?アタシたちは仕事を迅速にこなすだけだ、そこに個人の感情はいらないよ」

 ミルナバの言葉を面倒くさそうに流すレンダ。
 そんなレンダにため息を吐き、ミルナバは腰掛けていた椅子から立ち上がると、店内の奥にある従業員専用の通路を開ける。

 そこには聖紋が刻まれた多種多様な武器と、黒を基調とした神父服が姿を現す。
 その上に、黒塗りの仮面があり、ミルナバはそれを取り顔に填める。

 「女だからって顔を隠さないといけないなんて、とんだ差別だよな」
 「何がだい?」

 ミルナバはゆったりとした動作で衣服を脱ぎながらレンダの言葉に応える。
 レンダの視線など気にも留めずに、ミルナバは突然着替えだしたのだ。
 そんな、ミルナバの女性的なボディラインが露わになり、レンダは口笛を吹く。

 「いやーだってよ、男は神父服、女は修道服とか男女で決めてよ、そんなのが神の思し召しなのかね?」
 「レンダ・・。自分の崇める存在を蔑むなんて、アンタはどんだけ腐った性根をしているんだい?」

 ミルナバの言葉にレンダは豪快に笑うと、頭の横を人差し指でトントンと叩く。

 「俺は何神なんていると思っちゃいないよ。強いていうなら俺の体を動かしているコイツが俺の神さ。神父になったのも職業ジョブ適正があったからで、これぽっちも信仰心なんてものはないんだよ」
 「レンダ、その話は絶対に他の仲間に言うんじゃないよ?中には仲間にも手を出すヤツもいるぐらいだからね・・。」

 ミルナバはそう言い、神父服の袖を通すと、

 「まあかくいうアタシも同意見だけどね・・。」
 「だからお前に言ってるんだろ?神はいない派の大事な仕事仲間だからな!ガハハハ!」
 「何だいそれは・・?」

 ミルナバは準備が整うと、店内の鍵をテーブルから拾い、「待たせたわね」と、言い店外へと歩き出す。
 が、店外に通じる扉で思い出したように立ち止まる。

 「レンダいつも通りアレをお願いできるかしら?」
 「ああ、全然いいぜ。まずは状況把握のために教会に行くぞ」

 レンダはそう言い、自身の胸元にある十字架を手に取り、ミルナバに向かってお辞儀をする。

 「影の巡視者パトィア

 レンダがそう唱えると、二人を影のように黒い物が取り囲む。
 それは、オーラのように身に纏わりつき、ミルナバはそれを確認すると、「行くわよ」と外に出るのであった。

 彼女らはこの街の神父であり、国の平穏を保つために影から国を支える異端審問官であったのだった。

 彼女らは仰々しい出立ちにも関わらず、人通りを堂々と闊歩するのであった。
 というのも、レンダが唱えた魔法は、神聖魔法と呼ばれる物であり、神の加護を与えるバフ効果のある魔法である。

 「今回も嘘であって欲しいものだけどね・・。」

 ミルナバは切実そうにそう言うのであったが、数ヶ月後に訪れる村での異端審問で、彼女の願いは叶わなかったのである。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※基本週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

処理中です...