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ゆかり
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「ゆ、か、り。」
と、妻が言った。
動揺を悟られないように背中を向けたまま、テレビを観ていて聞いてなかったふりをした。
「あなた好きでしょ?。」
「ん?」
努めて、冷静に、そしてぼんやりした顔で振り向いた。
妻の手に紫蘇のふりかけ「ゆかり」が握られていた。
「ああ。」
「持っていってね。」
夫は、単純に考えるんだと思いながら、ワイシャツの襟をとめた。ネクタイを選びながら、どう答えたら自然なのか必死で考えていた。
「ふりかけは、まだあるよ。ひとりだと食べ切れないし。」
ネクタイを結びながら言った。
妻は食材を詰めていたが、顔を私に向け、口の端を少し上げて笑った。
「賞味期限は長いし、邪魔にならないし、他の物と一緒に入れておくから。」
こんな夫婦のやりとりをしたのは、半年前だった。
あれから、単身赴任先に向かう度にふりかけが増えていった。
「あかり」
「かおり」
恐怖を感じた。
妻が知るはずの無い女達の名前。気のせいだと思いたかった。
妻の様子は普段通りだし、赴任先に持って行く食材も変わらず好物のものを用意してくれていた。
ふりかけを除いて。好きだと言った覚えは無かった。
そして今日、赴任先に戻り食材の袋を開けた。
ふりかけが入っていた。
「ひろし」
私と同じ名前のふりかけ。
と、妻が言った。
動揺を悟られないように背中を向けたまま、テレビを観ていて聞いてなかったふりをした。
「あなた好きでしょ?。」
「ん?」
努めて、冷静に、そしてぼんやりした顔で振り向いた。
妻の手に紫蘇のふりかけ「ゆかり」が握られていた。
「ああ。」
「持っていってね。」
夫は、単純に考えるんだと思いながら、ワイシャツの襟をとめた。ネクタイを選びながら、どう答えたら自然なのか必死で考えていた。
「ふりかけは、まだあるよ。ひとりだと食べ切れないし。」
ネクタイを結びながら言った。
妻は食材を詰めていたが、顔を私に向け、口の端を少し上げて笑った。
「賞味期限は長いし、邪魔にならないし、他の物と一緒に入れておくから。」
こんな夫婦のやりとりをしたのは、半年前だった。
あれから、単身赴任先に向かう度にふりかけが増えていった。
「あかり」
「かおり」
恐怖を感じた。
妻が知るはずの無い女達の名前。気のせいだと思いたかった。
妻の様子は普段通りだし、赴任先に持って行く食材も変わらず好物のものを用意してくれていた。
ふりかけを除いて。好きだと言った覚えは無かった。
そして今日、赴任先に戻り食材の袋を開けた。
ふりかけが入っていた。
「ひろし」
私と同じ名前のふりかけ。
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