フェイク ラブ

熊井けなこ

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後章 鳥たちの誕生日

◆薇 碩冠(ウェイ ソクワン)の誕生日

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朝、目覚めてボーっとする自由。
まず何をしようかと考えられる自由。
何をしようと、何をやめようと、自由。

いろいろ考えられる自由も好きだし、全く何も考えない…頭の中をからっぽにする自由も好きだ。

1人暮らしの部屋を自分で選んだ自由。
生まれて初めて地に足を着き、きちんと生きていると思う。
そして初めての1人暮らしは、こんなに何も考えないで過ごせることが、こんなに自分に合っているんだと初めて気付いた。
誰とも話さないのも自由。
昔は、施設の大人や近くにいる子達と事務的で外面だけの話をし、笑わずに生きてきて…そうやって成長してきたんだった。
けど、誰かと話すことは楽しいと思える自分に気付かされた。こんなに明るい性格なんだ?とか他人事のように自分を考察してみたりして。


空が眺められる部屋。
そして空の空気と同化出来るベランダで、一息つく至福をよく味わっている。
そんなに田舎じゃないから、遊びに来る鳥といったらカラスぐらいだけど。


朝ご飯にと思って買っていた軽食は冷蔵庫にしまったまま、ベランダで寛いでいるとジョンクーの声が聞きたくなった。
電話をすぐにかけられる自由。

「…ジョン?」

『……もしもし…』

「おはよ。…ッふふ。寝てた?」

『……んー?んー。
だって……今何時?……7時…?』

掠れた声。
僕の電話なんか無視してくれてもいいのに、律儀に電話をとるジョンクー。

「起こしちゃったね?
なんかさ、声が聞きたくなっちゃってさ。」

『……んーー…』

「ごめんね。なんかさ、毎日がさ、
……楽しいからさ、誕生日とか関係なく、
1日1日、楽しいから…
……別に、自分の誕生日とか、
どうでもいいと思ってたんだけど……」

『……自分の誕生日、知ってた、…とか?』

「ゔーん……ごめん。
知らないって嘘…ついてたわけじゃなくて…
知ってたっていうか、思い出したっていうか…
ジョンには教えろって怒ったのにね?
自分勝手なんだ、僕。」

『………で、いつ?
……ソクワンの生まれた日は?』

「いや……多分、だし。
ただ親戚から聞いただけの記憶だし。」

『…………いつ?』

掠れた声が、僕に優しく問いかけてきた。
それだけでも、胸が苦しくなるくらい嬉しい。

「………もういいんだ。
何年も忘れるように、
関係ないって思い込んで、
一生誰にも祝って貰わないって決めてきたから。」

『……』

ジョンクーの息遣いが優しいから、
僕もゆっくり、思っている事を話してしまう。

「……けど、お前の声が…
誕生日に聞けたし……それだけで
僕の誕生日も悪くないな、なんてね。」

『……いま、どこ??』

「………家だけど…」


一方的に切られた電話を握りしめたまま、胸が変な感じに熱くなる。

もしかして、この流れ…
ジョンクーはうちに急いでくるんだろうか。
黙って誕生日になっていた事を怒って…
来るかも知れないし、来ないかも知れない。
けど、もう僕はジョンクーに会いたくて…

ベランダで、空じゃなく、下の通りをどれくらい眺めていただろう。
ジョンクーが近くにクルマを止め、花と何かの袋を持って走ってくる。

……そんなに急がなくたっていいのに…
なんて思いながら、涙が出そうになる。


玄関へ向かい、ジョンクーを迎えようかとドアを開けると、同時にジョンクーが息を切らしてやってきた。

「……多分、俺の足の速さ、
ソクワンに会う為に早く生まれたんだと思う。
や、違う、会う為に速くなってると思う。」

「…何言ってるの?会いに来てくれて
僕、嬉しくて泣きそうなのに。
しかも、速く来れたの、クルマだからだし。」

「いや…瞬殺で、花買って、
ケーキ…探したけど朝のこの時間に
パン屋しか見つからなくてドーナツだけど…」

「……ッふふ。まぁ、速かったね。」

とりあえず、両手が塞がってるジョンクーに抱きついた。
子供みたいに息を切らして…寝起き頭のまま、寝起きスウェットのまま、駆けつけてくれたジョンクーに、涙も引っ込みそうになったり溢れたりでよく分からなくなってるけど。

「……ッ、もう、早く言いたくて。
けど、電話じゃなくて、顔見て言いたくて。」

「……うん?」

なんだか恥ずかしくなって、抱きついたまま、ジョンクーの顔が見れない。

「…………こっち見て。顔見せて。」

……愛してると言えだとか、会いたいと言えだとか、離れたくないと言えだとか…会う度にジョンは甘く強請ってくる。
僕にとってそんな言葉は、割とハードルが高いのに。そんな事スウィートに言えるほど、慣れた男じゃないのに……
…恥ずかしくて顔が見れないのに、またハードルが高い事を強請ってくるジョンクー。

「…ねぇ……顔を見て、早く言いたいんだから…」

…言われる側なのに、なんでこんなに恥ずかしいんだ…
けど、恥ずかしがってるとも思われたくないし…
ゆっくり顔をジョンクーの肩から離し、顔の近くに動かした。

「…ソクワン……」

まだ目を真っ直ぐ見れない。
すると軽くキスをされた。
なんだか顔を持ち上げる為にされたような…
また、軽くキスされる。確実に僕の顔を持ち上げてる…間近で見つめられながら、何度もキスをされ、自然にジョンクーを見つめてキスを待つようになってしまった。
…間近で見つめ合う。

「ッ…ジョン……」

「誕生日おめでとう。
ソクワンが産まれた日だから、
僕もソクワンも、祝わなきゃだよ。
凄く、感謝する日だよ。」

「……何に感謝だよ…」

真っ直ぐ見つめてくるジョンクー。
僕の脳内に直接話しかけてくるような、2人別世界にでもワープしてるような、今この時がもう夢なんじゃ……

「世界に。
ソクワンと出逢えて、感謝してるから、
その根源となる日に、感謝…」

「お前が言うと、なんだかこの世界が、
すーーごく最高に思えてくるな…」

「ああ……僕は、こうしてソクワンといれて、
最高だから……ソクワンもそう思えばいいよ…」

堪らず両手でジョンクーの顔を包み…唇を重ねた。深く。
ジョンクーはしっかり同じ深さでキスを受け止めてくる。両手に荷物を持ったままの腕でそっと僕を包み込むようにして、僕を移動させるように動く。ゆっくり、ベットの方へ。
キスを繰り返し…ベットに花とドーナツが落とされると、その横に押し倒された。
服が脱がされていくけど、キスも止めたくなくて…下からジョンの首に腕を回してしがみつく。
花とドーナツの…甘い香り…それと、ジョン…
あぁ……ホント…最高……

「…ジョンといれて…」

「え?」

「…ジョンと出逢えて…」

「…うん…」

「ほんと、よかった…」

「…うん。」


少し唇が離れ、あっという間に脱がされた服。自分で服を勢いよく脱ぐジョンクーを見つめるだけの僕。
…いや、見つめて、待ってしまう。
……食い付かれるようなキスを…

「ッ…」

期待通りの食い付かれるようなキスをされ…抉られるような口内…
そんな強さとは裏腹に、優しくジョンクーの手が僕を愛撫してくる。

「……ッ……ぁ……」

「……ソクワン…?」

「……ッ…やばい……感じ過ぎて…」

「……それはそれは……」

満足そうに微笑んで、変わらず優しい手は胸の一箇所を攻めてくる。
……止まらない…気持ち良いのが止まらない…

「……ッ……」

まだ……これからなのに……
胸から、下…気持ち良い所を次々と攻めてくる。

「………いい、かな…」

聞きたいのはこっちなのに、僕に確認してから進めるジョン……
僕はコクコク頷いて気持ちを表現した。

「……んッ……はや、くッ……」




ジョンで満たされて、揺さぶられるのが心地良くて堪らない。

ジョンを愛しむのが止まらない……


……愛する人と過ごせる自由。
愛しい人を愛せる自由。


たまに言いたい事を言って喧嘩もする。
僕たちは自由だから。
お互い仕事や立場っていうものがあるけど、そんなの極僅かな不自由で…


僕は、沢山の自由と、愛しい人からの愛で、いつも青空の下をふわふわ浮いているような気持ちになる。


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