プラスチック・ファンタジア ~デザインナイフで作る異界のダンジョン~

蕪菁

文字の大きさ
31 / 44
第六幕【それは楽な道ではない】

6-2【川のほとりにて】

しおりを挟む
 次の日の昼過ぎ。

 午後の講義がないこともあり、早速件の発光現象が見られた現場へと赴くこととなった。

 フィーちゃんとリーンシェッテとは現地で落ち合う約束なので、俺は大学を出て直接現場へと向かった。

 駅前でバスに乗り、そこから大体二十分ほど。

 この辺りは昔水田があったという広い平野だったらしいが、今は再開発の際に埋め立てられ宅地となっている。

 しかし当時の防風林や用水路なんかが一部残っているそうで、今回の現場というのもそういった林の傍の小川だ。


 しばらくして住宅街の中にある最寄りのバス停へと降り立ち、二人がいるであろう現場に向かって歩き出す。

 いくつかの道を曲がり、小さな橋を渡るとその先にはレンガ敷きの遊歩道。

 夏の日差しを抑える街路樹に感謝をしつつ進んでいくと、道の中央に設けられた二人掛けのベンチに見慣れた顔を見つける。


「あっ、康介……お兄さまっ」
「遅いじゃないか。随分と待たせおって」


 各々の反応を見せつつ、フィーちゃんとリーンシェッテが俺の方を向く。

 大きな麦わら帽子を被ったフィーちゃんがベンチから立ち上がり、笑顔で俺の方に駆け寄る。

 対する不機嫌そうなリーンシェッテは早く来いと言わんばかりに俺を横目でうかがっていた。


「お待たせ。というか遅いと言われても大学から真っ直ぐこっち来たんだけど」
「知らん。ワガハイを待たせておるのだからもっとキビキビ動かんか」
「そう言われても……ってか、その格好」


 果たして指摘していいものかとも思ったが、結局のところ尋ねずにはいられなかった。

 なぜなら今日のリーンシェッテの格好が、上下白色に黒のラインが入ったジャージという何とも言えない格好なのだ。

 世界の狭間から魔力を得ているリーンシェッテにとって、外見は自由に作り変えることが出来るものだ。

 そんな彼女がラフにラフを重ねたような格好をしているのだから、そりゃあ一言聞きたくもなる。


 俺の視線が自らの服装に向いていることに気付き、リーンシェッテが視線を落として自らのジャージの袖を見る。


「ああ。市井に紛れるのならばこんなモンでいいだろう?」
「そりゃドレスに比べりゃ違和感少ないけど、もう少し何かあったと思うぞ」


 口にはしたくないが、せっかくの美人がもったいないというか。

 何はともあれ、想像に反し身だしなみに無頓着気味だったリーンシェッテに困惑しつつ、改めて目的地の方を見る。


「で、ここが例の……」
「はい。テレビに映っていた場所で間違いありません」


 遊歩道の傍に設けられた広めの入り口。

 そこは何の変哲もない、市が管理する広めの公園だった。

 運動場や遊具、それに広々とした芝生。何とも開放的でいい場所ではないか。

 また奥の方にはかつて農村であった頃の名残である防風林が見える。


 しかし平日、更に日がてっぺんに上って少し経った辺りの時間帯だ。

 それに強い日差しの下では熱中症の心配もある。そのため公園内の人はまばらで、閑散とした光景が広がっていた。

 だが魔力のことを公にできない以上、これから異常の進行度合いを調べる上では都合がいい。


「ところで、お昼ご飯は食べましたか?」
「え? ああいや、まだ食べてないけど」
「それでしたら、家からお弁当を用意してきましたので、まずはここで食事にしましょう」


 ベンチの方を見てみると、確かに弁当が入っていそうなバッグがリーンシェッテの隣に置かれている。

 大学から直でここまで来たということもあり、ちょうど俺の空腹もいい感じに高まってきているところだ。 

 ここなら日差しを避けて弁当を食べるのにもちょうどいいだろう。


「坊が来るまで昼はお預けとそいつが聞かんのだ。さっさと食うぞ」


 ベンチのひじ掛けで頬杖を突き、眉をひそめたリーンシェッテが俺たちを見る。 

 なるほど、不機嫌そうだったのは空腹のせいということか。


 そんなこんなで俺はフィーちゃんに手を引かれてベンチへと向かい、そこで軽い昼食を取ることとなった。 


 一体いつの間に覚えたのか、フィーちゃんお手製の海苔が巻かれたおにぎりが俺の空きっ腹によく染み渡る……。





 ひと時の休息を挟み、いよいよ公園内へと足を踏み入れる俺達。

 発光現象が確認されたのは防風林の方であり、俺達は早速歩道を進んでそちらへと向かう。


 思えばこの公園の裏側に、件の巨人が鎮座しているわけだ。

 そう思うとこの何の変哲のない場所が、何か特別な空間のように思えてならない。

 それでもやはり公園は公園。俺のような一般人からすればあまりにも見慣れた風景だ。


「素敵な場所ですね」


 しかしこの世界の公園が初めてなのだろう。

 フィーちゃんは設備や芝生を見渡し、感心している様子を見せる。


「フィーちゃんの故郷ではこういう公園はないの?」
「はい。公開されている庭園はあるのですが、こういった公共の遊具が用意された場所はありませんね」
「ワガハイが現役の頃は庭園なんぞ貴族の遊びだったな」


 世界が変われば公共設備も変わってくるということか。

 そんなことに感心しつつ道を進んでいると、やがて子供が遊べるよう整備された小川が見えてきた。


 清水が流れるその川は艶のあるコンクリートで作られており、防風林の傍らを流れていった後終端の浅い人工池へと繋がっている。

 流れは穏やかで深さは子供の足首ほど。

 滑り止めを兼ねているのか、コンクリートには丸みを帯びた石がランダムに埋め込まれているようだ。


 木陰を流れる川の様子はとても涼やかで、傍らのベンチで休憩する老人の姿も見られる。

 それ以外には、個人かどこかの所属かは分からないが、発光現象について調べに来たであろう研究者らしき男の姿も見られる。

 ポケット多めのベストが、何ともそれらしい風貌だ。


「思ったより人が多いな。大丈夫か?」


 果たしてこんな状況で魔力の調査なんて出来るのか。

 そう思いフィーちゃんとリーンシェッテの方を見るが、二人とも至って問題ない様子で周囲を見渡していた。


「派手な呪文を唱えるわけでもない。問題あるまいて」
「ですね。こうして気配を感じるだけでも得られるものは多いですから」


 そんな頼もしい言葉を聞くと同時に、これは俺に出来ることはなにもなさそうだと察してしまう。

 こうなると、いったん俺は邪魔にならないところに移動しておいた方がよさそうだ。


「それじゃあ俺は近くのベンチで待ってるから。荷物預かるよ」


 俺がそう言うと、フィーちゃんは礼を述べつつ肩に下げていたバッグを俺に差し出す。

 中は小物や弁当の空箱なためか、それほど重みを感じない。

 リーンシェッテの方は荷物を持っていないが、着ていたジャージの上を脱いで俺に差し出してくる。

 ジャージの下は白いTシャツで、さすが魔女というべきか汗一つかいている様子が見られない。

 無地のシャツによって強調される胸部に目が奪われそうになるが、すぐに理性を働かせ煩悩を払う。


「十分ほどで終わると思いますので、それまでお休みになってください」
「何もないとは思うが、坊も一応気を付けておけよ」


 そう言って、川の上流へと歩いていくフィーちゃんとリーンシェッテ。

 そんな二人の後ろ姿を見送りつつ、俺は近場に見つけたベンチの方へと歩いていく。


 細い川を飛び越えてショートカットし、対岸の歩道脇に設けられたベンチに腰を下ろす。

 防風林を背にした位置にあるベンチからは、公園の様子が見渡せて実に開放的だ。

 それに水場が近くにあるためか、不思議と吹く風も涼しく感じられる。


 夏の午後。

 昼食を済ませ、いい感じに眠気が頭の内側からにじみ出てくる時間帯。

 心地よい風に身を預けていると、俺の意識はほんの少しだけ夢の内側へ向かっていくような……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...