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紫電の王《バイオレットブリッツ》
紫電の王《バイオレットブリッツ》26
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「いや、切れるのそっちッ!?」
あ、やば…
フォルテが歳のことを切れたのに対し、一瞬気が抜けてずっこけそうにアタシはあろうことかツッコミを入れてしまった。
てか、九十歳も百歳も大して変わらないじゃないッ!
と呆れながら思ったが、そう言えば母親であるエリザベス3世も「二十代と三十代とでは印象が全然違うのよ!」なんて自分が三十路になった時にセバスに熱弁して、彼を苦笑いさせていたことがあったのをアタシは思いだした。
アタシはあと何年生きることができるのだろう……
フォルテの言葉やエリザベス三世の言葉を思い出しながら、アタシはふと何となくそう思った。
もしかしたらアタシは今日死ぬかもしれない。フォルテが敗れ、ベルゼ達やあの三人の部下に身体を散々弄ばれた後に、ヨルムンガンドに連れていかれ、実験やら何やらで精神をズタボロにされて死ぬかもしれない。仮にいま助かったとしても、もしかしたら数日後に誰かに撃たれて死ぬかもしれない。
十七年生きてきたけど、アタシは今の自分が何十年も生きるという未来像が想像することができないのだ。危険と常に隣り合わせなこの生活を続ける限り一生想像する事はできないだろう。
と一瞬気が抜けてアタシが柄にもなくそんなことを考えてしまった中、気の抜けていなかった二人が動いた。
フォルテは鍔迫り合いになっていたベルゼの両腕の鉤爪を魔眼で強化した身体を使って強引に村正改で右側に弾き飛ばした。
「うおッ!?」
両腕を弾き飛ばされたベルゼは身体を左によろめかせる。
すかさずフォルテは追撃する。弾いた斬撃の勢いをそのまま回転に乗せ、ベルゼの懐に入りながら必殺の一撃を繰り出した。
「二ノ型、如月ッ!!」
ベルゼに向かってフォルテが繰り出したのは彼が使う剣術、月影一刀流の二ノ型如月だ。如月は一ノ型睦月と同じカウンター技だが、睦月は逆手で持った刃で相手の攻撃を外に逃がすのに対し、確か如月は自分から相手の武器や装備に刀を振るい、弾き飛ばした勢いを乗せたまま身体を回転させつつ相手の懐に飛び込んで胸か首を切るといったものだったかしら…
回転したフォルテが村正改を振るいながらベルゼの懐に肉薄した。
二人が交錯する。
フォルテは右手でベルゼの左の脇腹を通り過ぎるようにして如月を繰り出し、そのままベルゼの後ろに駆け抜けていった。
互いに背を向けた状態のまま数秒経過した。
その数秒が数分以上経っているのではないかとアタシは感じた。
「グッ!う……!」
「なッ!?」
アタシは思わず目を見開いた。
なんと先に膝を着いたのは圧倒的優位だったフォルテの方だったからだ。
よく見るとフォルテの右の脇腹の辺りから血が流れ出していた。
「クソッ…」
悪態をついたフォルテは肩で息をしながら脇腹を左腕で抑えていたが、傷口からはそれを嘲笑うかのように血が指先の間から流れ出し、持っていたHK45を赤く染めていく。
そんな中、倒れなかったベルゼがフォルテの方に向き帰った。
相変わらずのケラケラとした笑みを浮かべながら振り返ったベルゼの胸元に傷がついていた。
相打ちッ!?
あれはアタシがつけた傷ではない。もともとあったTシャツの切り裂かれた方向とは別の方向、丁度バツの字になるように新しく傷の入ったTシャツの下から血があふれ出し、露わになったベルゼの胸の部分に巻いていた包帯を赤く染めていた。
「へへッ!やるじゃねーか…」
ベルゼはそう言いながら右腕の鉤爪についた血をネットリと舌で舐めとった。
「クッ…!」
「だが、あの状態で俺を殺しきれなかったのを考えると、どうやら時間切れらしいな…?」
時間切れ?まさか…!
アタシがフォルテの方を見ると、ベルゼの言葉にフォルテは顔を顰めたままゆっくりと立ち上がっているところだった。その右目は紅いものではなく、いつもの黒色に戻っていた。
悪魔の紅い瞳が切れているッ!?
ベルゼの言う時間切れはアタシが思った通り魔眼の使用限界のことを指していたらしく、右眼だけでなくフォルテの身体からもその紅いオーラのようなものは見えなくなっていた。
無理もない。どれほどの強さかは知らないけど、さっきまでベルゼの部下三人とも戦闘していたのだから、おそらくその時から魔眼を使い続けていたのだろう。
多分さっきフォルテが焦っているように見えたのは、この時間切れを心配したフォルテが勝負を急いでいたのがアタシにも伝わってきたのだろう。
フォルテに前に聞いた話では悪魔の紅い瞳で強化できる幅に決まりはないが、普通に使えばもって十分前後と言っていた。それ以上使えば能力使用後に身体が負荷に耐え切れずに寝込んだり、最悪の場合過労で死ぬとまで言っていた。
多分ベルゼの言っていた呪い、能力使用に制限のないというのはこういうことなのだろう。使えば使うほど使用者の身体を蝕んでいく姿は、まさに諸刃の剣だ。
能力の切れたフォルテはベルゼの言葉に答えずに左腕を傷口から放して両手の武器を構えた。傷口からは絶えず血がドクドクと溢れて、フォルテの着ていた戦闘服や漆黒のロングコートを伝って地面に紅い雫を垂らしていた。
「なんだそれは…?」
能力が切れても戦う意思を見せるフォルテの前に、何故かベルゼは苛立ちを露わにそう呟いた。
「もうそっちの能力は時間切れなんだろ?お前まさかそんな状態で俺に勝てると思っているのか?」
ベルゼの問いかけにフォルテは終始無言のまま武器を構えていた。
「はぁ…がっかりだよ…まさかわざわざ時間を夜にして戦いやすい状況まで作ってやったのに…ホントがっかりしたよ…」
ベルゼの言おうとしている意味がアタシには分からなかったが、さっきまでのケラケラとした態度を止めたベルゼは明らかに拍子抜けしたような、興奮が冷めたようなそんな様子でそう吐き捨てた。
「はぁ…お前がまさかそこまで腰抜けだとは思わなかったぜ、それともまさかお嬢ちゃんの前でその力を振るうのが怖いとかそんな理由じゃねーだろーな?」
質問に対して終始無言のフォルテにベルゼは大好きだった玩具に興味を無くした子供のように呟いた。
「まあ、どうでもいいや、その気がないなら死ね」
ベルゼの身体にビリビリと紫の電流が走り始めた。
その状態のまま近くにあった柱に向かってジャンプし、地面と平行になるように柱に足をつけた瞬間。
「ッ!!」
ロケットの如くベルゼが飛び出してフォルテに襲い掛かった。
ベルゼがすれ違いざまに左肩を狙った攻撃をフォルテはぎりぎりのところで村正改で防いだ。
だがすぐさま背後の廃工場の壁から飛び出してきたベルゼが、今度はフォルテの右足を狙って鉤爪を振るっていた。
「クッ!!」
フォルテはそれを左に身体を倒し、地面に受け身を取りながら転がるようにして何とか躱した。
「フォルテッ!逃げてッ!」
その攻撃を知っているアタシはフォルテに向かって叫んだ。
始まってしまった…
廃工場という閉鎖空間と紫電の瞳を利用したベルゼの超高速攻撃が…
痛ッてぇ…
右の脇腹からは絶えず流れ出ている血を見て俺は内心で毒づいた。
鉤爪の攻撃をもらっちまったのがまずかったな。
刀のような一本の傷なら手で抑えるのも容易なのだが、三本の刃のついたベルゼの鉤爪は切り裂いた箇所に三本の傷跡をつけることによって出血量を多くし、さらに傷跡同士が近いことで縫合がやりにくく素手だけでは止血しにくいのだ。
クソッ…!出血が多くてだんだん意識が朦朧としてきやがった。
出血多量で頭がクラクラとする中、俺は左手で傷口を押さえながらあることを内心で悩んでいた。
本当だったら悪魔の紅い瞳だけでベルゼを片付けるつもりだったのだが、これ以上、魔眼を使ってしまうとこの後身体にどんな影響を及ぼすか分からない。
魔眼の能力を使わない状態でベルゼに勝つことは正直かなり厳しい。
認めたくはないが、やつは強い。
普段は頭が悪そうなヤンキーのようなやつなのだが、こと戦闘に関しては人一倍頭が回る。その天性の戦闘スキルは誰かに教えてもらったようなものではなく、猛獣が狩りの仕方を生まれたときから知っているかのようにそんな感じに近かった。
ましてや今は五体満足、いや3.5体満足ならまだしも、さっきのすれ違いざまのベルゼの攻撃で右の脇腹に傷を負った俺の動きは明らかに悪くなっている。今のままでは勝てる見込みはほぼないだろう。
だが、打開策が無いわけではない。
ベルゼも言っていたが、使える条件は整っている。それを使うこと自体は問題ない。
それでも俺は、殺されるかもしれないという状況に立たされてもなおそれを使うことを躊躇っていた。
別にベルゼの言っていたお嬢ちゃんの前だからそれを見られるのが怖いというわけではない。
俺がむかし悪魔の紅い瞳を手にした理由は復讐の為だった。復讐のためだけに力を使っていた。だが、もう一つの力を昔、殺された彼女から受け取った時に誓ったのだ。「憎しみの感情に任せてこの力を使わないで…誰かを殺す為ではなく、救うために使って欲しい」と。
ベルゼに殺意があったのは事実だが、この力をそのために使っていいのかと俺は悩んでいた。
普通の人だったらおそらく躊躇なく使うだろう。だが俺は違う。そんな生半可な約束でこの能力をもらったのではない。自分が死ぬかもしれないくらいのことでホイホイと使えるようなものではないのだ、コイツは…
だが、心のどこかで俺に囁いてくる声が聞こえた、いや聞こえた気がした。
使えよ。奴を殺したいんだろう?なら力ならいくらでも分けてやる。今夜は満月だからな。
誰ともわからない声が脳ではなく、自身の魂に呼びかけてくる声に思わずを頷いてしまいそうになる。
そうさ。殺すのは簡単なことだ。
いっそのことこの声に従ってしまおうか...
そう思った瞬間、ふとセイナの顔が俺の視界に飛び込んできた。
普段の気丈な態度をとっていた強気な少女はどこにもいなかった。
代わりにそこにいたのは、心配と焦りを織り交ぜたような不安顔が一つあるだけ。
そんなセイナの表情をすぐ近くで見た俺はその瞬間思わずハッとした。
俺はここに何をしているのか?ここで何をしに来たのかを改めて思い出した。
一番はセイナを救出することだ。例えどんな事情や理由があったとしても、これだけは何事にも変えることはできない理由だ。そのはずだったのに俺は怒りのあまりそれを少し見失ってベルゼを殺すことばかり考えていたらしい。
少しだけ我に返った俺はベルゼから視線を逸らしてセイナの方をちらりと見た。目線だけをセイナに向けたので彼女はそれに気づいていない様子だったが。
大丈夫、何とかするさ…
この戦闘中ずっと悩んでいたことをお前のおかげでようやく決心をつけることができたぜ。
不安顔でこちらを見ていたセイナに向かって内心でそう呟いた俺は武器を廃工場内を飛び回るベルゼに向かって構えた。
傷から流れ出た血は止まっておらず貧血気味でキツイはずの体が少しだけ、ほんの少しだけ軽くなったような気がした。
あ、やば…
フォルテが歳のことを切れたのに対し、一瞬気が抜けてずっこけそうにアタシはあろうことかツッコミを入れてしまった。
てか、九十歳も百歳も大して変わらないじゃないッ!
と呆れながら思ったが、そう言えば母親であるエリザベス3世も「二十代と三十代とでは印象が全然違うのよ!」なんて自分が三十路になった時にセバスに熱弁して、彼を苦笑いさせていたことがあったのをアタシは思いだした。
アタシはあと何年生きることができるのだろう……
フォルテの言葉やエリザベス三世の言葉を思い出しながら、アタシはふと何となくそう思った。
もしかしたらアタシは今日死ぬかもしれない。フォルテが敗れ、ベルゼ達やあの三人の部下に身体を散々弄ばれた後に、ヨルムンガンドに連れていかれ、実験やら何やらで精神をズタボロにされて死ぬかもしれない。仮にいま助かったとしても、もしかしたら数日後に誰かに撃たれて死ぬかもしれない。
十七年生きてきたけど、アタシは今の自分が何十年も生きるという未来像が想像することができないのだ。危険と常に隣り合わせなこの生活を続ける限り一生想像する事はできないだろう。
と一瞬気が抜けてアタシが柄にもなくそんなことを考えてしまった中、気の抜けていなかった二人が動いた。
フォルテは鍔迫り合いになっていたベルゼの両腕の鉤爪を魔眼で強化した身体を使って強引に村正改で右側に弾き飛ばした。
「うおッ!?」
両腕を弾き飛ばされたベルゼは身体を左によろめかせる。
すかさずフォルテは追撃する。弾いた斬撃の勢いをそのまま回転に乗せ、ベルゼの懐に入りながら必殺の一撃を繰り出した。
「二ノ型、如月ッ!!」
ベルゼに向かってフォルテが繰り出したのは彼が使う剣術、月影一刀流の二ノ型如月だ。如月は一ノ型睦月と同じカウンター技だが、睦月は逆手で持った刃で相手の攻撃を外に逃がすのに対し、確か如月は自分から相手の武器や装備に刀を振るい、弾き飛ばした勢いを乗せたまま身体を回転させつつ相手の懐に飛び込んで胸か首を切るといったものだったかしら…
回転したフォルテが村正改を振るいながらベルゼの懐に肉薄した。
二人が交錯する。
フォルテは右手でベルゼの左の脇腹を通り過ぎるようにして如月を繰り出し、そのままベルゼの後ろに駆け抜けていった。
互いに背を向けた状態のまま数秒経過した。
その数秒が数分以上経っているのではないかとアタシは感じた。
「グッ!う……!」
「なッ!?」
アタシは思わず目を見開いた。
なんと先に膝を着いたのは圧倒的優位だったフォルテの方だったからだ。
よく見るとフォルテの右の脇腹の辺りから血が流れ出していた。
「クソッ…」
悪態をついたフォルテは肩で息をしながら脇腹を左腕で抑えていたが、傷口からはそれを嘲笑うかのように血が指先の間から流れ出し、持っていたHK45を赤く染めていく。
そんな中、倒れなかったベルゼがフォルテの方に向き帰った。
相変わらずのケラケラとした笑みを浮かべながら振り返ったベルゼの胸元に傷がついていた。
相打ちッ!?
あれはアタシがつけた傷ではない。もともとあったTシャツの切り裂かれた方向とは別の方向、丁度バツの字になるように新しく傷の入ったTシャツの下から血があふれ出し、露わになったベルゼの胸の部分に巻いていた包帯を赤く染めていた。
「へへッ!やるじゃねーか…」
ベルゼはそう言いながら右腕の鉤爪についた血をネットリと舌で舐めとった。
「クッ…!」
「だが、あの状態で俺を殺しきれなかったのを考えると、どうやら時間切れらしいな…?」
時間切れ?まさか…!
アタシがフォルテの方を見ると、ベルゼの言葉にフォルテは顔を顰めたままゆっくりと立ち上がっているところだった。その右目は紅いものではなく、いつもの黒色に戻っていた。
悪魔の紅い瞳が切れているッ!?
ベルゼの言う時間切れはアタシが思った通り魔眼の使用限界のことを指していたらしく、右眼だけでなくフォルテの身体からもその紅いオーラのようなものは見えなくなっていた。
無理もない。どれほどの強さかは知らないけど、さっきまでベルゼの部下三人とも戦闘していたのだから、おそらくその時から魔眼を使い続けていたのだろう。
多分さっきフォルテが焦っているように見えたのは、この時間切れを心配したフォルテが勝負を急いでいたのがアタシにも伝わってきたのだろう。
フォルテに前に聞いた話では悪魔の紅い瞳で強化できる幅に決まりはないが、普通に使えばもって十分前後と言っていた。それ以上使えば能力使用後に身体が負荷に耐え切れずに寝込んだり、最悪の場合過労で死ぬとまで言っていた。
多分ベルゼの言っていた呪い、能力使用に制限のないというのはこういうことなのだろう。使えば使うほど使用者の身体を蝕んでいく姿は、まさに諸刃の剣だ。
能力の切れたフォルテはベルゼの言葉に答えずに左腕を傷口から放して両手の武器を構えた。傷口からは絶えず血がドクドクと溢れて、フォルテの着ていた戦闘服や漆黒のロングコートを伝って地面に紅い雫を垂らしていた。
「なんだそれは…?」
能力が切れても戦う意思を見せるフォルテの前に、何故かベルゼは苛立ちを露わにそう呟いた。
「もうそっちの能力は時間切れなんだろ?お前まさかそんな状態で俺に勝てると思っているのか?」
ベルゼの問いかけにフォルテは終始無言のまま武器を構えていた。
「はぁ…がっかりだよ…まさかわざわざ時間を夜にして戦いやすい状況まで作ってやったのに…ホントがっかりしたよ…」
ベルゼの言おうとしている意味がアタシには分からなかったが、さっきまでのケラケラとした態度を止めたベルゼは明らかに拍子抜けしたような、興奮が冷めたようなそんな様子でそう吐き捨てた。
「はぁ…お前がまさかそこまで腰抜けだとは思わなかったぜ、それともまさかお嬢ちゃんの前でその力を振るうのが怖いとかそんな理由じゃねーだろーな?」
質問に対して終始無言のフォルテにベルゼは大好きだった玩具に興味を無くした子供のように呟いた。
「まあ、どうでもいいや、その気がないなら死ね」
ベルゼの身体にビリビリと紫の電流が走り始めた。
その状態のまま近くにあった柱に向かってジャンプし、地面と平行になるように柱に足をつけた瞬間。
「ッ!!」
ロケットの如くベルゼが飛び出してフォルテに襲い掛かった。
ベルゼがすれ違いざまに左肩を狙った攻撃をフォルテはぎりぎりのところで村正改で防いだ。
だがすぐさま背後の廃工場の壁から飛び出してきたベルゼが、今度はフォルテの右足を狙って鉤爪を振るっていた。
「クッ!!」
フォルテはそれを左に身体を倒し、地面に受け身を取りながら転がるようにして何とか躱した。
「フォルテッ!逃げてッ!」
その攻撃を知っているアタシはフォルテに向かって叫んだ。
始まってしまった…
廃工場という閉鎖空間と紫電の瞳を利用したベルゼの超高速攻撃が…
痛ッてぇ…
右の脇腹からは絶えず流れ出ている血を見て俺は内心で毒づいた。
鉤爪の攻撃をもらっちまったのがまずかったな。
刀のような一本の傷なら手で抑えるのも容易なのだが、三本の刃のついたベルゼの鉤爪は切り裂いた箇所に三本の傷跡をつけることによって出血量を多くし、さらに傷跡同士が近いことで縫合がやりにくく素手だけでは止血しにくいのだ。
クソッ…!出血が多くてだんだん意識が朦朧としてきやがった。
出血多量で頭がクラクラとする中、俺は左手で傷口を押さえながらあることを内心で悩んでいた。
本当だったら悪魔の紅い瞳だけでベルゼを片付けるつもりだったのだが、これ以上、魔眼を使ってしまうとこの後身体にどんな影響を及ぼすか分からない。
魔眼の能力を使わない状態でベルゼに勝つことは正直かなり厳しい。
認めたくはないが、やつは強い。
普段は頭が悪そうなヤンキーのようなやつなのだが、こと戦闘に関しては人一倍頭が回る。その天性の戦闘スキルは誰かに教えてもらったようなものではなく、猛獣が狩りの仕方を生まれたときから知っているかのようにそんな感じに近かった。
ましてや今は五体満足、いや3.5体満足ならまだしも、さっきのすれ違いざまのベルゼの攻撃で右の脇腹に傷を負った俺の動きは明らかに悪くなっている。今のままでは勝てる見込みはほぼないだろう。
だが、打開策が無いわけではない。
ベルゼも言っていたが、使える条件は整っている。それを使うこと自体は問題ない。
それでも俺は、殺されるかもしれないという状況に立たされてもなおそれを使うことを躊躇っていた。
別にベルゼの言っていたお嬢ちゃんの前だからそれを見られるのが怖いというわけではない。
俺がむかし悪魔の紅い瞳を手にした理由は復讐の為だった。復讐のためだけに力を使っていた。だが、もう一つの力を昔、殺された彼女から受け取った時に誓ったのだ。「憎しみの感情に任せてこの力を使わないで…誰かを殺す為ではなく、救うために使って欲しい」と。
ベルゼに殺意があったのは事実だが、この力をそのために使っていいのかと俺は悩んでいた。
普通の人だったらおそらく躊躇なく使うだろう。だが俺は違う。そんな生半可な約束でこの能力をもらったのではない。自分が死ぬかもしれないくらいのことでホイホイと使えるようなものではないのだ、コイツは…
だが、心のどこかで俺に囁いてくる声が聞こえた、いや聞こえた気がした。
使えよ。奴を殺したいんだろう?なら力ならいくらでも分けてやる。今夜は満月だからな。
誰ともわからない声が脳ではなく、自身の魂に呼びかけてくる声に思わずを頷いてしまいそうになる。
そうさ。殺すのは簡単なことだ。
いっそのことこの声に従ってしまおうか...
そう思った瞬間、ふとセイナの顔が俺の視界に飛び込んできた。
普段の気丈な態度をとっていた強気な少女はどこにもいなかった。
代わりにそこにいたのは、心配と焦りを織り交ぜたような不安顔が一つあるだけ。
そんなセイナの表情をすぐ近くで見た俺はその瞬間思わずハッとした。
俺はここに何をしているのか?ここで何をしに来たのかを改めて思い出した。
一番はセイナを救出することだ。例えどんな事情や理由があったとしても、これだけは何事にも変えることはできない理由だ。そのはずだったのに俺は怒りのあまりそれを少し見失ってベルゼを殺すことばかり考えていたらしい。
少しだけ我に返った俺はベルゼから視線を逸らしてセイナの方をちらりと見た。目線だけをセイナに向けたので彼女はそれに気づいていない様子だったが。
大丈夫、何とかするさ…
この戦闘中ずっと悩んでいたことをお前のおかげでようやく決心をつけることができたぜ。
不安顔でこちらを見ていたセイナに向かって内心でそう呟いた俺は武器を廃工場内を飛び回るベルゼに向かって構えた。
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そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
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