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紫電の王《バイオレットブリッツ》
紫電の王《バイオレットブリッツ》29
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身体が重い。
左眼の蒼き月の瞳で体の動きをサポートしているから軽いはずの身体が重く感じる。
当たり前だ。本来だったら絶対動けないはずの疲労と傷を負っている身体を無理矢理魔眼を使って動かしているのだから重く感じて当然だ。今の俺は自分意思で身体を動いているのではなく、操り人形に近い。魔眼によって命令された通りに動く意思のない人形だ。
ああ…クソ…
血を流しすぎて視界もかなりぼやけてきやがった。
荒い呼吸を整えながら俺は眼前の敵を睨みつけてはいるが、時間が経つごとに酷い眠気のようなものが襲ってくる。意識が遠のきかけている。身体が限界を超えて休ましてくれと悲鳴を上げているのだ。
いっそここで動きを止めて楽になってしまおうか。
悪魔のささやき声が俺の弱り切った心を誘惑してくる。
ここで倒れてしまえばどんなに心地が良いだろうか。
多分今の俺ならここで仮に倒れたとしても殺されたとしても気づかないくらいには深い眠りにつけるだろう。
大体、何で俺はこんなことしているのだろうか…
いつから俺は選択を間違ってしまったのだろうか。
なんでこんなきつくて辛い思いをしなければならないのか……
分からない。
そう、分からないのだ。
ただ俺はこれまで正しいと思って選択した道で家族や親しかった友人、恋人を犠牲にしてきた。
それが嫌だから抗ってきたはずなのに、その選択肢で今まで俺は何人の人を犠牲にしてきたか分からない。
いつも正しいと思って選んできたはずなのに、そのために例え自分が苦しい状況に立たされても頑張ってきたのに。
いつもいつもそれは無意味な結果に終わる。
それなのにどうしてまだ抗うのか?
決まっている。今度こそ、今度こそ大切な人を守って見せると心の底で思っているからだ。
だけど、結果はいつも同じ。92年生きてきたが何も変わっていない。
いっそここで動きを止めて楽になってしまおうか。
悪魔のささやき声が俺の弱り切った心を誘惑してくる。
そうだな。もう疲れたよ…
いい加減休憩したっていいよな…
そう思って力を抜こうとした時、一筋の黄金の閃光が見えた。
砂埃と目眩ではっきりとは見えなかったが、十字架に繋がれた一筋の光。
あれは鎖に繋がれた少女だ。
そうだ…俺はアイツを助けるためにここに来たんだった。助けるために苦しい思いをしているのだ。
だからここで倒れるわけにはいかない。
いつも誰かの犠牲で生きてきた俺が今更誰かを救うことなどできるのか…?
できる。いや、やらなければならない。
なんであの少女にそこまで情をかけるのか?
それが何故なのかはっきりとした理由は自分にもわからない。
強いて言うなら多分あの少女の瞳が彼女に似ていたからだろう。
どんなことにも真っすぐで誠実な青い瞳。今も俺の中で輝き続ける青い月明かりのような美しい瞳。
それに無意識に惹かれていたんだろう。
ほんと、女々しい男だと我ながら思うよ…
俺はそう思って心の中で苦笑した。
くだらないことを考えているうちに呼吸も整ってきた。
重く動けるか心配だった身体の方は…うん、大丈夫。
あと一回か二回は行けるはずだ。
そうと分かれば俺がやるべきことはただ一つ、目の前の敵を切るのみ。
余計なことを考えるのはもうナシだ。
でも本当にそんなことができるのか?
いや、できるできないじゃない。やるしかないのだ。
やれなければお前の92年間は所詮その程度だったってことだ。
これまで力が無く敗北したことも、力の使い方を誤って敗北したことも数多くあった。だが今は違う。守るための力も、その使い方も十分理解している。
だからできるさ。今の俺なら。
「行くぜフォルテ…!俺が最後にとっておきをお前にくらわしてやるぜ…!」
「来いよベルゼ…!そのとっておきごと真っ二つにしてやるよ…!」
目の前の敵がそう言って駆けだしてきた。
その動きがスローに見える。
乱れた紫の髪、不気味な笑み、揺れる黒いライダースジャケットと髑髏のプリントされたボロボロの赤いTシャツ。
額から流れる汗も、踏み出すたびに舞い上がる砂埃も、飛び散る鮮血も全てが遅くなって俺の視界を流れていく。
決してベルゼが遅いのではない。魔眼で10倍近くまで身体能力を強化している今の俺の脳は、目で見た情報に対しての処理速度が通常の人間に比べて格段に上がっているため遅く見えるのだ。廃工場内に飛んでいる小虫の羽の毛様が分かるくらいには遅く見えるスローの世界。
だからといって俺がその中を高速で動けるわけではない。あくまでスローに見えるだけ。敵の動きを見極めてこっちも動かなければヤツの両腕の鉤爪で串刺しにされて終わるだろう。
俺は近づいてくるベルゼの前で眼を閉じて意識を研ぎ澄ませた。
まだだ…
一歩、また一歩と近づいてくる音を全身で感じながら逸る気持ちを抑える。
余計な邪念を払い捨てて目の前の男を切ることだけに集中する。
まだだ…
右手の柄を握る手がじんわりと湿ってくるのが分かる。それが汗なのか血なのかは分からないがしっかりと握りなおす。
まだだ…もう少し…
「これで終わりだぁぁぁぁ!!」
ベルゼの叫び声が静まり返った廃工場に木霊した。
今だッ!!
俺は目を見開いて逆手に持った村正改を腰の鞘から抜いた。
肉薄してきたベルゼ目掛けて居合の一撃を叩き込む。
月影一刀流五ノ型「皐月」
腰から刀を抜くという変則的な居合技、刀を抜いた瞬間を相手に見せないことでタイミングや攻撃の軌道を読ませないようにする相手の意表を突く居合技だ。さらに本来は月影一刀流は太刀をベースにした剣術なのだが、今は太刀を持っていないので俺はいつも小太刀で代用しているの。結果、重量が軽い小太刀の方が技の発動が少し早いので、こうした迎撃用として使うことがある。
さらに悪魔の紅い瞳で身体能力が強化されていることにより、通常よりも技の速度と威力が大幅に増している。普通の人間なら受けることすらできない人の域を超えた一撃。
その今の俺のすべてを乗せた一撃を走ってきたベルゼの首目掛けて振るった。
俺とベルゼの間に紅い曲線が弧を描く。
それがあとコンマ何秒でベルゼの皮膚に到達する瞬間。
「ッッ!!」
ベルゼは左腕の鉤爪でぎりぎりそれを防いだ。
鍔迫り合いに持ち込まれた!
走っていたベルゼの身体が止まり、俺と同じように右足を大きく開いて村正改の一撃を抑えようとした。
「はぁああああ!!」
俺は咆哮を上げながら鉤爪ごとベルゼを切ろうとした。
魔眼の力を限界まで上げて無理矢理力でねじ伏せようとする。
力と力がぶつかる中、俺の刃が徐々にベルゼに向かって近づいていく。
このまま押し切ってやるッ!!
力を入れすぎて人差し指の爪が割れ、食いしばった歯と歯の隙間からは血が流れ、足の感覚が段々無くなっていくがそんなことどうだっていい。
コイツを切ることができるならッ!
その時、ベルゼが自身が危険な状態にもかかわらず、口元を歪ませた。
それは苦しいといった表情ではなく、あの不気味な笑みだった。
そのベルゼの顔を見た俺は周りの空気がどんよりと沈んでいくような感覚に襲われた。
そして、それを不審に思った俺に向かって……いや、俺ではない誰か別の存在に語り掛けるようにベルゼは静かに呟いた。
「力を貸せ、バアル・ぜブル」
その言葉を唱えた瞬間、ベルゼの鉤爪の三本の刃に紫の光が灯った。
押し勝っていたはずの俺の刃が押し返され始める。
「なッ!?」
よく見ると、灯っていたのは刃だけでなくベルゼの全身も同じような光を発していた。
これは…魔眼の力ではない…なにか別の…!?
「そうさッ!てめーが二つの魔眼を使えるようになったように、俺も魔眼とは別の力を扱えるようになったのさッ!!」
俺の表情から考えていることを先読みしたかのようにベルゼは答えた。
その間にもジリジリと刃は押されていき、気が付いたらさっきまでベルゼの首元あったはずの村正改が互いの中間位置くらいまで押し返されていた。
村正改と鉤爪の接触している部分がだんだん赤くなっている。
これは、接地面の温度が上昇して熱放射を起こしているのか…!
「この力はまさか!?」
「そうさ、そこの嬢ちゃんと一緒で神の加護さッ!バアル・ぜブル、嵐と雷鳴を司る神の名さッ!!」
バアル・ぜブル、ウガリット神話に出てくるカナン人達が崇拝したとされる最高神の名だ。
そして嵐と雷鳴を司る最高神は旧約聖書と新約聖書ではこう言われている。
七つの大罪「暴食」の「ベルゼブブ」と。
不敵に笑うベルゼがそう叫んで俺の左腕を弾き飛ばした。
「クッ!?」
ヤバい…
完全に意表を突かれた。
HK45は弾切れしていてもはや撃つことができない。
俺が右腕を戻すよりも先にベルゼは空いている右腕の鉤爪を突き出してくるだろう。
「楽しかったぜッ!!フォルテぇぇ!!」
ベルゼが右腕を突き出してきた。
スローの世界で鉤爪がみるみると俺の顔面目掛けて近づいてくる。
クソッ!!何とか数秒、いや数瞬でいい……
何か、何か時間を稼げるものはないのか!?
俺は突き出された刃に向かって無造作に左腕を出して攻撃を防ごうとした。
ジュウッ…
鉤爪の三本の刃が、ロングコートの八咫烏の袖から飛び出した左腕に直に触れた瞬間、鳴ったのは鋭い金属音では無く金属が溶けるような音だった。金属を溶かす溶解炉で鳴っていそうな音。
それでもギリギリでベルゼの突きの攻撃を躱すことができた。
と思った。
ガシャンッ!!
左腕が切り裂かれたのだ。
「グッ!?」
細かいパーツや金属片がバラバラと宙を舞った。小さいネジやナット、外側を構成している特殊な金属板、指の動きを再現するのに必要な脳波を読み取る装置のブレインコミュニケーターや義手を動かすためのギアの全てがスローモーションで飛び散っていくのを俺は呆然と眺めていた。
なんで……?攻撃は防いだはずなのに……?
この義手は鉤爪程度で壊れるほどヤワなつくりじゃないはずなのに……
と、その時俺は思い出した。
ヤクザ狩りの時にセイナに切りかかった魔術中毒者のチェンソーの攻撃を防いだ時に、左腕に亀裂が入っていたことを。
多分それでも普通の鉤爪なら攻撃を防ぐことは難しくない。
ただ、今は違う。
神の加護で強化したベルゼの鉤爪は金属が変形しかねない程の熱を帯びていた。
確かに義手の外側は耐熱使用ではあるが内部は違う。
その熱が左腕の亀裂の中に入り込んで内部を侵食していき、脆くなったところで切り裂いたのだ。
左腕の残骸が宙を舞う中、遠くでセイナが俺の名前を叫んでいるのが聞こえた気がした。
「これで、最後だぁぁぁぁ!!」
ベルゼが左腕の鉤爪を突き出した。
左眼の蒼き月の瞳で体の動きをサポートしているから軽いはずの身体が重く感じる。
当たり前だ。本来だったら絶対動けないはずの疲労と傷を負っている身体を無理矢理魔眼を使って動かしているのだから重く感じて当然だ。今の俺は自分意思で身体を動いているのではなく、操り人形に近い。魔眼によって命令された通りに動く意思のない人形だ。
ああ…クソ…
血を流しすぎて視界もかなりぼやけてきやがった。
荒い呼吸を整えながら俺は眼前の敵を睨みつけてはいるが、時間が経つごとに酷い眠気のようなものが襲ってくる。意識が遠のきかけている。身体が限界を超えて休ましてくれと悲鳴を上げているのだ。
いっそここで動きを止めて楽になってしまおうか。
悪魔のささやき声が俺の弱り切った心を誘惑してくる。
ここで倒れてしまえばどんなに心地が良いだろうか。
多分今の俺ならここで仮に倒れたとしても殺されたとしても気づかないくらいには深い眠りにつけるだろう。
大体、何で俺はこんなことしているのだろうか…
いつから俺は選択を間違ってしまったのだろうか。
なんでこんなきつくて辛い思いをしなければならないのか……
分からない。
そう、分からないのだ。
ただ俺はこれまで正しいと思って選択した道で家族や親しかった友人、恋人を犠牲にしてきた。
それが嫌だから抗ってきたはずなのに、その選択肢で今まで俺は何人の人を犠牲にしてきたか分からない。
いつも正しいと思って選んできたはずなのに、そのために例え自分が苦しい状況に立たされても頑張ってきたのに。
いつもいつもそれは無意味な結果に終わる。
それなのにどうしてまだ抗うのか?
決まっている。今度こそ、今度こそ大切な人を守って見せると心の底で思っているからだ。
だけど、結果はいつも同じ。92年生きてきたが何も変わっていない。
いっそここで動きを止めて楽になってしまおうか。
悪魔のささやき声が俺の弱り切った心を誘惑してくる。
そうだな。もう疲れたよ…
いい加減休憩したっていいよな…
そう思って力を抜こうとした時、一筋の黄金の閃光が見えた。
砂埃と目眩ではっきりとは見えなかったが、十字架に繋がれた一筋の光。
あれは鎖に繋がれた少女だ。
そうだ…俺はアイツを助けるためにここに来たんだった。助けるために苦しい思いをしているのだ。
だからここで倒れるわけにはいかない。
いつも誰かの犠牲で生きてきた俺が今更誰かを救うことなどできるのか…?
できる。いや、やらなければならない。
なんであの少女にそこまで情をかけるのか?
それが何故なのかはっきりとした理由は自分にもわからない。
強いて言うなら多分あの少女の瞳が彼女に似ていたからだろう。
どんなことにも真っすぐで誠実な青い瞳。今も俺の中で輝き続ける青い月明かりのような美しい瞳。
それに無意識に惹かれていたんだろう。
ほんと、女々しい男だと我ながら思うよ…
俺はそう思って心の中で苦笑した。
くだらないことを考えているうちに呼吸も整ってきた。
重く動けるか心配だった身体の方は…うん、大丈夫。
あと一回か二回は行けるはずだ。
そうと分かれば俺がやるべきことはただ一つ、目の前の敵を切るのみ。
余計なことを考えるのはもうナシだ。
でも本当にそんなことができるのか?
いや、できるできないじゃない。やるしかないのだ。
やれなければお前の92年間は所詮その程度だったってことだ。
これまで力が無く敗北したことも、力の使い方を誤って敗北したことも数多くあった。だが今は違う。守るための力も、その使い方も十分理解している。
だからできるさ。今の俺なら。
「行くぜフォルテ…!俺が最後にとっておきをお前にくらわしてやるぜ…!」
「来いよベルゼ…!そのとっておきごと真っ二つにしてやるよ…!」
目の前の敵がそう言って駆けだしてきた。
その動きがスローに見える。
乱れた紫の髪、不気味な笑み、揺れる黒いライダースジャケットと髑髏のプリントされたボロボロの赤いTシャツ。
額から流れる汗も、踏み出すたびに舞い上がる砂埃も、飛び散る鮮血も全てが遅くなって俺の視界を流れていく。
決してベルゼが遅いのではない。魔眼で10倍近くまで身体能力を強化している今の俺の脳は、目で見た情報に対しての処理速度が通常の人間に比べて格段に上がっているため遅く見えるのだ。廃工場内に飛んでいる小虫の羽の毛様が分かるくらいには遅く見えるスローの世界。
だからといって俺がその中を高速で動けるわけではない。あくまでスローに見えるだけ。敵の動きを見極めてこっちも動かなければヤツの両腕の鉤爪で串刺しにされて終わるだろう。
俺は近づいてくるベルゼの前で眼を閉じて意識を研ぎ澄ませた。
まだだ…
一歩、また一歩と近づいてくる音を全身で感じながら逸る気持ちを抑える。
余計な邪念を払い捨てて目の前の男を切ることだけに集中する。
まだだ…
右手の柄を握る手がじんわりと湿ってくるのが分かる。それが汗なのか血なのかは分からないがしっかりと握りなおす。
まだだ…もう少し…
「これで終わりだぁぁぁぁ!!」
ベルゼの叫び声が静まり返った廃工場に木霊した。
今だッ!!
俺は目を見開いて逆手に持った村正改を腰の鞘から抜いた。
肉薄してきたベルゼ目掛けて居合の一撃を叩き込む。
月影一刀流五ノ型「皐月」
腰から刀を抜くという変則的な居合技、刀を抜いた瞬間を相手に見せないことでタイミングや攻撃の軌道を読ませないようにする相手の意表を突く居合技だ。さらに本来は月影一刀流は太刀をベースにした剣術なのだが、今は太刀を持っていないので俺はいつも小太刀で代用しているの。結果、重量が軽い小太刀の方が技の発動が少し早いので、こうした迎撃用として使うことがある。
さらに悪魔の紅い瞳で身体能力が強化されていることにより、通常よりも技の速度と威力が大幅に増している。普通の人間なら受けることすらできない人の域を超えた一撃。
その今の俺のすべてを乗せた一撃を走ってきたベルゼの首目掛けて振るった。
俺とベルゼの間に紅い曲線が弧を描く。
それがあとコンマ何秒でベルゼの皮膚に到達する瞬間。
「ッッ!!」
ベルゼは左腕の鉤爪でぎりぎりそれを防いだ。
鍔迫り合いに持ち込まれた!
走っていたベルゼの身体が止まり、俺と同じように右足を大きく開いて村正改の一撃を抑えようとした。
「はぁああああ!!」
俺は咆哮を上げながら鉤爪ごとベルゼを切ろうとした。
魔眼の力を限界まで上げて無理矢理力でねじ伏せようとする。
力と力がぶつかる中、俺の刃が徐々にベルゼに向かって近づいていく。
このまま押し切ってやるッ!!
力を入れすぎて人差し指の爪が割れ、食いしばった歯と歯の隙間からは血が流れ、足の感覚が段々無くなっていくがそんなことどうだっていい。
コイツを切ることができるならッ!
その時、ベルゼが自身が危険な状態にもかかわらず、口元を歪ませた。
それは苦しいといった表情ではなく、あの不気味な笑みだった。
そのベルゼの顔を見た俺は周りの空気がどんよりと沈んでいくような感覚に襲われた。
そして、それを不審に思った俺に向かって……いや、俺ではない誰か別の存在に語り掛けるようにベルゼは静かに呟いた。
「力を貸せ、バアル・ぜブル」
その言葉を唱えた瞬間、ベルゼの鉤爪の三本の刃に紫の光が灯った。
押し勝っていたはずの俺の刃が押し返され始める。
「なッ!?」
よく見ると、灯っていたのは刃だけでなくベルゼの全身も同じような光を発していた。
これは…魔眼の力ではない…なにか別の…!?
「そうさッ!てめーが二つの魔眼を使えるようになったように、俺も魔眼とは別の力を扱えるようになったのさッ!!」
俺の表情から考えていることを先読みしたかのようにベルゼは答えた。
その間にもジリジリと刃は押されていき、気が付いたらさっきまでベルゼの首元あったはずの村正改が互いの中間位置くらいまで押し返されていた。
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これは、接地面の温度が上昇して熱放射を起こしているのか…!
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「そうさ、そこの嬢ちゃんと一緒で神の加護さッ!バアル・ぜブル、嵐と雷鳴を司る神の名さッ!!」
バアル・ぜブル、ウガリット神話に出てくるカナン人達が崇拝したとされる最高神の名だ。
そして嵐と雷鳴を司る最高神は旧約聖書と新約聖書ではこう言われている。
七つの大罪「暴食」の「ベルゼブブ」と。
不敵に笑うベルゼがそう叫んで俺の左腕を弾き飛ばした。
「クッ!?」
ヤバい…
完全に意表を突かれた。
HK45は弾切れしていてもはや撃つことができない。
俺が右腕を戻すよりも先にベルゼは空いている右腕の鉤爪を突き出してくるだろう。
「楽しかったぜッ!!フォルテぇぇ!!」
ベルゼが右腕を突き出してきた。
スローの世界で鉤爪がみるみると俺の顔面目掛けて近づいてくる。
クソッ!!何とか数秒、いや数瞬でいい……
何か、何か時間を稼げるものはないのか!?
俺は突き出された刃に向かって無造作に左腕を出して攻撃を防ごうとした。
ジュウッ…
鉤爪の三本の刃が、ロングコートの八咫烏の袖から飛び出した左腕に直に触れた瞬間、鳴ったのは鋭い金属音では無く金属が溶けるような音だった。金属を溶かす溶解炉で鳴っていそうな音。
それでもギリギリでベルゼの突きの攻撃を躱すことができた。
と思った。
ガシャンッ!!
左腕が切り裂かれたのだ。
「グッ!?」
細かいパーツや金属片がバラバラと宙を舞った。小さいネジやナット、外側を構成している特殊な金属板、指の動きを再現するのに必要な脳波を読み取る装置のブレインコミュニケーターや義手を動かすためのギアの全てがスローモーションで飛び散っていくのを俺は呆然と眺めていた。
なんで……?攻撃は防いだはずなのに……?
この義手は鉤爪程度で壊れるほどヤワなつくりじゃないはずなのに……
と、その時俺は思い出した。
ヤクザ狩りの時にセイナに切りかかった魔術中毒者のチェンソーの攻撃を防いだ時に、左腕に亀裂が入っていたことを。
多分それでも普通の鉤爪なら攻撃を防ぐことは難しくない。
ただ、今は違う。
神の加護で強化したベルゼの鉤爪は金属が変形しかねない程の熱を帯びていた。
確かに義手の外側は耐熱使用ではあるが内部は違う。
その熱が左腕の亀裂の中に入り込んで内部を侵食していき、脆くなったところで切り裂いたのだ。
左腕の残骸が宙を舞う中、遠くでセイナが俺の名前を叫んでいるのが聞こえた気がした。
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