68 / 361
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》20
しおりを挟む
「そ、それは本当ですか大統領……!?その神器は今どこにあるのですか……?」
俺は再び身体を前のめりにさせてベアード大統領に質問した。
が、俺は興奮のあまり、自分の口から思わず出てしまったその質問が悪手であったことにすぐ気づいた。
「その反応から察するに、君はやはり神器について何かしらの知識があるということだね?」
しまった……つい寝耳に水な話しに、まるで知っていて当たり前のように話しを進めていた……
だが、もうそのことを悔やんでも仕方ない。ここまできたらこちらもある程度は隠していたカードを切ったほうが良さそうだな。
と開き直ってから俺はこう言った。
「自分も知ったのは最近で多少ではありますが……そして、自分は訳あってセイナと共にヨルムンガンドの情報の他にも、その神器を探しています。それも、いま話で出たその雷神トールの神器を……」
もしここでポーカーフェイスのポの字もできてない今の俺の姿をセイナが見ていたら、きっとブチギレられながら電撃をくらわされるんだろうな……
頭の片隅でそう苦笑していると、ベアード大統領は「そうか……」と短く答えてから何かを考えるように顎に手を当てながら唸り声をあげていた。
多分向こうもまだ隠しているカードが何枚かあるはずだ。
俺の情報を聞き出すためにそれを切るのか切らないのかベアード大統領は迷っている様子だった。
「大統領、例の物を持ってきました」
ノックしてからガチャッと扉を開けたジェイクが、ビジネスバッグくらいのサイズのジェラルミンケースをその太い電柱のような片腕で軽々と運びながらオーヴァルオフィスに帰ってきた。
「おお、ちょうどナイスタイミングだジェイク君、それを彼に見せてやってくれ」
「はい」
大統領の言葉にジェイクが短く返事してから、そのケースを俺の前にあったテーブルの上に置いた。
「これは……?」
置かれたケースの中身が全く見当つかない俺が首を傾げてそう聞く。
「それは、我々が君にお願いするのに対しての報酬みたいなものだ、確認してくれ」
そう言われて俺が恐る恐るケースの留め具をパチンッと二つ外してから開けると────
人の左腕。いや、それと見間違うほど細部まで作り込まれた義手だ。それも俺が過去に設計し、つい先日ベルゼに壊されたばかりのと同タイプに近い代物だ。
俺はその義手に驚きながら、大統領の方を向いて「触っても?」と目配せすると、ベアード大統領もそれに応えるようにコクリ……と小さく頷いた。
ケースに収まっていた義手を手に取ってから、自分の左腕に装着して軽く動かしてみる。
サイズはぴったりだ。動作も好調、いやむしろ前の奴よりもスムーズに動くような気がする。
「それはロナ君が一つしか義手を持っていない君のためにと、数か月前に空いた時間をコツコツ使って作成した代物だ。確かに君はその蒼き月の瞳で左腕を限定的に生やすこともできるが、それはあくまで能力が使用できる月の出ている夜に限った話。今もこうして君がその蒼き月の瞳を閉じているように、もし使えば魔眼のリミッターが効かずに暴走。それでも触媒である月が出ている状態なら、その月の満ち欠けによって数分から数十分耐えることができるが、月のない時間帯だと強大な力と引き換えにたった一分で触媒不足に陥って死ぬことになる」
以前ベルゼが話していた暴走の話しだ。
俺はこの蒼き月の瞳と体質が合っていないのを無理矢理使っている。
人は生まれながらにして魔力を扱える量に違いがあるように、魔術の性質も異なる。ごくまれにいる特異体質な人間を除けば、基本は四大元素である「火」「水」「土」「風」のどれかに当てはまり、俺はその中で一応「火」に当てはまっている。だが、魔眼はその性質がめちゃくちゃで正直どの属性が適正なのかよく分かっていない俺は、たまたま体質の合っていた右眼は普段から扱いに困っていないかわりに、右眼の方は体質に合っていないらしく上手く制御することができていない。それでも身を滅ぼす程の強大な力を使えてしまうところがこの黙示録の瞳の呪いの怖いところなのだが……
つまり、例えるならロウソクの火だ。
ロウソクの長さが命で、火の強弱が能力の強弱を表す。
日中はそのロウソクが極端に短い代わりに一瞬だけ巨大な爆発のように燃やすことができるが、一瞬で消えてしまう。
月が出ている時はそのロウソクを長くすることできるが、火の強さはその月明かりの量によって左右する。
月が大きければ大きいほど火が強くなるがロウソクは早く溶けてしまい、小さければ小さいほど、火が弱くなる代わりにロウソクは長い時間燃やすことができる。
そして、普段は火の大きさをコントロールすることができないのだが、それを可能にしたのがこの前使った両目の魔眼を開いて互いにリミッターを掛ける方法だ。
右眼の火の量が満月の時でも大きくなりすぎないように右眼で矯正し、同時に右眼の出力を限界まで上げれるよう右眼で全身のサポートをすると言ったものだ。
「能力をむやみに使用できない君にとって義手はとても大事な装備の一つだ。君にそれを渡す代わりに我々の願いを聞いてもらえないだろうか……?」
流石は大統領をやっているだけあって交渉が上手い。
正直全て図星です……はい、喉から手が新しく生えてきそうなほど欲しいです。
と言いかけたのを今度はグッと堪えることができた俺は少し考えてからこう告げた。
「内容によりますが、ひとまずそのお願いとやらの内容を聞かせてもらってもよろしいでしょうか……?」
しっかりその内容を聞いておかないと、安請け合いしてこれ以上自分の首を絞めたくないしな……
過去の失敗……借金とセイナのことをしっかり教訓にしている俺、偉い!と自画自賛しながら返事を待っていると────
ブーブーブーブー
携帯がマナーモードで震える音が部屋に小さく鳴り響いた。
「失礼」
どうやらジェイクの携帯らしい。
一言そう言ってからジェイクが部屋の外に再び出ていったタイミングでベアード大統領はこう告げた。
「頼みごとの内容だが、我々も君と同様ヨルムンガンドを追っている。だが、いくら下っ端を捕らえてもロクな情報が無いのは事実。だから君の持ってきたパソコンとやらで得た情報をぜひ我々にも共有させて欲しいのだ」
「なるほど……」
それくらいならいいですよ。と言いたいところだったが、もし仮にそれで何かのよからぬ情報がアメリカサイドに知れ渡って敵対することがあっても後味が悪い。
だが、この義手はこちらとしてはぜひ貰っておきたいところ。
俺は、一瞬の逡巡の末にこう答えた。
「内容にもよりますが、ロナに判断させた上でなら大丈夫です。その代わり、義手と一緒にできたらさっき話していた神器を自分たちに譲っていただけませんか……?」
「うーん、それはなかなか難しいな……」
そう言ってベアード大統領は頭を抱えた。
折角手に入れた情報になりそうなブツを寄越せと言っているだ。当然の反応だが────
あれ?ダメ元でそうは言った割には思っていたよりもいけそうな感じだな……
100パーセントNOではなく、難しいという彼らしくない曖昧な態度に、割と長い付き合いである俺は直感でそう感じ、さらにこう付け加えた。
「神器で得た情報は必ずアメリカ政府と共有します。それにうちには神器に詳しいエキスパートもいます」
「それは、君と同行していると言っていたあのセイナという少女のことか?」
「はい、彼女に任せれば多少は良い情報を発見できるかもしれません」
ウソ半分ホント半分。確かにセイナは神器の扱いに関しては詳しいが、だからと言って情報を集めれるほどの腕は多分そこまで無い。あくまで神器を回収するための口実だ。
それに情報集めに関しては寧ろロナの方が優れている。なんたって国が隠蔽している隠し王女という超トップシークレットをどんな手段使ったのかは知らないが、見事にぴたりと当てて見せたのだ。
俺のハッタリを聞いたベアード大統領は……よしよし……唸り声も上げずに椅子の背もたれに寄りかかって本気で考えている様子に心の中で俺は少しニヤリとした。
ただし、それがバレないよう険しい顔を作ってベアード大統領が話し出すのを辛抱強く待っていると────
「フォルテ……ちょっと────」
緊張で肌が少しピりつくような張りつめた空気になっていたオーヴァルオフィスに、電話をし終えたジェイクが部屋の扉を開けながら俺に声を掛けてきたが────
「取り込み中か?」
多分俺達の様子の変化を敏感に感じて、ジェイクは気を利かせて要件を言わずにそう聞きなおしてきた。
でかい図体に似合わず、こういう気の回る繊細さは流石CIA長官と言うべきか……全く、どっかの王女様と引きこもり副長官殿は彼の爪の垢を煎じずにそのまま食って欲しいくらいだ。
自分のことは棚に上げといてそう思いつつ、部屋の入り口から大きくはみ出た巨人に向かって俺はこう告げる。
「あぁ……ちょっと待ってくれ、すぐ終わるから」
敢えてすぐという言葉を使ってベアード大統領を急かし、判断を鈍らせようとする。
そのおかげもあってか、ベアード大統領は部屋の扉を開けて入ってきたジェイクと部屋の中央で座った俺を目だけで交互に見てから大きくため息をついた。
「分かった。一時的に貸すと言うことにしておこう」
「ホントですかッ!?ありがとうござい────」
「その代わり、これは個人的な話しなのだが、もう一つお願いを聞いてほしい」
満面の笑みでお礼を言おうとした俺の言葉に少し食い気味でベアード大統領がそう告げた。
「個人的な話し?」
その含みのある言葉に俺は首を傾げた。
「君も知っているかもしれないが、七月に米日英首脳会談で日本を訪れることになっているのだが、その時の護衛をぜひ君にも頼みたい」
おぉ!それなら大歓迎だ!軽く護衛するだけで普段稼げないような額を短時間で稼ぐことができる最高にうまい仕事じゃないか……!
棚から牡丹餅な話しに俺は少しだけ声を弾ませながら────
「ああ、それくらいなら別に構わない、報酬は……」
「無償でお願いしたい」
「あぁ!もちろ……ん?」
無償……?ムショウデオネガイシタイ?
その言葉に混乱した俺が首を大きく傾げている様にベアード大統領がニヤリと表情を歪ませる。
さっき俺をからかっていた時にしていた子供のような笑み、悪いことを考えている時の顔だ。
「神器のレンタル料として無償でボディーガードを引き受けて欲しい。その代わり私が七月に日本を訪れるまでの三か月間はその神器は君に預けよう。これでどうかね……?」
「な、なるほど……」
ベアード大統領の条件を聞いた俺はうんうんと頷きながら冷静を装ってはいたが────
ああああ!!クッソォ~!!
心の中ではメタルコアバンド並みのシャウトを決めていた。
普段だったら多分二つ返事でOKしていたが、俺は現在進行形で大量の借金を抱えているのだ。
そのためには稼げるときに稼いでおきたいのだが、大統領のボディーガードなんて美味しい仕事、タダでやるなんて勿体なすぎるッ……
だけど、ここは我慢だフォルテ……!
俺がここでごねなければ、無事に神器を一つレンタルではあるが回収することができるのだ。
もしかしたらそこから別の神器の情報を得られるかもしれないだぞ。
背に腹は代えられない……
「分かり……ました。ボディーガードやります……はい」
がっくりと肩を落とした俺は、喉の奥からどうにか言葉を絞り出して歯切れ悪くそう答えた。
「交渉成立だ」
フンッとベアード大統領が小さく鼻を鳴らしてそう答えた。
そのしてやった感のような満足したような顔を見た俺は、その時初めて自分が大統領の手のひらで踊らされていたことに気づいた。
多分あの曖昧な態度は、始めからこれが目的だったのだろう。
こちらが欲しい餌をチラつかせ、気づいた時にはこちらに不利な条件を呑まさせる。
さっきも言ったが流石大統領……俺のような素人が下手に交渉なんてするもんじゃないな……
どうやらふっかける相手を俺は間違えたらしい……
その時ふと、前にもこんなことあったなと俺は既視感のようなデジャブような感覚に陥っていた。
ああ、思い出した。
俺がS.Tこと、アメリカ外人特殊作戦部隊に入隊させられた時も、この大統領に上手いこと口車に乗せられたんだったことを思い出した。
やれやれ、全然過去の失敗を教訓にできてねーじゃねーかよ俺……
俺は再び身体を前のめりにさせてベアード大統領に質問した。
が、俺は興奮のあまり、自分の口から思わず出てしまったその質問が悪手であったことにすぐ気づいた。
「その反応から察するに、君はやはり神器について何かしらの知識があるということだね?」
しまった……つい寝耳に水な話しに、まるで知っていて当たり前のように話しを進めていた……
だが、もうそのことを悔やんでも仕方ない。ここまできたらこちらもある程度は隠していたカードを切ったほうが良さそうだな。
と開き直ってから俺はこう言った。
「自分も知ったのは最近で多少ではありますが……そして、自分は訳あってセイナと共にヨルムンガンドの情報の他にも、その神器を探しています。それも、いま話で出たその雷神トールの神器を……」
もしここでポーカーフェイスのポの字もできてない今の俺の姿をセイナが見ていたら、きっとブチギレられながら電撃をくらわされるんだろうな……
頭の片隅でそう苦笑していると、ベアード大統領は「そうか……」と短く答えてから何かを考えるように顎に手を当てながら唸り声をあげていた。
多分向こうもまだ隠しているカードが何枚かあるはずだ。
俺の情報を聞き出すためにそれを切るのか切らないのかベアード大統領は迷っている様子だった。
「大統領、例の物を持ってきました」
ノックしてからガチャッと扉を開けたジェイクが、ビジネスバッグくらいのサイズのジェラルミンケースをその太い電柱のような片腕で軽々と運びながらオーヴァルオフィスに帰ってきた。
「おお、ちょうどナイスタイミングだジェイク君、それを彼に見せてやってくれ」
「はい」
大統領の言葉にジェイクが短く返事してから、そのケースを俺の前にあったテーブルの上に置いた。
「これは……?」
置かれたケースの中身が全く見当つかない俺が首を傾げてそう聞く。
「それは、我々が君にお願いするのに対しての報酬みたいなものだ、確認してくれ」
そう言われて俺が恐る恐るケースの留め具をパチンッと二つ外してから開けると────
人の左腕。いや、それと見間違うほど細部まで作り込まれた義手だ。それも俺が過去に設計し、つい先日ベルゼに壊されたばかりのと同タイプに近い代物だ。
俺はその義手に驚きながら、大統領の方を向いて「触っても?」と目配せすると、ベアード大統領もそれに応えるようにコクリ……と小さく頷いた。
ケースに収まっていた義手を手に取ってから、自分の左腕に装着して軽く動かしてみる。
サイズはぴったりだ。動作も好調、いやむしろ前の奴よりもスムーズに動くような気がする。
「それはロナ君が一つしか義手を持っていない君のためにと、数か月前に空いた時間をコツコツ使って作成した代物だ。確かに君はその蒼き月の瞳で左腕を限定的に生やすこともできるが、それはあくまで能力が使用できる月の出ている夜に限った話。今もこうして君がその蒼き月の瞳を閉じているように、もし使えば魔眼のリミッターが効かずに暴走。それでも触媒である月が出ている状態なら、その月の満ち欠けによって数分から数十分耐えることができるが、月のない時間帯だと強大な力と引き換えにたった一分で触媒不足に陥って死ぬことになる」
以前ベルゼが話していた暴走の話しだ。
俺はこの蒼き月の瞳と体質が合っていないのを無理矢理使っている。
人は生まれながらにして魔力を扱える量に違いがあるように、魔術の性質も異なる。ごくまれにいる特異体質な人間を除けば、基本は四大元素である「火」「水」「土」「風」のどれかに当てはまり、俺はその中で一応「火」に当てはまっている。だが、魔眼はその性質がめちゃくちゃで正直どの属性が適正なのかよく分かっていない俺は、たまたま体質の合っていた右眼は普段から扱いに困っていないかわりに、右眼の方は体質に合っていないらしく上手く制御することができていない。それでも身を滅ぼす程の強大な力を使えてしまうところがこの黙示録の瞳の呪いの怖いところなのだが……
つまり、例えるならロウソクの火だ。
ロウソクの長さが命で、火の強弱が能力の強弱を表す。
日中はそのロウソクが極端に短い代わりに一瞬だけ巨大な爆発のように燃やすことができるが、一瞬で消えてしまう。
月が出ている時はそのロウソクを長くすることできるが、火の強さはその月明かりの量によって左右する。
月が大きければ大きいほど火が強くなるがロウソクは早く溶けてしまい、小さければ小さいほど、火が弱くなる代わりにロウソクは長い時間燃やすことができる。
そして、普段は火の大きさをコントロールすることができないのだが、それを可能にしたのがこの前使った両目の魔眼を開いて互いにリミッターを掛ける方法だ。
右眼の火の量が満月の時でも大きくなりすぎないように右眼で矯正し、同時に右眼の出力を限界まで上げれるよう右眼で全身のサポートをすると言ったものだ。
「能力をむやみに使用できない君にとって義手はとても大事な装備の一つだ。君にそれを渡す代わりに我々の願いを聞いてもらえないだろうか……?」
流石は大統領をやっているだけあって交渉が上手い。
正直全て図星です……はい、喉から手が新しく生えてきそうなほど欲しいです。
と言いかけたのを今度はグッと堪えることができた俺は少し考えてからこう告げた。
「内容によりますが、ひとまずそのお願いとやらの内容を聞かせてもらってもよろしいでしょうか……?」
しっかりその内容を聞いておかないと、安請け合いしてこれ以上自分の首を絞めたくないしな……
過去の失敗……借金とセイナのことをしっかり教訓にしている俺、偉い!と自画自賛しながら返事を待っていると────
ブーブーブーブー
携帯がマナーモードで震える音が部屋に小さく鳴り響いた。
「失礼」
どうやらジェイクの携帯らしい。
一言そう言ってからジェイクが部屋の外に再び出ていったタイミングでベアード大統領はこう告げた。
「頼みごとの内容だが、我々も君と同様ヨルムンガンドを追っている。だが、いくら下っ端を捕らえてもロクな情報が無いのは事実。だから君の持ってきたパソコンとやらで得た情報をぜひ我々にも共有させて欲しいのだ」
「なるほど……」
それくらいならいいですよ。と言いたいところだったが、もし仮にそれで何かのよからぬ情報がアメリカサイドに知れ渡って敵対することがあっても後味が悪い。
だが、この義手はこちらとしてはぜひ貰っておきたいところ。
俺は、一瞬の逡巡の末にこう答えた。
「内容にもよりますが、ロナに判断させた上でなら大丈夫です。その代わり、義手と一緒にできたらさっき話していた神器を自分たちに譲っていただけませんか……?」
「うーん、それはなかなか難しいな……」
そう言ってベアード大統領は頭を抱えた。
折角手に入れた情報になりそうなブツを寄越せと言っているだ。当然の反応だが────
あれ?ダメ元でそうは言った割には思っていたよりもいけそうな感じだな……
100パーセントNOではなく、難しいという彼らしくない曖昧な態度に、割と長い付き合いである俺は直感でそう感じ、さらにこう付け加えた。
「神器で得た情報は必ずアメリカ政府と共有します。それにうちには神器に詳しいエキスパートもいます」
「それは、君と同行していると言っていたあのセイナという少女のことか?」
「はい、彼女に任せれば多少は良い情報を発見できるかもしれません」
ウソ半分ホント半分。確かにセイナは神器の扱いに関しては詳しいが、だからと言って情報を集めれるほどの腕は多分そこまで無い。あくまで神器を回収するための口実だ。
それに情報集めに関しては寧ろロナの方が優れている。なんたって国が隠蔽している隠し王女という超トップシークレットをどんな手段使ったのかは知らないが、見事にぴたりと当てて見せたのだ。
俺のハッタリを聞いたベアード大統領は……よしよし……唸り声も上げずに椅子の背もたれに寄りかかって本気で考えている様子に心の中で俺は少しニヤリとした。
ただし、それがバレないよう険しい顔を作ってベアード大統領が話し出すのを辛抱強く待っていると────
「フォルテ……ちょっと────」
緊張で肌が少しピりつくような張りつめた空気になっていたオーヴァルオフィスに、電話をし終えたジェイクが部屋の扉を開けながら俺に声を掛けてきたが────
「取り込み中か?」
多分俺達の様子の変化を敏感に感じて、ジェイクは気を利かせて要件を言わずにそう聞きなおしてきた。
でかい図体に似合わず、こういう気の回る繊細さは流石CIA長官と言うべきか……全く、どっかの王女様と引きこもり副長官殿は彼の爪の垢を煎じずにそのまま食って欲しいくらいだ。
自分のことは棚に上げといてそう思いつつ、部屋の入り口から大きくはみ出た巨人に向かって俺はこう告げる。
「あぁ……ちょっと待ってくれ、すぐ終わるから」
敢えてすぐという言葉を使ってベアード大統領を急かし、判断を鈍らせようとする。
そのおかげもあってか、ベアード大統領は部屋の扉を開けて入ってきたジェイクと部屋の中央で座った俺を目だけで交互に見てから大きくため息をついた。
「分かった。一時的に貸すと言うことにしておこう」
「ホントですかッ!?ありがとうござい────」
「その代わり、これは個人的な話しなのだが、もう一つお願いを聞いてほしい」
満面の笑みでお礼を言おうとした俺の言葉に少し食い気味でベアード大統領がそう告げた。
「個人的な話し?」
その含みのある言葉に俺は首を傾げた。
「君も知っているかもしれないが、七月に米日英首脳会談で日本を訪れることになっているのだが、その時の護衛をぜひ君にも頼みたい」
おぉ!それなら大歓迎だ!軽く護衛するだけで普段稼げないような額を短時間で稼ぐことができる最高にうまい仕事じゃないか……!
棚から牡丹餅な話しに俺は少しだけ声を弾ませながら────
「ああ、それくらいなら別に構わない、報酬は……」
「無償でお願いしたい」
「あぁ!もちろ……ん?」
無償……?ムショウデオネガイシタイ?
その言葉に混乱した俺が首を大きく傾げている様にベアード大統領がニヤリと表情を歪ませる。
さっき俺をからかっていた時にしていた子供のような笑み、悪いことを考えている時の顔だ。
「神器のレンタル料として無償でボディーガードを引き受けて欲しい。その代わり私が七月に日本を訪れるまでの三か月間はその神器は君に預けよう。これでどうかね……?」
「な、なるほど……」
ベアード大統領の条件を聞いた俺はうんうんと頷きながら冷静を装ってはいたが────
ああああ!!クッソォ~!!
心の中ではメタルコアバンド並みのシャウトを決めていた。
普段だったら多分二つ返事でOKしていたが、俺は現在進行形で大量の借金を抱えているのだ。
そのためには稼げるときに稼いでおきたいのだが、大統領のボディーガードなんて美味しい仕事、タダでやるなんて勿体なすぎるッ……
だけど、ここは我慢だフォルテ……!
俺がここでごねなければ、無事に神器を一つレンタルではあるが回収することができるのだ。
もしかしたらそこから別の神器の情報を得られるかもしれないだぞ。
背に腹は代えられない……
「分かり……ました。ボディーガードやります……はい」
がっくりと肩を落とした俺は、喉の奥からどうにか言葉を絞り出して歯切れ悪くそう答えた。
「交渉成立だ」
フンッとベアード大統領が小さく鼻を鳴らしてそう答えた。
そのしてやった感のような満足したような顔を見た俺は、その時初めて自分が大統領の手のひらで踊らされていたことに気づいた。
多分あの曖昧な態度は、始めからこれが目的だったのだろう。
こちらが欲しい餌をチラつかせ、気づいた時にはこちらに不利な条件を呑まさせる。
さっきも言ったが流石大統領……俺のような素人が下手に交渉なんてするもんじゃないな……
どうやらふっかける相手を俺は間違えたらしい……
その時ふと、前にもこんなことあったなと俺は既視感のようなデジャブような感覚に陥っていた。
ああ、思い出した。
俺がS.Tこと、アメリカ外人特殊作戦部隊に入隊させられた時も、この大統領に上手いこと口車に乗せられたんだったことを思い出した。
やれやれ、全然過去の失敗を教訓にできてねーじゃねーかよ俺……
0
あなたにおすすめの小説
立花家へようこそ!
由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・――――
これは、内気な私が成長していく物語。
親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
「ただの経費削減ですが?」 銀河最弱の補給艦隊が、俺の「在庫管理」で最強になったようです
空木 架
SF
日本の企業で総務として働く星野明日虎(32歳)は、ある日突然、見知らぬ宇宙の帝国へと転移してしまう。彼が配属されたのは、整理整頓もままならない「銀河最弱」の補給艦隊だった!
ひょんなことから戦艦の艦長に任命されてしまった明日虎だが、宇宙の戦い方など全く分からない。そこで彼が武器にしたのは、長年の社畜生活で培った「経費削減」と「在庫管理」のスキルだった。
「弾薬の無駄遣い禁止!」「エンジンはこまめに切れ!」――ただ徹底的なコストカットと業務効率化を推し進めただけなのに、それがなぜか「天才的な軍事戦略」として周囲に大勘違いされていく。
個性豊かな仲間たちと共に、最弱だった倉庫部門を最強の組織へと育て上げる、痛快・お仕事&成り上がりSFファンタジー!
※この作品は、「小説家になろう」「カクヨム」でも連載しています
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる