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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
魔術弾《マジックブレット》4
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「何かあったの?」
セイナが俺と同じように耳のインカムに手を当てて尋ねる。
ロナの緊迫した様子から俺だけでなく、セイナの表情にも少しだけ不安の色が混じっていた。
『今さっき、フォルテの知り合いで、今回の仕事の依頼主でもある……小山さん……だっけ?に、スナイパーの件を連絡したら、フォルテ達のところに向かわせた精鋭部隊を東京タワーに送るって言ってたんだよね』
「それの何が問題なんだ?寧ろ好都合じゃないのか?」
その精鋭部隊がどこのことを指しているかは分からなかったが、ここに向かってたということは荒事に多少は慣れているということだろう。下手な警察よりもよっぽど信頼できる。
『それがね、ここからが重要なんだけど……どうもその部隊の代わりに別の部隊がこっちに向かっているらしいんだ。でね、小山さんいわくその部隊はなんか事情があって、ロナ達が仕事をしていることを知らないらしいの!だからもしそこで見つかったら、武器の過剰使用で捕まっちゃうかもって言ってたんだよ!』
「ちょ、ちょっと待ちなさいよロナ!アタシ達のやってる仕事って元々は警察の仕事でしょ!?仮にその部隊がアタシ達のこと知らなくても、ちゃんと事情を話せば捕まるなんてことあるわけないじゃない!」
ロナの言葉にインカム越しに怒鳴るセイナ。
確かにセイナの言う通り、銃刀法が軽くなった日本では明確な理由(自己防衛や射撃場の娯楽、仕事など)があれば銃を撃っても捕まることはまず無い。ましてや今回は警察からの依頼でやっている仕事、その最中に警察に捕まるなんて……そんなマッチポンプ的な話しはありえないだろう。だがそれは、あくまで通常の仕事での話しだ。
「いや、セイナ。今回の仕事は恐らく警察の中でも非公式、または非正規扱いなんだろう。じゃなきゃあの小山さんが俺にわざわざ仕事を振ってくることは無い」
警察では捌けない事件や、彼がよく言う、「部隊の手が回らない」時によく俺に仕事をくれるのだが……アメリカFBIに国際指名手配を食らっている俺が正規の仕事を請け負うと「折角のお得意先が向こうにバレて捕まるのは困る」と、大体9割以上の仕事が非正規か非公開のヤバい案件と言っていた。当たり前だが、国際指名手配に仕事させてホントに大丈夫なのかと、何故か指名手配犯である俺が心配になって小山さんに尋ねたことがあるのだが、彼は「へーきへーき」と、持ち前のひょうきんな性格で軽く流していた。
「小山って、以前、新宿での仕事を振ってきた警察の人よね?一体何者なの?」
「さあな、俺も詳しくは知らないんだ。元々は現場でバリバリ働く人だったらしいんだが、今は管理職に就いて人を動かす立場にあるとかなんとか……一応警察での位は警部って聞いてるけどな……知ってるのはそれくらい……かな?」
荒事慣れした部隊、それを意のままに操る権限を持ち……さらに非公式な仕事も扱うことのできる人物。
見た目は何処にでもいる……それこそ、そこで伸びている武器密輸のお客と変わらない雰囲気のサラリーマンといった感じの人なのだが────確かにセイナの言う通り、小山さんは一体何者なのだろうか……?
と、一瞬思ったが、さっきセイナに伝えた言葉と同じように、それ以上の余計な詮索は止めた。
何でかって?そんな部隊を持つ警察官なんて絶対普通な奴じゃないからだ。
「そんな人とどこで知り合ったのよ?」
曖昧な態度の俺に若干苛立ちを見せるセイナが、得意の片足体重と腕組をしながら、胡散臭そうな顔とジト目をこちらに向けてきた。
怒ったり、顰めたり、ほんとセイナは表情豊かで、喜怒哀楽が激しい奴だな……
「S.T解散後、俺が日本に来た時に身分を偽って警察の高価な仕事受けようとしたことがあったんだが、その時に必要な個人登録ができなかったんだ。その後たまたま牛丼屋で飯食ってる時にその小山さんと出会って、他の警察にばらさないことを条件に仕事をくれるようになったんだ。最初はめちゃくちゃ疑ってたけど、本当に他の警察にはチクってないし、金はきっちり用意してくれるから、俺も別に疑うことは無くなってたんだよね」
「……はぁ……」
俺の話を聞いたセイナは両腰に手を当て、「呆れた」と言わんばかりに深いため息をついた。
その瞳は「よくそんな人を信用していたわね……」と言わんばかりのものだった。
────だからってそんなジト目で俺を睨むなよ……
まあ正直俺も不思議に思っているのだ。小山さんと知り合ってまだ一年ちょいだが、彼が俺に嘘をついているようにはどうも見えないというか、そう感じさせないのだ。
それが性格故か、それとも風貌や表情からなのかは自分でもよく分かってないが────たまにいるだろ?コイツ絶対嘘が下手だよなってヤツとか、ザ天然って感じのヤツ。それと似ている感じな気がした。
「詳しいことはあとでもう一度、きっっっちり!話しを聞く必要があることは分かったとして……で、どうするのあのスナイパー?さっきも言ったけど、アタシもアンタも遠距離を戦える武器なんて持ってないわよ?」
「んーそうだな……セイナ、お前の神の加護と、その新しい神器でもどうにかならないのか?」
アメリカで繰り広げたヨルムンガンドとの戦闘の後、回収した神器、雷神トールの手袋「ヤールングレイプル」を装着した右手を俺は指さした。
セイナは右手の赤銅色の光沢を放つ、金属製の手袋を見つめた。
「確かに最近これのおかげで比較的に神の加護は使いやすくなったけど、そんな都合のいいようなことできないわよ?」
なんでもセイナが言うには、コイツを装着してから今まで困難だった神の加護の操作が飛躍的にやりやすくなったとか。そのおかげで神の加護を使用しても電化製品が壊れないと喜んでいた。
────お前は今までそんな制御不安定な力で俺を追いかけまわし、さらに電撃まで食らわせていたのかと突っこみたかったが、それを言ったらまた追いかけまわされそうなので黙っておく。
『密輸品の中に使えそうなものは残ってないの?』
「中は確認してないから分からないけど、それが一番得策っぽいな。ロナ、合図とともに照明を暗転させろ。俺がスナイパーの注意を引くから、その隙にセイナはトラックから使えるものが無いか探してくれ」
「密輸品って……勝手に使っちゃマズイんじゃないの?アタシ達もそれじゃあ犯罪者に────」
「大丈夫、ここにいれば結局は犯罪者扱い。檻に入るか入らないかの差しかないから気にすんな、よし、そうと決まれば行くぞ!ロナいけるか?」
『ほいよー!いつでも!』
「ちょっ!?まだ心の準備が!?」
俺とロナに勝手に話を進められ、あわわわ!!と慌てた様子のセイナの瞳が泳ぐ。
真面目なセイナは悪いことをすることに関してはかなりウジウジと悩む節がある。前のアメリカに密入国するときもだいぶ渋ったからな。そうなる前に俺はどんどん話しを進めてセイナに余計なことを考える暇を与えさせない。
「暗転!!」
────ダンッ……
電力供給を絶たれた街灯が再び消え、闇夜がコンテナ街を支配した。
────この暗闇の中なら、例え向こうのスナイパーが暗視スコープをつけていたとしても、数瞬はタイミングを逸らすことができるはずだ!
暗闇の中で悪魔の紅い瞳を3倍強化で発動させると、いつもの黒目が紅く染まり俺の瞳がレーザーのように光を放ち、同時に全身を包み込むように紅いオーラが発生する。身体強化の代わりに暗闇でも目立ちやすくなった状態で俺はコンテナの左側から飛び出した。
ダァァァァン!!
銃声とともに赤い銃弾が俺の側頭部を貫こうと放たれるが────ギリギリのところで躱した。
隠れていたコンテナから真横に走る俺の後方を、月明かりに照らされた緋色の銃弾が通り過ぎて────
バリィィィィン!!
さっきと同じように地面に真っ赤な破片を撒き散らし、コンクリートに刃物で切り刻んだかのような無数の傷をつける。
「行け、セイナ!!」
「あーもう!!フォルテのバカァァ!!」
俺の呼びかけに、半ばヤケクソ気味に叫んだセイナがコンテナ裏から飛び出し、最初に俺が撃たれた位置の近くに止めてあった密輸業者のトラックの方に駆けていく。
ダァァァァン!!
再びの銃声────飛び出していったセイナではなく、紅いオーラに包まれた俺を狙った緋色の銃弾は────
「ッ!?」
被弾こそしなかったが、走る俺を抑えるように進行方向のコンクリートの地面が砕け、赤い破片を周囲に撒き散らした。俺は本能的に走ってた足を一瞬だけ止め、先に進むことに躊躇してしまった────
────ヤべッ……!
スナイパーの前で止まっている標的は的同然。当てるのは朝飯前だ。
右眼の悪魔の紅い瞳が横目で見た先────お台場の観覧車と一緒でイルミネーションの施された東京タワーの電飾に混じって、パチ────!と瞬きのような光が走った。
それは、東京のビル街を潜り抜け、遥か2㎞先から飛来してきた死神の一発を前に、俺は左手でHK45を抜いて緋色に輝く銃弾を撃ち抜いた。
だが────空中で激突した赤い銃弾は砕け散って無数の粒子に変異し、真っ赤な血煙のような死の雨を降らせる。
「クソッ!」
止まらない死神の一発に俺は悪態をつきながら、今度は右手で村正改を握り、悪魔の紅い瞳の力を利用して力任せに逆手で振るう。
────月影一刀流、七ノ型
「文月!!」
アメリカで戦ったヨルムンガンドの工作員、神の加護を受ける人物の総称、雷神トールの加護を受けるセイナと同じ祝福者で、魔術師アンブローズ・マーリンの加護を受けているアルシェ・マーリンの攻撃をも防いだこの技は────振るった刀の先に斬撃を飛ばすのが本来の能力だが、俺は上手く扱えないので暴風が起きるだけの技。だが────今回ばかりはそれが功を奏し、赤い死の雨は吹き付けられた暴風を前に左右に分かれ、俺の両サイドのコンクリート地面を、表面のみを鑢でも掛けたかのように軽く抉った。
俺の身体の方にも、その粉塵レベルまで細かくなった赤い銃弾の一部が飛んできたが、文月のおかげで威力が軽減され、尚且つセイナに言われてイヤイヤ着ていた、この戦闘服の防弾性のおかげでなんとか無傷で済んだ。もし、めんどくさがってTシャツ姿で今回の任務をしていたらと考えると、さっきと同じようにゾッとした。コンクリートの表面を軽く抉る威力────生身に当たったら、きっと露出していた皮膚は全部持っていかれていただろう。
────だが、何とか防ぐことができたな……
俺は素早くスナイパーから死角になるコンテナまで再び走り、前転しながら素早く飛び込むと────
「フォルテ!大丈夫!?」
アルミ製箱形のトラックからスタッ────と飛び降り、アタッシュケースを携えたセイナが、息切れして横たわっていた俺に心配そうな表情で声を掛けてくる。
「はぁ……はぁ……お、おう……なんとか生きてるよ……それよりも、何か使えそうなものは見つかったのか?」
文月を使用する際、咄嗟に魔眼の力を上げた反動で息切れしていた俺は、呼吸を整えながら10m程離れた位置のセイナに問いかける。
「えぇ、とっておきのが……!」
ふふーん!と得意げな表情を作ったセイナは、アタッシュケースから一丁の黒光りする長い銃を取り出した。L96A1────イギリス軍で制式採用されているボルトアクションライフルで、俺が初めてセイナと出会った時、セイナが俺のことを撃った銃だ。
よく見ると、カスタムされているスコープのレンズは玉虫色に光る暗視スコープで、倍率も低から高倍率に操作できるタイプ────昼夜、遠近問わず使える仕様になっている。
「コイツであのスナイパーをアタシが倒すわ!フォルテ、アンタはそこで待ってなさい!」
「お、おい!待てセイナ!?」
まだ警察到着まで数分残っているはずなのに、何故か今の俺を見てから急に熱くなったセイナがトラックの端までタッタッタッ……と駆ける。
────アイツ急にどうしたんだ……?
暗闇のせいで10mくらいしか距離が離れていないにも関わらず、しっかりと表情は見えなかった。だが、そのセイナの口調や行動から、どこか焦りのようなものが混じっていることを俺は感じていた。
そして、まるでそれを肯定するかのように、セイナは俺の呼びかけを無視────いや、本当に聞こえなかったという感じで、持っていたL96A1スナイパーライフルを胸元で構えてからバッ!とトラック横から飛び出した。
「すぅぅぅ……ふぅぅぅ……!」
片膝姿勢の状態で、最大倍率まで上げた暗視スコープでスナイパーを探すセイナは、ゆっくりと息を吸ってから、ゆっくりと吐き出した。そして────
パァァァァン!!
ダァァァァン!!
銃声が二つ、夜の東京に響き渡った。
セイナが俺と同じように耳のインカムに手を当てて尋ねる。
ロナの緊迫した様子から俺だけでなく、セイナの表情にも少しだけ不安の色が混じっていた。
『今さっき、フォルテの知り合いで、今回の仕事の依頼主でもある……小山さん……だっけ?に、スナイパーの件を連絡したら、フォルテ達のところに向かわせた精鋭部隊を東京タワーに送るって言ってたんだよね』
「それの何が問題なんだ?寧ろ好都合じゃないのか?」
その精鋭部隊がどこのことを指しているかは分からなかったが、ここに向かってたということは荒事に多少は慣れているということだろう。下手な警察よりもよっぽど信頼できる。
『それがね、ここからが重要なんだけど……どうもその部隊の代わりに別の部隊がこっちに向かっているらしいんだ。でね、小山さんいわくその部隊はなんか事情があって、ロナ達が仕事をしていることを知らないらしいの!だからもしそこで見つかったら、武器の過剰使用で捕まっちゃうかもって言ってたんだよ!』
「ちょ、ちょっと待ちなさいよロナ!アタシ達のやってる仕事って元々は警察の仕事でしょ!?仮にその部隊がアタシ達のこと知らなくても、ちゃんと事情を話せば捕まるなんてことあるわけないじゃない!」
ロナの言葉にインカム越しに怒鳴るセイナ。
確かにセイナの言う通り、銃刀法が軽くなった日本では明確な理由(自己防衛や射撃場の娯楽、仕事など)があれば銃を撃っても捕まることはまず無い。ましてや今回は警察からの依頼でやっている仕事、その最中に警察に捕まるなんて……そんなマッチポンプ的な話しはありえないだろう。だがそれは、あくまで通常の仕事での話しだ。
「いや、セイナ。今回の仕事は恐らく警察の中でも非公式、または非正規扱いなんだろう。じゃなきゃあの小山さんが俺にわざわざ仕事を振ってくることは無い」
警察では捌けない事件や、彼がよく言う、「部隊の手が回らない」時によく俺に仕事をくれるのだが……アメリカFBIに国際指名手配を食らっている俺が正規の仕事を請け負うと「折角のお得意先が向こうにバレて捕まるのは困る」と、大体9割以上の仕事が非正規か非公開のヤバい案件と言っていた。当たり前だが、国際指名手配に仕事させてホントに大丈夫なのかと、何故か指名手配犯である俺が心配になって小山さんに尋ねたことがあるのだが、彼は「へーきへーき」と、持ち前のひょうきんな性格で軽く流していた。
「小山って、以前、新宿での仕事を振ってきた警察の人よね?一体何者なの?」
「さあな、俺も詳しくは知らないんだ。元々は現場でバリバリ働く人だったらしいんだが、今は管理職に就いて人を動かす立場にあるとかなんとか……一応警察での位は警部って聞いてるけどな……知ってるのはそれくらい……かな?」
荒事慣れした部隊、それを意のままに操る権限を持ち……さらに非公式な仕事も扱うことのできる人物。
見た目は何処にでもいる……それこそ、そこで伸びている武器密輸のお客と変わらない雰囲気のサラリーマンといった感じの人なのだが────確かにセイナの言う通り、小山さんは一体何者なのだろうか……?
と、一瞬思ったが、さっきセイナに伝えた言葉と同じように、それ以上の余計な詮索は止めた。
何でかって?そんな部隊を持つ警察官なんて絶対普通な奴じゃないからだ。
「そんな人とどこで知り合ったのよ?」
曖昧な態度の俺に若干苛立ちを見せるセイナが、得意の片足体重と腕組をしながら、胡散臭そうな顔とジト目をこちらに向けてきた。
怒ったり、顰めたり、ほんとセイナは表情豊かで、喜怒哀楽が激しい奴だな……
「S.T解散後、俺が日本に来た時に身分を偽って警察の高価な仕事受けようとしたことがあったんだが、その時に必要な個人登録ができなかったんだ。その後たまたま牛丼屋で飯食ってる時にその小山さんと出会って、他の警察にばらさないことを条件に仕事をくれるようになったんだ。最初はめちゃくちゃ疑ってたけど、本当に他の警察にはチクってないし、金はきっちり用意してくれるから、俺も別に疑うことは無くなってたんだよね」
「……はぁ……」
俺の話を聞いたセイナは両腰に手を当て、「呆れた」と言わんばかりに深いため息をついた。
その瞳は「よくそんな人を信用していたわね……」と言わんばかりのものだった。
────だからってそんなジト目で俺を睨むなよ……
まあ正直俺も不思議に思っているのだ。小山さんと知り合ってまだ一年ちょいだが、彼が俺に嘘をついているようにはどうも見えないというか、そう感じさせないのだ。
それが性格故か、それとも風貌や表情からなのかは自分でもよく分かってないが────たまにいるだろ?コイツ絶対嘘が下手だよなってヤツとか、ザ天然って感じのヤツ。それと似ている感じな気がした。
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「んーそうだな……セイナ、お前の神の加護と、その新しい神器でもどうにかならないのか?」
アメリカで繰り広げたヨルムンガンドとの戦闘の後、回収した神器、雷神トールの手袋「ヤールングレイプル」を装着した右手を俺は指さした。
セイナは右手の赤銅色の光沢を放つ、金属製の手袋を見つめた。
「確かに最近これのおかげで比較的に神の加護は使いやすくなったけど、そんな都合のいいようなことできないわよ?」
なんでもセイナが言うには、コイツを装着してから今まで困難だった神の加護の操作が飛躍的にやりやすくなったとか。そのおかげで神の加護を使用しても電化製品が壊れないと喜んでいた。
────お前は今までそんな制御不安定な力で俺を追いかけまわし、さらに電撃まで食らわせていたのかと突っこみたかったが、それを言ったらまた追いかけまわされそうなので黙っておく。
『密輸品の中に使えそうなものは残ってないの?』
「中は確認してないから分からないけど、それが一番得策っぽいな。ロナ、合図とともに照明を暗転させろ。俺がスナイパーの注意を引くから、その隙にセイナはトラックから使えるものが無いか探してくれ」
「密輸品って……勝手に使っちゃマズイんじゃないの?アタシ達もそれじゃあ犯罪者に────」
「大丈夫、ここにいれば結局は犯罪者扱い。檻に入るか入らないかの差しかないから気にすんな、よし、そうと決まれば行くぞ!ロナいけるか?」
『ほいよー!いつでも!』
「ちょっ!?まだ心の準備が!?」
俺とロナに勝手に話を進められ、あわわわ!!と慌てた様子のセイナの瞳が泳ぐ。
真面目なセイナは悪いことをすることに関してはかなりウジウジと悩む節がある。前のアメリカに密入国するときもだいぶ渋ったからな。そうなる前に俺はどんどん話しを進めてセイナに余計なことを考える暇を与えさせない。
「暗転!!」
────ダンッ……
電力供給を絶たれた街灯が再び消え、闇夜がコンテナ街を支配した。
────この暗闇の中なら、例え向こうのスナイパーが暗視スコープをつけていたとしても、数瞬はタイミングを逸らすことができるはずだ!
暗闇の中で悪魔の紅い瞳を3倍強化で発動させると、いつもの黒目が紅く染まり俺の瞳がレーザーのように光を放ち、同時に全身を包み込むように紅いオーラが発生する。身体強化の代わりに暗闇でも目立ちやすくなった状態で俺はコンテナの左側から飛び出した。
ダァァァァン!!
銃声とともに赤い銃弾が俺の側頭部を貫こうと放たれるが────ギリギリのところで躱した。
隠れていたコンテナから真横に走る俺の後方を、月明かりに照らされた緋色の銃弾が通り過ぎて────
バリィィィィン!!
さっきと同じように地面に真っ赤な破片を撒き散らし、コンクリートに刃物で切り刻んだかのような無数の傷をつける。
「行け、セイナ!!」
「あーもう!!フォルテのバカァァ!!」
俺の呼びかけに、半ばヤケクソ気味に叫んだセイナがコンテナ裏から飛び出し、最初に俺が撃たれた位置の近くに止めてあった密輸業者のトラックの方に駆けていく。
ダァァァァン!!
再びの銃声────飛び出していったセイナではなく、紅いオーラに包まれた俺を狙った緋色の銃弾は────
「ッ!?」
被弾こそしなかったが、走る俺を抑えるように進行方向のコンクリートの地面が砕け、赤い破片を周囲に撒き散らした。俺は本能的に走ってた足を一瞬だけ止め、先に進むことに躊躇してしまった────
────ヤべッ……!
スナイパーの前で止まっている標的は的同然。当てるのは朝飯前だ。
右眼の悪魔の紅い瞳が横目で見た先────お台場の観覧車と一緒でイルミネーションの施された東京タワーの電飾に混じって、パチ────!と瞬きのような光が走った。
それは、東京のビル街を潜り抜け、遥か2㎞先から飛来してきた死神の一発を前に、俺は左手でHK45を抜いて緋色に輝く銃弾を撃ち抜いた。
だが────空中で激突した赤い銃弾は砕け散って無数の粒子に変異し、真っ赤な血煙のような死の雨を降らせる。
「クソッ!」
止まらない死神の一発に俺は悪態をつきながら、今度は右手で村正改を握り、悪魔の紅い瞳の力を利用して力任せに逆手で振るう。
────月影一刀流、七ノ型
「文月!!」
アメリカで戦ったヨルムンガンドの工作員、神の加護を受ける人物の総称、雷神トールの加護を受けるセイナと同じ祝福者で、魔術師アンブローズ・マーリンの加護を受けているアルシェ・マーリンの攻撃をも防いだこの技は────振るった刀の先に斬撃を飛ばすのが本来の能力だが、俺は上手く扱えないので暴風が起きるだけの技。だが────今回ばかりはそれが功を奏し、赤い死の雨は吹き付けられた暴風を前に左右に分かれ、俺の両サイドのコンクリート地面を、表面のみを鑢でも掛けたかのように軽く抉った。
俺の身体の方にも、その粉塵レベルまで細かくなった赤い銃弾の一部が飛んできたが、文月のおかげで威力が軽減され、尚且つセイナに言われてイヤイヤ着ていた、この戦闘服の防弾性のおかげでなんとか無傷で済んだ。もし、めんどくさがってTシャツ姿で今回の任務をしていたらと考えると、さっきと同じようにゾッとした。コンクリートの表面を軽く抉る威力────生身に当たったら、きっと露出していた皮膚は全部持っていかれていただろう。
────だが、何とか防ぐことができたな……
俺は素早くスナイパーから死角になるコンテナまで再び走り、前転しながら素早く飛び込むと────
「フォルテ!大丈夫!?」
アルミ製箱形のトラックからスタッ────と飛び降り、アタッシュケースを携えたセイナが、息切れして横たわっていた俺に心配そうな表情で声を掛けてくる。
「はぁ……はぁ……お、おう……なんとか生きてるよ……それよりも、何か使えそうなものは見つかったのか?」
文月を使用する際、咄嗟に魔眼の力を上げた反動で息切れしていた俺は、呼吸を整えながら10m程離れた位置のセイナに問いかける。
「えぇ、とっておきのが……!」
ふふーん!と得意げな表情を作ったセイナは、アタッシュケースから一丁の黒光りする長い銃を取り出した。L96A1────イギリス軍で制式採用されているボルトアクションライフルで、俺が初めてセイナと出会った時、セイナが俺のことを撃った銃だ。
よく見ると、カスタムされているスコープのレンズは玉虫色に光る暗視スコープで、倍率も低から高倍率に操作できるタイプ────昼夜、遠近問わず使える仕様になっている。
「コイツであのスナイパーをアタシが倒すわ!フォルテ、アンタはそこで待ってなさい!」
「お、おい!待てセイナ!?」
まだ警察到着まで数分残っているはずなのに、何故か今の俺を見てから急に熱くなったセイナがトラックの端までタッタッタッ……と駆ける。
────アイツ急にどうしたんだ……?
暗闇のせいで10mくらいしか距離が離れていないにも関わらず、しっかりと表情は見えなかった。だが、そのセイナの口調や行動から、どこか焦りのようなものが混じっていることを俺は感じていた。
そして、まるでそれを肯定するかのように、セイナは俺の呼びかけを無視────いや、本当に聞こえなかったという感じで、持っていたL96A1スナイパーライフルを胸元で構えてからバッ!とトラック横から飛び出した。
「すぅぅぅ……ふぅぅぅ……!」
片膝姿勢の状態で、最大倍率まで上げた暗視スコープでスナイパーを探すセイナは、ゆっくりと息を吸ってから、ゆっくりと吐き出した。そして────
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ダァァァァン!!
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薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
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薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
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