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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
戦禍残ル地ヘ1
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『ハハッ!随分と楽しそうに過ごしているようじゃないか?フォルテ』
リビングの一角、オープンキッチンの裏で耳に当てたスマートフォン越しに、電話の主はそのマッチョな体格に似合った豪快な笑い声を上げた。
「他人事のように言いやがって、誰のせいだと思ってるんだ?全く……」
得意のプロレス技や、殴打の嵐によってボロボロになった身体の節々を摩りながら俺はぼやく。
────セイナめ……二日も寝込んでいた病み上がりの人間に首投げとかやるかね普通?
おかげで首や背骨の違和感が半端じゃない……クソ、今度覚えてろよ……次お前が寝てるとき、デコピンじゃなくてその柔らかそうな両頬、泣くまで引っ張ってやるからな……!
と、内心で復讐を誓う俺。当たり前だ。悪いことはしてないはずなのに、濡れ衣でこんなひどい目に遭っているんだからな……
濡れ衣で思い出したが、元はと言えばな────
「お前らがロナをこっちに回したせいで、肉体面だけでなく、精神面までもが辛いんだよ……おかげでどっかのCIA長官さんのように頭が禿げそうだぜ……」
「だが、役立っているのは事実だろ?あと、私は禿げているのではない、自分でスキンヘッドにしているのだ」
と、俺の嫌みに対して少々ズレた返しをしてくるCIA長官ジェイク・ウォルコット。昔からちょっと天然っぽいところがあるんだよな……と思いながら、会話に出てきた問題の人物。落ち着きを取り戻し、服もちゃんと着た状態でPCを操作するロナの方を見た。
服を着たと言っても、相変わらず丈の短い黒のキャミソールと白いショートパンツ。大事なところをギリギリ隠せているだけでさっきと大して変わらないその姿に、それは恥ずかしくないんだ……と首を傾げたくなってしまう。ほんと……何年生きても女性ってやつの考えていることは理解できん……
「まあ、情報面はだいぶな……戦闘面もロアには劣るが、それでも一生懸命頑張ってくれているよ、だがホントにそっちは大丈夫なのか?」
「なんの話だ?」
「なんのって、ロナのことだよ。ホントにアイツを抜いて政府は大丈夫なのか?」
「そのことか……確かに抜けた穴はデカいが、彼女一人で組織が揺らぐほど、我々の組織が軟じゃないことは君もよく分かっているだろう?なにより今回の件は、命令違反による無期限追放処分と言えば聞こえは良くないが、あくまでここ一年ずっと頑張ってもらった彼女に対する休養というのが一番の目的だ。私としては入れ替われなくなったロアの件も気になる。まあ精々心の傷が癒えるまで、大好きな君の元に居させてやってくれ……」
「────大好き……ねぇ……」
本気でロナが俺のことを好きだと思ってなさそうだけどな……
無期限追放という名の長期休暇については、一か月前にロナの話を聞いた後、すぐジェイクに尋ねて知っていた俺はもう驚きこそしないが、まさかホントに長期休暇を与えるとは思ってもいなかった……提案した俺が言うのもあれなんだけどな……
こっちとしてはホントに助かっているから、そっちが大丈夫というならありがたいんだけどな……
「……♪」
ソファーに腰かけ、ノートPCを機嫌良さそうに鼻歌まじりに操作しているロナ。別に無理して仕事しなくてもいいと言っているのに「働かざる者食うべからずだよ!」と意気揚々と仕事している……これじゃあ結局休暇の意味はないのでは……?
本人はあまり気にしていないようなので、今まで俺がやっていた情報収集に関してはだいぶ甘えてしまっている。そのおかげで昨日ようやく、ヨルムンガンド工作員のベルゼ・ラングが残していったPCとスマートフォンの解析が終わったと言っていた。
で、そのことを伝えに昨日、寝込む俺の元に来たらしいが。何かにうなされていた俺を見たロナが何を思ったのか、一緒に添い寝をしてくれていたらしい……全然知らなかったが……
とまあそんな感じで今朝目覚めた時に、ロナが俺を抱き枕代わりにして寝ていたのだが……本来ならば、気持ち的にも肉体的にも嬉しいことのはずだが、セイナで全てが台無し……寧ろマイナスになってしまったけどな……
「で?電話してきた要件は何なんだ?まさか、自分の部下が心配になって電話を掛けたってわけじゃないだろう?ガイフォークスナイト殿?」
「うぐっ……君は嫌なことを思い出させてくれるな……フォルテ……」
さっきの豪快な笑いとは違った苦笑いを漏らすジェイク。
一か月前、俺をFBIから助けてくれたジェイクは、CIA長官であること隠すため、アノニマスリーダーのロナの使っているガイフォークスマスクを被って暴れていたのだが……職員数十人を無力化、かつ俺やCIA職員の牧師を逃がした罪人として、FBIから「ガイフォークスナイト」と命名されて今も行方を捜索されているらしい……
イギリスの風習、ガイフォークスナイト。本来は夜という意味合いだが、剣で戦っていたからガイフォークスナイト。騎士という意味に掛けてそう呼ぶところが少しこじゃれてて、命の恩人に失礼だが、初めて聞いた時は大爆笑もんだった。
「察しのとおり、部下の心配もあったがそれだけじゃない……ようやく、一か月前のテロ事件についてまとめることができたのでな……その報告だ」
「意外に時間が掛かったな……なにかいい情報はあったか?」
「なんとも言えないな……情報はあるがそれが正確かどうかは……」
一か月前のテロ事件でヨルムンガンド工作員のアルシェを捕まえたことにより、多少は良い情報も手に入るものと踏んでいたが、俺の予想と反してジェイクの反応はあまり良いとは呼べるものではなかった。
「まずは牧師についてだ、彼は私が連れ帰って尋問したが、また例の記憶喪失だったよ……事件前日までの記憶はあるが、当日の記憶はまっさらだと言っていた……君が処理した爆弾についても調べたが、スミソニアン博物館から出てきたとしか分かっていない……」
「爆弾もそうだが、神器はどうやって盗み出されたんだ?」
神器「ヤールングレイプル」は最初、スミソニアン博物館の地下にあったはずだが、それを牧師が持ち出したと見せかけて、結局持っていたのはアルシェだった。
「監視カメラ、及び職員の情報も確かではないので絶対ではないが、おそらく爆弾や神器の持ち運びは、君達が対峙した、彩芽と名乗る少女の瞬間移動?でやったのではないかと思われる……憶測だがな……」
「でも、もしそうだとしたら最強じゃないか?仮に、ホントにどこでも瞬間移動できるなら、どんな頑丈な金庫に隠したところで意味ねぇじゃねえか……」
「そう、そこだ……今回一番気になっているところは……」
唸る俺にジェイクはそう言ってから、一呼吸おいて続ける。
「瞬間移動できるのにも関わらず、わざわざミサイル攻撃を誘発してまで金庫の電子ロックを解除させたということが気になる……魔術なのか神の加護とやらかは知らないが、やはりその能力にも条件があるのだろう……それに、盗んでから即退散せず、わざわざリスクを冒してまでセイナ君を勧誘したというところも気になる……彼女に何かあるのか……?」
「……」
まだアメリカ政府に、神の加護を持つセイナについて詳しく話していないので、なんて説明しようか迷っていると────
「あぁ……詳しく話せないならそれはそれで構わないが……あとは、セイナ君達を追ってきたというAHー64Dの操縦員、残念だが彼に関しても牧師と内容はほぼ同じだった……そして最後、アルシェ・マーリンについてだが……」
ゴクリ……と生唾を呑む。
今までの操られた味方とは違い、明確な敵。
それだけにいい情報が入っているといいんだが……
「あまりいい尋問はできず、取れた情報も少なかった……」
「……拷問にかけたのか?」
「おいおい、ジュネーブ条約は君も知っているだろう?」
「それは、あくまでアメリカ国内ならの話だろ……」
俺の指摘に、ジェイクは痛いところを突かれたとばかりに押し黙る。
仮にも俺は元軍人。この手のずる賢いことをすぐ思いつく自分に本当に嫌気がさす……
「正確に言うと、ジュネーブ条約を締結していない国なら関係ないはずだ。それこそ……お隣のメキシコにでも連れてって拷問すれば誰も文句は言わない。北大西洋条約機構加盟国の人間にやるとかなると少々面倒だが、アルシェは身分の知れないテロリスト。死んだところで誰も文句は言わないだろう……」
敵とはいえ、セイナやロナよりも幼いアルシェを縛り付け、拷問にかける様を思い浮かべた自分に吐き気がする。確かに他の人を守るためには必要な犠牲……とはよく言うが……自白剤でも口を割らないからと、人体を破壊する過度な拷問というのは人が人にする行為ではない。それは綺麗ごと、詭弁なのかもしれないけどな……
「君は、本当に拷問にかけるべきだと考えているのか?」
「……いや……と言いたいところだが、幼いとはいえテロを仕掛けたのは事実。今回は死人はこそ出なかったが、次にアルシェの仲間が同じようなことを起こせば大勢死ぬかもしれない……それを未然に防ぐためには……な……普通の人なら必要な犠牲って言うのかもしれないな……」
犠牲……この言葉は俺の中で一位二位を争うくらい嫌いな言葉だ。
喉から絞り出すように、歯と歯を食いしばりながらそう答えた俺……
その言葉を聞いたジェイクは、何故か軽く鼻を鳴らしてからこう告げた。
「ふん、君ならそう答えると思っていたよ……人によっては君のことを非道になれきれないと批判する者もいるかもしれない……だが、君のそういう善意のある人間らしいところが私は好きなんだ……きっとそれはロナも────いや、今はよそう……」
何かを言いかけたジェイクは途中で言葉を切り、軽く咳ばらいを挟みつつ話しを戻す。
「君の言う通り、確かに多少無理すれば拷問は可能だ。だが、私達は連中とは違う。そんなことしなくても、たかだか三億人の同胞くらい守って見せるさ。それに今回は拷問を掛けたくても掛けれない状態だったんだ」
連中……と言ったジェイクの指すものがテロリストではなく、どこのことを言っているのか何となく分かってしまった俺は敢えてそこに突っ込まなかった。
「アルシェに何か言われたのか?」
「情報をしゃべったら死ぬ呪いが掛けられているとな」
「呪いか……」
魔術を駆使した巧妙な言い逃れだな……
いくら最近魔術について一般人の理解が増えたからといって、海の生物が未だに半分以上解明されていないのと一緒で、魔術も未知数な部分はたくさんある。
呪いもその一つだ。かけ方、解き方、種類や効果などは様々で、生物、物、場所、と掛ける場所も様々。
そこらの普通の犯罪者が言うならまだしも、魔術に精通してるっぽいアルシェにそう言われたら、正直下手に喋らすことはできない。ものすごく効果的な一言だな……
「それじゃあ仕方ないな……もし本当なら、下手に自白剤を使ってしゃべらせでもしたら死ぬ可能性があるからな……クソッ……今回もロクな情報は無しか……」
「そうなんだが、二つだけアルシェが気になることを言っていてな……」
「気になること……?」
リビングの一角、オープンキッチンの裏で耳に当てたスマートフォン越しに、電話の主はそのマッチョな体格に似合った豪快な笑い声を上げた。
「他人事のように言いやがって、誰のせいだと思ってるんだ?全く……」
得意のプロレス技や、殴打の嵐によってボロボロになった身体の節々を摩りながら俺はぼやく。
────セイナめ……二日も寝込んでいた病み上がりの人間に首投げとかやるかね普通?
おかげで首や背骨の違和感が半端じゃない……クソ、今度覚えてろよ……次お前が寝てるとき、デコピンじゃなくてその柔らかそうな両頬、泣くまで引っ張ってやるからな……!
と、内心で復讐を誓う俺。当たり前だ。悪いことはしてないはずなのに、濡れ衣でこんなひどい目に遭っているんだからな……
濡れ衣で思い出したが、元はと言えばな────
「お前らがロナをこっちに回したせいで、肉体面だけでなく、精神面までもが辛いんだよ……おかげでどっかのCIA長官さんのように頭が禿げそうだぜ……」
「だが、役立っているのは事実だろ?あと、私は禿げているのではない、自分でスキンヘッドにしているのだ」
と、俺の嫌みに対して少々ズレた返しをしてくるCIA長官ジェイク・ウォルコット。昔からちょっと天然っぽいところがあるんだよな……と思いながら、会話に出てきた問題の人物。落ち着きを取り戻し、服もちゃんと着た状態でPCを操作するロナの方を見た。
服を着たと言っても、相変わらず丈の短い黒のキャミソールと白いショートパンツ。大事なところをギリギリ隠せているだけでさっきと大して変わらないその姿に、それは恥ずかしくないんだ……と首を傾げたくなってしまう。ほんと……何年生きても女性ってやつの考えていることは理解できん……
「まあ、情報面はだいぶな……戦闘面もロアには劣るが、それでも一生懸命頑張ってくれているよ、だがホントにそっちは大丈夫なのか?」
「なんの話だ?」
「なんのって、ロナのことだよ。ホントにアイツを抜いて政府は大丈夫なのか?」
「そのことか……確かに抜けた穴はデカいが、彼女一人で組織が揺らぐほど、我々の組織が軟じゃないことは君もよく分かっているだろう?なにより今回の件は、命令違反による無期限追放処分と言えば聞こえは良くないが、あくまでここ一年ずっと頑張ってもらった彼女に対する休養というのが一番の目的だ。私としては入れ替われなくなったロアの件も気になる。まあ精々心の傷が癒えるまで、大好きな君の元に居させてやってくれ……」
「────大好き……ねぇ……」
本気でロナが俺のことを好きだと思ってなさそうだけどな……
無期限追放という名の長期休暇については、一か月前にロナの話を聞いた後、すぐジェイクに尋ねて知っていた俺はもう驚きこそしないが、まさかホントに長期休暇を与えるとは思ってもいなかった……提案した俺が言うのもあれなんだけどな……
こっちとしてはホントに助かっているから、そっちが大丈夫というならありがたいんだけどな……
「……♪」
ソファーに腰かけ、ノートPCを機嫌良さそうに鼻歌まじりに操作しているロナ。別に無理して仕事しなくてもいいと言っているのに「働かざる者食うべからずだよ!」と意気揚々と仕事している……これじゃあ結局休暇の意味はないのでは……?
本人はあまり気にしていないようなので、今まで俺がやっていた情報収集に関してはだいぶ甘えてしまっている。そのおかげで昨日ようやく、ヨルムンガンド工作員のベルゼ・ラングが残していったPCとスマートフォンの解析が終わったと言っていた。
で、そのことを伝えに昨日、寝込む俺の元に来たらしいが。何かにうなされていた俺を見たロナが何を思ったのか、一緒に添い寝をしてくれていたらしい……全然知らなかったが……
とまあそんな感じで今朝目覚めた時に、ロナが俺を抱き枕代わりにして寝ていたのだが……本来ならば、気持ち的にも肉体的にも嬉しいことのはずだが、セイナで全てが台無し……寧ろマイナスになってしまったけどな……
「で?電話してきた要件は何なんだ?まさか、自分の部下が心配になって電話を掛けたってわけじゃないだろう?ガイフォークスナイト殿?」
「うぐっ……君は嫌なことを思い出させてくれるな……フォルテ……」
さっきの豪快な笑いとは違った苦笑いを漏らすジェイク。
一か月前、俺をFBIから助けてくれたジェイクは、CIA長官であること隠すため、アノニマスリーダーのロナの使っているガイフォークスマスクを被って暴れていたのだが……職員数十人を無力化、かつ俺やCIA職員の牧師を逃がした罪人として、FBIから「ガイフォークスナイト」と命名されて今も行方を捜索されているらしい……
イギリスの風習、ガイフォークスナイト。本来は夜という意味合いだが、剣で戦っていたからガイフォークスナイト。騎士という意味に掛けてそう呼ぶところが少しこじゃれてて、命の恩人に失礼だが、初めて聞いた時は大爆笑もんだった。
「察しのとおり、部下の心配もあったがそれだけじゃない……ようやく、一か月前のテロ事件についてまとめることができたのでな……その報告だ」
「意外に時間が掛かったな……なにかいい情報はあったか?」
「なんとも言えないな……情報はあるがそれが正確かどうかは……」
一か月前のテロ事件でヨルムンガンド工作員のアルシェを捕まえたことにより、多少は良い情報も手に入るものと踏んでいたが、俺の予想と反してジェイクの反応はあまり良いとは呼べるものではなかった。
「まずは牧師についてだ、彼は私が連れ帰って尋問したが、また例の記憶喪失だったよ……事件前日までの記憶はあるが、当日の記憶はまっさらだと言っていた……君が処理した爆弾についても調べたが、スミソニアン博物館から出てきたとしか分かっていない……」
「爆弾もそうだが、神器はどうやって盗み出されたんだ?」
神器「ヤールングレイプル」は最初、スミソニアン博物館の地下にあったはずだが、それを牧師が持ち出したと見せかけて、結局持っていたのはアルシェだった。
「監視カメラ、及び職員の情報も確かではないので絶対ではないが、おそらく爆弾や神器の持ち運びは、君達が対峙した、彩芽と名乗る少女の瞬間移動?でやったのではないかと思われる……憶測だがな……」
「でも、もしそうだとしたら最強じゃないか?仮に、ホントにどこでも瞬間移動できるなら、どんな頑丈な金庫に隠したところで意味ねぇじゃねえか……」
「そう、そこだ……今回一番気になっているところは……」
唸る俺にジェイクはそう言ってから、一呼吸おいて続ける。
「瞬間移動できるのにも関わらず、わざわざミサイル攻撃を誘発してまで金庫の電子ロックを解除させたということが気になる……魔術なのか神の加護とやらかは知らないが、やはりその能力にも条件があるのだろう……それに、盗んでから即退散せず、わざわざリスクを冒してまでセイナ君を勧誘したというところも気になる……彼女に何かあるのか……?」
「……」
まだアメリカ政府に、神の加護を持つセイナについて詳しく話していないので、なんて説明しようか迷っていると────
「あぁ……詳しく話せないならそれはそれで構わないが……あとは、セイナ君達を追ってきたというAHー64Dの操縦員、残念だが彼に関しても牧師と内容はほぼ同じだった……そして最後、アルシェ・マーリンについてだが……」
ゴクリ……と生唾を呑む。
今までの操られた味方とは違い、明確な敵。
それだけにいい情報が入っているといいんだが……
「あまりいい尋問はできず、取れた情報も少なかった……」
「……拷問にかけたのか?」
「おいおい、ジュネーブ条約は君も知っているだろう?」
「それは、あくまでアメリカ国内ならの話だろ……」
俺の指摘に、ジェイクは痛いところを突かれたとばかりに押し黙る。
仮にも俺は元軍人。この手のずる賢いことをすぐ思いつく自分に本当に嫌気がさす……
「正確に言うと、ジュネーブ条約を締結していない国なら関係ないはずだ。それこそ……お隣のメキシコにでも連れてって拷問すれば誰も文句は言わない。北大西洋条約機構加盟国の人間にやるとかなると少々面倒だが、アルシェは身分の知れないテロリスト。死んだところで誰も文句は言わないだろう……」
敵とはいえ、セイナやロナよりも幼いアルシェを縛り付け、拷問にかける様を思い浮かべた自分に吐き気がする。確かに他の人を守るためには必要な犠牲……とはよく言うが……自白剤でも口を割らないからと、人体を破壊する過度な拷問というのは人が人にする行為ではない。それは綺麗ごと、詭弁なのかもしれないけどな……
「君は、本当に拷問にかけるべきだと考えているのか?」
「……いや……と言いたいところだが、幼いとはいえテロを仕掛けたのは事実。今回は死人はこそ出なかったが、次にアルシェの仲間が同じようなことを起こせば大勢死ぬかもしれない……それを未然に防ぐためには……な……普通の人なら必要な犠牲って言うのかもしれないな……」
犠牲……この言葉は俺の中で一位二位を争うくらい嫌いな言葉だ。
喉から絞り出すように、歯と歯を食いしばりながらそう答えた俺……
その言葉を聞いたジェイクは、何故か軽く鼻を鳴らしてからこう告げた。
「ふん、君ならそう答えると思っていたよ……人によっては君のことを非道になれきれないと批判する者もいるかもしれない……だが、君のそういう善意のある人間らしいところが私は好きなんだ……きっとそれはロナも────いや、今はよそう……」
何かを言いかけたジェイクは途中で言葉を切り、軽く咳ばらいを挟みつつ話しを戻す。
「君の言う通り、確かに多少無理すれば拷問は可能だ。だが、私達は連中とは違う。そんなことしなくても、たかだか三億人の同胞くらい守って見せるさ。それに今回は拷問を掛けたくても掛けれない状態だったんだ」
連中……と言ったジェイクの指すものがテロリストではなく、どこのことを言っているのか何となく分かってしまった俺は敢えてそこに突っ込まなかった。
「アルシェに何か言われたのか?」
「情報をしゃべったら死ぬ呪いが掛けられているとな」
「呪いか……」
魔術を駆使した巧妙な言い逃れだな……
いくら最近魔術について一般人の理解が増えたからといって、海の生物が未だに半分以上解明されていないのと一緒で、魔術も未知数な部分はたくさんある。
呪いもその一つだ。かけ方、解き方、種類や効果などは様々で、生物、物、場所、と掛ける場所も様々。
そこらの普通の犯罪者が言うならまだしも、魔術に精通してるっぽいアルシェにそう言われたら、正直下手に喋らすことはできない。ものすごく効果的な一言だな……
「それじゃあ仕方ないな……もし本当なら、下手に自白剤を使ってしゃべらせでもしたら死ぬ可能性があるからな……クソッ……今回もロクな情報は無しか……」
「そうなんだが、二つだけアルシェが気になることを言っていてな……」
「気になること……?」
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