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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
赤き羽毛の復讐者1
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「「「……」」」
ベトナムの街から少し外れた林の中で俺は、そのあまりの衝撃を前に完全に言葉を失っていた。
いや、俺だけじゃない、隣にいるセイナやロナも同様に、開いた口が塞がらないといった様子でそれを見ていた。
事の発端は、俺達が東京からベトナムに着いてからに遡る。
「ふぃ~つっかれた~」
東京から6時間のフライトを終え、ベトナムの首都ハノイに着いた俺達が空港のターミナルに行くと、隣にいたロナが大きな欠伸と伸びをしながらそう呟いた。相変わらず、上半身に着ているのはキャミソールだけなので、伸びをしただけでヘソは丸出しになり、その巨大なマシュマロ二つが薄い布をパツパツに押し上げる様は、見ていて目に毒だ。あと、疲れたって言ってるけど、お前飛行機でずっと寝てただけだろ……口元によだれの跡が残ってるぞ。
「こらっ!たるんでるわよロナ!」
その無意識なセクシーポーズが気に障ったのかどうかは定かではないが、真面目なセイナがピシャリとロナにそう言った。たるんでいるというよりかは、張りすぎているというのが正しいのでは?と口に出しかけたのを俺はなんとか踏み留まる。そんなこと言ったらアルシェの予言通り、俺は即刻ここで死ぬことになるだろう。
「まあいいじゃねーか、作戦はまだ始まってないんだし、気の張り過ぎもかえって消耗するぞ?」
喉まで出かかった言葉を飲み込み、場を和ませようとして俺はセイナの肩をポンポンッと叩きながら軽く微笑む。セイナが俺よりも数十センチ小さいこともあって丁度位置的に叩きやすいな────
「だ・れ・の・せ・い・よ!全く!今回はアメリカ大統領のおかげで入国も楽だったけど、一か月前、一体誰が気を抜いたせいでFBIに追いかけられることになったのかしら……!?」
おっと……あんまりお気に召さなかった様子のセイナの矛先がロナから俺の方に向いた。余計な助け舟出すんじゃなかった……
「あ~あの変装がばれたやつのこと?確かにロナもあれ見たときは笑い堪えるのに必死だったよ~!ダーリン相変わらず変装が下手なんだから!」
やれやれと両手を上げて頭を振るロナ。
その様子にセイナが訝し気な表情を浮かべる。
「アンタあれを見てたの?」
一か月前のワシントンダレス空港に、ICコートで姿を消していたロナが近くにいたこと知らないセイナがそう尋ねた。そのことについて俺は知っていたが、別にわざわざ改まって話すことでもないので、セイナには伝えていなかったのだ。
「見てたよ~子供のお遊戯みたいな二人のやり取りをね」
「ふーん……そう言うアンタは変装が得意そうには見えないけど?」
「アンタよりは上手い自信あるわよ?」
お遊戯と言われて少しイラっとしたセイナの問いに対し、ロナは自信ありげに答えた。セイナの声で。
セイナ本人もそれを聞いて目を大きく見開いた。
「これくらい、フォルテと違って超小型変声器使わなくても簡単にできるわ」
口調まで真似たロナが、セイナの声でドヤ顔する。
実は意外にも、S.Tの中で一番変装が得意なのがロナだ。聞いた本人も驚くほどの変声術もそうだが、なにより観察眼が優れていて、他人の特徴や動作を真似することが得意なのだ。何故得意なのかは知らないが、もしかしたら、二重人格持ちということもあって他人を演じやすいのかもしれない。
「ということで……えい!」
急に背後に回り込んできたロナが俺の両眼を手で覆う。左眼は開いてないんだから右眼だけ抑えればいいのに────じゃなくてッ……!
「な、何してんだよ……ロナ?」
小さなお手てでふさがれた真っ暗な視界の中、俺はロナに言う。セイナもロナが何をしようとしているのか理解できてないのか「……?」と疑問符を表すような声を漏らしていた。
「ねぇ……フォルテ?」
「……ッ!?」
俺の問いかけに、背後からセイナの囁き声が聞こえてくる。
いや、違う!これはセイナの声を真似たロナの声だ!
「いつも、ごめんね……フォルテのしたいこと、今ならなんでもしてあげるから……」
「……うッ……!」
脳では分かっているのに、甘いセイナの声が耳元でさらに呟いた。そのセイナが普段絶対言わない内容のギャップも合わさって、今まで感じたことのない破壊力に俺の顔が熱した中華鍋のように熱くなっていくのを感じた。
────お、落ち着け俺……これはセイナではなく、ロナのまやかしだ……その証拠に……
むにゅんっ……俺の背後から、さっき見た二つのマシュマロの感触が確かにそこにあった。これは……セイナには無い感触だ!直接触ったことは無いけど……俺には分かるぞ!
「────ロォォォォナァァァァ!!!!」
はたから見たらかなりアホな自問自答を心の中でしている俺の横で、再びセイナの真似をしたロナ……ではなく、本物のセイナが地響きしそうなほどの咆哮を上げた。いつも聞くそのセイナの怒号に俺は何故か安心感すら覚える。
「────ちょっ!?セイナ冗談だって……!まさか、王女様がこの程度で怒るなんてこと……ないよね?」
いつもの声に戻っていたロナが、やや引きつった声を上げながら、本物のセイナにそう投げかける。
俺は視界を遮られたままなので、セイナが今どんな顔をしているのかは分からなかったが、とりあえず怒っていることは100パーセント。寧ろどんな顔をしているか?というより、どんな顔で怒っているか?と言った方が正しいのだろう。希望はない。だから、ここ数か月一緒に過ごしてきた俺は、一度怒らせたセイナから逃げることは実質不可能だということを熟知しているので、最近では最小限に怒られる方法を見出すようになっていた。
────この一瞬……セイナが飛び掛かるこの刹那……俺にできることは……!
────ガシッ!グルンッ!
ロナの両手を掴んだ俺が、セイナに背を向けるように身体を捻った。背中のロナを盾にするようにして────
「ちょちょちょ!!フォルテ!?それロナちゃん死んじゃうって!?」
神の裁きを前に、生贄として差し出された銀髪の小悪魔は逃げ出そうと身体をよじるが、ふん!両手を差し出したのが運の尽きだ!俺にがっちり両手を掴まれた状態では逃げ出すことはできない。
「ロナ?王女だって人間よ……?怒るときは怒るわ……」
うん、知ってた。
セイナは得意のバキバキ!!という関節音を拳から響かせ、ゆっくりとこっちに近づいてくる。
だが、気のせいか……バキバキ音に混じってバチバチという音も一緒に聞こえてくるんだが……?
────これは……まさか?
「や、止め────」
俺が悟った時にはもう時すでに遅し、涙声のロナにセイナがソフトタッチし、滅びの言葉を告げた。
「感電して死ねぇッ!!」
俺は、生贄ごと裁きを受けることとなった。
何も悪いこと……してないのに……
ターミナルから空港の外に出てみると、沈みかけた夕日が雲を照らし、暁色の空が広がっていた。時刻を見ると午後6時。東京と時差は2時間しかないのでそこまでの時差ボケは感じなかったが……
「「……」」
髪がぐちゃぐちゃになった俺とロナが、声にならない声を漏らしながらゴロゴロと大きなスーツケースを転がしていく。
身体中に残る針を刺されたかのようなチクチクとした痛み、口から漏れる黒煙、ホントに身体に影響はないのか心配だな……これは……
「あっついわね~ベトナムって今は雨期なんじゃないの?」
まるで何事もなかったかのように、着ていた白いブラウスの胸元をパタパタさせるセイナ。俺のジト目攻撃も完全に無視だ……
数分前、怒ったセイナがロナに繰り出したのは、鉄拳制裁でもプロレス技でもなく、まさかの神の加護による電撃。おかげで俺まで巻き添え食らったってのに……この王女、お構いなしである。今度覚えとけよ……
「雨期と言ってもベトナムは亜熱帯と熱帯の境目にある国だから、基本は暑いよ。ロナ達いる北部はまだ四季があるようだけど、南部の方は常夏、年中暑いと言っても過言じゃないね」
ロナは自分が悪いことしたと自覚があるので、特にセイナに文句を言うことなく、丁寧に地形の説明をしてあげている。なんで普段からそうやって真面目にできないんだよ……真面目過ぎるセイナと不真面目なロナを足して二で割れば多分丁度いいんだろうな……
「へぇー詳しいじゃない?ベトナムには来たことあるの?」
「あるよー数回は!今回みたいに空港から普通に入国したのは初めてかもしれないけどね!」
こらこら、それ過去に何回かS.Tの任務で極秘に訪れた時のことを言っているだろ……
「で?俺達は結局何処に向かえばいいんだ?詳しい話はロナがジェイクから聞いてたんだろ?」
セイナにそのことを話すのはあまり良くないと判断した俺が、話しをすり替えるようにしてロナに尋ねた。
すると────何故かロナは難しい顔をしながら、大きな胸の下で腕を組んだ。
「実はね、詳しい場所についてはロナも聞かされてないのよ」
「「はぁッ!?」」
俺とセイナが同時に叫んだ!
詳しい場所を聞いてない……?おいおい?まじでこのクソ広いベトナムからヨルムンガンドの情報を探せってことじゃないだろうな……?
「はいはいはいはい……そう言いたくなる気持ちは分かる。よーく分かる!だが、最後まで話しを聞いて欲しい……情報漏洩が怖いから、詳しい場所についてはあとから伝えるってジェイクが言っててね、その情報は、フォルテが今持ってるその赤いトランクの中に入っているって言ってたんだよ!」
「俺の持つ……?このアメリカから送られてきたって言ってたスーツケースの中にか?」
なにか文書か?それとも情報を示した電子機器でも入っているんだろうか?
「それってでも、人目のつくとこで開けちゃいけないんでしょ?ここだとちょっとまずいから、どこか別の場所で開けないと……」
タピオカミルクティーに夢中になっていても、話しは聞いていたらしく、ロナが羽田空港で言っていたことをセイナが指摘した。
確かにセイナの言う通り、ここは空港の入り口、人もそこそこいるからどこか別の場所で開けないとならない……
「じゃあ、今日はもう遅いし……どっかホテルを探してその中で開けるとするか」
今回の任務はあくまで調査。特別急ぐ必要はないので、陽も沈みかけている今、無理してこのスーツケースを開ける必要はない。いったん落ち着ける場所で中身を確認するのがベストだと判断した俺がそう二人に言うと、セイナは「そうしましょう」と返事をしたが、ロナは押し黙ったままでいた。
「……?それでいいか?ロナ?」
もう一度呼びかけたが、やはり返事はない……一体どうしたというのか?
「二人は気にならないの?」
びっくりした。俺が顔をのぞいた瞬間急にロナがしゃべりだした……
「何がよ?」
セイナがロナの言葉の意味が分からずにキョトンと首を傾げる。
夕日の暁に照らされ、神々しく輝きを放っていたポニーテールがその動きに合わせてさらさらと肩から滑り落ちた。
その様子を見ていたロナが、何故か顔を伏せてプルプルと肩を震わせていた。
そして────ビシッ!と突然俺の持っていた大きな赤いスーツケースを指さた。
「スーツケースの中身だよ!ここに来るまで開けるなって言うからずぅぅぅと!我慢してたけど、ホテル探すまでなんて待てない!よって、ロナちゃんがそこの適当な林で確認してきます!」
「あ、ロナ!?」
自分のことを、数時間前に「か弱い」と言っていた少女は、俺の持っていた赤いスーツケース、4~50キロあるそれを軽々と持ち、空港の横にあった小さな林の方に持って行ってしまう。
全く……いつまで経ってもそういうところはガキなんだから────
「ギャァァァァッ!!」
呆れていた俺とセイナの耳を劈くような悲鳴が唐突に上がる!
林に向かったロナの悲鳴だった!
俺とセイナは互いに顔を見合わせてから、猛ダッシュでロナの方に向かった。
「何があった!?ロナ!」
草木をかき分け、小さな木々の向こう側、尻もちをついたロナが「あわわわ……」と声を上げながら指さす先────開かれた赤いスーツケースに入っていたには……!
「に、人間……!?」
ベトナムの街から少し外れた林の中で俺は、そのあまりの衝撃を前に完全に言葉を失っていた。
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事の発端は、俺達が東京からベトナムに着いてからに遡る。
「ふぃ~つっかれた~」
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「こらっ!たるんでるわよロナ!」
その無意識なセクシーポーズが気に障ったのかどうかは定かではないが、真面目なセイナがピシャリとロナにそう言った。たるんでいるというよりかは、張りすぎているというのが正しいのでは?と口に出しかけたのを俺はなんとか踏み留まる。そんなこと言ったらアルシェの予言通り、俺は即刻ここで死ぬことになるだろう。
「まあいいじゃねーか、作戦はまだ始まってないんだし、気の張り過ぎもかえって消耗するぞ?」
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「だ・れ・の・せ・い・よ!全く!今回はアメリカ大統領のおかげで入国も楽だったけど、一か月前、一体誰が気を抜いたせいでFBIに追いかけられることになったのかしら……!?」
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やれやれと両手を上げて頭を振るロナ。
その様子にセイナが訝し気な表情を浮かべる。
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セイナ本人もそれを聞いて目を大きく見開いた。
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実は意外にも、S.Tの中で一番変装が得意なのがロナだ。聞いた本人も驚くほどの変声術もそうだが、なにより観察眼が優れていて、他人の特徴や動作を真似することが得意なのだ。何故得意なのかは知らないが、もしかしたら、二重人格持ちということもあって他人を演じやすいのかもしれない。
「ということで……えい!」
急に背後に回り込んできたロナが俺の両眼を手で覆う。左眼は開いてないんだから右眼だけ抑えればいいのに────じゃなくてッ……!
「な、何してんだよ……ロナ?」
小さなお手てでふさがれた真っ暗な視界の中、俺はロナに言う。セイナもロナが何をしようとしているのか理解できてないのか「……?」と疑問符を表すような声を漏らしていた。
「ねぇ……フォルテ?」
「……ッ!?」
俺の問いかけに、背後からセイナの囁き声が聞こえてくる。
いや、違う!これはセイナの声を真似たロナの声だ!
「いつも、ごめんね……フォルテのしたいこと、今ならなんでもしてあげるから……」
「……うッ……!」
脳では分かっているのに、甘いセイナの声が耳元でさらに呟いた。そのセイナが普段絶対言わない内容のギャップも合わさって、今まで感じたことのない破壊力に俺の顔が熱した中華鍋のように熱くなっていくのを感じた。
────お、落ち着け俺……これはセイナではなく、ロナのまやかしだ……その証拠に……
むにゅんっ……俺の背後から、さっき見た二つのマシュマロの感触が確かにそこにあった。これは……セイナには無い感触だ!直接触ったことは無いけど……俺には分かるぞ!
「────ロォォォォナァァァァ!!!!」
はたから見たらかなりアホな自問自答を心の中でしている俺の横で、再びセイナの真似をしたロナ……ではなく、本物のセイナが地響きしそうなほどの咆哮を上げた。いつも聞くそのセイナの怒号に俺は何故か安心感すら覚える。
「────ちょっ!?セイナ冗談だって……!まさか、王女様がこの程度で怒るなんてこと……ないよね?」
いつもの声に戻っていたロナが、やや引きつった声を上げながら、本物のセイナにそう投げかける。
俺は視界を遮られたままなので、セイナが今どんな顔をしているのかは分からなかったが、とりあえず怒っていることは100パーセント。寧ろどんな顔をしているか?というより、どんな顔で怒っているか?と言った方が正しいのだろう。希望はない。だから、ここ数か月一緒に過ごしてきた俺は、一度怒らせたセイナから逃げることは実質不可能だということを熟知しているので、最近では最小限に怒られる方法を見出すようになっていた。
────この一瞬……セイナが飛び掛かるこの刹那……俺にできることは……!
────ガシッ!グルンッ!
ロナの両手を掴んだ俺が、セイナに背を向けるように身体を捻った。背中のロナを盾にするようにして────
「ちょちょちょ!!フォルテ!?それロナちゃん死んじゃうって!?」
神の裁きを前に、生贄として差し出された銀髪の小悪魔は逃げ出そうと身体をよじるが、ふん!両手を差し出したのが運の尽きだ!俺にがっちり両手を掴まれた状態では逃げ出すことはできない。
「ロナ?王女だって人間よ……?怒るときは怒るわ……」
うん、知ってた。
セイナは得意のバキバキ!!という関節音を拳から響かせ、ゆっくりとこっちに近づいてくる。
だが、気のせいか……バキバキ音に混じってバチバチという音も一緒に聞こえてくるんだが……?
────これは……まさか?
「や、止め────」
俺が悟った時にはもう時すでに遅し、涙声のロナにセイナがソフトタッチし、滅びの言葉を告げた。
「感電して死ねぇッ!!」
俺は、生贄ごと裁きを受けることとなった。
何も悪いこと……してないのに……
ターミナルから空港の外に出てみると、沈みかけた夕日が雲を照らし、暁色の空が広がっていた。時刻を見ると午後6時。東京と時差は2時間しかないのでそこまでの時差ボケは感じなかったが……
「「……」」
髪がぐちゃぐちゃになった俺とロナが、声にならない声を漏らしながらゴロゴロと大きなスーツケースを転がしていく。
身体中に残る針を刺されたかのようなチクチクとした痛み、口から漏れる黒煙、ホントに身体に影響はないのか心配だな……これは……
「あっついわね~ベトナムって今は雨期なんじゃないの?」
まるで何事もなかったかのように、着ていた白いブラウスの胸元をパタパタさせるセイナ。俺のジト目攻撃も完全に無視だ……
数分前、怒ったセイナがロナに繰り出したのは、鉄拳制裁でもプロレス技でもなく、まさかの神の加護による電撃。おかげで俺まで巻き添え食らったってのに……この王女、お構いなしである。今度覚えとけよ……
「雨期と言ってもベトナムは亜熱帯と熱帯の境目にある国だから、基本は暑いよ。ロナ達いる北部はまだ四季があるようだけど、南部の方は常夏、年中暑いと言っても過言じゃないね」
ロナは自分が悪いことしたと自覚があるので、特にセイナに文句を言うことなく、丁寧に地形の説明をしてあげている。なんで普段からそうやって真面目にできないんだよ……真面目過ぎるセイナと不真面目なロナを足して二で割れば多分丁度いいんだろうな……
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こらこら、それ過去に何回かS.Tの任務で極秘に訪れた時のことを言っているだろ……
「で?俺達は結局何処に向かえばいいんだ?詳しい話はロナがジェイクから聞いてたんだろ?」
セイナにそのことを話すのはあまり良くないと判断した俺が、話しをすり替えるようにしてロナに尋ねた。
すると────何故かロナは難しい顔をしながら、大きな胸の下で腕を組んだ。
「実はね、詳しい場所についてはロナも聞かされてないのよ」
「「はぁッ!?」」
俺とセイナが同時に叫んだ!
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夕日の暁に照らされ、神々しく輝きを放っていたポニーテールがその動きに合わせてさらさらと肩から滑り落ちた。
その様子を見ていたロナが、何故か顔を伏せてプルプルと肩を震わせていた。
そして────ビシッ!と突然俺の持っていた大きな赤いスーツケースを指さた。
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全く……いつまで経ってもそういうところはガキなんだから────
「ギャァァァァッ!!」
呆れていた俺とセイナの耳を劈くような悲鳴が唐突に上がる!
林に向かったロナの悲鳴だった!
俺とセイナは互いに顔を見合わせてから、猛ダッシュでロナの方に向かった。
「何があった!?ロナ!」
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「に、人間……!?」
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俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
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