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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
バンゾック・フォールズ3
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キーソン川沿いを一時間ほど歩いていくと、そびえ立つ両脇の崖が次第に低くなっていった。途中で密林に入れる道を見つけた俺は、敵と遭遇しないためにも川からその道へと上がる。そこからは、歩きにくいベトナムの密林に大量に生い茂った草木を、身体でかき分けるようにして進んでいた。
スマートフォンは川で壊し、地図はずぶ濡れで読むことができない。自分が今どこにいるかも、そもそも向かっている方向がこっちであっているのかも分からない……同じような密林の景色が続いていく。川沿いを歩くという方法もあるが、元の場所には確実に戻れる分、敵との遭遇率もほぼ百パーセントと考えると、リスクが大きすぎる。川の近くを歩いても同じだ。かといって、川から離れすぎていても、進むべき方向が分からなくなってしまう。だから川から遠すぎず近すぎず、適切な距離をキープしながら辺りを警戒し、泥や枝、葉っぱや水たまりなど、足音を極力鳴らさないよう気をつけながら移動するというのは、なかなかに集中力を使う。それに加え、背中には気を失ったアイリス、話し相手や協力してくれる仲間もいない。今朝、セイナ達と山を登った時をハイキングと例えるなら、今は特殊部隊の行軍と同じと言っても過言ではないだろう。セイナ達と合流する、安全な場所に避難するといった曖昧な目的しか定まっていない分、寧ろ今の方が通常の行軍よりもキツイかもしれない。
鬱陶しい虫を手で払い、熊や虎といった猛獣にも注意を怠らない。仮に遭遇したとしても勝てなくはないが、戦闘した際の音を聞きつけて、例の兵士が駆け付ける可能性は捨てきれない。
せめて、もう一人頼れる仲間がいればだいぶ変わるんだけどな……
脳裏に浮かぶ金髪のポニーテールの少女。負傷者を押し付けてしまったが、二人は無事だろうか……慣れない密林の中での移動、頼れる仲間もいない状況ではどうしても不安に陥りやすく、負の感情ばかりが脳裏を過ってしまう。そんな俺の心象を感じ取ったのか、さっきまで目が覚めるような快晴な空が、見る見るうちに曇っていき、
────ポタ……ポタ……
ついには大粒の雨が、ネガティブになっていた俺の精神に追い打ちをかけるように降り注いだ。
流石は雨期真っ只中のベトナムだ。数日前に日本の東京タワーで小川さんと話したときの物とは比べ物にならない、まるで、スプリンクラーに直接身体を近づけていると錯覚するレベルの豪雨だった。これが砂漠でなら恵みの雨と言ったかもしれない。しかしここは高温多湿のジャングル。こうも運が悪いとため息すら出なくなってくるな……
俺はとりあえず、着ていた八咫烏を、合羽のようにアイリスの上から羽織り直した。視界がさらに悪くなった密林を歩く俺の感情は、気がつけば修行僧の座禅や滝打ちのような「無」へと昇華していた。「無」というよりも、本当は感覚が麻痺していたのかもしれないが、さっきまで気になっていた、踏み出すたびに靴の中に広がる生暖かい嫌な感触や、雨で張り付く服や髪の感覚に、いちいち感情を抱くようなことは無くなり、ただ黙々と歩みを進めること数時間。
「────これは……洞窟か?」
密林が途切れた先、突如現れた数十メートルはある岩壁と、歪な三角形のような入り口の洞窟。
遠くの景色すら、広葉樹で遮られていた為、ここに来るまで全く気づかなかったが。どうやらここは密林の中にある山の斜面と、そこにできた自然の洞窟らしい。
「雨が止むまでここで休憩するか……」
独り言ちながら、俺はアイリスを背負ったままその洞窟に入っていく。
入り口付近が小さな下りの傾斜になっているおかげで水は入ってきてない。中は薄暗くはあるが、そこまで深い洞窟ではないようで、行き止まりが七、八メートル先に見える。洞窟の高さが三、四メートルある分圧迫感は感じないが、天井などには鍾乳洞やコウモリといった生物は見られない。どうやら比較的最近できた洞窟のようだった。今の俺達にとってこれ以上ない安全な場所だ。
「どっこいしょ……!」
近くにあった手ごろな平たい岩にアイリスを下ろしてから、俺は着ていた服を脱ぎつつ適当に絞った。
スポンジのように、繊維に蓄えられた雨水が地面へと溢れ出す中、濁流のように降り注ぐ雨を眺めていた。
流石に濡れたままずっと過ごすのは精神的に辛い。晴れていれば服なんてすぐに乾くだろうけど、この雨じゃなぁ……
乾かす手段としては、火を起こすという手段も無くはない。洞窟内の酸素と敵に火の煙がバレないようにさえ気を付ければ何ら問題はない。だが、根本的に火をつけるための道具が不足していた。
着火源は銃弾があるのでまあ何とかなるだろうけど、問題は可燃物だ。火種があっても燃やすものが無いとな……
外は雨が降っていて、燃せるような乾燥した植物はほぼ皆無だろう。小さな木を切ってくるという方法もあるが、生木は水分を多く含んでいるため、上手く燃すことができない。せめて乾燥させるか、ある程度の火種で燃さないと、火がつくことは無い。
「弱ったな……」
こういう時、魔術が使えれば楽なんだけどな……
簡単な術が使えなくても、今時はコンビニのライター感覚で、簡易の魔術式が組み込まれた札。呪符や護符を購入できる。その効力も様々で、少量の水を生成したり、簡単な火を起こしたりと、化学でも出来そうなものが多いが、それでも需要があるのは、軽くて携行しやすいという点が大きいのだろう。
紙きれ一枚あれば水でも火でも起こせるため、本来必要なペットボトルやライターといった道具を持ち運ぶ必要が無いのと、護符に書かれた術式が消えない限りは使用期限が無い。使ってしまえば魔術の塊である護符も消えるのでゴミも出ないと、意外に利点はある。
まあ、そんな都合のいい物、今はなんて持ってないんだけどな……
俺自身は魔術に疎く、魔眼も所有するまでの過程は大変だったが、一度持ってしまえば発動に関して苦労することがないので、ほぼ素人と言っても過言ではないレベル。若い学生でも今時は魔術を使える時代だってのに、情けない限りだ。
でも、嘆いてたって仕方ない……今はとにかく火を起こせる方法を……
狭い洞窟内を見渡してみると、乾燥したサラサラの砂の地面に、葉っぱが少しだけ散乱している。集めても両手一杯分くらいの大した量にはならないし、普通の葉っぱは意外にも火がつきにくかったりする。せめて、もう少し燃せるものがあれば……
「あっ……」
燃やせそうなものがあった。
視線の先、岩の上で無防備な状態で寝そべるアイリス。その口元に巻かれた甘栗色のマフラーはアクリル素材の物だ。さっき触ったので間違いないだろう……アクリルは、プラスチックの中では一番燃えやすい素材なので、ある程度振り回して乾かせば、火がつかないこともないが……
────いや、ダメだ。
マフラーの下に隠れたアイリスの秘密を知ってしまったからには、断りも得ずに燃やすというのは流石にまずいだろう。だとすると、あと残っている手段と言えば────
「……やっぱり、外に探しに行くしかないか……」
洞窟の外、バケツの水をひっくり返したかのような豪雨の中、腹を決めた俺は火おこしに必要な道具を探すため、アイリスを残して勢いよく飛び出していった。
一人で走るベトナムの密林はとても寒かった。
さっきまで気づかなかったが、アイリスが背中にいた時の重みと、一緒に感じていた温かみがまるでなかった。
ほぼ直に背中を殴りつけてくる雨は、飛び込んだ時に感じたキーソン川の水流や、アメリカで対峙したアルシェの氷魔法なんか非にならないくらいに冷たく感じた。
襲い掛かってきたのは寒さだけではない。
雨が降ったことで地面のぬかるみがひどくなり、沼のような場所が増え、腰まで泥につかるなんてこともあった。さらには沼の中に入れていた足に痛みを感じて見てみると、潜んでいたヒルに噛まれて血を吸われているなんてこともあった。持っていた小太刀で追い払いながら、雨の中の密林で燃えるものを探していた俺は、ようやく目的の植物を見つけた。
綺麗な深緑のカーテンのように天へと生える、立派な竹藪だ。
日本でも割と見慣れた植物の竹だが、俺はその中でも、抹茶のような濃緑色の元気なもの……ではなく、
「あった……」
無感情に呟く俺の前にあったのは、枯れた竹藪だ。
竹という植物は基本的に一回花を咲かせると枯れる植物だ。そして、一度枯れてしまえば水分が抜けて茶色く乾燥する。多少雨に漬かっていたとしても、使い方次第で燃やすことは可能だ。
「……ん……?」
枯れた竹を入手しようとした俺は、なにか引っかかりのような違和感を感じた。
茶色くなっていた竹の中に数本、明らかに人の手が入った形跡が残されていた。
最初はイノシシか何かの動物の仕業かと思ったが、鋭利な斜めに切断された竹は、どう考えても人の仕業だろう……
誰かがここの竹を持っていったのか……?
一般人はここ一帯を立ち入り禁止にされているため、あと考えられるとしたら例の兵士くらいだが……あの兵士達も野営しているのだろうか……
可能性としては捨てきれない。俺は必要な物だけ回収し、なるべく痕跡がバレないように注意しながら竹藪をあとにした。道中迷わないように木に付けていた印を頼りに、使えそうなものを両手いっぱいに抱えた俺は、土砂降りの中、なんとか洞窟に戻ることできた。
平たい岩の上には、アイリスが未だにぐーすかぐーすかと、呑気な寝息を立てていた。あれだけ全身ずぶ濡れなのに、寝づらくないのか?
ジト目で睨む俺などお構いなしに、最初にトランクに詰まっていた時のように、身体を丸めて寝るアイリス。あそこまで豪快に寝られると、呆れを通り越していっそ清々しい。
寝ると言えば、居眠り運転中も────
「……ボクは……基本は寝てないと……ダメ……薬も……配分を考慮しないと……ダメ……」
みたいなこと言ってたな確か……どんな体質なのかは知らないが、基本寝ていることがアイリスにとっての基本状態なのかもしれないな。
ブースタードラッグを打つのはおそらく、戦闘などで瞬間的に活性化する必要があるとき。中国のスナイパーとの戦闘で使っていたからそれは間違いないだろう……
それよりも、アイリスのパートナーの仇である中国スナイパー……それと、忘れもしないあの緋色の銃弾。まさか、俺とセイナを港区のコンテナ街で狙撃してきたあの魔術弾使いのスナイパーが、アイリスの追う仇と同一人物とはな……死体が見つかってないことから、死んだとは思ってなかったが、まさかこんなところで再び出会うとは……
どういう巡り合わせかは知らないが、あながちアメリカがマークしていた工場とやらも、的外れってわけではないらしいな……
肩を竦めた俺は、持ち帰った道具を使って火おこしに取り掛かった。
気になることはたくさんあるが、今は目の前のことをこなしていくしかない。
キャンプなんて全くやらない俺にとって、火おこしなんて軍隊以来だ。アイリスが目覚めたのは、苦戦しながらもなんとか火を起こせた頃、大雨が降るネズミ色の空が、真っ暗闇に染まっていたくらいだった。俺が洞窟を飛び出してから数時間後のことである。
スマートフォンは川で壊し、地図はずぶ濡れで読むことができない。自分が今どこにいるかも、そもそも向かっている方向がこっちであっているのかも分からない……同じような密林の景色が続いていく。川沿いを歩くという方法もあるが、元の場所には確実に戻れる分、敵との遭遇率もほぼ百パーセントと考えると、リスクが大きすぎる。川の近くを歩いても同じだ。かといって、川から離れすぎていても、進むべき方向が分からなくなってしまう。だから川から遠すぎず近すぎず、適切な距離をキープしながら辺りを警戒し、泥や枝、葉っぱや水たまりなど、足音を極力鳴らさないよう気をつけながら移動するというのは、なかなかに集中力を使う。それに加え、背中には気を失ったアイリス、話し相手や協力してくれる仲間もいない。今朝、セイナ達と山を登った時をハイキングと例えるなら、今は特殊部隊の行軍と同じと言っても過言ではないだろう。セイナ達と合流する、安全な場所に避難するといった曖昧な目的しか定まっていない分、寧ろ今の方が通常の行軍よりもキツイかもしれない。
鬱陶しい虫を手で払い、熊や虎といった猛獣にも注意を怠らない。仮に遭遇したとしても勝てなくはないが、戦闘した際の音を聞きつけて、例の兵士が駆け付ける可能性は捨てきれない。
せめて、もう一人頼れる仲間がいればだいぶ変わるんだけどな……
脳裏に浮かぶ金髪のポニーテールの少女。負傷者を押し付けてしまったが、二人は無事だろうか……慣れない密林の中での移動、頼れる仲間もいない状況ではどうしても不安に陥りやすく、負の感情ばかりが脳裏を過ってしまう。そんな俺の心象を感じ取ったのか、さっきまで目が覚めるような快晴な空が、見る見るうちに曇っていき、
────ポタ……ポタ……
ついには大粒の雨が、ネガティブになっていた俺の精神に追い打ちをかけるように降り注いだ。
流石は雨期真っ只中のベトナムだ。数日前に日本の東京タワーで小川さんと話したときの物とは比べ物にならない、まるで、スプリンクラーに直接身体を近づけていると錯覚するレベルの豪雨だった。これが砂漠でなら恵みの雨と言ったかもしれない。しかしここは高温多湿のジャングル。こうも運が悪いとため息すら出なくなってくるな……
俺はとりあえず、着ていた八咫烏を、合羽のようにアイリスの上から羽織り直した。視界がさらに悪くなった密林を歩く俺の感情は、気がつけば修行僧の座禅や滝打ちのような「無」へと昇華していた。「無」というよりも、本当は感覚が麻痺していたのかもしれないが、さっきまで気になっていた、踏み出すたびに靴の中に広がる生暖かい嫌な感触や、雨で張り付く服や髪の感覚に、いちいち感情を抱くようなことは無くなり、ただ黙々と歩みを進めること数時間。
「────これは……洞窟か?」
密林が途切れた先、突如現れた数十メートルはある岩壁と、歪な三角形のような入り口の洞窟。
遠くの景色すら、広葉樹で遮られていた為、ここに来るまで全く気づかなかったが。どうやらここは密林の中にある山の斜面と、そこにできた自然の洞窟らしい。
「雨が止むまでここで休憩するか……」
独り言ちながら、俺はアイリスを背負ったままその洞窟に入っていく。
入り口付近が小さな下りの傾斜になっているおかげで水は入ってきてない。中は薄暗くはあるが、そこまで深い洞窟ではないようで、行き止まりが七、八メートル先に見える。洞窟の高さが三、四メートルある分圧迫感は感じないが、天井などには鍾乳洞やコウモリといった生物は見られない。どうやら比較的最近できた洞窟のようだった。今の俺達にとってこれ以上ない安全な場所だ。
「どっこいしょ……!」
近くにあった手ごろな平たい岩にアイリスを下ろしてから、俺は着ていた服を脱ぎつつ適当に絞った。
スポンジのように、繊維に蓄えられた雨水が地面へと溢れ出す中、濁流のように降り注ぐ雨を眺めていた。
流石に濡れたままずっと過ごすのは精神的に辛い。晴れていれば服なんてすぐに乾くだろうけど、この雨じゃなぁ……
乾かす手段としては、火を起こすという手段も無くはない。洞窟内の酸素と敵に火の煙がバレないようにさえ気を付ければ何ら問題はない。だが、根本的に火をつけるための道具が不足していた。
着火源は銃弾があるのでまあ何とかなるだろうけど、問題は可燃物だ。火種があっても燃やすものが無いとな……
外は雨が降っていて、燃せるような乾燥した植物はほぼ皆無だろう。小さな木を切ってくるという方法もあるが、生木は水分を多く含んでいるため、上手く燃すことができない。せめて乾燥させるか、ある程度の火種で燃さないと、火がつくことは無い。
「弱ったな……」
こういう時、魔術が使えれば楽なんだけどな……
簡単な術が使えなくても、今時はコンビニのライター感覚で、簡易の魔術式が組み込まれた札。呪符や護符を購入できる。その効力も様々で、少量の水を生成したり、簡単な火を起こしたりと、化学でも出来そうなものが多いが、それでも需要があるのは、軽くて携行しやすいという点が大きいのだろう。
紙きれ一枚あれば水でも火でも起こせるため、本来必要なペットボトルやライターといった道具を持ち運ぶ必要が無いのと、護符に書かれた術式が消えない限りは使用期限が無い。使ってしまえば魔術の塊である護符も消えるのでゴミも出ないと、意外に利点はある。
まあ、そんな都合のいい物、今はなんて持ってないんだけどな……
俺自身は魔術に疎く、魔眼も所有するまでの過程は大変だったが、一度持ってしまえば発動に関して苦労することがないので、ほぼ素人と言っても過言ではないレベル。若い学生でも今時は魔術を使える時代だってのに、情けない限りだ。
でも、嘆いてたって仕方ない……今はとにかく火を起こせる方法を……
狭い洞窟内を見渡してみると、乾燥したサラサラの砂の地面に、葉っぱが少しだけ散乱している。集めても両手一杯分くらいの大した量にはならないし、普通の葉っぱは意外にも火がつきにくかったりする。せめて、もう少し燃せるものがあれば……
「あっ……」
燃やせそうなものがあった。
視線の先、岩の上で無防備な状態で寝そべるアイリス。その口元に巻かれた甘栗色のマフラーはアクリル素材の物だ。さっき触ったので間違いないだろう……アクリルは、プラスチックの中では一番燃えやすい素材なので、ある程度振り回して乾かせば、火がつかないこともないが……
────いや、ダメだ。
マフラーの下に隠れたアイリスの秘密を知ってしまったからには、断りも得ずに燃やすというのは流石にまずいだろう。だとすると、あと残っている手段と言えば────
「……やっぱり、外に探しに行くしかないか……」
洞窟の外、バケツの水をひっくり返したかのような豪雨の中、腹を決めた俺は火おこしに必要な道具を探すため、アイリスを残して勢いよく飛び出していった。
一人で走るベトナムの密林はとても寒かった。
さっきまで気づかなかったが、アイリスが背中にいた時の重みと、一緒に感じていた温かみがまるでなかった。
ほぼ直に背中を殴りつけてくる雨は、飛び込んだ時に感じたキーソン川の水流や、アメリカで対峙したアルシェの氷魔法なんか非にならないくらいに冷たく感じた。
襲い掛かってきたのは寒さだけではない。
雨が降ったことで地面のぬかるみがひどくなり、沼のような場所が増え、腰まで泥につかるなんてこともあった。さらには沼の中に入れていた足に痛みを感じて見てみると、潜んでいたヒルに噛まれて血を吸われているなんてこともあった。持っていた小太刀で追い払いながら、雨の中の密林で燃えるものを探していた俺は、ようやく目的の植物を見つけた。
綺麗な深緑のカーテンのように天へと生える、立派な竹藪だ。
日本でも割と見慣れた植物の竹だが、俺はその中でも、抹茶のような濃緑色の元気なもの……ではなく、
「あった……」
無感情に呟く俺の前にあったのは、枯れた竹藪だ。
竹という植物は基本的に一回花を咲かせると枯れる植物だ。そして、一度枯れてしまえば水分が抜けて茶色く乾燥する。多少雨に漬かっていたとしても、使い方次第で燃やすことは可能だ。
「……ん……?」
枯れた竹を入手しようとした俺は、なにか引っかかりのような違和感を感じた。
茶色くなっていた竹の中に数本、明らかに人の手が入った形跡が残されていた。
最初はイノシシか何かの動物の仕業かと思ったが、鋭利な斜めに切断された竹は、どう考えても人の仕業だろう……
誰かがここの竹を持っていったのか……?
一般人はここ一帯を立ち入り禁止にされているため、あと考えられるとしたら例の兵士くらいだが……あの兵士達も野営しているのだろうか……
可能性としては捨てきれない。俺は必要な物だけ回収し、なるべく痕跡がバレないように注意しながら竹藪をあとにした。道中迷わないように木に付けていた印を頼りに、使えそうなものを両手いっぱいに抱えた俺は、土砂降りの中、なんとか洞窟に戻ることできた。
平たい岩の上には、アイリスが未だにぐーすかぐーすかと、呑気な寝息を立てていた。あれだけ全身ずぶ濡れなのに、寝づらくないのか?
ジト目で睨む俺などお構いなしに、最初にトランクに詰まっていた時のように、身体を丸めて寝るアイリス。あそこまで豪快に寝られると、呆れを通り越していっそ清々しい。
寝ると言えば、居眠り運転中も────
「……ボクは……基本は寝てないと……ダメ……薬も……配分を考慮しないと……ダメ……」
みたいなこと言ってたな確か……どんな体質なのかは知らないが、基本寝ていることがアイリスにとっての基本状態なのかもしれないな。
ブースタードラッグを打つのはおそらく、戦闘などで瞬間的に活性化する必要があるとき。中国のスナイパーとの戦闘で使っていたからそれは間違いないだろう……
それよりも、アイリスのパートナーの仇である中国スナイパー……それと、忘れもしないあの緋色の銃弾。まさか、俺とセイナを港区のコンテナ街で狙撃してきたあの魔術弾使いのスナイパーが、アイリスの追う仇と同一人物とはな……死体が見つかってないことから、死んだとは思ってなかったが、まさかこんなところで再び出会うとは……
どういう巡り合わせかは知らないが、あながちアメリカがマークしていた工場とやらも、的外れってわけではないらしいな……
肩を竦めた俺は、持ち帰った道具を使って火おこしに取り掛かった。
気になることはたくさんあるが、今は目の前のことをこなしていくしかない。
キャンプなんて全くやらない俺にとって、火おこしなんて軍隊以来だ。アイリスが目覚めたのは、苦戦しながらもなんとか火を起こせた頃、大雨が降るネズミ色の空が、真っ暗闇に染まっていたくらいだった。俺が洞窟を飛び出してから数時間後のことである。
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ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
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