SEVEN TRIGGER

匿名BB

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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》

暁に染まる巨人《ダイド イン ザ ダウン》17

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「がはっ!!」

 左側の背中を中心に信じられない程の激痛が走る。後頭部も一緒に打ったのか?痺れるような痛覚が脳内から全身へ駆け巡り、あまりの痛みに眼を開けることさえできない。

『……フォ……ル……テ……!』

 インカム越しにセイナの呼びかけが聞こえたような気がしたが、平衡感覚、聴覚ともに狂った状態の俺にはそれを判別することさえできずにいた。
 何かに引っ張られるよう身体が前へと倒れると、冷たく湿った感触が全身に伝わる。痛みで火照った身体には丁度いい保冷剤アイシングだ。おかげでちょっとだけ頭も回るようになり、ようやく今の自分の状況に気付いた。どうやら俺はサッカーボールのように蹴り飛ばされ、数十メートル離れた更地を囲うコンクリートの塀に衝突したらしい……そのあと壁にめり込んでいた身体が重力に引っ張られ、今はうつ伏せの状態で地面に倒れているようだった。
 幸い衝突寸前まで魔眼の能力で身体を強化していたおかげで、常人なら死ぬほどを衝撃を、肋骨あばらぼね数本と左上腕、肩の全てが大小様々の骨折した程度で済み、感覚が無いが動けなくはない……死ぬほど痛いのを我慢すれば。
 息を殺し、回復しきっていない身体が動けるようになるのを待つ俺の数十メートル先では、セイナが一人でグリーズと交戦を繰り広げていた。
 だがその姿勢はさっきのような好戦的なものではなく、腕や脚の範囲外から銃で牽制しつつ逃げながら隙を伺う消極的な戦法だった。
 最初は鈍重どんじゅうな相手と無意識のうちにたかくくっていたが、曲芸的アクロバティックな動きとレーザービームを見せられ、さらに仲間を二人失った今、そうなってしまうのは致し方ない。
 チャップリン、いやボブ・スミス。奴も何もできないポンコツと思っていたが、機械操作や魔術に関する知識は明らかに素人じゃない……腐ってもFBI副所長、その地位に君臨するだけ力を隠し持っていたらしい。

「……クッ!」

 抗戦するセイナの表情にもかげりの色が濃くなってくる。ここまでたった一人でもグリーズの猛攻を防げているのは、そのたぐいまれた攻撃センスを持つセイナだからこそではあるが、だからと言って戦況を覆せるほどグリーズもやわではない。
 後方へ後方へ逃げていくセイナも遂に、俺とは反対側の塀に追い詰められてしまう。

『終わりだぁぁぁ!!!!』

 グリーズが左腕を真後ろに振りかぶった。左フックで塀ごとセイナを薙ぎ払おうとしているらしい。
 塀を背にしたセイナは逃げようとしなかった。いや!?それどころか果敢にもグリーズの正面へと飛び出した!

Thunderサンダー roarロア!!」

 ここだ!と言わんばかりにブルーサファイアの瞳を見開き、両手を地面へと着けた。金髪のポニーテールが声量と一緒に逆立ち、暗闇に包まれてた地面が青白い電流をほとばしらせる中、晴天のような眩き日光を連想させる、強大な雷柱五本がグリーズを飲み込んだ。

『グァッ!?』

 一か月前に手に入れた神器「ヤールングレイプル」と日々の鍛錬の甲斐あって、以前よりも格段に電撃の扱いに慣れたセイナの攻撃。それに狼狽えたチャップリンの声に合わせ、グリーズが人間のような動きで頭部を両手で覆う。
 レーザービームに及ばなくとも車程度なら丸焦げにできる、強力な威力を誇る攻撃を当てたセイナが技の反動から立ち直り、壁際からの離脱を試みようとした。
 だが────

「う、嘘……!?」

 ブルーサファイアの瞳が目の前の光景に眼をみはる。
 今のセイナが出せる最大級の大技を食らったグリーズはほぼ無傷の状態だった。

「────きゃッ!?」

 動揺から隙が生まれてしまったセイナをグリーズが無造作に右手で掴み取る。

『全く……肝を冷やしたが電撃で助かったよ……』

「は、離せッ……このッ……!」

 腰から下を握られたセイナが、両手を使って大きな右手をこじ開けようとするが、グリーズの拘束から逃れることはできない。

『グリーズはの雷神トールの加護のおかげで、電撃には態勢があるんだ……セイナ・A・アシュライズ……』

 その言葉を聞いて、俺とセイナが驚愕を露わにする。
 コイツ……セイナのことを知っていたのか……!?

「どうしてアタシの名前を……!?」

『知っているさ、貴様が雷神トールの神器を探し回っていることも、ヨルムンガンドを追いかけていることも、そして……貴様が自分の父親を捜していることもな……!だがな、これだけはハッキリ言ってやろう。貴様が今やっていることは全て無駄な行為だ!』

 片手で握ったセイナを見下ろすように、グリーズが罵声を浴びせる。

「な、何を根拠に……アンタにそんなこと言われる筋合い無いわ!!」

 急に頭ごなしに言われたセイナが当惑を隠せないままチャップリンに反論する。
 表情だけじゃない……何故チャップリンがそのことについて知っているのか、その異常性にすら気づいていない様子だった。

「根拠も何も、知っているのさ……何故、その上で私は貴様のやっている行為が無駄だと言っているのだ!!」

 それを聞いたセイナが反論する言葉を失って唇噛む姿に、チャップリンがスピーカー越しに高笑いを上げた。勝ち誇ったかのように狂喜するグリーズの手の中で、セイナは抵抗する気力すら失ってしまったようにグッタリとしてしまった。

『ハッ!ハッ!ハッ!……貴様のような無駄な存在は!このクソみたいな工場で男の玩具おもちゃになっている方がお似合いだ!何なら今からここで私がしてやっても────』

 バァァァァン!!バァァァァン!!

 その不快な声を遮るように、銃弾がグリーズの身体に軽い火花を散らした。
 鋼鉄の巨人がゆっくりと背後────俺の方に振り返った。

『なんだ……まだ生きていたのか?フォルテ・S・エルフィー……』

 俺がまだ生きていることに気づいたチャップリンが、少しだけ嬉しそうな声を上げる。

「……ハァ……ハァ……お前ごときが……セイナのことを……笑う死角はない……」

 体力はまだ回復しきっていない……それでも銃を撃たずにはいられなかった。
 俺が小声でそう呟きながらゆっくりと立つ血濡れた姿に、インカム越しにそれが聞こえたらしいセイナの瞳にも、若干の光が戻る。それにしてもテェな……チクショウ……下手したら脚の方も何本か折れてるんじゃないか……これ?

『……死んだふりをしていれば気づかなかったものを……相変わらず愚かな奴だ……!』

 確かにチャップリンの言う通り、黙って寝ておけばもう少し時間を稼げたかもしれない……

「……フォルテ……逃げて……」

 グリーズの手の中で、何とか声を絞るようにそう告げるセイナ。
 はぁ……たくっ……女性にか弱い表情でそんなこと言われたら、男なら余計に逃げられるわけないだろ?

「テメェが何を知っているかなんて……そんなことはどうでもいい……」

 グリーズがゆっくりとこっちに近づいてくる音がする。

「テメェみたいな愚鈍な奴が……セイナの覚悟を……笑っていいはずがない……」

 十五歳の少女が父の為に見知らぬ土地に赴き、世界規模の組織に戦いを挑むことなど、並大抵の覚悟で成り立つわけがない。そんなセイナの姿をずっと近くで見てきた俺は、そのことを一番理解している。だからこそ断言できる。

『あーあ……瀕死じゃないか……頼みの魔眼左眼も昨日からの曇り空で使えない貴様など、おもしろくも何ともない』

「……止めて……」

 懇願するセイナの声など耳にも入っていないグリーズが、俺の目の前にそびえ立ち、その巨大な身体を支える極太な脚を振り上げた。

『大人しく死ね、フォルテ・S・エルフィー……!!』

「……止めてェェェェ!!!!」

 金切り声を合図に振り下ろされるグリーズの脚。抵抗どころか逃げることさえ出来なかった俺を照らす、闇より深い影が徐々に濃くなっていく。
 あーあ……なーんで黙って寝てなかったんだよ……俺……
 頬を伝って顎から垂れる血を見つめながら、俺は心の中でそうボヤいて笑う。
 よくよく考えてみると、俺の挑発なら幾らでも我慢できそうだが、何故かセイナへの挑発はどんなに軽くても流せる気がしなかった。なんでだよ……
 いや、分かってる。多分それくらい……セイナが俺にとって大切な存在になっていたってことか……
 ならもっと、守ってやりたかったな……

「……ごめんな……」

 短くそう告げた俺の頭上に、グリーズのゴツゴツした滑り止めスパイク状の足裏が接触した。

「────────あれ?」

 痛みは感じなかった。死ぬとやっぱり感じないのか?と右眼を開けると不思議なことにまだ生きていた。つーか踏まれた痛みは無くても、塀に衝突した痛みが現在進行形で伝わってくるところから、死んでいないことは確かだったが。状況が理解できず、確認しようとした俺の耳に届いたのは、この更地にいた誰の物でもない────

 ダァァァァァン!!!!

 たった一発の銃声と、一陣の風が織りなすうなり声だった。

『な、なに!?』

 八咫烏ヤタガラスを翻したその風が、俺を包み込んでいた鬱々うつうつたる暗黒を取り払ってくれた……というよりも、片足立ちだったグリーズが足払いを食らったように態勢を崩し、後ろにのけ反って盛大に転倒したのだ。
 それが幸いして右手の拘束が緩み。捕まっていたセイナがピョンッ!と抜け出て、俺の方へと急いで駈け寄ってくる。

「フォルテ……フォルテ!大丈夫!?」

「あぁ……何とかな……」

 情けなくセイナに肩を借りた俺が、なにが起こったのか調べる前に、今のうちにグリーズから離れて態勢を立て直そうとした思ったその時、聞き覚えのある声が耳へと届いた。

『────全く……オチオチ寝てもいられないじゃないかい……』
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