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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
暁に染まる巨人《ダイド イン ザ ダウン》20
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「弥生!!」
吠えるように叫びながら、両腕を曲げて右腰の辺りに構えていた小太刀をガラスケースに突き出す。
月影一刀流、三ノ型である弥生は、簡単に言えば刺突技だ。通常と異なるのはその威力。変則居合技である皐月のような関節の回転を活かす動きに、疾走の勢いも合わせることによって最大限まで威力を高めている。
一から八の通常の型の中では一番の破壊力を誇る代わりに、速度維持のために直線に走らなければならず、動く相手には対しては非常に当てにくい技だ。
音速にも勝る小太刀の切っ先が、透明なガラスケースへと突き立てられた。
俺以外のこの場にいた全員が息を呑む。
さっき、チャップリンは俺達が作戦を練っている間、何故か攻撃してこなかった。それはおそらくグリーズに搭載してあった高周波マイクで音声を拾っていたからだろう。過信したチャップリンが突っ込んでくることは予想出来ていた。そして、高周波マイクに気づいたロナは、誰にも悟られないようICコートで身を隠しつつ機を伺っていたらしい……俺は途中で気づいたが、セイナにそれを言うとチャップリンにもバレるので、遠回しに「俺やセイナ……みんなで力を合わせれば、必ず倒せる……!」と言ったところでなんとか気づいてくれた。マークが外れたロナは俺が両目の力でに肉薄した際に、チャップリンが怯んだ隙を一番効果的なタイミングで突き、グリーズの両腕を地面へと括り付けた。
そんだけこっちに有利な条件が揃っていたなら、当てることに関しては問題ない。
つまり────
突き立てられた小太刀を中心にパキパキ……とガラスケースに蜘蛛の巣上のヒビが全体に広がっていく。
当てちまえばこっちのもんだってことだよ!!
鉄と同等、それ以上の強度を誇ったガラスケースが粉々に砕け散り、破片と一緒に中に入っていた透明な液体が全身に降り注いだ。
「……ッ!」
足場であるグリーズの肩が急にガクリと大きく揺れ、滑り落ちた俺は小太刀を突き立てながらしがみ付く
『ク、クソ!!コントロールが……!?』
チャップリンの狼狽える声から察するに、どうやら俺を振り落とそうとしたのではなく、神器の片方を失ったグリーズの制御が効きにくくなっているらしい。闘牛のように振り回されながらもなんとか踏ん張っていると、ようやくグリーズが態勢を立て直し、俺が素早く肩に戻ろうとした瞬間────
「……グ!!ぁ……!?」
呼吸もできないような痛みが左眼にのみ走り、俺は咄嗟に小太刀を掴んでない左手で激痛が走った部分を覆った。この、眼を素手でえぐり取られるような感触を知っている……これが何を意味しているのかすぐに気づいたおかげで今回は助かったな。
左手のひらには痛みの収まった左眼が、意志とは反して瞼を突き破るような勢いでギョロギョロと暴れまわっている。
『────どうやら、私の勝ちのようだな……!』
俺の異変に気付いたチャップリンは、最初の落ち着きを取り戻したかのような声で呟く。
そのグリーズの頭部の向こう側から、ため息がでるような美しい朝焼けが見え、鈍色の鋼鉄の巨人を暁に染めていく。
「あ、朝日が……!」
背後からセイナの悲嘆にくれるような声が耳に届く。
日が昇ったということはつまり────
『もう貴様は魔眼を使うことはできない、そして神器はまだ残っている。性能は少し劣るが、満身創痍の貴様を屠るには十分だ!!』
チャップリンの声と共にグリーズの黄色い一つ目がこっちを見た。
残ったエネルギーを使って、俺をレーザーで射抜こうとしているようだ。
「フォルテ!!」
バァァァァン!!バァァァァン!!
セイナが銃をグリーズの頭部やもう片方のガラスケースに向け、発砲しながら駆け寄ってくる。
「ちょいちょい!!流石にそれは反則だって!!」
ダンッ!!ダンッ!!
グリーズの背後からはロナもショットガンを連射しながらガラスケースを狙っていた。
だが、グリーズは動じない。幾ら神器の片方を失おうと、銃弾程度なら怖くないらしい。
セイナ達が十メートルの距離を詰めている間にも、グリーズの一つ目の瞬きはどんどん加速していき、あっという間に射撃体勢に入った。もう、何処に逃げたところでそのレーザーを回避する術を俺は持ち合わせていなかった。
『惜しかったな!!だが、これで終わりだぁ!!フォルテェェェェ!!』
チャップリンは歓喜と共にそのレーザーを発射しようとする姿に俺は……
「ほんと、惜しかったよ……」
同調するように呟きながら俺はチャップリンが乗っているであろうコックピットの位置を見ながら、
「レーザービームじゃなければ勝てたのにな……」
不敵な笑みを、代わりにプレゼントしてやった。
きっと、その意味をまだチャップリンは理解していない。
だが、俺には見えちまったんだ。朝日の向こうから飛翔する赤き羽毛の復讐者の姿が……!
「……目標……補足……」
レミントンM700を背負ったマフラーを巻いた少女、アイリスが、パラシュートを急降下させながらグリーズのすぐ頭上に姿を現した。
数分前にレーザービームが放たれた時、アイリスはジープに積んであったパラシュートを風の魔術で急上昇させて攻撃を躱していた。チャップリンは慌てたセイナの姿に仕留めたと勘違いし、ロナと同じでマークが外れていたアイリスはここまで接近を気づかれることは無かった。
戦闘態勢に入っていたアイリスは、グリーズの頭上でパラシュートを切り離し、頭を下の状態で真っ逆さまに落ちる────腰まで届くサソリの尾のような甘栗色の三つ編みを背に靡かせ、赤き羽毛の復讐者は銃を構えた。
ダァァァァァン!!!!
グリーズの左側のガラスケースとすれ違いざまに発砲。
俺達が今持っている中で一番高威力なタングステン合金弾がガラスケースに突き刺さる。戦車に風穴開ける銃弾が、アイリスの掛けた魔術でさらに物体を貫かんと回転速度を上げていき────
バシャァァァァ!!!!
盛大な音と共にガラスケースが砕け散った。
『おわ……!?』
再び制御不能に陥ったチャップリンがパニックを起こす。
動力源だった神器を失い、黄色い一つ目に宿っていた光がみるみる消え失せていくグリーズ。
見るからに力を無くした鋼鉄の巨人が、電池の切れたおもちゃのように片膝を着く。
「……アイリスッ!」
小太刀の切っ先を抜いて地面に着地した俺の横で、アイリスの元にセイナが駈け寄る。
自由落下していたアイリスは、着地の寸前で風の魔術を展開してふんわりと優雅に着地を決めていた。色々と便利だな、その能力。
「……これ……なんだい?」
そんな彼女の右手には、キラキラと輝く銀色のブレスレットが握られていた。
グリーズの肩に収められていたタングリスニとタングニョースト……のどっちがどっちか分からんが、その片方だ。
「それは、アタシ達が探している神器と言うものよ……」
「……ふーん」
ポイッ!
アイリスは神器に対し、特に興味を抱くことなくセイナにそれを弾いた。扱い雑ぅっ!
「い、いいの?」
セイナは手に入れた嬉しさと、何も言わずに差し出してきたアイリスへの驚きが半々ずつ混じったような表情で訊ねると。
「別に……それはボクに必要ないし……」
こくこくと首を上下させながら、アイリスはそう言って大きな欠伸をした。
どうやら魔力の使い過ぎでまた眠くなっているらしい。
「それも大切だけど!ロナちゃん的には早くチャップリンをあそこから引きずり出した方が良いんじゃないかな!」
遅れて寄ってきたロナが早口でそう捲し立てた。
すると────その声と同時に糸切れていたグリーズが再び動き出そうとする。
『貴様ら……!!よくも……よくも私の最高傑作を……!!』
全く、往生際の悪さは人一倍だな……
『まだだ……レーザーの分に用意していた力は動力として使える……!これだけあれば貴様らなんぞ……!!』
神器のエネルギーをほとんど失い、ふらふらと立ち上がったグリーズに俺が小太刀を構えると、そのすぐ頭上を何かが通過していった。
「……セ、セイナ!?」
飛んでいたのはセイナだった!両腕に金銀のブレスレットを付け、背中にはビリビリと電気を迸らせた青白い両翼を兼ね備えた姿に思わず眼を疑う。てっきりアイリスがまたパラシュートで飛んだのかと思ったが、当の本人は船を漕ぎながら大海原に突き進んでいる。その横に立っていたロナも、絵にかいたように口をあんぐりと開けてセイナを見ていた。ど、どうやら見間違いじゃないらしいな……
『き、貴様!?それは本来の神器の────』
グリーズの周りを素早く旋回するセイナに、動揺したチャップリンが捕まえようとするが、ひらりひらりと躱す彼女の身体を捕らえるどころか触ることさえ出来ずにいた。
妖精のように優雅に舞うセイナは、そのままグリーズの首元、人間でいうところの項部分に着地し、両手で鈍色の肌を掴んだ。
「アンタのような下賤な男が、この女巨人の名を名乗る資格は無いわ……大人しく寝ていなさい……」
静かにそう告げたセイナが、電子系統を狙った電撃を放出した。
動力源である神器を失い、能力が低下したグリーズにはそれを防ぐ術はなかった。鋼鉄の巨人はようやく眠りにつくように、膝から頽れた。
「やっと止まったか……」
疲労と安心感から思わず倒れそうになったところを、ロナが支えてくれた。
「……おいおい、お前だって足が折れてるだろ?俺のことなんかいいって……」
俺がそう気遣うと、ロナは銀のツインテールをブルブルと振った。
「ダーリンの方が重傷でしょ?ロナのこと言えないよ?」
そう言って俺の身体を離さない。セイナといい、ロナといい、こうも毎回支えられるようでは俺も男としてはまだまだ二流だな……
「……フォルテ!!」
すると今度はセイナがグリーズから飛翔してきた。今更だが、飛んでいるのは目の錯覚では無いらしい……
「それが、新しい神器の力なのか?」
「えぇ。この神器は二つで一つと言った通り、猛禽類の翼のように扱うことができるものなの」
くるりと回ったセイナの背には、確かに翼が身体の一部のようにくっついていた。これで一気に二つの神器を回収したのだが、神器と言うだけあってセイナの見た目がどんどん神々しくなってるような気がするな……
「でも、これで本当に終わったのかしら……?」
「何だよ?随分意味深な言い方だな……」
不安を煽るようなセイナの物言いに、俺は苦笑いでそう返す。
正直これでもう一体グリーズが出てきたら、絶対俺は降伏するぞ……
「セイナの言う通りだよ、結局あの魔術弾使いが現れなかったじゃん……」
ロナの指摘に、俺はそのことをようやく思い出した。
元々アイリスがここにいたのはそれが目的だってことをすっかり忘れていた。
「……ズズズ」
で、当の本人は魔力切れで鼻を啜りながら立ったまま寝てるし……
「とっととチャップリンを引っ張り出してここを離れるぞ、セイナはアイリスを、俺はチャップリンを。ロナは車を探してくれ」
そう告げて、三者三方向に動き出そうとした瞬間────
ダァァァァァン!!!!
「「「!?」」」
突然の発砲音と火花が空中で散った。
銃弾を放ったのは────眠っていたはずのアイリスだった……
吠えるように叫びながら、両腕を曲げて右腰の辺りに構えていた小太刀をガラスケースに突き出す。
月影一刀流、三ノ型である弥生は、簡単に言えば刺突技だ。通常と異なるのはその威力。変則居合技である皐月のような関節の回転を活かす動きに、疾走の勢いも合わせることによって最大限まで威力を高めている。
一から八の通常の型の中では一番の破壊力を誇る代わりに、速度維持のために直線に走らなければならず、動く相手には対しては非常に当てにくい技だ。
音速にも勝る小太刀の切っ先が、透明なガラスケースへと突き立てられた。
俺以外のこの場にいた全員が息を呑む。
さっき、チャップリンは俺達が作戦を練っている間、何故か攻撃してこなかった。それはおそらくグリーズに搭載してあった高周波マイクで音声を拾っていたからだろう。過信したチャップリンが突っ込んでくることは予想出来ていた。そして、高周波マイクに気づいたロナは、誰にも悟られないようICコートで身を隠しつつ機を伺っていたらしい……俺は途中で気づいたが、セイナにそれを言うとチャップリンにもバレるので、遠回しに「俺やセイナ……みんなで力を合わせれば、必ず倒せる……!」と言ったところでなんとか気づいてくれた。マークが外れたロナは俺が両目の力でに肉薄した際に、チャップリンが怯んだ隙を一番効果的なタイミングで突き、グリーズの両腕を地面へと括り付けた。
そんだけこっちに有利な条件が揃っていたなら、当てることに関しては問題ない。
つまり────
突き立てられた小太刀を中心にパキパキ……とガラスケースに蜘蛛の巣上のヒビが全体に広がっていく。
当てちまえばこっちのもんだってことだよ!!
鉄と同等、それ以上の強度を誇ったガラスケースが粉々に砕け散り、破片と一緒に中に入っていた透明な液体が全身に降り注いだ。
「……ッ!」
足場であるグリーズの肩が急にガクリと大きく揺れ、滑り落ちた俺は小太刀を突き立てながらしがみ付く
『ク、クソ!!コントロールが……!?』
チャップリンの狼狽える声から察するに、どうやら俺を振り落とそうとしたのではなく、神器の片方を失ったグリーズの制御が効きにくくなっているらしい。闘牛のように振り回されながらもなんとか踏ん張っていると、ようやくグリーズが態勢を立て直し、俺が素早く肩に戻ろうとした瞬間────
「……グ!!ぁ……!?」
呼吸もできないような痛みが左眼にのみ走り、俺は咄嗟に小太刀を掴んでない左手で激痛が走った部分を覆った。この、眼を素手でえぐり取られるような感触を知っている……これが何を意味しているのかすぐに気づいたおかげで今回は助かったな。
左手のひらには痛みの収まった左眼が、意志とは反して瞼を突き破るような勢いでギョロギョロと暴れまわっている。
『────どうやら、私の勝ちのようだな……!』
俺の異変に気付いたチャップリンは、最初の落ち着きを取り戻したかのような声で呟く。
そのグリーズの頭部の向こう側から、ため息がでるような美しい朝焼けが見え、鈍色の鋼鉄の巨人を暁に染めていく。
「あ、朝日が……!」
背後からセイナの悲嘆にくれるような声が耳に届く。
日が昇ったということはつまり────
『もう貴様は魔眼を使うことはできない、そして神器はまだ残っている。性能は少し劣るが、満身創痍の貴様を屠るには十分だ!!』
チャップリンの声と共にグリーズの黄色い一つ目がこっちを見た。
残ったエネルギーを使って、俺をレーザーで射抜こうとしているようだ。
「フォルテ!!」
バァァァァン!!バァァァァン!!
セイナが銃をグリーズの頭部やもう片方のガラスケースに向け、発砲しながら駆け寄ってくる。
「ちょいちょい!!流石にそれは反則だって!!」
ダンッ!!ダンッ!!
グリーズの背後からはロナもショットガンを連射しながらガラスケースを狙っていた。
だが、グリーズは動じない。幾ら神器の片方を失おうと、銃弾程度なら怖くないらしい。
セイナ達が十メートルの距離を詰めている間にも、グリーズの一つ目の瞬きはどんどん加速していき、あっという間に射撃体勢に入った。もう、何処に逃げたところでそのレーザーを回避する術を俺は持ち合わせていなかった。
『惜しかったな!!だが、これで終わりだぁ!!フォルテェェェェ!!』
チャップリンは歓喜と共にそのレーザーを発射しようとする姿に俺は……
「ほんと、惜しかったよ……」
同調するように呟きながら俺はチャップリンが乗っているであろうコックピットの位置を見ながら、
「レーザービームじゃなければ勝てたのにな……」
不敵な笑みを、代わりにプレゼントしてやった。
きっと、その意味をまだチャップリンは理解していない。
だが、俺には見えちまったんだ。朝日の向こうから飛翔する赤き羽毛の復讐者の姿が……!
「……目標……補足……」
レミントンM700を背負ったマフラーを巻いた少女、アイリスが、パラシュートを急降下させながらグリーズのすぐ頭上に姿を現した。
数分前にレーザービームが放たれた時、アイリスはジープに積んであったパラシュートを風の魔術で急上昇させて攻撃を躱していた。チャップリンは慌てたセイナの姿に仕留めたと勘違いし、ロナと同じでマークが外れていたアイリスはここまで接近を気づかれることは無かった。
戦闘態勢に入っていたアイリスは、グリーズの頭上でパラシュートを切り離し、頭を下の状態で真っ逆さまに落ちる────腰まで届くサソリの尾のような甘栗色の三つ編みを背に靡かせ、赤き羽毛の復讐者は銃を構えた。
ダァァァァァン!!!!
グリーズの左側のガラスケースとすれ違いざまに発砲。
俺達が今持っている中で一番高威力なタングステン合金弾がガラスケースに突き刺さる。戦車に風穴開ける銃弾が、アイリスの掛けた魔術でさらに物体を貫かんと回転速度を上げていき────
バシャァァァァ!!!!
盛大な音と共にガラスケースが砕け散った。
『おわ……!?』
再び制御不能に陥ったチャップリンがパニックを起こす。
動力源だった神器を失い、黄色い一つ目に宿っていた光がみるみる消え失せていくグリーズ。
見るからに力を無くした鋼鉄の巨人が、電池の切れたおもちゃのように片膝を着く。
「……アイリスッ!」
小太刀の切っ先を抜いて地面に着地した俺の横で、アイリスの元にセイナが駈け寄る。
自由落下していたアイリスは、着地の寸前で風の魔術を展開してふんわりと優雅に着地を決めていた。色々と便利だな、その能力。
「……これ……なんだい?」
そんな彼女の右手には、キラキラと輝く銀色のブレスレットが握られていた。
グリーズの肩に収められていたタングリスニとタングニョースト……のどっちがどっちか分からんが、その片方だ。
「それは、アタシ達が探している神器と言うものよ……」
「……ふーん」
ポイッ!
アイリスは神器に対し、特に興味を抱くことなくセイナにそれを弾いた。扱い雑ぅっ!
「い、いいの?」
セイナは手に入れた嬉しさと、何も言わずに差し出してきたアイリスへの驚きが半々ずつ混じったような表情で訊ねると。
「別に……それはボクに必要ないし……」
こくこくと首を上下させながら、アイリスはそう言って大きな欠伸をした。
どうやら魔力の使い過ぎでまた眠くなっているらしい。
「それも大切だけど!ロナちゃん的には早くチャップリンをあそこから引きずり出した方が良いんじゃないかな!」
遅れて寄ってきたロナが早口でそう捲し立てた。
すると────その声と同時に糸切れていたグリーズが再び動き出そうとする。
『貴様ら……!!よくも……よくも私の最高傑作を……!!』
全く、往生際の悪さは人一倍だな……
『まだだ……レーザーの分に用意していた力は動力として使える……!これだけあれば貴様らなんぞ……!!』
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『き、貴様!?それは本来の神器の────』
グリーズの周りを素早く旋回するセイナに、動揺したチャップリンが捕まえようとするが、ひらりひらりと躱す彼女の身体を捕らえるどころか触ることさえ出来ずにいた。
妖精のように優雅に舞うセイナは、そのままグリーズの首元、人間でいうところの項部分に着地し、両手で鈍色の肌を掴んだ。
「アンタのような下賤な男が、この女巨人の名を名乗る資格は無いわ……大人しく寝ていなさい……」
静かにそう告げたセイナが、電子系統を狙った電撃を放出した。
動力源である神器を失い、能力が低下したグリーズにはそれを防ぐ術はなかった。鋼鉄の巨人はようやく眠りにつくように、膝から頽れた。
「やっと止まったか……」
疲労と安心感から思わず倒れそうになったところを、ロナが支えてくれた。
「……おいおい、お前だって足が折れてるだろ?俺のことなんかいいって……」
俺がそう気遣うと、ロナは銀のツインテールをブルブルと振った。
「ダーリンの方が重傷でしょ?ロナのこと言えないよ?」
そう言って俺の身体を離さない。セイナといい、ロナといい、こうも毎回支えられるようでは俺も男としてはまだまだ二流だな……
「……フォルテ!!」
すると今度はセイナがグリーズから飛翔してきた。今更だが、飛んでいるのは目の錯覚では無いらしい……
「それが、新しい神器の力なのか?」
「えぇ。この神器は二つで一つと言った通り、猛禽類の翼のように扱うことができるものなの」
くるりと回ったセイナの背には、確かに翼が身体の一部のようにくっついていた。これで一気に二つの神器を回収したのだが、神器と言うだけあってセイナの見た目がどんどん神々しくなってるような気がするな……
「でも、これで本当に終わったのかしら……?」
「何だよ?随分意味深な言い方だな……」
不安を煽るようなセイナの物言いに、俺は苦笑いでそう返す。
正直これでもう一体グリーズが出てきたら、絶対俺は降伏するぞ……
「セイナの言う通りだよ、結局あの魔術弾使いが現れなかったじゃん……」
ロナの指摘に、俺はそのことをようやく思い出した。
元々アイリスがここにいたのはそれが目的だってことをすっかり忘れていた。
「……ズズズ」
で、当の本人は魔力切れで鼻を啜りながら立ったまま寝てるし……
「とっととチャップリンを引っ張り出してここを離れるぞ、セイナはアイリスを、俺はチャップリンを。ロナは車を探してくれ」
そう告げて、三者三方向に動き出そうとした瞬間────
ダァァァァァン!!!!
「「「!?」」」
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銃弾を放ったのは────眠っていたはずのアイリスだった……
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ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
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