SEVEN TRIGGER

匿名BB

文字の大きさ
172 / 361
赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》

鎮魂の慈雨《レクイエムレイン》13

しおりを挟む
「確かにFBI副長官を現行犯で捕らえたことによって、奴にめられていたアイリス・N・ハスコックの罪は少なからず軽くはなるだろう……」

 その言葉にぱぁ!っとセイナとロナが明るい表情を浮かべたのに対し、レクスは「だが……」と釘を刺す。

「それでも数年は期間を要するだろう……それに、本来の目的だった狙撃手を仕留めることができなかった以上、アイリス・N・ハスコックの任務は失敗。それについての処分もあり得る……」

「……」

 父の仇であるスナイパーの抹殺。目標ターゲットを勘違いしていたというのもあったが、それでも失敗は失敗。本人もそれを自覚しているのか、アイリスは変わらず黙って話を聞いている。

「つまり、結局アイリスは────」

「あぁ……疑いが晴れただけで、今後もさして変らない扱いになるだろう……」

 軍事刑務所行を告げたレクスの言葉に、どんよりとした重たい空気が俺達全員に伸し掛かる。
 レクスの言っていることは決して間違いはではない。寧ろ正しいんだ。だとしても、父親のために戦った彼女に対して、そんなの……あんまりじゃないか……

「そんな……!アイリスはアタシ達がピンチの時に何度も救ってくれたんです!それなのにこんなのって……」

「うん、もう少しどうにかならないのレクス?アイリスの作戦中の動きを見ていたロナちゃん的にも、ちょっとその処分は見過ごせないかな……」

 レクスにセイナとロナが詰め寄って説得するのに対し、それを渋い表情で見ていた俺の横に居たアイリスは、視線を軽く落としていた。「やっぱりそうか……」と言うかのように。

「君達の気持ちは分かる……だが、アイリスの任務と君達のそれは本来関係の無いものだ。人としては評価できるが、軍人としては評価できない……厳しいことを言うようだがな……それに、この決定は大統領からのものだ。もう誰が何と言おうと覆ることはない……それが例え国防総省職員ペンタゴンスタッフでも、CIA副長官でもな……」

 なだめるようにレクスにそう告げられた二人は、最もな答えに言葉を返せず口をつぐむ。もちろん俺も含めて。
 雲の切れ間から覗いていた太陽が、西にそびえ立つ山脈の向こうへと堕ちていく。
 まるで、希望の光が消えてしまうように……

「────だけど、それはあくまで俺が国防総省職員ペンタゴンスタッフとしての話しだ……ここから先は、師匠として話しをするから良く聞いておけ……」

「えっ……?」

 レクスの含みのある言葉に、視線を下げていたアイリスが僅かに顔を上げる。
 黄昏に染まるベトナムの街、それを彩る街灯共にレクスはスーツのポケットから一本の煙草を取り出し、ライターで火をつけた。
 あれは確か……ルーカスが最期に吸っていたものと同じ煙草だ。
 俺達に吹きかけないよう、明後日の方角に煙を吐き捨てたレクスは、まるで獲物を狙撃する時に見せる、猛禽類もうきんるいのような鋭い視線でアイリスを見据えた。

「今のお前には……あの父の仇であるスナイパーをできない……いやそれどころか、他の標的ですら殺せるか怪しい……」

「なっ……!?」

 ジープで目覚めた時から、どこかずっと上の空だったアイリスが、そこで初めて感情らしいものを露わにした。それでもほんの僅かではあったが、侮辱にも等しい師匠の言葉に、流石のアイリスもくって掛かる。 

「ボクが……人を殺せない……?そんなことあるわけが────」

「じゃあなんでさっきボブ・スミスに言われた言葉に反論しなかった?」

 確かにそのことについては俺も引っかかる部分があった。幼くボケーとした見かけによらず、仇を見つけたら話しを聞かずに見敵必殺と、意外にも血の気の多いアイリスが、あれだけのことを言われて黙っていたのはおかしな話だ。魔力による睡眠障害かと最初は思ったが、それはジープで寝ていたから問題ない。つまり何か別の理由があったということだ。
 俺なんかよりもよっぽどアイリスに詳しいレクスは、どうやらそれに気づいていたらしい。

「そ、それは……」

 図星だったのだろう。
 遮るようにそう言われたアイリスは、レクスの指摘に口籠くちごもる。
 心のどこかでそれに気づいてはいたが、自分で口にはしたくない……といった感じだ。

「おそらくだが、お前の中で迷いのような物が芽生え始めていたのだろう……」

「……」

 師匠が言い放ったその言葉に、アイリスは何も返さない。
 さっきと同じで否定とも肯定とも取れないその態度に、レクスはさらに続ける。

「父を殺した相手が父親だった経験から、どんなに憎い相手でも、心のどこかに迷いが生じてしまう。本当にコイツは敵なのか……とな。さっきの反論できなかったのは、スナイパーで例えるとお前は、標的を前にして引き金を引くべきかどうか……といった心理状況に陥っていたのだろう?」

「……ッ」

 アイリスはそれを認めたくないのか、視線をレクスから背けた。
 今までは何も考えずに引き金を引けていた彼女にとって、それは致命場とも言える問題だ。はいそうですかと簡単に受け入れられるものではない。

「そんな状態では……あの程度の煽りにすら反論できないお前に、父の仇を殺すことはできない……スナイパーの感情を殺すことと、表に出さないというのは、似ているようで違う。言うまでもないが、今のお前は完全に後者になっている……」

 キツイその一言にアイリスが唇を噛み締めているのか、マフラーに隠れた口元が小さく震えてた。両手にも大きな拳を作っていた姿を見たレクスは、溜め息まじりに煙草の煙を吐きつつ、鋭かった眼光と頬を緩めた。

「なにか勘違いしているようだが、別に俺は殺しができないお前のことが弱くなったとは言ってない……」

 意外なその言葉にアイリスだけでなく、セイナも驚いたような表情を浮かべた。

「昔は俺も勘違いしていたけどな、殺すことだけが人の強さじゃない……寧ろ人を生かせる人間の方が難度が高く、難しいということをから教わったことがある……」

 そうなのか……と思う俺に、何故かレクスとロナがこっちをちらりと流し目を送ってきた。ん……?なんでこっち見るんだよお前ら?

「そういう意味ではお前は一つ成長できたんだ……軍人としてではなく、人としてな……だから、国防総省職員ペンタゴンスタッフとしてではなく、師匠としてお前に提案する……軍を除隊しろ、アイリス……」

「除……隊……?」

 黄昏時が終わるころに吹いた風が、煙草の煙と一緒にアイリスのマフラーと、そこに差していた鮮紅色の羽根がなびく。
 言っている意味が分からないといった様子で、オウム返しのように繰り返したアイリスに、レクスは「うん」と相槌を打つ。

「お前がシロだということは、初めから知っていた。証拠が何一つなかっただけでな……でも、それがほぼ揃った以上……お前さえ望まなければ、別に軍で働く必要はない。今ここで除隊を受け入れるのであれば、かなり面倒だが、手続きは俺が全てやっといてやる。そこにも手伝ってくれそうな奴がいるからな」

 レクスの言葉に、ロナは「イエーイッ!」とVブイサインを作って見せた。

「ボクに……ボクに仇討かたきうちを諦めろっていうのかい……!?」

 詰め寄ったアイリスはとうとうレクスの着ていたスーツを掴む。
 ベトナムの密林の中をアイリスと一緒に逃げていた時、キーソン川に飛び込む前の彼女は復讐さえできれば命なんて要らないと思っていた。除隊ということはつまり、その唯一の生きがいを捨てろと言っているようなものだ……あそこまで怒るのも頷ける。
 だが、レクスはその手を跳ね除けることもせず、優しい表情のまま首を左右にゆっくりと振った。

「そうじゃない……には無理だと言っているんだ……」

「……レクスの言っている意味が……ボクには分からないよ……」

「……そうだな……お前はまだ若い……年上の俺の言葉の意味なんて、その歳にならなければ分からない……俺もそうだったしなぁ……まあ要は焦って復讐なんかの為だけではなく、お前が今後生きていく上で大切だと思うこと、それを見つけるいい機会だと思って、一時的に軍から離れてみろと言っているんだ。人生は長い……今時人間百年生きる時代、お前はまだその十分の一くらいしか生きてないんだ。もっと色々経験積んで、また戻ってくればいい……ただ、それでもいま軍に戻りたいと言うなら、お望み通り監獄に戻してやってもいい……数年は掛かるが、正式な軍隊にも戻ることができるから、そっちのが良ければ別にそれでも構わない……選択はお前次第だ……どうする?」

「……少し、時間をくれないかい……?」

 気が付けばレクスから手を離していたアイリスは、力無い声でそう告げた。

「ん……じゃあ今から一時間、時刻で言うと十八時まで自由時間を設ける。それで構わないか?」

 腕時計を見つつレクスの提案した内容に、アイリスはコクリッ……と小さく頷くのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

処理中です...