SEVEN TRIGGER

匿名BB

文字の大きさ
177 / 361
月下の鬼人(ワールドエネミー)上

首輪を繋がれた悪鬼《パストメモリーズ》3

しおりを挟む
「そんな緊張しなくても、皆個性豊かで優秀な者達だぞ」

 大理石に彩られた床を、コツコツと革靴を鳴らしながら前を歩く男性。ガブリエル・ベアードがそう告げた。
 魔眼の影響で人の道を外れてから数十年、どうも俗世に疎かった俺は、正直この男が本当にアメリカの大統領か半信半疑だったが、どうやら嘘ではないらしい……
 確かにコイツは……言葉では上手く説明できないが、なにか威厳や貫禄のようなものを感じる……認めたくないけど。
 まあ本当に大統領でもなければ、チャーター機にリムジンを駆使してホワイトハウスに帰宅し、こうして内部を悠然と歩けるはずがない。ここがコイツのにとっての家なのだから当然だ。
 もしこれで大統領でないなら、自分をそうだと思い込んでいる精神異常者に他ならない。

「……」

 俺は仏頂面ぶっちょうづらのままガブリエル・ベアードの言葉を無視しつつ、嫌々後ろをついてく。
 一応言っておくが、緊張なんてものは微塵もない。
 単に乗り気でない話しという理由もあったが、何よりも俺がこうなるにずっと苛立っていた。

「多少尖ってはいるが、君になら扱うことができるだろう……」

「……」

「……どうしたさっきから黙りこくって?何か不満でもあったか?」

 テキサスからここに来るまでずっと黙りっぱなしの俺に、不思議そうな表情を浮かべたベアードが振り返る。
 護衛をつけず、ホワイトハウスの通路には俺達二人のみ。ましてや俺の腰には未だ銃や太刀────の方は訳あって使えないが、両方装備されたまま。
 たとえ隻眼隻腕だとしてもこんな奴、すぐにれる状況だってのに……まるでそれができないことを遠回しに煽っているかのような言い方に、流石の俺も我慢の限界から、口を開いてしまう。

「……じゃあ逆に聞くが……お前はを見て何とも思わないのか……?」

 苛立ちで裏返る声と一緒に、首元を人差し指で示した場所には……黒いチョーカー。

「なんだ?似合ってるじゃないか……」

 それに、軽く鼻を鳴らす程度で済ませるベアードにプチンッ……思わす右手が無意識にハンドガンを掴んだが、そこで何とか踏み留まる。
 というのも、理性の片隅に放り捨ててあった、このチョーカーについての説明を思い出したからだ。
 ────付けた者の命令に逆らえば爆発する。
 つまり────付けられた者は一切逆らうことができない。
 例え、どんな命令であったとしても……

「ざけんなぁッ!!部隊で隊長やるだけならいざ知らず……それを、「任務中は敵味方問わず誰も死なせてはならない」?んなもんできる訳がねーだろッ!!一体どこのスーパーヒーロー様だ!?」

 移動中に説明された内容に激昂する俺。
 チョーカーを付けたことを良いことに、ベアードは俺に無理難題を押し付けてきた。
 部隊に配属中は誰も死なせてはならない。
 今時アメコミヒーローでもる時はるってのに、それを現実リアルで誰一人殺すなとは無理がありすぎる……どんな縛りプレイだよ……
 サッカーでボールを一切蹴らずに相手に勝てと言っているようなもんだ。

「仕方ないだろ……即席の非認可特殊部隊で、君はあくまで一般人と変わらないのだから、殺人許可書は発行できない。それに君にとっては罪を償うための労働だ、それなのに殺しを繰り返してはまた罪を重ねるだけ……こうでもしないと、君のような重罪を清算することはできないのだよ……」

 廃墟の時に見せた冷徹な表情とは違い、僅かに微笑んだベアード……

「俺は別にそんな昔のこと、罪とも何とも思ってねーよ……」

「罪というものは自分ではなく、法の神が判断するものだ」

「神なんてこの世にいない」

無神論者スケプティシズムか?」

「いいや現実主義者リアリストだ!祈ってる暇があるなら、一つでも行動した方が良いと俺は思ってるだけだ……!」

 祈るだけで救われるならとっくにやっている────

 奴隷ごっこのバカ遊びに付き合わされるあまり、そんなクソつまらない話をしながら、俺は仕方なくベアードのあとをついて行く。従わないと首を吹っ飛ばされかねないからな。
 歩くどころか触れるのすら憂鬱になる、高級赤絨毯レッドカーペットを歩いていくと、分厚く白いアンティーク調の扉の前でベアードが立ち止まる。

「なるほど、確かに一理ある……だが、君は信じる者は救われるという言葉を知っているか?」

「知ってる……そして、日本では信じる者と書いて「儲ける」っていうんだ。結局は神の代弁者が儲けるための口実にしか過ぎないってことだ。まさに今のアンタのようにな……」

 このホワイトハウスも、今歩いてきた赤絨毯レッドカーペットも、全てはベアードコイツの妄言を信じ、税金を出している国民の金で作ったものだ。

「ぷッ!くくくッ……!」

 嫌味のつもりで言ってやったのだが……何故かそれにベアードは、軽くしわの入った顔を寄せて笑い出した。

「やはり、君にはリーダーとしての素質があるらしいな……君にだったら、このチームを最大限扱うことができるだろう……さて────」

 一つの扉の前で立ち止まったベアードが俺の方に振り返り────

「ここからが君の罪を償う時間だ……入りたまえ……」

「……ッ」

 開けた扉の隙間から、昼の陽光が零れ出す。
 浄化の光りに照らされた俺が、閃光手榴弾フラッシュバンでもくらったかのように細めた右眼をゆっくりと開けていく。
 そこにはドアと同じ白を基調とした大きな空間が広がっていた。
 どうやらここは待合室らしい。
 必要最低限の家具のみが置かれた、飾り気のない部屋……その中央には、貴族が食事するときに使うような、大型で長方形の木製テーブルが置かれ、各席に着いていた者達。えーと全部で……四人。は、部屋に入ってきた俺のことなど見向きもせず、各々が各々のためだけに行動していた。
 手鏡で自分の顔を見ている、金茶色ロン毛の中年男性。
 腕組みしたまま瞳を閉じている、ピンク髪をミディアムストレートで下ろしている気が強そうな少女。
 机の上に広げた大盛りの料理を流し込むように頬張る、雰囲気の明るそうな白髪ロングの成人女性……何故か猫耳を付けている。
 そして────椅子を傾けた状態で両足をテーブルにかけ、バランスをとりながら耳につけたヘッドフォンで音楽を聴く、ヤンチャそうな黒髪ショートの東洋人少年。

「……」

 俺は、部下になるらしいそいつらを見渡して絶句した。
 自分自身がまともでない経歴であるが故、隊員になる連中もそうなのだろうと薄々思っていた……だが、まさかここまでとは……しかも子供ガキまで混じってやがるよ……
 その辺のチンピラの方がまだマシなんじゃないか?

「待たせて済まない諸君、彼が君達の隊長となる男だ」

 ベアードが言葉を失う俺の代わりに紹介するも、反応したのはピンク髪の少女のみ────しかも、片目だけでちらりと一瞥いちべつしただけだ。
 協調性ゼロ。俺の口から魂が抜け出るような嘆息が漏れる。

「大統領これは無理だ。もう少しマシな連中と変えてくれ……」

 さっきまで割と強気だった俺は、真面目にメンツを変えて欲しいあまり若干敬語気味に懇願する。
 それこそ、神に祈るかのように。逆らえば「死」あるのみなので、実質的に神であっているのだが……
 神には祈らないと大口叩いたのに、プライドを捨ててまで頼んだ俺のことなど、どこ吹く風なベアードは「八ッハッハッ!」と背中をポンポン叩きながら、

「大丈夫大丈夫!彼らは優秀だから!」

 つまりそれ以外はポンコツってことじゃねーかよッ!

「あとこれ、彼らの経歴とか予算とか色々纏めてあるから、適当に目を通しておいてくれ。それと、最初の任務は一時間後、移動車両とか装備については金茶色の彼に頼むといい、それじゃああとは頼むよ」

「はぁッ!?」

 どこから取り出したのか、広辞苑のような書類の束を押し付けて、大統領は部屋の外に出て行こうとする。
 一時間って……それまでに自己紹介、作戦会議ブリーフィング、装備確認をしろってことかよ!?しかも演習無しのぶっつけ本番。任務地への移動時間も考えたら────

「ちょっと待てぇ!!ベアード!!」

「なんだ?」

 廊下の赤絨毯レッドカーペットを歩き出していたベアードを呼び止め、俺は全力ダッシュで駆け寄る。

「無理だ無理だ!!こんなスケジュール……!無茶苦茶にもほどがあるぞッ!!」

 さっき踏むことすら躊躇いのあった赤絨毯にスライディングを決めつつ、俺が書類を指さして猛抗議する姿にベアードは……無言の笑みのまま、自分の首を指さした。

「うぐっ……」

 アトンメントリングそれだけで、今の俺は調教された犬のように、全く反論できなくなる。

「気持ちは分かる……だがここだけの話し、あの現状も含めてお願いをしているのだ……複雑な事情から、その能力を発揮することのできない彼らの素質を、フォルテ、君の手で磨いて欲しい……」

「お前……」

 真剣な眼差しでそう告げてきたベアード大統領。
 ちょっとふざけた態度を取っていたかと思えば、それなりに考えがあって────

「そういう訳でよろしく頼む。極秘偵察強襲特殊作戦部隊隊長さん殿」

 踵を返した大統領が片腕を上げる。

「あぁ……分かった……なんていう訳ねーだろ!!こんな無理なスケジュール!!ぶっ殺すぞ!!」

 とてもホワイトハウス内で発するには場違いな言葉に、ベアードが嘆息混じりに振り返る。

「それでも構わない。私の任期が終わるまで、最後まで隊長として仕事を成し遂げれるのであれば、首輪を外した状態で殺されてもいい……だからあとは任せるぞ、月下の鬼人殿……」

 ……マジで……?
 意外な返事にちょっとだけやる気が出る。
 つまり────あと二年間この屈辱に耐えきれば、奴を殺せるってことだ。
 ずっと垂れ気味だった頬が無意識に吊り上がる。

「その言葉ぁ!!ぜってぇ忘れんなよ!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...