SEVEN TRIGGER

匿名BB

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月下の鬼人(ワールドエネミー)下

maintenance(クロッシング・アンビション)10

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 身体は二日でほとんど回復した。
 別に外傷があるわけではなく、要は重度の筋肉痛。ベッドで寝ていればどうということない……と言いたいが、勿論俺にそんな時間はなく、演習に出られない代わりに溜まっていたPC作業に精を出していた。
 それもこれも今日のために……



「いやーまさかほんとに隊長様と飲みに行けるなんざ思いもしなかったぜ」

 ノーフォーク海軍基地近くの街並み。
 俺の隣を歩いていたレクスが豪快に笑う。

 金曜日。

 それは土日休みの会社員にとっては嬉しい曜日かもしれないが、俺達部隊にとっては別の意味を示していた。

「で、どこなんだよ?お前の言っていた軍人行きつけの酒場ってやつは?天気が悪くなる前に早く行こうぜ」

 今日は運よくもつらしいが、明日からは雷雨の予報だ。
 今にも振ってきそうな鼠色の空の下、急かすようにそう告げる。

「まあそう焦んなって、おっ!あったあった」

 街頭の灯るにはまだ少しだけ早い夕暮れ時。
 温かみのあるレンガ道の先、賑わうウェスタンドアの店構えが見えてくる。
 上部に掛けられた看板には「Hometown戦士たち of warriors故郷」という文字が彫ってあり、それがこの店の名前らしい。

「いやー今日は金曜日でなんも食ってねーから、腹まで減っちまったよ」

「そうだな、金曜日だから無理はない。ここには普通の料理もあるんだろ?」

「あぁ!アレと違ってちゃんと消化できる、美味しい料理がな!」

 満面の笑みと共に、レクスがウェスタンドアを開け放つ。
 一緒に店内に入ると、こじんまりした入り口と違って中二階のある広々とした酒場は気持ちのいい賑わいを見せていた。
 味のあるハダカ電球で照らされた薄暗い店内には、軍御用達と言っていただけあって客層が暑苦しいくらいに偏っている。
 酒場と言うよりかはパブに近いな。
 木製の丸テーブルが置かれた立ち飲みスペースを抜け、一階奥のカウンター席に着くと、常連客なだけあってかすぐにレクスの飲み物を若いバーテンダーが訊ねに来た。

「俺はいつもの、隊長は?」

「じゃあ俺も同じものを」

 手短にそう伝えると、「かしこまりました」とバーテンダーが飲み物の準備に入る。

「俺の方から誘っといてあれだが、身体の方はもう大丈夫なのか?」

「なんとかな……金曜日までには何とか直そうって思っていたからよ」

 そう言って親指を立てる俺に、レクスは手を叩いて笑う。

「だよな!金曜日に家になんていた暁には、リズの料理に殺されちまうからなぁ!」

 金曜日、それは俺達にとってはリズの料理当番日のことを指していた。
 控えめに言って、リズの料理は殺人兵器だ。
 もう一度言うぞ?控えめに言ってだ。
 その破壊力は、魔術爆弾、核弾頭に匹敵する三大兵器と言っても過言ではない……
 切ったというより斬り刻まれた食材達。分量、組み合わせもバラバラな調味料。中途半端に火入れされた肉や野菜が口の中で不協和音を奏で、全身が「これは毒だ」と訴えかけてくる料理。
 そんな三角コーナーの生ごみを、奴は「ミネストローネ」だと言って紫のスープをテーブルに出してきた。
 なによりそれを消化できてしまうところが質悪い。
 消化できる=食べ物……という公式が成り立ってしまうからな。
 最初は男である俺達に対して、陰湿な嫌がらせをしているのだと思った。
 だが、違った。そうであって欲しかったが……
 リズは自分の料理が不味いという自覚が無いんだ。
 その証拠にガリガリ!!ボキボキ!!言わせながら自分の料理を何も言わずに食べているし、女性人であるロナやベルにもその料理を快く振る舞っている。
 そのあまりの不味さに、普段は相手のことを気遣うロナも、錯乱してWikipediaウィキぺヴィアのBC兵器の欄に、リズの料理を記載しようか本気で悩んでいたくらいだ。
 俺達は基本、曜日ごとに各々の家事を当番制で分けられており、掃除、洗濯、料理を皆でローテーションしている。
 これは共同生活するにあたってベアードが命令したことで、隊結成時から変わらない。
 洗濯は男女ごと分けて回しているが、料理に関しては各曜日に各隊員一人が仕事を行うローテーションが組まれている。ちょうど七人いるからな。
 そして、金曜日こそがリズの食事当番として割り振られているのだ。

「あんま大きな声で出すな……!もしアイツがこんな話し聞いてたら、一体何をされるか────」

「大丈夫だって!この店は年齢制限が掛かっているし、仮にこんな男だらけの場所にお嬢が居てみろ、アレルギーで三秒もかからない内に泡吹いて失神してるから」

 そんなこと言ったら、見た目は若い俺もここにいるのはアウトな気がするが……まあレクスの言うことも一理ある。

「それに、今日のシェフはお客様の対応で忙しいからな」

 シェフについては言わずもがな、レクスの言う客とはベルのことを指している。
 生み出されてしまった兵器は、誰かが始末をつけなければならない。
 ベルは唯一、隊の中でリズの料理に文句を言わず、おいしそうに食べるスキルバカ舌を持っているのだ。
「個性的な味だけど、愛が籠ってておいしい」と、正気を疑うコメントを述べながらリズの料理を口に運ぶベルの姿は、彼女からは想像できない圧倒的頼もしさと、狂気のようなものを同時に感じる。
 だが、おかげで今日も、俺達の分もまとめて大食感のベルが食べてくれるだろう。
 そうでなければ俺達は────
 もし料理が残されていたらと、恐怖心に駆られていた俺の前に、バーテンダーが頼んでいた飲み物を置いた。

「おっ!来た来たぁ!やっぱ初めはコイツじゃねーとな!」

 待っていましたと言わんばかりにグラスを手に取るレクス。
 きめ細やかな輝きを放つボールアイスでヒンヤリと冷えたクリスタルグラス。
 そこに注がれていたのは半透明のカクテル。底には翡緑色のミントとライムが沈んでいた。

「これは……モヒートか?」

 鼻の粘膜を刺激するようなアルコールと、爽やかな果実の香りの入り混じったラム酒のカクテル。
 レクス口からこぼれんばかりの笑みが浮かぶ。

「あぁ!俺の地元の酒だ、うめえぞ!」

 イタリアでは馴染み深いカクテル。
 これを食前酒で味わう姿を何度か目にしたことがあるが、初っ端から度数二十五もある酒で胃を慣らすというのはいかがなものか……

 キィン────!

 へへっ!とレクスが無言で傾けてきたグラスに乾杯し、数十年ぶりの酒を口に運んだ。
 舌先に触れた瞬間、少し抵抗のあった俺の考えはガラリと変わる。

「……美味い……」

 グラスから離した口は、お世辞とか気遣い一切なしにそう告げていた。
 ライムやミントのフルーティーな味わいで呑みやすく、マティーニのようなアルコール感が無い。口当たりもよく、思わず度数二十五もあることを忘れてしまうくらいグイグイいける。

「当たり前だ!こいつが不味いわけがない!!」

 笑い上戸らしく、アルコールが入ってさらにテンションの上がったレクスが、すでに飲み干していたモヒートの代わりに追加の注文を告げる。
 その姿は、すっかり周りの兵士達の仲間入りだ。

「さぁ!!今日は誘った俺のおごりだ!!じゃんじゃんの呑んでくれよ隊長!!」

「おう!遠慮なく呑まさせてもらうぜ」

 呷るように飲み干したモヒートが、焼けるような熱い刺激を身体に与えてくれる。
 今夜は楽しい酒になりそうだ。
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