SEVEN TRIGGER

匿名BB

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月下の鬼人(ワールドエネミー)下

at gunpoint (セブントリガー)4

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「WBI……もしかしたら海外への本格的な武力介入、または抑止力として使う気なのかもしれない」

「WBI?」

 あまり聞き慣れないロナの言葉にアキラが首を傾げる。
 反応から察するに他の隊員達も、勿論俺も聞いたことのない単語だった。

「World Bureau of Investigation(世界捜査局)、ほら、ここ最近アメリカ警察、中でもFBIって各国に拠点を構えるほど活発でしょ?それをネットとかではWBI世界捜査局って陰で言われているの」

 そうだったのか。
 おそらくそれは、ミチェルによる現場から世界を変えるべく行ってきた改革の一端。
 政治のように時間はかかるが影響力の高い遅効性に対し、範囲こそ狭いが速効性の高い現場主義。
 半年前、ベアードが言っていた言葉の意味がようやく分かった。

「WBIつーのは知らなかったが、連中が過激になりつつあることは俺も小耳に挟んでいた。なんでも相当ヤバイ奴が居るんじゃなかったか?」

 レクスがハンドルを切りつつ、自宅のあるノーフォーク州の林へと車を走らせる。
 木陰に夕日が遮られ、画面の文字列を追うロナの顔だけがおぼろげな光に晒されて陰影を濃くする。

「ブラッディウルフ、レクスが言っている多分それだと思う」

「また随分物騒な名前だな」

 アキラが半笑いで肩を竦めた。
 確かに殺し屋ならともかく、警察にしては少々過度な二つ名だ。

「実働部隊トップの男で、他国現場の最前線から所長の護衛まで務める切れ者。冷酷無慈悲な人物で、その人間性を表すように、身に着けている服はいつも血で真っ赤に濡れていることから、敵味方問わず畏怖と尊敬を込めてそう呼ばれているらしい」

 真っ赤な服を身に着けている。
 俺の脳裏に、ホワイトハウスでミチェルの護衛についていた黒人。
 クリムゾンレッドのスーツに身を包んでいた男が過る。

「文字通り、『血濡れの狼』ってわけね……それでフォルテ、大統領とは連絡取れたの?」

 リズが俺へと流し目を送るのに気づき、バックミラー越しに首を振る。

「ダメだ、繋がらない」

 今日は特に大きな仕事なんて無いと言っていたはずなのに……
 四度目の無情な留守電サービスに、俺はスマートフォンを切る。
 気軽に電話越しに伝えれる内容ではないにしろ、せめて一報くらいは入れておきたかったが。

「こりゃあ本格的に胡散臭くなってきたにゃ」

 ベルが珍しく神妙な顔つきで白尾をくねくね遊ばせる。
 その隣に座っていたシャドーはいつも通り腕組したままだが、心なしか固く結んだ両腕には、若干の力が入っているようにも感じた。
 隊員達の懸念は収まるどころか強くなっていくばかり。
 この隊の隊長である俺としては、彼らを導いてやる義務がある。
 だが、事が事なだけに迂闊に判断できない上、情報があまりにも少なすぎる。
 やはり……状況が不明瞭グレーである以上、ベアードに判断を仰ぐしかないか……

「ロナ、これまで精査した情報を纏めてUSBに落とし込んでくれないか?」

「別に構わないけど、どうするつもり?」

 基本俺の言うことは何でも聞くロナが、さっそくUSBをPCに挿入しつつ訊ねてくる。

「そいつを俺がベアードに直接届けてくる」

 そう告げた俺の言葉に皆の視線が一気に集約した。運転していたレクスも含めて。

「まず、みんなには話しておきたいことがある」

 俺は、半年前にあった出来事を包み隠さず話した。
 旧友の話し、ベアードのことや、FBI長官が弟であること。
 淡々と語る俺の言葉を、皆は黙って最後まで聞いてくれていた。

「今回の件は、ベアードとミチェルが関与している可能性が高いと俺は踏んでいる。だから、俺一人でアイツのところへ行ってくる」

「そんな……ホワイトハウス周辺はFBIの息のかかった組織が数えきれないほどあるんだよ。いくら何でも無茶だよ!」

 静寂に包まれていた車内に、食い入るようなロナの声が反響する。
 内気だった少女からは想像もできないその表情は、自分のやろうとしていることがどれだけ危険であるかを代言していた。

「そ、そうにゃ。それに、わざわざ直接届けなくとも、データを送信すれば済む話ではないのかにゃ?」

 ロナの必死な形相を前に、ベルも異常事態を察して彼女らしからぬ恐る恐るとした様子で口を開いた。

「それだと俺達がデータを送ったことが連中にバレる可能性がある。こっちが勘付いたことが知れれば、それによってどの勢力が敵になるか分からない以上、安易な行動はできない」

「フォルテの言う通りよ。ある意味で私達はいま孤立無援。大げさに言えば、アメリカという国全体を敵に回しているような状況よ」

 冷静にことを分析したリズの言葉が皆に突き刺さる。
 今まで俺達はアメリカという巨大な軍事力。装備の潤沢や規模を肌身で感じている。
 その全てが敵に回るということがどれだけ脅威であるか……
 いくら最強とうたわれようとも、七人だけでは勝ち目などない。

「だからこそ、俺に何かあった時にはお前達に何とかして欲しいんだ」

 ここでウジウジしていても後手に回るだけ。
 それに、まだアメリカ全土が敵に回ると決まったわけではない。
 仲間を守るためにも、俺一人でどうにかしなければ……
 だが、俺の思いとは裏腹に、返ってきた言葉は耳を劈くような金切り声だった。

「嫌よッ!そんな見殺しにするようなことなんてロナはできない!」

 銀の二つ尾を振り乱し、涙を目尻に溜め込む。
 まるで幼子の癇癪かんしゃくだ。
 それだけ俺のことを心配してくれているのだろう。

「この国で!いや、この世界でいま俺が信用できるのはお前達しかいないんだ……ッ!」

 嬉しい思いを内に殺しながら、あくまで隊長としての言葉に流石のロナも押し黙ってしまう。
 それを見た瞬間、自分が酷く残酷な人間だと痛感させられた。
 もちろん嘘はついていない。紛れもない本心だ。
 故に逆らうことのできないことを、俺は理解した上でそう告げたのだ。
 信頼という絆を、俺は鎖として部下に使ったのだ。
 ロナは反論する言葉を失って、唇を固く引き結ぶ。
 そんな彼女の姿に、他に異議を申せる隊員は残っていなかった。
 単身で動くこともリスクが高いとはいえ、街中には一般人も多い。大所帯で動けば格好の的だ。
 確実にこの情報を届けるには、部隊で一番優れた人物。皆、俺が向かうことが最善の策だということも理解しているのだろう。

「悪い……とにかく自宅に着いたら皆荷物を纏めてすぐに移動できる準備をしてくれ。俺がもしもの時に用意しておいた隠れ家がある、そこならしばらくは安全なはずだ」

 それ以降────誰一人声を発することなく、暗然たる林の中をヘッドライトの光だけを頼りにSENTRYセントリー CIVILIANシビリアンは駆け抜けていく。
 窓の外に見えた月は、まだ東の空に残っていた。
 今夜は……長い夜になりそうだな。

「……」

 林道で小さく揺れる車内。
 肩を震わせながらPCを操作する少女の姿を、副隊長はただただ黙って見ていた。
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