SEVEN TRIGGER

匿名BB

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神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》

グッバイフォルテ《Dead is equal》12

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 意識を取り戻した俺はセイナと共にモール街を後にし、再び戦艦の中を進んでいた。
 二人並んで歩くには少々狭い、配管が剥き出しとなった薄闇の通路。
 ベルゼを残して数分歩いてきたが、幸い魔眼に潜む悪魔の力で最低限治療を施されていた俺の身体は多少マシにはなっているようだが……

(闘えてもあと一度くらいだろうな……)

 おそらく悪魔ベルフェゴールが、俺を全快してしまうと支配権を奪い解されると思ってワザと中途半端な応急処置で済ませたのだろう。
 おまけに左腕は救出の代償でベルゼに壊されちまったし。
 正直なところこんな状態では戦闘どころか、もう一度魔眼を使用できるのかすら怪しい。

「…………」

 そんな俺の背にセイナが付いてきているものの、彼女もどこか心ここにあらずといった様子。
 肉体的疲労や擦り傷といった軽傷も所々見受けられるものの、それが直接的原因でないことくらい鈍感な俺にも分かる。
 桜の花びらのような薄ピンクの口元に手を添えて俯く姿は、彼女が何か思い悩んでいる時に見せる癖だ。

「─────いいのか?」

 不意にそんな言葉が口をついて出る。
 モール街を出てからずっと無言の空気だったのに、唐突に声を掛けられた彼女はキョトンと顔を上げた。

「さっきのベルゼの言葉がずっと引っかかっているんだろ?」

『こっから先、ソイツに付いていくなら覚悟を決めておけ。でないと嬢ちゃんじゃー耐えられないからな』

 ベルゼの残した意味深な言葉。
 彼女がそれに思考を巡らせていることぐらい流石の俺でも気づく。

「確かに予想以上の時間を掛けちまったから脱出はもう厳しいにしても、俺が中枢の動力源を破壊しに行く間にお前が逃げれるくらいの注意は引けるはずだ」

 初めはセイナと合流した段階で戦艦を脱出、魔術防壁の解除に関しても艦橋に置かれているであろう制御系統から解除すれば任務に何ら支障をきたすこともなかった。
 しかし、俺が暴走したことでかなりの無駄な時間を要してしまった。
 元々裏口から侵入しただけあってここから地上に上がるだけでも骨が折れるというのに、そのマップがインプットされていた電子機器は義手と共に三枚におろされている。
 どんなに運がよくとも数時間は掛かる以上、もしロナやアイリスが任務を完了させても撃墜。間に合わなくとも中国に到着する前に魔術防壁を貫くであろう核攻撃が始まる。
 つまり─────今の俺達に退路は残されていなかった。
 唯一やれることと言えば、一番初期に俺が名目上課せられていた任務。
 魔術防壁の管理系統ではなく直接動力を破壊するというものだけだ。
 あわよくば中国に辿り着く前にこの戦艦の動力源も叩けるかもしれないと考えれば、仮にロナ達が任務を失敗しても、逃げる手助けくらいにはなるはず。
 しかし……そうなればおそらく彩芽や先導者コンダクターとかいうヨルムンガンドのリーダーと戦うことは避けられないだろう。
 果たして今の俺に……いや、俺達に勝てるのだろうか。
 ロナ達と通信ができない以上、漠然とそんなことを考えながら進んではいるものの、死地にわざわざ二人して向かう必要はないと内心思っていた。

「仮に破壊することが叶わなかったとしても、お前だけでも逃げる時間くらいには────」

「あいっかわらずそういうところはバカね」

 セイナはさっきまでの迷いに曇らせていた表情を盛大なため息で一蹴させる。

「アタシを助けにきた仲間を見捨てておずおずと逃げ出せと?冗談じゃないわ。そうやって何でも抱え込もうとする癖、前から散々直せって言ってるでしょ」

「…………」

 いつものようにピシッと指先を突きつけて指摘するセイナ。
 そう振る舞っているものの、ほんの僅か、声色が震えていた。
 彼女なりにこちらを心配させないとする精一杯の強がりだ。

「それに、一人でどうこうできるような相手じゃないことくらいアンタだって理解しているはずでしょ?それなら絶対一人より二人の方が有利に決まってる」

 不安を懸命に押し殺して踏み出した脚が、ここに来て初めて俺よりも前に歩き出す。

「アンタがさっきみたいに危なくなったら何度でも助けてあげる。でも……アタシが今回みたいにドジったり、危なくなったときは助けてね」

 二、三歩前に出た彼女はこちらに振り返った。
 薄暗い通路へ、木漏れ日のような快活な笑顔が投げかけられる。
 俺が一番好きな、彼女の表情すがた
 どんな闇も切り裂く太陽のように、とても空元気とは思わない明朗な笑顔でセイナは呟く。

「それがパートナーってもんでしょ?」

 ほら、さっさと行くわよ。弱みを見せないように歩く彼女の背は、数十センチもデカい俺なんかよりもよっぽど大きく見えた。
 ほんと、コイツの器のデカさには毎度のことながら驚かされる。

「……あぁ、分かった。二人で行こう」

 こうなってしまった彼女を止めることが出来ない以上、うだうだ思い悩んでいても仕方ない。俺も覚悟を決める深呼吸を吐き捨てて後に続く。
 幸い、アルシェの言っていた『死』はもう済ませた……はずだ。
 他にも懸念事項は山のようにあるが、貴重な時間をこれ以上無駄にはできないと、俺達は薄闇の奥へと続く通路を先に進む。
 今にして思えば、それがどれだけ『』であったと、するとも知らずに……





「……何だこれ?」

 通路の突き当りにあったのは、随分古臭い石扉だった。
 いや、正確には扉のようなもの……というのが正しいと言うべきか?

「どうやって開ければいいんだよこんなの……」

 この戦艦自体、一見すると古臭く見えて実は近未来技術の塊であり、それに古いといっても精々一九六〇年代くらいの建造物と類似している。セイナならまだしも、俺にとっては割と新しいと言えるくらいだ。
 しかし眼の前の扉に限っては数十年という単位で収まらないほど遥か昔、全く馴染みない文字がいくつも刻まれている。
 まるでメソポタミアとかインダスとかで使われていたような博物館で見るような代物だ。

「まさか……これで行き止まりってことじゃねーよな?」

 取っ手も無ければ押しても引いてもビクともしねぇ。
 よく見れば四枠の建付けも戦艦側通路と合っていない。
 ベルゼの言いたかった『後悔』とはまさか、このことを言っていたのか?

「ったく、あの野郎……ただでさえ時間が無いってのに─────ん、セイナ?」

『引き返そうぜ』と提案しようとした相棒が、ゆっくりと石扉に触れる。

「アタシ……どうして?」

 自問自答する彼女の指先が触れた瞬間……扉の古語が蒼白い光を発する。

「……どうして、この扉のことを知っているの?」
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