SEVEN TRIGGER

匿名BB

文字の大きさ
354 / 361
神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》

仲間と共に《Bet my soul》14

しおりを挟む
 眦を見開くほど彩芽が動揺を示すのも無理はない。
 正直なところ俺自身もこうしてその存在を見るまで死んだと思っていたのだから。

「生きていたのか竜、いやシャドートリガー7

『……』

 師匠であり、俺の元部下でもあったその人物は、双爪を片腕一本で抑えたままもう片方の腕でチッチッチと指を振る。
 小生意気な様子に感動も何もあったもんじゃないが、俺達らしいと言えばらしい再会だった。

『おいシャドートリガー7、お前何処で道草食ってやがったんだ?』

『野暮用』

 後方から襲い掛かる祝福者ブレッシングパーソンを片付けながら、無線越しにががなり立てるレクストリガー5と、それに対し手話で応じるシャドー。
 普通なら受け止めることも敵わない攻撃だが、師匠からすれば百獣の王であろうと猫同然の扱いなのだろう。
 だが、そんなことを露知らない知らない獅子からすれば不愉快千万。
 たてがみ逆立てながら、更なる猛撃を加えんと猛々しい双腕に力を込めた。

『────』

 それでも機械的なまでにケロッとしているシャドートリガー7は、驚くほど滑らかな様子で攻撃を受け流し宙を舞う。
 黄昏時を舞う一つの影は、重力を感じさせない動きで俺達の前へと優雅に着地する。
 そのタイミングを見計らい獅子が再び襲い掛からんと脚を踏みしめたその瞬間だった。

 パラパラパラ────

 雄々しいたてがみが綺麗さっぱり斬り落とされたのだ。
 俺やセイナですら捉えることが出来なかった斬撃。
 受けた獅子当人も、いつの間に!?と言わんばかりに自らの首元を弄っている。

『雌猫』

 多分そういう意味なのだろう。
 シャドートリガー7は招き猫のようにニャンニャンと小首を傾げて挑発すると、堪らず獅子が咆哮と共に駆け出していた。

『ここは任せろ』

 シャドートリガー7は注意を引きつつ矢継ぎ早に背中越しにサインを出す。
 こうした道化を演じる中にも冷静沈着さがあることには感服すら抱いてしまう。
 流石は俺の師匠だよ。

「行きましょうフォルテ!」

「あぁ!」

 猛進する獅子の攻撃を受け止めたシャドートリガー7の左右を、俺とセイナは駆け上がる。

「あと……もう少しだというのに……ッ」

 最期の砦を失った狡知の神は悲嘆を滲ませながら唇を噛み締める。

「どうしていつも私の邪魔ばかりするんだ……」

 彩芽は懐から取り出したFNブローニング・ハイパワーを煩雑に構えてトリガーを引く。
 だがそんな攻撃が今更命中することは無く、俺の前に出たセイナが全て双頭槍グングニルで撃ち払ってしまう。
 あっと言う間に十四発の9mm弾を撃ち尽くしたリロードの隙に、今度は俺がセイナの前方の位置へとジャンプする。

「行っけえぇぇぇぇぇ!!!!」

 振りかぶった双頭槍グングニルの上に乗った俺のことを、神器により授かった怪力でセイナが押し出す。
 まるで弾丸の如く地を這う俺は小太刀を握りしめる。

「終わりだ、彩芽」

 長きに渡る闘争。
 それにしてはあまりにも短い敗北宣告と共に、俺はその刃を振り下ろした。






「────何故だ」

 額が触れるそうになるほどの近い距離。
 生きる希望を失った戸惑いの瞳がこちらを見返している。

「何故、とどめを刺さない?」

「そうしたところで何の解決にもならないからだ」

 彩芽の機械的な問い掛けに、俺はゆっくりと地面に突き刺した刃を引き抜いた。

「ここでお前のことを殺したとしてもな」

 そのまま武器を収めて立ち上がる。
 堕ちかけた夕暮れを背にした構図は、この場の勝敗を雄弁に示しているようだった。

「私はお前を殺した相手なんだぞ」

「殺されたら殺す理由になるのか?」

「この期に及んでふざけているのかお前は……」

 こっちは至って真面目だというのに、彩芽は呆れたように眼を眇めた。

「今回の事件の元凶なんだぞ。私を殺せばこの場にいる洗脳した連中も正気に戻る、皆が悪夢から眼を覚ますんだ……そして、憎しみの根源も断つことだって────」

「それは違う」

 自暴自棄な態度を取り続ける少女に向けて俺は強い否定を示す。

「さっきも言ったはずだ。お前のことを大切に思ってくれている人達のことを……」

 今更になってようやく理解した。
 どうして小山さんが今回の件を俺に依頼したのかを。
 彼はきっと救って欲しかったのだろう。
 自分では救うことのできなかったこの少女のことを。
 だからこそ俺に頼んだのだ。
 世界で唯一、殺さないことに特化した技術を持った俺に。

「いいか、幸福の反対は憎しみなんだ。誰かが幸福を求めれば違う誰かが憎しみを抱くのは必然。だけど俺達の抱いていた復讐にくしみは違う。あれは憎しみを持った連中によって無理矢理植え付けられたものだ」

 彩芽は家族を殺したテロリストに。
 そして俺は家族を二度も殺された怨敵に。

「だから俺達も奴らと同じように憎しみを振りまいてはダメなんだ。誰かがその連鎖を止めない限り、憎しみの連鎖は終わらない。例えここでお前を殺したとしても、お前のことを大切に思っていた人達がきっと同じように復讐にくしみを抱く結果にしかならないんだ」

 突き刺した刃ではなく、俺は優しく右手を差し出した。

「俺達は復讐やりかたを間違えていたんだよ。彩芽」

 今できる最大限の微笑みを差し向ける。
 殺されたからと感情的に振る舞うことは生物として至極真っ当な感情だろう。
 でも人ならば、神の生まれ変わりだという人類ならば、相手を赦すことくらいできるはずなんだ。
 俺の意志をぶつける真正面からの慧眼を前に、彩芽は一度大きく瞳を瞬かせる。

「だからって私に諦めろと言うのか?」

 差し伸べた手を振り払う彩芽。
 悔しさを滲ませる唇からはツーと血筋が一つ流れていた。

「この数年間、障害となり得るものは全て蹴散らしてきた。目的ためならば善人だろうと悪人だろうと全て利用してきた。その犠牲によって築かれた頂上がここなんだよ。今更ここから降りることを人も神も赦してはくれないだろう」

 涙すら枯れた少女の慟哭どうこく
 この場の誰よりもひ弱なはずなのに、それでも彩芽は一歩も引かない……引けないのだ。

「フォルテ、彼女はもう────」

「いいやセイナ、俺は絶対に諦めない」

 敵の制圧が完了し、不安そうに隣まで様子を見に来たセイナを俺は諭す。
 ここで彩芽を見捨てれば、彼女は本当に誰も信用することができなくなってしまうだろう。
 だからこそ、彼女が殺した俺がこうして手を差し伸べなければならないんだ。
 そうでもしなければ、この世界の憎悪によって穢された少女の心を救うことはできない。

「例えどんな言葉を投げかけられようとも、私の復讐は、誰にも止めることはできない」

 俺の手を借りず、気の抜けた亡霊のように力なく立ち上がる彩芽。
 天から斜光している暁に晒された虚ろな瞳は、懐に隠していた別のハンドガンを探している。

「それに私は……お前を決して赦すことは出来ない────」

 もうそこに自らの意志がどれだけ残っているのか。
 大義名分も、目的も、今の彼女を動かす動力源ではない。
 復讐を先導されたロキの奴隷として、震えが止まらない右手で握ったハンドガンを彩芽はゆっくり構えた。

「アキラを殺した、お前のことを……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...