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第一章 誰か、中にいる。
17.1完 前編
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貝塚家へようやく到着すると、二手に分かれる。
粗里は家の中。帆野と浅霧は顔を知られているため、遠くから連絡を待つ。それまでは、中の状況がどうなっているかは知る由もない。万が一にもカーテンから覗かれる心配をして、こちらからは完全に死角になる、電信柱の近くに立っている。叫んだところで、ここまで声が届くかどうかは微妙だが、もしかしたらわかるかもしれない。
心臓が波打つために、時間がとても遅く感じた。周囲の状況に機微に反応してるためか、コンクリートを照らす明かりの点滅でさえ気になってしまう。
「吉田さん、どうも鬱らしいですよ」
「……見えないですね」
突然、話しかけられてびっくりしたが、上手く受け答えを出来ているようだ。
「そうですね」
「にしても、そんな中で依頼するってなんか、申し訳ないですね」
「うーん、なにか事情があるんじゃないですか? そんな状況で頼むほど、情がない人じゃないですから」
「まぁ、それはなんとなくわかりますけど……」
「仕事しないと、いろいろ生活するのも厳しいですし、ましてや会社に勤めていなかったら、病休ももらえないんじゃないですか?」
「そっか。こんな仕事してるわけですからね。流石に一般の会社では働いてないか……」
「裏の顔があるから、逆に表の顔があるかもしれませんけど」
「確かに。にしても、そのお金ってどこから出てるんですか?」
「barの売り上げから落としてるみたいですよ。客からの相談事なら、個人で粗里さんが受け取ってるようです」
「へぇ……依頼する人いるんですか?」
「行方不明になったから、すぐさま助けてくれって話はあったみたいですよ。あんまり警察を信用してないんじゃないですか?」
「時々いますよねぇ……そういう人。気持ちもわからなくはないですが」
と、その時だった。スマホがバイブレーションしたため、現場を急ぐ。騒ぎ声も聞こえないため、上手く事が済んでいるようだ。多少の言い争いはあるだろうが――。
入口はすでにあけられており、庭に侵入した。建物の出入口の前に、粗里が立っている。
「知らないの一点張り。いやーびっくりしましたよ。完全に信じ切ってるようで、手料理まで用意してました。だから、余計に癇癪起こしてましてね。小萱さんに対応をお願いしてますが、愛実さんの部屋には、中々入れてもらえないみたいですね。様子からして、中にありそうではありますが」
手料理という事実で、すでに身の毛がよだつ。
三人で乗り込む手段をいろいろと模索したが、最悪の場合、愛実を縄で縛って口を塞ぐという自体になりかねない。手荒な真似は気が引けたので、小萱に協力を仰ごうという挑戦的な案が浅霧から出た。
究極の二択までとはいかなかったが、この案も中々にリスクがある。しかし、同時に得られるメリットがあった。仮に、死体を見つけたとしたら、自分たちでは処理できないことに加えて、愛実が自首しない可能性もあるため、こちら自ら通報する手立てになろうことは予測できる。結局のところ、様々な点から小萱に協力を仰ぐことになった。
「でも、引っかかります」
浅霧が疑問を口にした。「えぇ」と、粗里が応じる。なんのことだか、帆野には理解できなかった。
「頭を打ったのは、確かに愛実さんの部屋です。けど、”階段から落ちて亡くなった”って感じでしたよね」
「そうですね……あ」
「そうなんです。一階で亡くなった人間をわざわざ二階まで運ぶのって、相当気合要りませんか?」
「っていうことは……」
左側にある庭に視線を移す。
「でも、あの庭のどこかって結構時間かかるぞ。どうするんですか?」
「やるしかないんじゃありません?」
浅霧が答える。が、帆野はどうも二時間以上かかるように感じてしまい、行動意欲があまり湧かない。なにかヒントが欲しいと思い、足を庭へと向ける。
その時、視界の端で扉が忍び寄るように開いた。その瞬間も見逃さず、そのまま視線を向けた。粗里も遅れて振り返る。その足で部屋に向かい、粗里はそのまま玄関へと入った。なにか嫌な予感がする。胸がざわついて落ち着かない。
もしかして、あの幽霊? そんな予想が頭を過る。ルールを簡単に破るような人間なのだろうか。危険な人間だからこそ、嘘を付いてなんぼのような気もしなくもないが……だとしたら、今までやってきたことがすべて無駄になる。
頭が沸騰して、庭へ行こうか、それとも中に入ろうか。その二択がぐるぐると駆け巡る中、浅霧は、玄関近くに立っていた。
「愛実さん? 愛実さん!」
そう叫ぶ、小萱の声。浅霧と帆野は顔を見合わせ、予想は現実的になる。高速道路前の道中で購入したシャベルを放り投げ、その場に急行する。
玄関に入っても姿はなく、二階から声が聞こえていた。靴を脱ぐことさえ苛ついてくる。意識から放り出して、整えずに進んだ。階段を駆け上がるも、小萱の背中がそれ知らせていた。
階段の途中で止まっている浅霧の横を通り過ぎ、二人の背中を追ったその先、愛実はそこに座っている。死んでいるわけでもなようだが、何故だろうか。今までの雰囲気とは、全く違う。
「私の死体を探してるんでしょ?」
視界にいる二人は突然のことで、言葉が出ないようだ。帆野も例外ではない。
「どこだと思う? 愛実の部屋は見たんでしょ?」
何事もなかったように立ち上がる、その姿を視線で追った。
「ま、愛実ってあなたのことでしょう? 一体どうされたんですか?」
事情の知らない小萱は答える。当然の反応だ。
「は? あんたこそなにいってるの? 私は香奈。あいつの姉」
「お姉さん? で、でも亡くなって」
「そうね。私は死んだ。でもね、それを助けてくれたの」
「なるほど」
背後にいた浅霧の声が聞こえたので、そちらに体を曲げる。
粗里は家の中。帆野と浅霧は顔を知られているため、遠くから連絡を待つ。それまでは、中の状況がどうなっているかは知る由もない。万が一にもカーテンから覗かれる心配をして、こちらからは完全に死角になる、電信柱の近くに立っている。叫んだところで、ここまで声が届くかどうかは微妙だが、もしかしたらわかるかもしれない。
心臓が波打つために、時間がとても遅く感じた。周囲の状況に機微に反応してるためか、コンクリートを照らす明かりの点滅でさえ気になってしまう。
「吉田さん、どうも鬱らしいですよ」
「……見えないですね」
突然、話しかけられてびっくりしたが、上手く受け答えを出来ているようだ。
「そうですね」
「にしても、そんな中で依頼するってなんか、申し訳ないですね」
「うーん、なにか事情があるんじゃないですか? そんな状況で頼むほど、情がない人じゃないですから」
「まぁ、それはなんとなくわかりますけど……」
「仕事しないと、いろいろ生活するのも厳しいですし、ましてや会社に勤めていなかったら、病休ももらえないんじゃないですか?」
「そっか。こんな仕事してるわけですからね。流石に一般の会社では働いてないか……」
「裏の顔があるから、逆に表の顔があるかもしれませんけど」
「確かに。にしても、そのお金ってどこから出てるんですか?」
「barの売り上げから落としてるみたいですよ。客からの相談事なら、個人で粗里さんが受け取ってるようです」
「へぇ……依頼する人いるんですか?」
「行方不明になったから、すぐさま助けてくれって話はあったみたいですよ。あんまり警察を信用してないんじゃないですか?」
「時々いますよねぇ……そういう人。気持ちもわからなくはないですが」
と、その時だった。スマホがバイブレーションしたため、現場を急ぐ。騒ぎ声も聞こえないため、上手く事が済んでいるようだ。多少の言い争いはあるだろうが――。
入口はすでにあけられており、庭に侵入した。建物の出入口の前に、粗里が立っている。
「知らないの一点張り。いやーびっくりしましたよ。完全に信じ切ってるようで、手料理まで用意してました。だから、余計に癇癪起こしてましてね。小萱さんに対応をお願いしてますが、愛実さんの部屋には、中々入れてもらえないみたいですね。様子からして、中にありそうではありますが」
手料理という事実で、すでに身の毛がよだつ。
三人で乗り込む手段をいろいろと模索したが、最悪の場合、愛実を縄で縛って口を塞ぐという自体になりかねない。手荒な真似は気が引けたので、小萱に協力を仰ごうという挑戦的な案が浅霧から出た。
究極の二択までとはいかなかったが、この案も中々にリスクがある。しかし、同時に得られるメリットがあった。仮に、死体を見つけたとしたら、自分たちでは処理できないことに加えて、愛実が自首しない可能性もあるため、こちら自ら通報する手立てになろうことは予測できる。結局のところ、様々な点から小萱に協力を仰ぐことになった。
「でも、引っかかります」
浅霧が疑問を口にした。「えぇ」と、粗里が応じる。なんのことだか、帆野には理解できなかった。
「頭を打ったのは、確かに愛実さんの部屋です。けど、”階段から落ちて亡くなった”って感じでしたよね」
「そうですね……あ」
「そうなんです。一階で亡くなった人間をわざわざ二階まで運ぶのって、相当気合要りませんか?」
「っていうことは……」
左側にある庭に視線を移す。
「でも、あの庭のどこかって結構時間かかるぞ。どうするんですか?」
「やるしかないんじゃありません?」
浅霧が答える。が、帆野はどうも二時間以上かかるように感じてしまい、行動意欲があまり湧かない。なにかヒントが欲しいと思い、足を庭へと向ける。
その時、視界の端で扉が忍び寄るように開いた。その瞬間も見逃さず、そのまま視線を向けた。粗里も遅れて振り返る。その足で部屋に向かい、粗里はそのまま玄関へと入った。なにか嫌な予感がする。胸がざわついて落ち着かない。
もしかして、あの幽霊? そんな予想が頭を過る。ルールを簡単に破るような人間なのだろうか。危険な人間だからこそ、嘘を付いてなんぼのような気もしなくもないが……だとしたら、今までやってきたことがすべて無駄になる。
頭が沸騰して、庭へ行こうか、それとも中に入ろうか。その二択がぐるぐると駆け巡る中、浅霧は、玄関近くに立っていた。
「愛実さん? 愛実さん!」
そう叫ぶ、小萱の声。浅霧と帆野は顔を見合わせ、予想は現実的になる。高速道路前の道中で購入したシャベルを放り投げ、その場に急行する。
玄関に入っても姿はなく、二階から声が聞こえていた。靴を脱ぐことさえ苛ついてくる。意識から放り出して、整えずに進んだ。階段を駆け上がるも、小萱の背中がそれ知らせていた。
階段の途中で止まっている浅霧の横を通り過ぎ、二人の背中を追ったその先、愛実はそこに座っている。死んでいるわけでもなようだが、何故だろうか。今までの雰囲気とは、全く違う。
「私の死体を探してるんでしょ?」
視界にいる二人は突然のことで、言葉が出ないようだ。帆野も例外ではない。
「どこだと思う? 愛実の部屋は見たんでしょ?」
何事もなかったように立ち上がる、その姿を視線で追った。
「ま、愛実ってあなたのことでしょう? 一体どうされたんですか?」
事情の知らない小萱は答える。当然の反応だ。
「は? あんたこそなにいってるの? 私は香奈。あいつの姉」
「お姉さん? で、でも亡くなって」
「そうね。私は死んだ。でもね、それを助けてくれたの」
「なるほど」
背後にいた浅霧の声が聞こえたので、そちらに体を曲げる。
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